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紫とLINEのやり取りも終わり、寝ようかなと思いながらも優希は眠れずにいた。
「優希:起きてる?」
しばらくすると既読になり
『孝一:起きてる』
「優希:電話してもいいか?」
LINEをすると、孝一からすぐに電話が掛かってきた。
「どうしたんだ?」わざわざ掛ける前に優希が聞いてくるのは、いつもの事だ。
「いや、なんか眠れなくて」
「くっ、珍しいな。それだけ楽しかったって事か?いいじゃん」
ーー紫との時間は、確かに楽しかったーー
「楽しかった。そんな、緊張もしなかったし」
「そっか、そっか」心配したけど、よかった。
「明日もさ、会うんだ」
「え?えらい展開が早くないか?」少し驚きはしたものの、いい歳の成人男性だ。当たり前の事だとも思う。
「ドライブ行こうと思って、どこがいいかな?」
「適当に海とかじゃないの?日が落ちるのも遅いし、女ってそうゆうの好きな子多いし」
「海か。それいいかも」
上ずっている優希の声に、孝一は少し嬉しく思う。
「なぁ。スノボ連れて来いよ」
「あっそれ。今日声掛けたよ。来てくれると思うけど、明日また聞くわ」
「あぁ、頼むよ。少しくらい女っ気ほしいし、その子、見てみたいしな」
「見たいの方が本音だろ」優希が電話越しに笑っている。
ーーそうだよ、優希。お前が嬉しそうなのが、嬉しいんだーー
「さぁな。じゃ、もう寝ろよ」
「わかった。悪いな、こんな遅くに」
そう言うと電話を切った。
明日は優希が連絡をしてくるまで、こっちから連絡するのは止めようと孝一は思った。
にしても、こんなにスムーズに行けるものなのか?と、心のどこかで引っ掛かっている。
ーー早くその女の子、見てみたいーー
※※
長野は紫から〝おやすみなさい〝とLINEが来た後
『紫さん。あのお客さん知り合いだったんですか?』
とLINEを送信して
ーーこんな事、聞いたらいけないーーそう思うとすぐにメッセージを削除をした。
LINEも便利になったものだ。
今までは、こうして送らなければよかったと思っても、削除出来ずにいた機能は、直ぐであれば削除も出来るようになった。
今回はそれで救われた。
仕事終わり、紫がスターバックスにいるかもと思いスターバックスへ向かうと、そこには今日、紫が対応した客と紫が親しげに話してる姿があった。
行かなければよかった後悔したところで後の祭りだ。
見た時の2人は傍から見れば友達以上のようにも見えた。それくらいいつも見る紫とは違う、自分には決して見せる事のない笑顔があった。
携帯ショップで確かに指名をする客はいる。
『いつもあの人に応対してもらってるから』『あの人でお願い』
『奥田さんで』など、スタッフ個人への指名だ。口にすることはないが、無料のキャバクラかと言いたくもなる。
その中には特に用事もないのにスタッフ指名で来る客もいる。
ただ、その中でも紫はクレーム対応も多い事から、そういった客は特に多かった。
その中で、客がこの間スターバックスにいたでしょ?とか、あの店でアクセサリー見てたよね?、本屋にいた?など話してるのも耳にしていた。
当然、こんなショッピングモールだ。歩いていれば、そこら中に客がいて当たり前で、見かけられて当たり前だ。
連絡先を渡してくる客もいる。
断わっても名刺やメモをカウンターへ置き、返しても受け取らない客もいた。だから、そんな時はそれを自分が紫の元から奪いシュレッダーにかけた。
紫が客から連絡先を聞く事はありえない。
ーーなら、知り合いか、それとも単なる偶然か?ーー
ただ、自分からは紫にスターバックスで見かけた、とは言えるわけもない。
遠巻きに見ただけだ。しかも、スターバックスにも入らず、遠くから見ただけの意気地なしだ。
それでもLINEをして映画に誘った。結果、断られた。
ーーいつも予定入れないと言ってたのに…ーー
紫には彼氏がいないとは、本人からではなく奥田が言っていた。
ただ、それが本当か嘘なのかはわからない。
ーー明日の予定って、なんだ?もしかして、あの客とか?ーー
そう思っても、それを問う権利は当然ない。
ーー明後日なら、会ってくれるのだろうかーー
ふと頭をよぎったが、断られたばかりの今の自分に、すぐに誘えるほどの根性が無いことは自分が一番知っている。
ーー返事が遅かったのはアイツといたからか?ーー
スマートフォンに画面には紫のメッセージが表示されている。それを眺め、返事をしようと思いながらも、何を返せばいいのか、夜中というのに冴えきったはずの頭に、答えられる言葉は出てくることはなかった。
ただ、募る思いと疑念を抑えきれず、スマートフォンを握り締めた。




