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森の不遇職

むしむしぱらだいす

 少しばかりの休憩を終えた私は森への歩みを再開していた。


 何か補助用のスキルを習得してもよかったのだが、周りに人が増えてきたのでやめたのだ。みんな考える事は同じ。森の方が稼げそうだもんね。


 ステータスだけは確認したが、流石にスライムを1体倒した程度では経験値もあまり増えていなかった。時間はじっくりあるからか、必要経験値も序盤にしては多く感じる。ソロだからですか。そですか。

 ま、別に最前線で攻略しようとかいうつもりもないし自分のペースでやってこっと。



 それからまたのんびり歩いて、私はやっと森まで辿り着いた。

 途中またグリーンスライムくんが出てきたけど、今度は危うげなく倒す事ができた。攻撃は体当たりだけだしそう何度も食らわんよ。


 んで森である。生えている木はそんなに背は高くないけど、空を隠すように葉が鬱蒼と茂っており、まだ明るい時間なのにだいぶ暗い。また、茂みがそこらにあるせいで視界は最悪である。

 「うへぇ…なんだか明らかに虫系が出てきますと言わんばかりの環境だねこりゃ。」


 薄暗い森といえば虫系魔物と相場は決まっているのだ。別に現実の虫なら例の黒いやつとかじゃなければいける私であるが、ゲームの無駄にでかい虫は無理である。いやほんと勘弁してください。ゆるして。


 とはいえ折角ここまで来たのだから入る以外選択肢はない。素材とか経験値もおいしそうだしね。


 「ではでは…お邪魔します…?」

 森に入るのにお邪魔しますもおかしいかもしれないけど気にしない気にしない。


 「日が全然差し込まないから湿っぽいなぁ…。キノコとかありそう。」

 無駄にリアルなえふこねは湿度のじめじめ感も再現しているらしく、ローブ姿の私はもう最悪である。むしむしするぅ。

 とはいえ薄暗い森に湿度ましましとくれば、調合素材の定番キノコが採取できるに違いない。敵から経験値、キノコで小銭稼ぎ。完璧。



 私がにやけ顔で皮算用をしていると、右の茂みからガサガサと物音が聞こえてきた。おっと、森での初エンカウントかな…。

 「さぁて何が出てくるか…倒せるやつで頼むよ。」

 なにせあと最低8体は倒さなくちゃいけないからね。


 私が杖を構えて物音がした茂みを警戒していると、向こうも私が警戒しているのを理解したのか姿を現した。

 

 「うっへぇ…蟻ですかー。森に蟻型魔物とは珍しい…。」

 そう、蟻である。だが勿論魔物という訳で現実のものとは比べ物にならない程でかい。1メートルくらいはあるんじゃないかな?


