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黄昏ラピス  作者: 村月 亜唯
1/36

※※

チリン…

小さく音色をたて始めた鈴が、次第に頭の中で反響する。

ーーまた、夢を見る…ーー

そう、どんなに見たくなくても、こうして否応なしに夢は一方的にやってくるのだ。


今まで幾つの夢を見てきただろう。

そして、見た後にどれだけ自分に後悔してきただろう。


こんなに寒い真冬に見る夢。


どんあ夢を私に見せるのか…


鈴の音に引き寄せられるように、深く深く意識は落ちていく。


※※


1番目に見たものは、満天の星空の下を、風に吹かれパラパラと舞降る白い粉雪。

2番目に見たものは、天井を逆さに転がっている1台の車に、窓ガラスから半身を放り出している人の姿と横に倒れている人の姿。

3番目に見たものは、大きな夜空に大きな月と無数星が輝きを放ちながら、その光景を見下している冷たい空だった。


「美しい」

その光景を目の当たりにあいながらも、私の口から思わず漏れた言葉。

藍色の空を無数の星々がまんべんなく散りばめ、地上を半透明な黄色が薄く鈍色に照らす。

地上をパラパラと舞い散る雪は、月光と星の光で時折キラキラと光り、それは幻想的で美しく、傘下の悲惨な光景を儚く美しく彩り、その彩られた光景はとても綺麗だった…


※※


「いらっしゃいませ。」

里村紫サトムラ ユカリは携帯ショップ入り口に設置してある、番号札の発券機横で案内係の腕章を右腕に巻き立ち、来店する客に声を掛けていた。

紺色の制服に白いシャツ、襟元にはピンクのスカーフを巻き、肩につくほどの緩いパーマ髪は「いらっしゃいませ。」と会釈をするたびに右肩でふわりとスカーフと一緒に揺れ動く。


紫の勤める携帯ショップは、大きなショッピングモールの2階に店舗をかまえ、ショッピングモール横に隣接された立体駐車場の3階連絡通路から館内に入ると、すぐ右側入り口近くにある。

その影響なのか駐車場から入ってきた客は、要件にあわせ携帯ショップで発券だけをし、そのまま携帯ショップ内に留まることをせず、他の店へ足を向け大方1〜2時間後の買い物帰りに携帯ショップへと戻って来る。

ショップ内にある番号が表示されているモニターには、待ち時間は2時間以上を表示しているが、実際、店内にさえいればあまり待つことはない。


そんなショッピングモールに勤めているからなのか、四季は気が付けばいつの間にか過ぎていた。

通勤途中の電車の窓外にいつの間にか咲いてる桜を見て春の訪れを知り、知らない間に桜は葉桜へと形を変えてた頃、しっとりした空気に変わった事で梅雨なのだと思い、うねるような暑さは夏の訪れを知らせた。頬にあたる風が冷たく感じ、足元の落ち葉をみて秋から冬なのだと知る。

規定の制服の衣替えも、1年を通してジャケットを着用してる紫には無縁のものだった。

毎日、こうして今日も発券機の横で来店した人達に用件を伺い、待ち時間と発券した券を手渡す。


「いらっしゃいませ。お客様、先に御用件をお伺いしてもいいですか」

紫は発券機に手を伸ばそうとしていた1人の男に声を掛けた。

「あっ、スマホが壊れて…」声をかけた男は言った。

「液晶が割れたとかですか?」故障となると大半が破損だ。

「はい。昨日、落としたみたいで、気付いたら割れてて」

「それは大変ですね。少し拝見していいですか?」

紫がそう言うと、男は「はい」と言いながらダウンジャケットのポケットのチャックを開け、スマートフォンを取り出し紫に差し出した。

紫は男からスマートフォンを受け取ると、少し操作確認させてもらいますね、とスマートフォンを触り

「液晶、反応しないですね。お客様は、お怪我はありませんでしたか?」

紫は割れたスマートフォンの液晶を指でなぞるように触り、男へ尋ねながら丁寧にスマートフォンを拭くと男へ差い返した。

スマートフォンは液晶自体に大きく砕いたような傷はなかったものの、端から端へ二股に分かれた亀裂が入っていた。それでも操作出来るスマートフォンと、全く操作出来ないスマートフォンがある。メーカーにもよるが、こればかりは打ち所にもよる。

「あっ、大丈夫です。でも動かなくて、全然使えなくて。機種変更しようかなとか思ってたし」

男は紫からスマートフォンを受け取りながら応えた。

「液晶が触れなかったのなら、電話やメールも出来なかったですよね。ご不便をお掛けして申し訳ありません。では、機種変更で発券しますね」紫は発券機の機種変更ボタンを押し、出てきた券を男へ手渡した。

「ありがとう。LINEで連絡するのがほとんどだから、本当に不便で」

男は紫から番号の紙を受け取ると、店内中央にある並んだ待合椅子の1つに腰掛け、受け取ったスマートフォンをポケットへ入れた。

その男の後ろ姿を見ながら、椅子に腰掛けた事を確認すると紫は付けていたインカムで

「すみません。誰か案内係、交代してもらってもいいですか?」と発信した。

「了解です。1分ほど待ってください。僕、交代します」

スタッフの長野雅士がすぐに応えた。

「お願いします」紫は返事を返すと長野が来るのを待った。

「お待たせしました。交代します」

カウンターから少し早歩きで長野は紫の元へとやって来た。紫は右腕にしていた案内係の腕章を外し、長野へと差し出すと、長野は腕章を受け取り、紫が次々に言う待合の客の情報の引き継ぎをした。

長野はメガネにかかる自分の髪を、時々掻き分けるように、頷いては質問をし、紫の言葉を聞いてる。

背の高い長野の横で紫は見上げ、いつも見下ろされているなと思いながらも、自分が見える物と見える世界は、こうした身長差1つの違いでも違うんだろうなと思っていた。

「ほとんど外出してるから大丈夫だと思うけど、何かあったらすぐにインカムで呼んで」

「わかりました。何かあったら呼びます。紫さんは…応対にはいるんですか?」

長野は頷き、左腕には案内係の腕章を付けながら尋ねた。

「さっき来た人がスマートフォンの操作出来なくて、機種変更も検討してるみたいだから、ちょっと応対しようかな思って」

「そうなんですね。でも、紫さんが応対に入るなんて珍しいですね。いつもご指摘対応ばっかりなのに」

通常はそうだ。ややこしい客以外の対応は、スタッフに任せる事が多い。

「そうなんだけど、データ消えたら困るし、操作出来ないみたいだから」

長野は、そうなんですねと納得すると、なんなら自分が行きましょうか?と言ったが、紫は自分が先に見たからフロアをお願いと言いうと、さっき来た男の方へと向かって行った。

長野は紫の後ろ姿を見送りながら、店舗へ来た客に用件を聞き、発券をし待ち時間の案内をし始めた。

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