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黄昏ラピス  作者: 村月 亜唯
22/36

※※

運転席に優希、助手席に紫、その後ろの後部座席、紫の真後ろに長野、横に奥田と孝一、最後部座席には颯太と司が座った。


優希は紫と話をしたかった。

そう、今日一体何があるのかを聞きたかったのだ。

ただ、皆がいる手前、それを聞くわけにもいかなければ、聞けるはずもない。

何より、紫の後ろに座っている長野が

「紫さん、紫さん」と運転席と助手席の間から、やたら紫に話し掛けては顔を出す。

それをまた紫も邪険にせず、話を返しているのだ。そこを割ってまで話す事は、優希には出来ない。


長野の様子から、優希が何も話すことなく運転してるのを見かねた孝一は、

「ねぇ、長野さんは彼女いないんですか?」

と話し掛けた。そこに颯太と司が話に加わり

「奥田さんは彼氏いないんですか?」と話しかけ始めた。

「友達とか彼氏欲しいって人いません?」

等と紹介してとか、いつからいないの等と恋愛話へと花を咲かせる。

奥田が話に巻き込まれた事から、自然に長野も会話の波に飲まれ、「紫さん、紫さん」の声はいつの間にか消え、後部座席は賑わい始めた。


優希は紫に

「後ろ、楽しそうだね」高速道路を程よいスピードで車を走らせる。

「本当にね」と言う紫に

「お腹空いてない?ゆかりちゃん」

「私は、あんまり空いてないけど、皆、ご飯まだでしょ?」

「うん。この先のドライブインでちょっとご飯食べよっか」

普通に話をする事が出来た事に、優希は少しホッとしたが、気になる事はまだ解決してない。

何とか紫に聞こうとするが、どう切り出せばいいのかもわからない。

他愛のない話は当然出来る。

話し掛ければ話をするし、笑ってもくれる。話しかけてもくれる。

このまま何も聞かずにいてもいいかもしれない、そんな風にさえ思えてくる。

紫が言ったこと自体、なかったことにすればいい。聞かなかったことにして、このままスキー場について紫にスノーボードを教えて、一緒に滑る。ただ、それでいいじゃないか。

そう思う優希に

「ご飯食べたら、運転は長野と交代して」

紫がそう優希に言ったかと思うと、紫は長野に

「長野君、ドライブインでご飯食べたら運転してくれるんでしょ?」と言った。

「紫さん、わかってます。何回も紫さんに言われたんで」

長野は運転席と助手席の間から顔を出すと

「運転、後で替わります」と優希に向かって言った。

「え?いや、いいですよ。俺の車だし、大丈夫ですから」

突然の申し出と紫が前もって言ってたという事に、ひっかかり状況がわからずに優希は混乱した。

「俺、いつもスノーボード行くときは運転手なんです。慣れてるので任せて下さい」

長野は自分の腕の見せ所とばかりに、

「途中で、またドライブインがあったら、交代してください。それまで、一旦替わります」長野はそれまでは運転すると言って引かない。

「なら、少し替わってもらっていいですか?」

「はい、もちろん」長野の根気に負け、少し替わったらいいかと優希は折れた。

ただ、それだけではなく、紫が前もって言ってた事と、〝交代して〝がひっかかる。

とは言え、今そこを聞けるはずはない。


そうこうしてる間にドライブインに入り、それぞれ車から降りた。

寒さはさっきとは違って何倍にも増していた。

車内が暖かかったのはあったが、流石に山を目前にすると、こうも寒くなるのか。

ちらほらと雪が舞散っている。

その中で紫は両手を広げ、空を仰いでいた。

