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優希は部屋に入ると、すぐ孝一達にLINEを送信した。
『優希:お前ら里村って言う女の人、知り合いだったり、学校が一緒だったとかする?』
便利な時代だ。今までなら1人ずつにメールをしないといけなかったのに、こうしてグループ登録さえしていれば、1つメッセージするだけで話は終わる。
にしてもだ、万が一、こいつらと知り合いだったとして、紫の知り合いなら、先にここに行けと言うはずだ。
太ももの傷口が痛痒く疼く。
紫は「知っていた」と言った。
まさか俺が来る未来を見たとでも?でも、俺の未来を知って何になる。知り合ったのは昨日だ。今まで会った事も同じ学校だった事もない。
―なんでだ…―
スマートフォンがら"LINE♩"と音が鳴る。
『司:そんな名前の子知らないな。孝一も颯太も、横で知らないって言ってるけど、その子がどうかしたのか?』
「優希:そっか。今、3人で居るの?」
『司:スノボの話をしてたんだ。もう、解散するけど、お前は用事があるって孝一が言ってたから。用事終わったのか?』
「優希:すんだよ。そっか、知らないならいいんだ」
予想はしていた。けれど、知り合いならよかったとも思った。
紫が何かを知っているなら、知りたい。
紫が接触してきたことにも、何か意味があるんだろうか。
でも、来る事を紫が知っているなんて、普通に考えたらない事だ。何より、未来はわからないと言ったのは紫だ。紫が未来に何か起きる事を知っているとして、見ず知らずの俺にそれを伝える事に意味はあるのか?
知り合いならまだしも、昨日まで知らなかった間柄だ。
―クソっ、考えたら考えるだけ頭がおかしくなる―
うずくまって頭を抱え、痛痒かった傷を思わず掻きむしる。床に放り投げたスマートフォンが"LINE♩"と音を鳴らす。
『孝一:優希、今日はどうだった?』
孝一のメッセージが動揺していた心を少し安堵させた。
心配をかけて申し訳ないが、心配をしてくれる誰かがいる。
ホッとした。自分は1人じゃないんだ。
そう、だから聞こう。悩むのはその後でいい。
※※
紫はアロマキャンドルに火を灯すと、次々にキャンドルを3つ床に置いた。
ラベンダーの香りと、小さな炎が紫を取り巻く。
左手にスマートフォンを持ち、手の隙間からスマートフォンに付けている金色の小さな鈴を垂らし、小さく鈴を揺らし鳴らす。
"チリン、チリン"鳴る鈴から目を離さず、ただ鈴を見つめた。
部屋に入ってから着替えもせず椅子に腰掛け、優希からの連絡を待つ。
―連絡はもう少ししたら来る―
それは確信だ。
時間があったら…そう思いはするが、時間はあまりない。
スノーボードに出発するまでの日数は、残り5日。
―選択―
ゆらゆら揺れるキャンドルの炎に照らされた鈴は、赤く光り輝く。音色だけが部屋に響きわたる。
手元のスマートフォン液晶が明るくライトがつくと、紫はLINEを開いた。
『優希:今着いたよ』優希からのメッセージだ。続けてメッセージが入る。
『優希:何故、ショップに来る事を知っていたのか、教えて欲しい。』
―知らない方が幸せなのかもしれない。知らなくてもいい事はある―
キャンドルの炎は、白い紫の頬をほのかに赤く染める。
「紫:明日、夜に会いましょう。そしてスノーボードに私も入れて、3人行けるようにして欲しい」
『優希:わかった。ゆかりちゃんをいれて3人一緒に行くのは友達に言っておく』
明日連絡をすると優希に送信し、優希との連絡は終えると、紫は続けて長野と奥田に連絡をした。