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黄昏ラピス  作者: 村月 亜唯
10/36

※※

紫とLINEのやり取りも終わり、寝ようかなと思いながらも優希は眠れずにいた。

「優希:起きてる?」

しばらくすると既読になり

『孝一:起きてる』

「優希:電話してもいいか?」

LINEをすると、孝一からすぐに電話が掛かってきた。

「どうしたんだ?」わざわざ掛ける前に優希が聞いてくるのは、いつもの事だ。

「いや、なんか眠れなくて」

「くっ、珍しいな。それだけ楽しかったって事か?いいじゃん」

ーー紫との時間は、確かに楽しかったーー

「楽しかった。そんな、緊張もしなかったし」

「そっか、そっか」心配したけど、よかった。

「明日もさ、会うんだ」

「え?えらい展開が早くないか?」少し驚きはしたものの、いい歳の成人男性だ。当たり前の事だとも思う。

「ドライブ行こうと思って、どこがいいかな?」

「適当に海とかじゃないの?日が落ちるのも遅いし、女ってそうゆうの好きな子多いし」

「海か。それいいかも」

上ずっている優希の声に、孝一は少し嬉しく思う。

「なぁ。スノボ連れて来いよ」

「あっそれ。今日声掛けたよ。来てくれると思うけど、明日また聞くわ」

「あぁ、頼むよ。少しくらい女っ気ほしいし、その子、見てみたいしな」

「見たいの方が本音だろ」優希が電話越しに笑っている。

ーーそうだよ、優希。お前が嬉しそうなのが、嬉しいんだーー

「さぁな。じゃ、もう寝ろよ」

「わかった。悪いな、こんな遅くに」

そう言うと電話を切った。


明日は優希が連絡をしてくるまで、こっちから連絡するのは止めようと孝一は思った。

にしても、こんなにスムーズに行けるものなのか?と、心のどこかで引っ掛かっている。

ーー早くその女の子、見てみたいーー



※※


長野は紫から〝おやすみなさい〝とLINEが来た後

『紫さん。あのお客さん知り合いだったんですか?』

とLINEを送信して

ーーこんな事、聞いたらいけないーーそう思うとすぐにメッセージを削除をした。


LINEも便利になったものだ。

今までは、こうして送らなければよかったと思っても、削除出来ずにいた機能は、直ぐであれば削除も出来るようになった。

今回はそれで救われた。


仕事終わり、紫がスターバックスにいるかもと思いスターバックスへ向かうと、そこには今日、紫が対応した客と紫が親しげに話してる姿があった。


行かなければよかった後悔したところで後の祭りだ。


見た時の2人は傍から見れば友達以上のようにも見えた。それくらいいつも見る紫とは違う、自分には決して見せる事のない笑顔があった。

携帯ショップで確かに指名をする客はいる。

『いつもあの人に応対してもらってるから』『あの人でお願い』

『奥田さんで』など、スタッフ個人への指名だ。口にすることはないが、無料のキャバクラかと言いたくもなる。

その中には特に用事もないのにスタッフ指名で来る客もいる。

ただ、その中でも紫はクレーム対応も多い事から、そういった客は特に多かった。

その中で、客がこの間スターバックスにいたでしょ?とか、あの店でアクセサリー見てたよね?、本屋にいた?など話してるのも耳にしていた。

当然、こんなショッピングモールだ。歩いていれば、そこら中に客がいて当たり前で、見かけられて当たり前だ。

連絡先を渡してくる客もいる。

断わっても名刺やメモをカウンターへ置き、返しても受け取らない客もいた。だから、そんな時はそれを自分が紫の元から奪いシュレッダーにかけた。

紫が客から連絡先を聞く事はありえない。

ーーなら、知り合いか、それとも単なる偶然か?ーー

ただ、自分からは紫にスターバックスで見かけた、とは言えるわけもない。

遠巻きに見ただけだ。しかも、スターバックスにも入らず、遠くから見ただけの意気地なしだ。

それでもLINEをして映画に誘った。結果、断られた。

ーーいつも予定入れないと言ってたのに…ーー

紫には彼氏がいないとは、本人からではなく奥田が言っていた。


ただ、それが本当か嘘なのかはわからない。

ーー明日の予定って、なんだ?もしかして、あの客とか?ーー


そう思っても、それを問う権利は当然ない。


ーー明後日なら、会ってくれるのだろうかーー

ふと頭をよぎったが、断られたばかりの今の自分に、すぐに誘えるほどの根性が無いことは自分が一番知っている。


ーー返事が遅かったのはアイツといたからか?ーー

スマートフォンに画面には紫のメッセージが表示されている。それを眺め、返事をしようと思いながらも、何を返せばいいのか、夜中というのに冴えきったはずの頭に、答えられる言葉は出てくることはなかった。

ただ、募る思いと疑念を抑えきれず、スマートフォンを握り締めた。


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