降り出したばかりの小さな雪は、紫の髪に落ちるとすぐに消える。

その雪を全身で受け止めるように、両手を広げてる紫は、すごく綺麗だった。

この雪のように、今にも消えてしまうのではないか、そう思うほどに儚くも見えた。

「紫さん、雪きれいですね」いつの間にか、長野は紫の隣を陣取り、紫と同じように両手を広げ空を仰いでいた。


「優希、先中に入ってるから」

そう言うと孝一は広げていた長野の腕を掴み、「ほら、長野さんも」そう言うと奥田も長野の反対の腕を掴んでいた。

2人に拐われるように、長野は建物内へと引きずられて行く。

「紫さーん。」長野の叫び声だけが、虚しく残る。

優希と紫、2人きりになった所で


「優希君。これから私が言う事に従ってほしい」紫は仰いでいた空から優希の顔を見て言い、広げられていた両手は閉じられていた。

「何?」いつもより一層白い肌の紫の顔を見て、そこにいるはずの紫を遠くに感じた。

―消えてしまいそうだーそんな気がした。

「後でわかる」そう言うと、紫は両手をポケットに入れ、踵を返し歩いていく。

「ちょっと、待って。理由を教えて」

紫を掴もうと伸ばした手は届くこともなければ、紫は振り向きさえしない。


―どういうことだよ…―

優希は立ち尽くし、服に付いた雪を振り払った。

―冷たい。まるで今の紫のようだ…―手に触れた雪の冷たさは、今の紫にどこか似ていた。そして、瞬時に消える雪もどこかで紫を思わせた。


―意味がわからない、でも雪のように…


なぜそんな事を思ったのかわからないが、ざわつく心に変わりはなかった。


優希が食事処に着くと、孝一達はそれぞれうどんやカレーを美味しそうに食べ始めていた。

「あれ?ゆかりちゃんは?」

先に立去ったはずの紫の姿が見当たらず、優希は言った。

孝一は「お前と一緒に居たんじゃないの?」と、うどんをつるっとすすりながら言った。

「先に中に入って行ったんだけど、おかしいな」優希は辺りを見渡し紫を探す。

それを聞いてかカレーを食べていた長野のが手を止め

「紫さん、どこに行ったんですか?」と視線を優希に向けた言った。

「先に建物に向かって行ったから、てっきりここに来てると思ってたんだけど。ちょっと探してくる」

優希は少し慌て立ち去ろうとした時

「俺が探しに行きます。優希さんは食事しててください」

そう言うと長野はカレーをすくっていたスプーンを置き立ち上がり、そのまま小走りにお土産売り場の方へと紫を探しに行った。

「おい、優希いいのか?」颯太が不安そうにしてる優希に気付き、優希の方に腕をまわすと耳元で言った。

「いや…よくはないけど…」優希はテーブルにつくと、水を一口飲み、司が優希の前に差し出したうどんに箸をつけた。

「とりあえず、まだ先は長い。腹ごしらえは必要だ、食え」

「あぁ…」優希はスルスルとうどんをすする。だが、食べた気にもならなければ、紫が心配だった。

優希の向かいの椅子がガタッと音を鳴らしたかと思うと、そこには椅子を引く奥田が立っていた。 

「優希さんと、紫さんてどういう関係ですか?」引いた椅子に腰を下ろし奥田は言った。

唐突に急な質問に、まさかショップで応対してもらって声をかけたとは、自身が言えるはずもない。

「俺の知り合いと友達で、その繋がり」とだけ応えた。

「ふーん。そうなんですね」そう言うと奥田は両肘をテーブルに付き、両手を組み顎をのせ「長野いるでしょ。長野、紫さん事が好きなんです。だから今日のスノーボードも紫さんに誘われて、凄く喜んてで。優希さんと紫さんの関係って、友達なだけですか?」

