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黄昏ラピス  作者: 村月 亜唯
13/36

※※

優希は部屋に入ると、すぐさま孝一達にLINEを送信した。

『優希:お前ら里村って言う女の人、知り合いだったり、学校が一緒だったとかする?』

便利な時代だ。今までなら1人ずつにメールをしないといけなかったのに、こうしてグループ登録さえしていれば、1つメッセージするだけで話は終わる。

にしてもだ、万が一、こいつらと知り合いだったとして、紫の知り合いなら、先にここに行けと言うはずだ。

太腿の傷口が痛痒く疼く。

紫は「知っていた」と言った。

まさか俺が来る事を知っていた?今まで会った事もない。知り合ったのは昨日だ。同じ学校だった事もない。


ーーなんでだ…ーー

スマートフォンがら"LINE♩"と音が鳴る。

『司:そんな名前の子知らないな。孝一も颯太も、横で知らないって言ってるけど、その子がどうかしたのか?』

「優希:そっか。今、3人で居るの?」

『司:スノボの話をしてたんだ。もう、解散するけど、お前は用事があるって孝一が言ってたから。用事終わったのか?』

「優希:すんだ。そっか、知らないならいいんだ」

予想はしていた。けれど、知り合いならよかったと思った。


紫が何かを知っているなら、知りたい。何か隠してるのかを知りたい。

紫が接触してきたことにも、何か意味があるんだろうか。

でも、紫が知っているなんて、普通に考えたらない事だ。何より、未来はわからないと言ったのは紫だ。紫が未来に何か起きる事を知っているとして、見ず知らずの俺にそれを伝える事に意味はあるのか?

