死に戻る不遇職
よみがーえーれ
家具も無い真っ白な部屋。唯一その部屋には白い扉が一つだけ存在していた。
扉には看板が付いており、ただ一言[Continue]とだけ書いてあった。
意識が回復した私はそんな空間にいた。蟻に食い千切られた体はしっかり動くし、装備もぼろぼろにされていたのが修復されている。
もはや夢だったのではと思えるくらい元通りな私の姿だったが、やはり記憶には大量の蟻に囲まれ殺された事実が残っていた。
「やられている時は混乱してたけど…今思い出すと怖かったし…それに噛みつかれたのは痛かったなぁ…。」
あんなのただの恐怖でしかない。これからもあのような事が起きるのかもしれないと思うと、外に出るのが不安になる。安全な街で暮らしても悪くは無いんじゃないかと何かが誘惑してくる。
だけど…それじゃいけないんだ。たかが一度の敗北で諦める程に私は弱いのか。否、私はこの程度で負けはしない。必ずやり返してやる。
「よし…いける。そうだよ、序盤で死に戻るなんてよくある事。くよくよする暇があるなら少しでも前に進もう…。」
パンッと私は頬を叩いて立ち上がる。そして部屋の中を軽く見渡してから扉へと近寄った。
「ここを開けたらやっぱ聖堂なのかな。今度はちゃんと情報を集めてから行こう。うん。」
そう、私は浮かれていたのだろう。現実としか思えない世界に浮かれ、我先にと街の外に出てしまった。それも一人で。
どう考えても悪手である。パーティを組んでれば何かしら打開策があったかもしれない。一人でもしっかりと情報を集めて準備をしていってればそもそも森になど行かなかったかもしれない。
あの時の私はそうしなかった。早く外に出て実戦だーくらいしか頭に無かった。それが敗因だろう。
だけどもうこんなヘマはしない。私は成長するんです。前にも言ったね。
「それじゃ、お邪魔しまーす。」
私は扉を開けると、静かで何も無い空間から、賑やかで美しい世界へと戻って行った。
「あれ?ここって…最初と同じ場所?」
扉を抜けると、そこは妙に見覚えのある場所だった。というのも私がゲーム開始時に出てきた場所だ。
こういうのって死に戻り用に場所があったりすると思うんだけど…迷子防止かな?
相変わらず…とはいっても一日も経ってないから当然だが、静かな聖堂である。プレイヤーはもう皆外に出たのか、人は殆ど見えない。神聖な場所って感じはするけど寂しいね。活気が欲しい。
「そうだ。デスペナとかスキルの確認しよ!色々手に入ったはずだしね。」
何だかんだ酷い目にはあったけれど、そのかいあって成果としては上々のはずだ。ひとまずはそれを確認してからにしよう。
私は聖堂内のベンチに腰を下ろすと、メニューを開いてまずはインベントリを選択した。いやーこういう事するのに静かな場所って落ち着けていいね。少し前の発言は撤回します。聖堂は静かじゃないとね。
さて、まずは所持金だ。ゲーム開始時に支給されていた10000Gはデスペナのせいで7000Gにまで減っていた。3割持ってかれるのかぁ…これは何かしら預けられる金庫みたいなのが欲しいなぁ。
続けてアイテムだが、支給されていた初心者ポーションは結局使う前にやられたのでそのまま。あとは戦果のドロップアイテムとして、〈グリーンスライムの核〉*1
〈アントの甲殻〉*9
〈アントの顎〉*2
を入手していた。
特にアイテムテキストに特別な記載はないのでレアな物でもないのだろう。まあ初狩りにしては上々なのでは。
というか小銭稼ぎに調合用素材を採取するつもりが結局忘れてたね。目の前の敵に夢中過ぎた。反省。
とりあえずこれらのアイテムは生産職の人に売ろうかな。私が持っていても使えないだろうし、これから始まるコn…ごほん、知り合い作り。
インベントリはこれで終わりと。んでステータスをポチッとな。
【カンナ】ヒーラーLv3
・頭、胴腰、腕、靴:初心者用ヒーラー装備
・武器:初心者用杖
・HP:400/400 ・MP:350/350
・STR:10
・VIT:15
・SPD:12
・DEX:13
・INT:21
・MND:31
※割り振り可能なステータスポイント:6
・物理攻撃力:33 ・物理防御力:50
・魔法攻撃力:68 ・魔法防御力:93
