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黄昏ラピス  作者: 村月 亜唯
20/36

※※

結局、紫からの返事はスノーボードに関する事だけだった。

待ち合わせも予定通り、自分達の方が仕事が終わるのも早ければ、車がある事から21時に紫の働くショッピングモール前、という事になった。

それをLINEすると

「紫:お疲れ様。了解。ありがとう」

と、返信があっただけで、「会える」の答えはなかった。

孝一達ともスノーボードまでに1回会おうと言いながら、お互いに仕事が忙しく、結局はLINEでのやり取りのみだけだった。

なんでもLINEがあれば、会わずしても段取りもどうするかも、集まっているような感覚で話は出来るものだが、やはりもの足りない。

優希は片方でそのやり取りを、みんなで楽しく出来ている事に喜ぶ反面、拭いきれない不安を感じたままだった。

ここで行くのを止めると言えばいいのか…それでも孝一達に言える止める理由は、どこを探してもなかった。

入り混じる感情の中で、ただ紫を求めた。

答えは全部紫がもっているからだ。

それだけは確実だ。

それでも返事がないのは、紫が言った「人は目に見ないと信じない」と言う事だろう。ならば見せれば、見ればいいと言う事なのか。

そんな事ばかりが優希の頭を駆けめぐっていた。



※※

木曜日の夕方、孝一は紫の勤めるショップ前に居た。

ショップ内に目をやると「いらしゃいませ。ご用件をお伺い致します」

発券機横に立っている背の低い制服を来た女性スタッフが、孝一に声を掛けてきた。

腕には案内係の腕章を巻いている。

「あっ、ちょっと携帯みたいだけなんで、番号とか大丈夫です」

女性の胸の名札には「里村」と書かれていた。それを確認すると、孝一は巻いていたマフラーで出来るだけ顔を隠した。明日、会った時になんていて言えばいいのかわからなければ、優希には今日の事も一切伝えていない。

里村は

「そうなんですね。では、ごゆっくりご覧ください。新しい商品はこちらに展示いてますし、実際に体験も出来ますから、お気軽にお声を掛けてください」そう微笑み言うと、展示されている場所まで誘導した。

「わかりました。ありがとう」孝一がいうと里村は、とんでもございませんと軽く会釈をし、定位置へと踵を返し戻っていった。

―あれが、優希の言うゆかりちゃんか―

優希の「里村って子知ってる?」と言うLINEもあって、紫の名字はわかっていた。

にしても、優希が言うように小さくて可愛らしい。携帯ショップが接客業としても、第一印象はいい。

普通、単に見に来ただけの客に、ここまで相手はしないのが残念ながらほとんどだ。

そりゃそうだ、買うかどうかもわからない、ましてや見に来ただけと言った回遊客だ。

そう言われれば極端な話、入り口で「どうぞ」の一言が多いだろう。


―優希が気になるっていうのもわかるってもんだ―

孝一は展示してある携帯を見ながら、しばらく里村をさり気なく見ていた。

時折、他のスタッフが里村の元へ駆け寄り、何やら話をしてるかと思うと、大きな声を出している客のところへ行っては、客の対応をしていたりと、忙しそうなのにそんな雰囲気を出さない人なんだなと思った。