知り合いならまだしも、昨日まで知らなかった間柄だ。

ーークソっ、考えたら考えるだけ頭がおかしくなるーー

うずくまって頭を抱え、痛痒かった傷を思わず掻きむしる。床に放り投げたスマートフォンが"LINE♩"と音を鳴らす。

『孝一:優希、今日はどうだった?』

孝一のメッセージが動揺していた心を少し安堵させた。

心配をかけて申し訳ないが、心配をしてくれる誰かがいる。

それだけでホッとした。自分は1人じゃないんだと。

そう、だから聞こう紫に。悩むのはその後でいい。


※※


紫はアロマキャンドルに火を灯すと、次々にキャンドルを3つ床に置いた。

ラベンダーの香りと、小さな炎が紫を取り巻く。

左手にスマートフォンを持ち、手の隙間からスマートフォンに付けている金色の小さな鈴を垂らし、小さく鈴は揺らし鳴らす。

"チリン、チリン"鳴る鈴から目を離さず、ただ鈴を見つめた。


部屋に入ってから着替えもせずフローリングに座り、優希からの連絡を待つ。

ーー連絡はもう少ししたら来るーー

それは確信だ。

時間があったら…そう思いはするが、時間はあまりない。

スノーボードに出発するまでの日数は、残り5日。

『選択』

ゆらゆら揺れるキャンドルの炎に照らされた鈴は、赤く光り輝く。音色だけが部屋に響きわたる。

手元のスマートフォン液晶が明るくライトがつくと、紫はLINEを開いた。

『優希:今着いた』優希からのメッセージだ。続けてメッセージが入る。

『優希:何故、ショップに来る事を知っていたのか、教えて欲しい』


ーー知らない方が幸せなのかもしれない。知らなくてもいい事はある。それでも伝えるために会ったーー

キャンドルの炎は、白い紫の頬をほのかに赤く染めた。


「紫:明日、夜に会いましょう。そしてスノーボードに私も入れて、3人行けるようにして欲しい」そう返信すると

『優希:わかった。ゆかりちゃんをいれて3人一緒に行くのは友達に言っておく』すぐに返事は返ってきた。

明日連絡をすると優希に送信し、優希との連絡は終えると、紫は続けて長野と奥田に連絡をした。


「紫:お疲れさま。長野君、今度の土曜日って予定ありますか?」

長野は、予期せぬ紫からのLINEに心を弾ませた。

「長野:お疲れさまです。予定はありません。紫さんも休み一緒ですよね。何かありますか?」

すぐに返事を返した。

まさか紫から何処かに行こう、とかの誘いでは?呑みに行くのも振られ、映画も振られ、大袈裟ではあるが正直心は折れかけている。

そんな時に紫からのLINEだ。嬉しくないはずがない。

何よりも紫からLINEが来ること自体、かなりレアだ。

業務連絡も基本は電話をかけてくる。それも本当に担当したのが自分で、その内容確認の為の電話だ。

休みだというのに、家でゴロゴロとしてる時に紫からのLINE。思わずゴロゴロとしていた身体を起こした。

返事はすぐに返ってきた。

「紫:予定入ってないなら、よかったらなんだけど、友達とスノーボードに行くことになって、長野君も一緒にどうかなと思って」

マジかー1人喜びの声が部屋を響かせる。

「長野:行きます!紫さん、スノーボードするんですか?意外です!」

ここまで嬉しいものなのか、好きな人に誘われるのは。

決して今まで恋愛経験がなかったわけでもなければ、彼女がいなかったわけでもない。

ただ、紫ほど誘いに応じない女も珍しかった。自慢ではないが、誘えば大半の女は誘いに応じた。

それ故に喜びは何倍にもなる。

「紫:よかった。友達に伝えときます。スノーボードした事ないの。長野君はしてるって言ってたから、どうかなと思ったんだけど、楽しみにしてます」

「長野:俺、毎年行ってますから、紫さん教えますよ。任せて下さい。でも、友達と行くのに俺なんか行ってもいいんですか?」

「紫:大丈夫です。車に乗れるって言ってたし、せっかくだから。奥田さんにも声かけてるし」

ーーえっ、奥田にも声をかけてる…ーー

弾んだ気持ちが一気に下降する。

でも、紫と一緒というのに嬉しい事は変わりはない。

「長野:奥田さんも一緒なんですね。出発とかどうなってるんですか?」

奥田が一緒でも、まぁいい。紫と一緒、そこだけ考えよう。スノーボード初心者のようだし、ここは自分の腕の見せ所だ。

「紫:また予定確認して、言いますね。週末だと思うけど」

「長野:週末は俺も奥田さんも遅番ですけど、時間大丈夫ですか?」

遅番の場合、早くても仕事が終わるのは20時半だ。

だが、ここは接客業なだけに終わる時間は、客次第。

そして、その時間に終わる事はほぼない。

「紫:大丈夫というか、シフトは遅番と早番のスタッフを変更したから。早番の子達も遅番と交代してもいいって言ってくれたし。また明日ちゃんと言うけど、週末は早番で出勤してもらっても大丈夫ですか?」

「長野:了解です。しかし、シフト調整済みって、紫さん早い」

スノーボードに俺が行くと知っていたような段取りのよさだ。

「紫:誘うなら、先に変更出来るか聞いとかないとね。行けるって言われたのに、シフト変更出来なかったら、誘っても申し訳なくなっちゃうし」

あっ、そうゆうことか。

「長野:誘ってもらってありがとうございます」

「紫:こちらこそ、断られなくてよかったです。では、また明日会社で」

「長野:はい。楽しみに今から準備します」

長野はスマートフォンを机に置くと、クローゼットにしまい込んでいたスノーボードのウェアを出した。


これでいいかな?でも、紫さんと行くし、新しいの買いに行こうかな…紫さん、初心者ってことはウェアないはずだけど、初心者ならそこはレンタルかな…

どうしよう…板はあるし、買い替えたら馴染んでないから、少し変になるし…

あっ、奥田…


長野はスマートフォンを再度手にすると奥田幸子にLINEをした。

「長野:お疲れ。奥田さん、紫さんにスノーボード誘われたよね?ウェアとか持ってる?」

既読になると、

「奥田:おつ。誘われたよ。長野も行くんだよね?ウェア持ってるから、それ持って行くよ」

「長野:当然行くよ!俺もウェア持ってるんだけど、どうしようかなって思ってさ」

奥田もやっぱり行くのか…少し行かなくていいのにと思ったが、紫の友人の中に知り合いがいないよりは、居た方が心強い。

「奥田:持ってるならそれでいいじゃん。駄目なの?」

「長野:駄目じゃないけど、新しいのにしようかなとか、ちょっと思ってさ」

「奥田:紫さんが一緒だからとか言わないわよね?」

うっ、そうですなんて言ったらなんて答えが返ってくるのか。

「長野:そんなんじゃないけど、ちょうど買い替えようかなって思ってただけだよ」

奥田は長野からのLINEを読みながら、本当わかりやすい人間だと思っていた。

仕事をしてる中でも、長野が明らかに紫に好意を持っていることは、スタッフ全員がわかっていることだ。

それを知らないのは当の本人くらいだろう。

長野からは紫の相談をされてる分、奥田自身は公認の思いだが、長野が紫と話をしている時や、紫が何かする時に、いつも素早く行動する長野は見ていても、呆れるくらいにけなげだ。