「おー、レベル1の時と比べてだいぶ伸びてる。んでレベルアップボーナスで割り振りポイントか…うーむ…。」
割り振りポイントはレベルアップ毎に貰えるもので、初期職業の時は毎レベル3貰えるらしい。派生職になるとこれが毎レベル1に激減するらしいので適当に使うと後悔するとか。
「ま、これは後でいいや。知識もないのに振ると後悔しそうだしね。さてお次は…ん?」
スキルの確認をしようとした私だったが、スキルの項目に[!!]のアイコンがこれみよがしに点滅していた。はて?なんじゃいこれは。
「多分何かの通知でしょ。ほーらやっぱり。えーっと…スキルの習得条件を満たしました…か。」
私が[次へ]を押すとそのスキルが表示される。
『毒耐性』:必要SP2
状態異常〈毒〉に対する耐性を得る。
スキルレベルが上がると弱い毒を無効化。また〈毒〉になる確率を減少させる。
※習得条件:〈毒〉状態時に死亡
「定番の耐性スキルかぁ…てか私いつの間に毒になってたんだろ。心当たりしかないけどさ。」
そりゃあんだけガブガブされたりしてれば毒にもなるよ。とはいえSPも2必要…レベルアップのお陰でSPは8あるけど、これも他のやつを見てからでいいかな。そんな直ぐに毒耐性が必要な場面ではないだろうしね。
…というか習得条件が地味にエグいよね。これパーティ組んでると逆に見つからないんじゃいの。
とりあえず通知されてたのはこれだけだった。何で『マッピング』の時と違って直ぐに表示されなかったのかは疑問である。まあ予想はつくけどさ。
さてそれではレベルアップで習得できたヒーラーのスキルの確認しようじゃないか。こっちが本命だよ。
「むむむ…レベル3で1つ習得しただけか…。なにかなー。」
少し期待しつつ私は新しく習得したスキルのアイコンをタッチして詳細を確認する。
『ヒール』消費MP:50
指定した対象を回復する。回復量は発動者のMNDに依存。
レベルが上がると回復量が増加。詠唱時間が減少。
発動時にヘイト効果。
「回復魔法ですか。はい。今は使い道無さそうだなぁ。」
名前と消費MPからして『クイックヒール』の詠唱ちょい長で回復量増やしたやつなんだろうけど、やっぱり詠唱時間と燃費の悪さ。そして最大の問題のヘイト効果は健全なので相変わらず使いにくいと思われる。
「いやでもスキルレベルを上げれば使えるのかな…どうなんだろう?ま、SP無しの職業スキルだしいいでしょ。」
どんなに使えなさそうなスキルでも、タダで貰えるんだからいいのです。
「よし、とりあえず確認はこんなものかな。うーんと…何からやろうかな。誰かと話して情報集めと…素材を売れる人を探す…クエスト報告…あ、掲示板にも何かあるかも。」
考えた結果、まずは聖堂にいると思われしシーナさんに話しを聞く事にした。多分あの人は色々知っているに違いない。問題はこの聖堂のどこにいるかだ。
「あら?カンナさんじゃないですか。聖堂に何かございましたか?」
「わひ!?ああ!シーナさん!よかったぁ丁度探そうと思ってた所だったんですよ。」
いつの間にそこに居たのかはわからないけれど、宛もなく聖堂内を探そうと思っていたシーナさんが来てくれた。これは私凄く運がいい。正に女神様のお導き。崇めたい。
なおシーナさんは「わたしに?」と頬に手を当てて不思議そうにしていた。もう近所の優しいおばちゃんってくらい安心感が凄い。包まれたい。
「ッハ!そうですそうです。あのですね…」
私は最初に別れてからの事をシーナさんにざっくりと説明した。私が蟻に殺された事を聞いた時は悲しそうな表情になっちゃったのが申し訳ない。
「それはそれは…まだこちらに来てから間もないですのに…大変でしたね。」
そう心配してくれるシーナさんの表情は正に慈愛に満ちていた。神はここにいたのだ。おっと…さっきからおかしいぞ私。
「いえいえ、私があまり考えずに森に行ってしまったのが悪いんですよ。それで…ですね。少し反省しまして…この街に詳しいシーナさんにお話を伺おうと思いまして。」
「なる程、そういう事でしたらお任せください。冒険者様であるカンナさんをお助けするのは、わたしの役目ですから。」
やったね。えとえと、それじゃ何から聞こうかな…。
「えっと、それじゃあ、あの森の事とかってわかります?」