そう言えば同じ年とか優希が言っていたが、にしては落ち着き払っている。

里村が悪い人間ではない事だけは、今日わかった。それでもここに来た意味も収穫もあった。


孝一は変に心配し過ぎたなと思いつつ、ショップから出ようとした。

「お客様、またお待ちしております」孝一の背中から里村の声がし、振り向くと会釈している姿があった。

思わず、「はい、ありがとう」と答え、店内をどこもまで見て行動しているのかと思うと、凄いなと思った。

―こんな子にかなうわけがない―

心から思った。自分があそこまで出来るかと言われたら、即無理と言える自信がある。


こんな客にもスタッフにも気を使うような仕事、神経が持つはずない。


明日、改めて里村に会うのが楽しみになった。

それは変な意味じゃなく、友達として人としての興味だった。


ーーそうか、優希の言ってた知りたいってこういう事か―ーー

優希の言葉の意味がわかった気がした。


※※


そして、金曜日はやってきた。


優希のマンションに孝一、颯太、司が次々に荷物を持ちやってくる。

「あれ?優希の好きなあのライトは?」

司が優希の冷蔵庫からペットボトルの水を出し、キャップを外しながら言った。

元々、物を置いてない部屋だ。床の定位置に置いてあった物がなければ、誰でも気付く。

「あー、この間足で蹴って割れたから捨てたんだ」優希はぎこちなく言った。

「ふーん。優希、あれ気に入ってたのにな」

司はどことなくぎこちない優希の雰囲気を感じながら、フローリングに腰をおろすと胡座をかいた。

颯太は来て早々にフローリングに腰をおろし、自分の荷物を部屋中に広げはじめ

「なぁ、もっとこう小さくなんないかな…出来ない?」

いや、自分の荷物だろ先に整理してこいよっと、孝一が颯太の頭を叩いた。

「もう、貸してみ」

優希は颯太の隣に行き座ると、要るものと要らないものを分け始め、最後にはまとめて車に入れればいい物を他の鞄にまとめ入れた。

こうゆう整理に関しては、優希はわりと得意な方だ。

1人暮らしの中で、不要な物を置いていれば、部屋は片付かない。いつの間にか身についたのが、こうゆうところだ。

「優希、サンキュー。これで俺の荷物軽くなった」

喜んでいる颯太に

「いや、荷物持ち歩くことないだろ」

孝一はぴしゃりと言うと、車で行くのに何故荷物の大小、重さが関係ないだろと言った。

宿泊もしないし、スキー場ついたら滑る。

そのどこに荷物が…言われた颯太は「あっ、そっか」と楽観的なものだ。

ただ、それ以上言うとショックを受け颯太が、後々めんどくさくなるのはわかる。

「はいはい。荷物少しは持つから、孝一もわかっててイジメない」

こうゆうまだまだ子供じみたやり取りに、3人で大笑いする。

やっぱり男同士はくだらないことでも面白い。

こうして、いじりいじられ、わざとらしく傷付き傷付いたフリをする。

冗談とわかってるから出来る事も、言える事もあって、それがどこまでなら許されるのかさえも、何も言わなくてもわかる。


ーーこの時間もこいつらも大事だ。


優希は心から思った。


「なぁ、そう言えば今日一緒に来る子って、優希は知ってるの?」

自分の鞄から出した物を一箇所にまとめながら颯太が尋ねてきた。

「いや、里村さんていう女の子は知ってるけど、他はその子と同じ職場の子って事しか知らない」

「ふーん。それって、他の2人も女の子とか?」

興味津々な感じで司が会話に入ってきた。

「いやーどうなんだろ。聞いてないけど」

優希は、そう言えば性別まで聞いてないことに今頃気付いた。

まぁそれどころじゃなかったんだけど、男もいたら…

「いんじゃないの?どっちでも。スノーボード好きな人だったら、楽しめるし今回、別に女関係ないじゃん」

「そりゃそうだけど」

孝一が女関係ないじゃんと言う言葉に、少しくらい女との接点かあっても…と颯太は残念に思いはしたが

「滑るだけだし、まぁいいか」

とりあえず、運転しない分、仮眠するか優希が気になってる女と話したらいい、と思うと何を聞こうかなと少し考え始めた。


3人であれもこれもと準備をしていると、時間が経つのは早いものだ。


「そろそろ迎えに行って、スキー場に向かうか。途中、飯食うだろ?」

優希が立ち上がり言うと、そうだな、腹減ったと孝一や颯太達も立ち上がり、それぞれ荷物を持ち、

「ほら、出るぞ」

そう言って3人優希の部屋を出て車へと向かった。

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