奥田が真っ直ぐに優希を見据え言った。

その言葉を聞きながら、優希は奥田が緊張してるのがわかった。

ーーもしかして長野君の事を…

「ゆかりちゃんの事は、気になってるよ…」真っ直ぐに向けられた奥田の視線に、優希は辛うじて合わせていた。

その様子を見ていた颯太は、戸惑っている優希に気付き、変わって応えた。

「こいつは紫ちゃんの事、好きなんだよ。でも、それって奥田さんにあえて言う必要あるかな」颯太は奥田を真っ直ぐ見据え言った。

「そうですよね…」

そう言う奥田は、「ごめんなさい」とテーブルに立てた両肘を下ろし頭を下げた。

ただ、優希が紫に好意を抱いてると聞いてから、どことなくほっとしてるかのように見えたのは、優希だけではなかったようだ。

孝一は

「奥田さんは、もしかして、長野さんが好きだったりするんですか?」と言った。

俯いていた奥田は少し小さな声で

「そんな事ないです」

と言うと俯いていた顔を上げ

「でも、優希さんには頑張ってほしいです」と呟くように言った。

優希は

「奥田さん、ここ出たら運転は長野さんがするんだけど、奥田さんは助手席に座ったらどうですか?」と言った。

「優希さんと長野、運転替わるんですか?」

「うん。ゆかりちゃんと俺は後部座席に座る事になってる。だから2人で前に座ったらいいと思います」優希は口元を緩ませへらっと笑いながら言った。

ーーやっぱり好きなのか…

奥田は「そういう事なら、私助手席に座らせてもらいます」と小さく返事をした後、ありがとうと一言言った。

その表情はどこか照れ臭そうでいて、嬉しそうだった。


ーー俺はどうなんだろう。

優希は好きだから、紫といたいのか、それともただ紫の言葉か気になってるだけなのかわからなかった。

その時、長野が戻り来ると早口で

「紫さん、お土産売り場にもいません。…こっちにも来てないみたいですね」周りを見渡し言う長野は、誰が見ても慌てている様子だ。

優希は「俺もちょっと探してきます」そう言うと外へと駆け出した。

さっき紫と別れたところまで行ってみようと思ったからだ。

そして、案の定そこには先に立去ったはずの紫が、両手をポケットに入れ空を仰ぎ立ち尽くしている。

「ゆかりちゃん、何してるの!皆、心配してるよ」

優希は大きな声で紫に叫ぶと、走りに紫の方へ向かった。

紫の元へ向う中、紫の眼がきらんと光るのを見た。


「何かあった?」歩き近づく優希が言うと

「何も。雪がさっきよりも降り出したなと思って」紫の目は天を見たまま、そして紫が言うように雪はさっきよりも降っていた。

優希は

「ずっと外にいたの?」と尋ねた。

「この空気の冷たさが、心地よくて」

「ご飯は食べないの?」

「うん。お腹すいてない」

優希は紫の頬に手を当てた。

「すごく冷たくなってるじゃないか」

頬にあてた手を、紫はその上から自分の手を重ねて置いた。

「優希君の手は、暖かいね」

その仕草に、自分の手の上に紫の手がある事に、優希は動揺した。

「俺は室内にいたから…」


そのまま2人揃って空を見つめていると

「優希君、さっき言ったけど、運転は長野君と代わってね」

「でも、なんで?」

優希が尋ねると、紫は手を離し「なんでも」と優希を見て一言言った。その一言に優希は威圧され

「わかった。とりあえずみんな心配してるから、中に一緒に入って」

優希は紫の腕を軽く掴むと、孝一達の元へと連れ戻った。

「紫さん、めちゃくちゃ心配しましたよ。何処に行ってたんですか?何もなかったですか?」

紫の姿を見かけるなり、長野が駆け寄ってきた。建物に入った時に、優希は掴んだ紫の腕を離していた。

「長野君、ごめんね。ちょっと外の空気にあたってて。心配かけてすみません」そう言うと紫は孝一達の方へ頭を下げた。

「いいよ、何もなかったのならよかった」孝一か言うと

「逆に優希の馬鹿が気が利かずに一緒にいなくて、ごめんねー」

と半分、冗談交じりで颯太が言う。

優希は 

「はいはい、俺のせい。馬鹿で気が利かずに申し訳ないね」

と颯太を睨み言った。

「じゃぁーそろそろ出発しよっか」

司は腰をあげ、食器類を返却口へと持って行く。

それについていくように、また孝一達も返却口へと食器を持って行った。

トイレをすませ、車へと戻ると長野は

「それでは、優希さん。ここからは、俺が運転替わりますね」そう言うと優希から車の鍵を受け取った。

長野は、助手席には紫が座ると思うと、心から浮ついていた。

そこへ

「あっ、奥田さん。私も助手席ばかりに座ってて申し訳ないから、後部座席と替わってもらってもいい?」と紫が言うと

「いいですよ。私も後部座席でゆっくりさせてもらってたので、今度は紫さんくつろいで下さい」

奥田はそのまま助手席の扉に手をかけ座った。

「えっ、奥田さん助手席なの」その長野の言葉に「私じゃだめなの」と奥田が言うと、「そんな事言ってないじゃん」長野はそう言うと運転席へと座った。

「出発しまーす」

長野は車のエンジンをかけ、山道へと車で走り入っる。


山道は双方一車線ずつで、道幅は通常の道路よりも狭い。

お互いに対向車線が来ると、車の速度を落とし、曲がり角をゆっくりと進む。

山中深くなるほど道路は凍結しているのか、途中数台の車が端に停車しては、タイヤを付けかえている。

スパイクタイヤをドライブインで取り替えたのは正解だった。

スパイクタイヤでも、曲がり角では少し車体が横にスリップしてるのがわかる。

長野は「思ったより、道路滑りますね」とルームミラー越しに優希に言った。

「あぁ、本当ですね。雪も降ってるし、急に温度が低くなってる気がしますね」窓の外を見ながら応え、「やっぱり俺が運転しましょうか?」と言った。

その瞬間、隣に座る紫が優希の手を掴んだ。

えっ?優希は紫の方を見た。

紫は俯いたまま優希の手を握っている。


―怖いのかな…―

優希は紫に小声で

「怖いの?」と尋ねた。

その瞬間、運転席の長野から

「うわっ!危ない!」

大きな叫びがした瞬間、車は大きく反対車線へスリップし、車体は大きく山道のガードレールへと進む。

「ブレーキが全く利かない!危ない!」

長野の声を聞いたのはそれが最後だった。

長野の叫びと同時に車はガードレールを超え、大きな木々の中を、落ちていく。


孝一達の叫び声も聞いたが、何を言ってるのかはわからなかった。優希自体、声を出したのかもわからない。

ただ、紫の手は離れずに優希の手を握っていた。

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