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黄昏ラピス  作者: 村月 亜唯
27/36

※※

優希は微かに見えるオレンジの光に目を奪われていた。

ただ、紫は依然として戻っては来ず、車を包む竜巻に似た吹雪の前にいる。


紫は持っていた鈴を指で掴み鳴らした。

鈴は小さく音色をチリンチリンと鳴る。小さな音色に合わせるように、また別の鈴がチリンと音色をたて、また次そのまた次と鈴はチリンチリンからシャリンシャリンと音色を変え、音は闇夜に鳴り響く。

指先で掴んであった鈴は、いつの間にか房を垂らした一房の藤の花へと姿を変えていた。

その藤の花が揺れる度に、さっきの鈴の音色をたてる。

神楽鈴を逆さにしたように、そう藤の花が神楽鈴のように音をシャリンシャリンと風に吹かれ藤の花が揺れる度に、音は闇夜に鳴り響く。

その音色に合わせるように、藤は提灯の円の中で神楽舞のように舞う。

藤の花はヒラヒラと舞い続ける。

藤が右に舞えば右に、左に舞えば左に風は花びらをクルクルと渦に巻きながら、軽やかに流れ空中を舞う。

紫はその中で、ただ藤の花を神楽鈴のように、振り鳴らし続けた。


優希は夢でも見ているかのようだった。小さな無数のオレンジの灯火が、紫の周りで蛍の様にヒラヒラと小さく飛んでいるようだった。

「綺麗だ」

思わず言葉にしていた。そして、それが綺麗すぎて目を離せず動けずにいた。

何をしているのかもわからない。誰かが死んでいるのかも知れない。それでも、光の中に、雪の中にいて佇んでいる紫は何よりも綺麗だった。その姿に光景に魅了された。

自然に流れる涙に理由があるとしたら、それはきっと言葉にすることは出来ない。

その光景は優希の前で、しばらく続いた。


「終わったよ」紫の耳元で藤の声がした。

紫の持っていた藤の花は、元の小さな鈴に戻っていた。

紫の手首には切った傷は塞がり、残っているのは流れた血の痕だけ。

紫はすぐに倒れていた孝一の腕を掴みと脈を確認した。


トクントクンと小さくだが脈を打っている。


孝一の脈を確認しほっと一息つくと、長野と岡田の元へと向う。そして2人の脈を腕を掴み確認した。そこには孝一と同じ様に微弱ではあるが、鼓動は感じた。全員の脈を一通り確認し

―全員脈はある…― 

すとんとその場に紫は座り込んだ。

「自分の血をかけたのは何故だ?」

座り込んだ紫の横に立った藤は、いつもより柔らかく言った。

「私がしてなかった方法がこれしかなかったから。人でいう寿命というものがあるのなら、それはあなた達が私の中にいる事で、多くの寿命があると言うのなら、人が平均80歳まで生きるとしても、あなたの命はそれ以上。私が死なないのなら自分の血を引換えに効力があるのかやるしかない。私は死ねないんでしょ。私の命がここ尽きるのならそれも良しよ」

そう、藤は言った。私に死ねないと…

山の長寿の大木は数百年生きる。大切にされている木々ならもちろんそれ以上だ。隠れ棲む者達の事はわからずとも、彼等に死は無縁な事くらいわかる。

長寿の大木に比べたら、藤の木はまだ若かく本体なくして紫の身体に見をうつした時点で、何年もの時を紫と共に歩むのだろう。

ここで代償に私の血を流せばいい。そう亡くなる予定の3人分の寿命分、自分が削り渡せばいい。

ここまでした事はなかったのだから、半分賭けのようなものだ。

そして、うまくいくとしても、それは自分が単に血を流せばすむような簡単な事でもないと思っていた。

こうして藤が現れ、山に隠れ棲む者達の助けがなければ成り立っていなかっただろう。

そんな危うい賭けだ。

そして藤はこうして助けに現れ、隠れ棲む者達も現れた。

これはきっと死の規律を曲げた事にも近く、禁忌にも近いにも関わらずだ。

「その通り。これは禁忌だ。君は規律を曲げた」紫の考えた事は、手に取る様に藤には全てわかっている。

それもそうだ。紫の中にいると言っているのだから。

「代償は何?」紫は問いかけた。

「彼の命だ」藤はちらりと優希の方を見て言った。

「待って。これは私がしたこと。代償なら私が…」言いかけたところで

「違う。彼は言った。自分の命と引き変えにと。僕はその申し出をのんだから力を貸した」藤が言葉を遮り言う。

紫は、それに反論出来る言葉が見つからなかった。

確かに優希が言った事だ。可能か不可能か別として、優希は自分の命を差し出すと言ったのだ。

「他に方法はないの?あの人は殺さないで」紫は藤の顔を見て言った。藤は、いつも見る無表情の様な冷たい感じでもなく、薄笑いしてる感じでもなく、ただ優しく微笑んでいた。

「やっと、ちゃんと顔を見たね」優しく藤は言い、紫の頬に手を当てた。

「君はこうして知らずに君自信が選択している事に気付いてたかい?」

藤の手は自分の手と同じ様に冷たい。決して暖かくなる事のない手。でも、この手がどれだけ暖かかったのかを紫は知っている。冷たくなった原因もだ。

いつも、どんな時も包んでくれた温もりを、忘れるはずはない。

「そうね。こうして、ここに来ると決めた時点で、私は選択していた。彼を助ける事も、この子達を助ける事も。そして、自分がこの後どうなろうが構わないという事も」藤の手に自分の手を重ね置く。

「君は選択しなければいけない」藤はどこか寂しげに、言葉を発した。

それが痛いほど紫の心を刺す。

「わかってる」そう言うと、「じゃ、いきなさい」藤は紫の頬から手を離すと、姿を消した。

姿は見えずとも、紫の中に居る。そして、ここからする選択をただ見ているのだろう。


考えたら、縁には決して恵まれる事はないのだと、紫は改めて思い知った。

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