 「まあでもよかったよ。そこまで気持ち悪い外見じゃなくて安心した。」

 これなら充分耐えられる。


 「蟻ということは攻撃は顎での噛みつきかね。近くに複数いるかもしれないし手早く倒さないと…。」

 なにせ私には範囲攻撃の手段がない。そして逃走に使えるスキルもないので囲まれたら死に戻り確定である。


 つまり、

「先手必勝!『マジックショット』!」

 相手がこちらの攻め手を様子見してるのか攻撃してこなかったので、私は遠慮なく魔法を発動した。


 蟻…【ジャイアントアント】は避けようとしていたが、横への移動は遅いようで私の攻撃をモロに食らってくれた。これはおいしい。


 「よっし。しかもHPも低いのか半分近く削れてる!ならもう一回『マジックショット』!」

 またも蟻は避けようとしたがこちらの魔法の方が速いようで頭に直撃し、その場に崩れ落ちた。


 「…何だかグリーンスライムよりあっさり倒せちゃった。しかも経験値もこっちの方が高いし…。もしかしてこの森最高じゃ「がさっ」ない? …んん?」

 今何か聞こえたよね。気のせいじゃないよね。まさか…。

 ちらりと音のした方に振り返ると、そこには…。



 蟻が1匹いた。そう、1匹だけである。しかもさっき倒したのと同じジャイアントアントだ。なんだか拍子抜けだよ。


 「ふっふっふ、わざわざ1匹で来てくれるとは…ならば大人しく私の経験値になるのだー!『マジックショット』!」

 私はさっきと同じく『マジックショット』で先制攻撃をする。

 今度のやつは最初から私に向けて突進してきたけど、真正面からの突進なら流石の私でも避けられる。不格好ではあったけど避けられればいいんだよ。


 そして私は2発目の『マジックショット』を当て蟻を倒す。これは楽でいい。

 しかもまたガサガサと音がしてきたではないか。私は少しの期待を持ちつつ、また音の方へ振り向く。


 そこにはやはり蟻がいた。


 「もしかしなくてもこいつらボーナスエネミーなのでは!?弱い上に経験値も高いし最高かー!『マジックショット』!」

 もう私は歓喜していた。攻撃は単純、ヒーラーで初期装備という私でも簡単に倒せるHPの低さ、集団で来ると思ったらご丁寧に1匹ずつ来てくれる。そして経験値も高い。

 そりゃあ浮かれるよ。荒稼ぎポイントだよここ。


 倒しても倒しても湧いて出てくるのは多少不安ではあったが、何故か1匹ずつしか出てこないのでMPが切れても、攻撃を避けて自然回復を待って倒す事ができた。

 クエスト目標数を達成したくらいにはMP回復を待ちつつドロップアイテムを回収できるくらいには余裕になっていた。とてもおいしい。


 私は最高に運が良いと興奮していた。こんな狩場他に見つけられた人が何人いるだろうか。もしや私だけなのでは、とまで思える。

 「お、やっとレベルが上がった!あとで確認しようっと。まだまだいくぞー!」


 そんなやって上がったレベルに私の気分は有頂天。全く変わらない蟻の出現に『マジックショット』を2発当ててアイテムを拾う。たまに突進を回避。これだけでみるみる経験値が増えていく。



 …それからはもう無我夢中に蟻を倒し続けていた。レベルは3になり、ほくほく顔で魔法を撃ち続けていた。


 つまりだ。警戒も何もなかった。私には油断しかなかった。このまま日が暮れるくらいまで狩り続けてやるわーってくらい調子に乗っていた。


 そのせいで上から来る存在に気が付けなかった。

 そいつは蟻と楽しく戯れている私の頭上に到達すると、私に向けて何かを吐き出した。


 「そーれ蟻よどんどんこーい!全部倒してやうわっぷ!うえぇいきなりなんなのぉ…。ぺっぺっ」

 上から攻撃が来るなんて当然思ってもいなかった私はそれをモロに浴びてしまった。ぬめぬめして気持ち悪い…。

 しかもそれに気を取られて蟻の突進を食らってしまう私。これもしや危険なのでは。


 私がそう気がついた時にはもう遅かった。蟻はずっと1匹ずつだったのに、これを待っていたとばかりにゾロゾロと姿を現した。そりゃもう大量に、囲うようにみっちりと。

 「うえぇぇぇ…何が起きてるの…。さっきまでのおいしい蟻はどこに…。」

 1匹だけなら何とも思わなかった蟻だが、こうも大量に現れると流石に気持ち悪い。あっちを見てもこっちを見ても蟻、蟻、蟻。殺虫剤はどこ。


 「あはは…こりゃ…駄目だよ…。」

 既にこの時点で私に戦意など残っていなかった。何か手段があれば違ったのだろうが、私にそんなものはなかった。


 じりじりと包囲を狭める蟻達。それを苦笑いで見つめる私。調子に乗った初心者の憐れな末路としては丁度いいだろうか。これからこいつらに食い殺されるとか悪夢かな?


 せめて、死に戻る前に私に奇襲してきた者の姿くらいを拝んでおこうと、私は視線を蟻達から上に向けた。

 そして、そいつはまだそこにいた。じっとこちらを見つめたまま。


 「そっか、そりゃ森にいる虫っていったら定番だもんね…。」


 私が上を向いたからだろうか。蟻は近寄る速度を急激に上げ、ぎちぎちと顎を鳴らしながら私に襲い掛かってきた。どうかお手柔らかに。


 大量の蟻に噛みつかれる私。みるみる減っていくHPバー。肉を食い千切られるような感覚。そして私のHPバーが空になる直前に、私は一つ呟く。


 「おのれ蜘蛛め…許さない…次こそは…」


 やがて私のHPが無くなると、体の感覚が無くなり意識が遠のいていく。死ぬ時ってこんな感じなのかなと思える程現実味を帯びている。あまりの怖さに思わず泣き喚きたくなるけど、もう声も出なかった。


 そしてそのまま、私の意識は闇に落ちていった…。


残念ながらカンナさんの冒険は終わってしまった。

美味しい餌には何かある。当然なのです。


急にブクマや評価をいただいてしまい困惑ぎみの作者です。

皆様ありがとうございます。


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