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黄昏ラピス  作者: 村月 亜唯
7/36

※※

紫は着替えをすませると、早々とショップ裏の社員通路から表へ出た。


無駄に残業もする気はなければ、かと言って仕事終わりにダラダラ居るのも好きではない。

仕事は仕事で終わったら帰る。

ただ、長野には悪い事をしたなと少しだが罪悪感は感じていた。

今までも数回飲みに行こうと言われては断り続けてる。

別に長野と飲みに行きたくない訳ではないが、飲みに行こ事自体あまり好きではない。

騒がしいのも嫌いではないが苦手だ。

各ある行事の忘年会や新年会、歓送迎会も人は酒に飲まれると酷く人格が変わる。醜態をさらした挙句に、覚えてないですます。

それも苦手で、飲み会はよほどじゃないと行きたいとは思わない。

知らなくてもいい事は、極力知りたくないとつくづく思う。


そして何より、紫自身が人といて楽しいとは思ってなかった。会社行事も付き合いでしかない。自ら行きたいと思いもしない。長野へ罪悪感を抱いても、だからといって行くと思えない自分もいる。

――人といるのは疲れる

それが本心だ。


ショッピングモール内はコートもいらないほど暖かった。

紫はエスカレーターで1階に降りると、そのままスターバックスに向かった。


スターバックス近くまで行くと、ガラス越しに松村の姿が見えた。

見送ってから30分以上も経つ。ここで待っていたのかなと思いながら、何をしてるのかな?と思い、自動ドア近くから松村を見ていると、さっき買ったばかりのスマートフォンを触っていた。そして、チラチラとガラス越しに外に目を向ける。


――待ってるのか


とりあえず、スタバックスへ行こうとモールの自動ドアを出て、スターバックスのドアを開けた。

「いらっしゃいませ」スターバックスの女性スタッフ声が店内に響く。

紫の顔を見ると

「今日もありがとうございます。仕事おわりですか?いつものでいいですか?」そう言うとレジカウンターへと入る。

「今日はもう終わりです。はい、いつもので」

「かしこまりました。本当にいつも同じですね」そう言うとスタッフはバニラクリームフラペチーノを作るように、カウンター内にいる男性スタッフへと伝えた。

「お会計だけ先にしますね」紫は財布を出し会計をすませ、受取りカウンターへと移動した。

「本当にいつもバニラクリームフラペチーノですね」

紫はこれ以外を頼んだ事がない。そして、出勤時は朝に早番も帰りに毎日スターバックスに通ってる。

毎日頼むメニューに変わりはなく、あるとすればスターバックスのメニューが変わった時に頼むパン類だけで、飲み物が変わる事はない。そんな紫の顔を知らないスターバックスのスタッフはいなく、スターバックスに行くたびに顔見知りのスタッフが出てきて、紫の飲み物等を準備してくれる。

「いつもので」で通用するのは、お互いに楽だ。

それに甘んじて、紫も会計だけすればいいし、接客する方の事も考えると時間短縮と思ったりする。


「今日はパンダを書いておきました」

紫にカップに描いたパンダを向けて言った。パンダの絵に〝thank you♡〝と描かれている。

「いつもありがとうございます」

スターバックスのスタッフの心配りはいつもすごいと思う。こうした描いてくれる絵や文字で、人は些細な事で幸せと思えるのだ。

飲み物が乗ったトレーを手にすると、松村の近くへ行き

「こんばんは」と声をかけた。

背後から声をかけられ、スマートフォンの操作に夢中になっていた松村は振り向き

「あっ、びっくりした。こんばんは」

「急に後ろから声をかけて、すみません」

松村の横にトレーを置き、椅子に座った。

――焦ったの気付かれたかな

一瞬でもビクついた優希は情けなく思った。

「どうです?操作とかデータ、無事です?」

紫はバニラクリームフラペチーノをストローでかき混ぜる。

「大丈夫。使い方一緒だし。LINEも出来たし」

「お友達へ連絡出来たんですね、よかったです」そう言うと紫は混ぜたバニラクリームフラペチーノに挿したストローに口を付けた。

「助かったよ、本当に。データとか全部してくれて」優希もすっかり冷めきったキャラメルマキアートに口を付けた。

「仕事ですから、当たり前です」

「そうだけど。助かったよ」

「そう言ってもらえるだけで、ありがたいです」

優希は真っ直ぐ自分を見る紫の視線から少し目を逸らすと

「こういうのって大丈夫なの?」

「こういうのって、今みたいな事ですか?待ち合わせも、連絡先も交換してないし、私はいつもスターバックスに行くから、行くと言って、そこにたまたま松村さんがいただけですよね?」

