不遇職 初めての狩り
やっと外に出れました
「あぁ〜もう移動するだけで疲れるよ…。」
ギルドから出た私は相変わらずの人混みにげんなりしつつ、広場の真ん中にあるウェイポイントらしき場所に向かった。
もみくちゃにされること約10分、私は何とかそれに到達したのだった。謎の達成感…早すぎですか。
「さてと、これがウェイポイント…でいいんだよね?」
私が辿り着いたウェイポイントらしきもの…それは汚れ一つない真っ白なオブジェだ。表面にはよく見ると何の言語かわからない文字がビッシリと彫られている。いかにもな感じのやつだね。
「それでこれは…どうすればいいんだろ?」
見た感じ転送装置っぽくはないんだよねこれ。こういうのはわかりやすく説明が書いてあったりするんだけどー…見当たりませんな。はてな。
「あ、そういえば触れるとか言ってたっけ。」
確かギルドのお姉さんがそう言っていた気がするので、ものは試しと私はオブジェに触れてみる。
直後、私が触れた場所から丸い光が現れ、私の周りをぐるっと一周した後またオブジェの中に消えていった。
「なんだったんだろ?っとガイドボードか…ほんといつも急に出てくるね君。」
流石にそろそろ急に出てくるガイドボードにも慣れてきたよ。私は成長するのです。
そんな事はどうでもよくてだよ。ここで出てくるって事はやっぱり合ってたのかな。さーて何が書いてあるのやらっと。
[ウェイポイント【城壁都市オスロン】を解放しました。
初めてウェイポイントを解放したので、スキル『マッピング』を習得できるようになりました。必要SP1。
メニューに『マップ』機能が追加されました。]
お、おう。ウェイポイントの解放だけかと思ったら何か他にも付いてきたよ。とりあえずはこのオブジェがウェイポイントって覚えとこう。多分今後長いことお世話になるだろうしね。
んでだよ。何かスキルが習得可能になってるけどそれは後にして、先にメニューの『マップ』を見よう。
私がメニューを開いてみると、確かに『マップ』が追加されていた。迷わず選択ポチッとな。
するとメニューとは別枠でマップが表示された……とは言っても初期状態だと通った場所だけ表示されているだけだったよ。これじゃ何もわからんわ。
マップは別枠で保持できるらしく、このまま他の項目にもいけるみたいだから今度はスキルを見てみようか。多分名前からしてマップの改善だろうね。
「えーっとどこだろ…あったあった。『マッピング』っと…。」
『マッピング』:必要SP1
マップの描写が詳細になる。
ウェイポイントを解放すると対象のマップを自動取得する。
レベルが上がると描写範囲が広がり、より詳細になる。
ふむふむ、普通に便利そうだね。というかこれが無いと私は街中で迷うわ。描写が詳細になるとか少し気になりはするけど、一番重要なのはウェイポイントでマップ取得がされることだよね。
SP1を消費するのが序盤だと惜しいかもしれないけど、取る価値は充分あるだろう。
と言うわけで私は『マッピング』を習得した。残りSPは2だ。ひもじい。
お、早速マップが更新された。うわ、大通りから逸れるとこの街迷路みたいだ…先に習得できてよかったぁ。無かったら絶対迷って抜け出せなくなってたよ。
ま、思わぬ収穫があってよかったよかった。それじゃそろそろ街の外に向かうぞー、おー。
……これはまた触れればいいのかな。失礼します。
私が再びウェイポイントに触れると、転送候補が表示された。
【城壁都市オスロン】
・中央広場〈現在位置〉
・北門広場
・東門広場
・西門広場
・南門広場
うむ!見事なまでに広場しかないね。はて、今回受注したクエストは特に対象の指定は無いからどこに飛んでもいいんだよね。
あーそれぞれの方角に何があるのかくらいは聞いておけばよかったわ。失敗失敗。