他にもあるんだろうけど、やっぱり私は森の事が気になってしまった。仕方ないのだ。
「そうですね…。あそこの森にはカンナさんの仰った通り、虫の魔物が蔓延っています。一番多いのはジャイアントアントですね。」
「あー…やっぱり蟻が一番多いんですか。」
なにせ森の浅いところでさえあんなに出てきたんだもんね。流石は蟻だ。
「はい、彼らは森全体を縄張りとしております。そして巡回している者が侵入者を発見すると、彼等にしか聞こえない鳴き声でそれを仲間に伝えます。
近くにいる他の巡回はすぐにその位置に向かってくるのですが、カンナさんはそのお陰で1匹ずつ遭遇していたという形ですね。」
あー、なるほどね。私がボーナスと思っていた出現の仕方はそれが原因だったのか。てか伝わってるなら纏まって来ればいいのに…そこは序盤らしくなってるのかな。私としては助かったけどね。
シーナさんは続ける。
「その後カンナさんを頭上から襲ったのは、恐らく【ポイゾネススパイダー】と呼ばれている蜘蛛の魔物かと思います。
ポイゾネススパイダー達はジャイアントアントよりも縄張りは狭いのですが、アント達の獲物を横取りしようとたまに彼等に付いてくるらしいです。」
そうすると最後まで私をジッと見つめていたのは蟻達が私を倒すのを待っていたという事か。なんてやつだ。
「じゃあ私が最初に浴びせされたのは…。」
「はい、ポイゾネススパイダーの毒液かと…。彼らの毒は即効性が高く、ジャイアントアント達にも効くほどだと聞いたことがあります。」
ん?でも私は普通に蟻に噛まれて殺されたはず。蟻にも毒が効くなら近寄らないのでは?
私はその事をシーナさんに話すと、彼女は確かにそうですねと続ける。
「確かにジャイアントアントはスパイダーの毒を嫌います。ですが、アント達の最優先目標は縄張りに侵入した者を排除する事です。例え自らがやられようと、毒に犯されようと侵入者を排除するのが彼らなのです…。」
「うわぁ…なんだか凄く兵隊みたいな思考してるんですね。」
「兵隊…そうですね。彼らは縄張りの女王を守る忠実な兵隊と言えますね。」
女王か…そりゃ蟻だもんね。女王蟻くらい当然いるよね。そうなるとあの森のボス的な魔物になるのかな。範囲攻撃ないと詰む気がする。私は行く気ないけどね。
「私があの森について知っているのはこれだけです…。もしカンナさんがまたあの森に行くのでしたら、ポイゾネススパイダーの毒を治すために毒消し薬を購入するのをおすすめします。」
「毒消し薬…ですか?」
私が森に行くかはさておき、毒消し薬は色々と役に立つだろう。是非聞いておきたい。
「はい。回復用のポーションより少し値は張りますが、必ず役に立つと思います。一番分かりやすい所としては、冒険者ギルドのアイテム販売所がありますね。」
「あぁ…そういえば見てませんでした…。丁度ギルドにクエスト報告で用があったので覗いてみますね。」
それがいいと思います、とシーナさんは微笑みながら言ってくれた。なんだか完全に娘を見守るような目になっている。でも悪くない。私もシーナさんなら安心しちゃう。
「よし!シーナさんありがとうございました!もうなるべく無茶な事はしないように私頑張りますね。」
もうちょっとシーナさんに聞いても良かったんだけど、あまり長く引き止めても悪いだろう。どこかに向かっている途中っぽいしね。
「いえいえ、お役に立てたのでしたら良かったです。カンナさんもお気を付けて…まだまだ若いのですし、お体は大切にして下さいね。」
はい、気をつけます…。確かにプレイヤーは死亡しても復活できるけど、この世界の人だったらあれで終わりだったもんね。心配かけちゃ悪いよね。
「では、私はギルドに行ってきますね。シーナさんも頑張って下さい!」
「はい。またお困りな事がありましたら何時でもお越しください。カンナさんに女神様の導きがあらんことを…。」
そうしてシーナさんとの会話を終え別れた私は、静かな聖堂から人混み溢れる広場へと出ていった。
選択スキルには最初から習得可能な物、条件を満たすと習得可能な物、クエストやイベント報酬で習得可能な物があります。
この中の条件を満たす物には、解放条件が公開されるものとされないものがあります。
次のカンナさんはきっと上手くやってくれるでしょう。