「そうだけど、俺が待ち伏せしたとか、思わない?」優希は逸らした視線を紫に合わせた。

「待ち伏せって、物騒ですね。お茶してただけでしょ、松村さんは」

「そうだけど…」

「待ち伏せじゃないでしょ?」と言うと、優希は軽く頷いた。

「そんな事は気にしなくていいですよ。今は仕事じゃないです」

「じゃぁ、敬語止めて普通に話さない?同じ歳だし」

「そうですね。では、敬語はなしで」そう言った途端、そこには口元を緩め笑う優希がいた。

「里村さんて呼び方じゃなんか硬いから、ゆかりさん、いや、ゆかりちゃんて呼んでいい?俺のことは優希でいいよ」

いえいえと手を振りながら

「呼び捨てとか出来ないですよ。優希君で」

「じゃーゆかりちゃんで、俺はそれでいいよ」

「私はなんて呼んでもらっても大丈夫」

「俺も」

そんなやり取りをしながら、こんな事が楽しいんだと優希は思った。

紫は、バニラクリームフラペチーノに挿したストローをクルクルと掻き混ぜては飲んで、優希の話す事をただ聞いている。

仕事は何をしてるの?友達と何して遊んだりしてるの?そんな質問を紫は優希にしてきた。

それに対して、仕事は営業でとか友達とは毎週飲んでとか、休みも友達と会って予定立ててとか、優希は素直に答えていた。

優希が逆に質問をすると、紫は映画が好きで本読んだりしてると答えはするものの、あまり自分の話はしなかった。

紫がスターバックスに来てから1時間経ったが、優希との会話に途切れることもなく

「あっそうだ。ゆかりちゃん。一緒にスノボ行かない?」思い出したように優希は口にした。

「行きたい。あっ、でも、私は初めてだし、運動ダメだから迷惑かけるかも」飲んでいたバニラクリームフラペチーノはもうない。

「来週、さっきも言ってたけどスノボ行くんだよ。一緒に行こうよ。俺でよかったら教えるよ」

「本当に?嬉しい。休みならいいんだね」そう言うと紫は右手にしてる腕時計で時間を見て

「そろそろ出よ」と言う。

もう、20時前だ。これ以上いると遅番のスタッフ達も、スタバに来る事はなくても前は通るだろうと紫は言った。

「もうそんなに時間経ってたんだ。ごめん、気付かなくて」

「優希君のせいじゃない、私都合。とりあえず出よ」紫は自分のトレーの上に優希のカップを乗せ、返却口へと持って行った。

スタバのドアを開け二人揃って外へ出る。

さずに夜風が冷たく頬を撫でる。

「ゆかりちゃん、お腹すかない?ご飯これから行けない?」

「そういえば、お腹すいたかも」

「俺、店とかあんまり知らないけど、とりあえず車行こっか」優希は紫と自分の車を停めた立体駐車場へと足を向けた。

優希は紫の歩く速度にあわせて歩く。ロングスカートだけに今日はいつもより歩きづらい。

横を歩く紫に歩行を合わせ歩く優希が、たまに笑ってるのがわかる。

そして、こうして歩行をあわしてくれる人は優しいと紫は同時に思った。


――優しく希望を持って…この名前のように優しい人。名前を付けた親は、こうゆう優希を望んでいたのだろうな…親の思う名の通りにいる人間は一体どれくらいいるのだろう


「ゆかりちゃん、これ俺の車」そう言うと優希は黒い1つのワゴンを指差した。

「大きな車。乗るの大変かも、私」ロングスカートでワゴンに乗るのは、少し大変だ。足を広げられもしないし、スカートが纏わり付いて、うまく上がれない。

車のキーを開けると優希は助手席のドアを開け

「大丈夫。ほら、ゆかりちゃん。ここに足かけてシートのここ掴んで」優希は紫が乗りやすいように手をかし、助手席へと紫を乗せた。

「じゃぁ、ドア閉めるね」優希はゆっくりとドアを閉め、運転席へと移動する。

運転席のドアが開き、優希は座るとエンジンをかけ、さぁシートベルトしてねと言うと、ゆっくりと車を走らせた。

「寒いよね。暖房つけるけど、少し我慢して」片手で暖房を入れながら、片手でハンドル操作をし、立体駐車場を右回りで降りていく。

優希の運転はあまり振動を感じさせず、右回りで下る回路もスムーズで人を乗せているから丁寧なのか、元から丁寧なのかわからないが、程よい心地の運転だった。


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