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孝一は車が落ちていく中、隣の司と前に座る優希達の名を叫んでいた。
「おい!しがみつけ!車のシートにしがみつけ!」
ただ、それがちゃんと言葉になっていたかは知る由もない。
落下する衝撃に、自分自身の身体も浮き、瞬間叩きつけられていた。
そこから先は暗闇の中。ただ、自分は死ぬんだと思った。
走馬燈を死ぬ前に見ると言うが、それすら見たのかわからない。身体は痛みを通り越し、痺れにも似た無感覚にも近い。
ーーあー死ぬのかな…ーー
ただそう思った。
思い返せばやりたい事は沢山あった。
当然、彼女も欲しかった。彼女を連れ皆で騒ぐのもいいだろう。冬から春に変わったら、桜の下を歩くのもいい。
その内、4人で誰か先に結婚するんだろうなんて、話をしながら自分より先に幸せになる奴がいても、それはそれで楽しいだろう。
そうだ。お互い子供が産まれたら、馬鹿のようだが将来結婚させようかなんて、そんな事を話すのも楽しいだろう。
薄れいく意識の中、考えたのはそんな事だった。
これから来るはずの未来、描いているのはごく平凡な生活。
そんな事を考えながら、暗闇をただ落ちていく。死ぬ事はこういう事なのかとどこかで思った。
瞬間、〝チリン〝どこからか音が聴こえた。
どこから鳴ってるのか、音がする方を見ようとするが身体は動かず落ちていく。
〝チリン〝また小さく音は鳴る。
ーーまた鳴った
そう思った後、鈴は〝チリン、チリン〝と鳴り響きはじめた。その音色が〝シャリン〝と大きく音色を変えた時、闇に落ちていく意識は、フワッと浮き上がった。
ーーえっ?
〝シャリン、シャリン〝沢山の音色が自分の身体を取り巻くように鳴り立てる。
暗闇の中で目にしたのは、ポツンポツンと小さな温かく見える、オレンジの無数の灯火だった。
音色がなる度に灯りは、ふわふわと身体を囲む様にあったかと思うと、身体の所々で止まっては、またふわふわと周り囲む。
ーー蛍の光のようだーー
そして、その灯りを見ながら思ったのは、優希の部屋にあった丸いライトだった。
ーーあぁもしかしたら、優希はいつもこういう感じでライトを見ていたのかーー
ふと思った。
普段、優希の部屋に行く事はあったが、その時についてるのは蛍光灯だ。でも、優希は「夜はこっちのライトしか使わないんだ。1人の時に蛍光灯は明る過ぎる」と言って、丸い間接ライトを指差して言った。
「こんなんじゃ明るくないだろ」何気に言った自分に
「明るくなくていいんだよ」優希はそう言うと、いつものようにへらっと笑っていた。
あの時、そんなものかと単純に思った。
だが、今見ている光景はきっとこんな感じなのだろう。
暗闇に光る灯り。それはほのかに暖かい。でも、反面どことなく寂しいのだ。
自分が知らない知らなかった感情。
ーーこの感情を優希はいつも感じていたのか
1人の明る過ぎる部屋は、優希には眩し過ぎたんだな
優希の事を知ったつもりでいただけなんだと、本当は何も知らなかったのだと、孝一はただ思った。
ーー無神経だったのはきっと俺だったんだ
鈴の音色が消えてどれ位の時が経ったのだろう。
痺れ無感覚だった身体に冷たい感触があった。
ーー雨か?
薄く徐々に目を開けると、そこには満面の星空が広がり、雪がちらほらと目に映る。
ーー雪か…俺、生きてるのか
指先に少し力を入れてみる。
――動く、生きてる
だが、身体をすぐに起こすことは出来なかった。
――他には?優希や颯太達はどこだ?
可能な限り目を動かし、頭だけでもと動かしてみる。
自分の周りに近くに倒れている4人の身体が見えた。
「おい、おい、大丈夫か?」
出した声はかすれてはいたが、小さくとも声にはなっている。何度も何度も語りかけた。
「う…」小さいが声がした。
――生きてる奴がいる
生きてる奴がいるならよかった。だが、あんな勢いで落ちて助かったのか?ふと疑問に思う。
でも今は何よりも、どうにか倒れている奴達の近くにいき、助けなければ。
その気持ちだけが気を急かす。
その時、少し離れた場所で、2人立ってる影が見えた。
――あれは…優希とゆかりちゃんか?
2人が何故立っているのか、こちらに来ないのかと思った瞬間、同時に嫌な予感が頭をよぎった。




