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こんなに真剣な顔の孝一を優希は知らない。真っ直ぐに見ていられなかった優希は、スマートフォンを探す素振りをしながら立ち上がり
「ゆかりちゃんと会わせろって話か?」
スマートフォンを手にし言った。
孝一からの着信がある事を改めてみると、心配をかけた事に申し訳なく思う。
こんなにも心配してくれてるのに、何も言えない。
「は?それだけじゃないだろ。話きてるか?何かあったか聞いてんだ」
優希が何もなく、紫に本当にただ会わせたくないだけならそれはいいと孝一は言った。
「そうじゃないよ。ゆかりちゃんには聞いてるし、ただ、仕事が遅いみたいで、俺も無理強いはできないと思ってさ。さっきのは、俺もよくわからない、ごめん」
紫からの返信がないのは本当の事だ。
聞くにしても返事がなければ、答えも当然のようにない。
「まぁ今何ともなさそうだからいいけど。なぁ優希はそのゆかりちゃんの事、どう思ってるの?前も聞いたが変な子じゃないの?」
孝一は「優希が信用出来るのなら、別に構わないが」と続けて尋ねた。
「変な子じゃないよ。それに興味があるんだ、ゆかりちゃんに」
興味があると言いながら、もっと別な言い方はなかったものかと、言った後に少し思ったが、興味があるのは確かだ。
そう、まだ知らない事がある。知らないといけない事もあるんだ。
「それならいいよ」
優希が人に興味を持つことはいい事だ。
「金曜日さ、21時位に出発しようと思ってるから、それ大丈夫かと、時間伝えて」
待ち合わせはまた後から颯太達と話してから連絡をする、と孝一は言うと
「とりあえず、来てよかったわ。ゆっくり寝ろよ」
立ち上がり玄関へと向かった。
優希は下まで送るわ、と言うと一緒に玄関からマンションの1階まで降り、じゃーなと片手をあげ自転車にまたがり、帰る孝一の後ろ姿を見送った。
部屋に戻ると、ウェアやスノーボードの板を雑に置いてた事に気付いた。
いくら3日後にスノーボードに行くにしても、このまま放置でいいわけがない。優希は物を置いていない壁側に板を立て、ウェアを折り畳み置いた。
―気を失うって…俺が―
激しい頭痛がしたのは覚えている。原因は、両親の事だったのはわかる。それから…と考えたが、そこまでしか思い出せない。
何かあったはずのような気はするが、あまり考えてまた頭痛がしても、それはそれで困るから、これ以上は考えないことにした。
それにしても紫にLINEをしてから、返事は1つもこない。
見てはいるのに、既読にはなっているのに返事がない。
まだ仕事なのかもしれない。あまりしつこくするのは、逆に嫌われるだろう。
優希は
「優希:お疲れ様。金曜日21時位に出発する予定だけど、仕事大丈夫かな?待ち合わせ場所はまた連絡する」
孝一に聞いた事だけをLINEした。
スノーボードに行くことはキャンセルにはなっていない。
紫だけでなく、紫の知り合いも同行だ。
ならば、伝えなければいけない事は、自分の事とは別にして伝えるべきだ。
もし、スノーボードの事にしか返事をしてこなくても、それはそれで、優希はいいと思った。
聞けなかった自分が悪い。そう思っていた。
※※
孝一は部屋に入ると倒れていた優希の姿を思い出していた。
―一度、病院に連れて行くべきか―
確かに優希は気持ちが不安定なところはあった。ただ、それは高校の時だけで今はなかった。
ないように見えていたのかも知れないが、あんな風に倒れたりしたことは、知り合ってからは一度もなかった。学校もバイトもほとんど休む事もなく、熱があっても来ていたくらいだ。
そんな優希が倒れる、しかも頭痛でとなると、心配もする。
―ゆかりちゃんって子にあってからか?―
ふと頭をよぎった。
携帯ショップなら、見るだけならどんな人か見ることくらい出来るだろう。
孝一は紹介等と大げさな物でなくていい、単純にその人を見れば、紫がどういった人物なのかはわかるだろうと考えた。