紫自身がそれをどう思っているのかはわからないが、長野の気持ちはわかる。そして、ウェアも紫に少しでも格好良く見られたいから、新しいウェアがほしいというのが長野なのだろう。

そして、そうゆう長野を見ていて、いつの間にか気付けば自分が長野を好きになっていた。

それが、紫の事を好きな長野が好きなのか、単純に長野自身を好きなのかはよくわからない。

きっかけは紫に対して、思いを寄せる長野だ。

長野の恋が上手くいけばいいと、長野を好きでも思っている。上手くいって、自分の片思いが虚しく終わっても、長野が笑っていられるのなら、それに協力はしよう、そして祝福しよう、そう思っている。

「奥田:それなら新しいウェア、買いに行ったら?紫さんにも見てもらえるんだし」

「長野:そうだよな。新しいの買うわ。ありがと」

奥田に背中を押され、長野は新しいウェアを買いに行く事を決めた。


紫が好きな色って…

ふと思ったが、紫にそんな事を聞いたこともなければ、耳にした事もない。

紫の私服も、たまに見かけはするが、多くはない。

普段は制服だ。


買いに行くにしても色が…


ーーそれはそれで行った先で見て決めようーー


長野は車の鍵と鞄を手にするとウェアを買いに出掛けた。


※※

奥田は今頃は長野はウェアを買いに出てるんだろうなと思っていた。


紫のために新しいウェアを買いに行く長野は、本当に紫が好かれようとしてる。

誰でもそうだ。

好きな人に好かれたい、好かれたいために自分が少しでもよく見られるように努力をし、行動する。


紫に付き合ってる人がいるとは聞いたことはない。

ただ、長野の事をどう思ってるのかは知らない。

前に紫に何気に聞いた事がある。

「店の中で付き合うとしたら誰ですか?」あれは会社の呑み会の時だった。

紫が言ったのは「みんないい所ありすぎて、私なんかが選べない」だった。

そんな模範解答すぎるくらい、模範解答だった。


ただ、それを聞いても言ってるのが紫だから、気に食わないとは思わなかった。

普通の女子スタッフが言えば、感に触るセリフだろう。だが紫にはそれがない。

紫特有の雰囲気なのだろうか…嫌味がないのだ。

だから、長野が紫を好きになるのもわかれば、自分自身も紫を好きなのがわかる。

誰でも人に対して、大小なり好き嫌いはあって、不平等だ。

自分でもそれがある。

好きなスタッフや、苦手なスタッフ、それは客に対してもそうだ。

でも、紫にはそれがない。


どんなに自分が嫌だと思ってるスタッフであっても、紫は一定の距離と平等に人と接する。迷惑な客にさえ、紫はそう一定なのだ。

散々クレームを言い、吠えに吠えまくった客でさえ、自分の知り合いをショップへと連れて来ては携帯を購入させるほど、クレームを言い立てた客を自分の顧客にするのだ。客が客を呼ぶ、クレームを言う客ほど良い客とはこういう事を言うんだ、と思い知らされるほどだ。


紫の事を考え、自分と比べれば嫌な自分を思い知る。滑稽だ。

歳上なくせに、歳下の紫を妬んでいる。

いや、妬みではない事に本当は気付いてるんだ。

ーー憧れてる。

それが出来ないから、妬んでたとしても、紫を好きな気持ちの方が強く、そしてそう在りたいと思うのだ。


長野…どんなウェアを買うんだろう。紫さんの好きな色とか知ってたら、教えてあげられたのに。


寝転んで観ていたタブレットの映画はもう話がわからないくらい進んでいた。

奥田は、映画を停止すると、また最初から再生をした。

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