だが戻るのも面倒くさい。ならば適当でいいじゃない。ってことで私は西門広場に行く事にした。
なんでって?なんとなく一番上の北と一番下の南には人が集まりそうだからだよ。狩場は空いてるの方がいいのだ。
そんなこんなで行き先を選択すると、視界が真っ白に染まった。それも10秒程で終わり再び視界が元に戻ると、そこは先程まで居た中央広場ではなく、大きな門が正面に見える広場になっていた。ここが西門広場ってことかな。
にしてもウェイポイント…これは便利だね。転送にお金は掛からないみたいだし、転送方法も気持ちが悪くなったりしない上に早い。素晴らしいね。
さてさてやって参りました西門広場は中央広場より人は少なく、割りと歩ける範囲だ。他のプレイヤーは中央広場周辺の探索からやってるのかなと思いつつ、私は街の外に出るために門へと歩き始めた。
私と同じ目的だと思われるプレイヤーもそこそこ見かけるんだけど、早くもパーティを組んでいる人達が殆どみたいだ。え…はやくない?どうやってそんな早く組んでるの。コミュニケーション強者ですか。さいですか。
そうかぁ…。やっぱりちゃんと事前準備期間でパーティ募集とかしてたのかぁ。ぐうたらしてた私とは違うんだね…。
そうだ。パーティ募集で思い出したと私はおもむろにメニューを開いて『掲示板』を選択する。
「おーあるじゃんあるじゃん。募集だらけじゃないの。」
そう、サービス開始直後のゲームならではの即席レベル上げパーティ募集がそこには沢山あった。まあ私は見知らぬ人と組むのが怖い人なので冷やかしだけなんだけど。
んじゃなんで私が今掲示板を開いた理由はと言うと、プレイヤーからの需要や何の職が多いのかを少し調べたかったからだ。
パーティを組まないとしても、何が求められているのかを把握しておくと何かと役に立つのだよ。序盤に金策できれば美味しいしね。
掲示板を眺めて数分、ざっくりと理解できた。まだ同じような募集が多いから助かるよ。
まず最も募集が多かったのは調合士だ。これは回復役としてだね。ヒーラーよりヒーラーしてる…。
開始直後だからそんなに調合出来ないのではと思ってたけど、調合士はメイン回復職になるので今の内にコネを作っておきたいのかなって思った。そういうの大事だよね。
剣士も多かったけどこれはタンク予定の人を募集だったね。メイン盾はパーティにとって重要だもんね。
あとは火力役が殆どだった。まあまだ最序盤だし攻撃重視でがんがんレベルを上げようって事だね。いやー頑張るねぇ、どうせ時間はあるんだしのんびり楽しもうよ。
人口としては剣士、魔法使いが特に多いみたい。次点にシーフ狩人調合士。鍛冶職人と革職人ときて商人。そして案の定募集で全く見かけないヒーラーであった。酷くない?
「わかってはいたけど、初日から肩身が狭いよねぇ。ま、その内マシになると信じますか。」
そうやって適当な感想を抱きつつ、私は掲示板を閉じた。
とりあえず調合材料は安いだろうけど売れそうだから見かけたら集める事にしよう。こまめな積み重ねが大事なのだ。
そんなこんなで寄り道しつつ私は漸く門をくぐり抜けた。くぐり抜けるって程小さくもないか。
てっきり出入りに何か見せたりするのかなーって思ってたけれど、そういうのは無いみたい。楽でいいんだけどね。
さあ!それよりも冒険者カンナ。初めてのフィールドですよ!いえーい。
果たして初めての実戦はどうなることやら楽しみですな。気合い入れていきましょう。
西門を出た所は如何にも序盤という感じがする草原が広がっていた。見渡す限りって程では無く、岩が結構あったり、ちょっと遠くを見ると森っぽいのも見える。
流石にフィールドに出たらすぐ魔物って訳ではないらしく、少し離れないと出現はしないみたいだ。遠くで既に戦闘をしていると思われしプレイヤーが見えるよ。
私はどこで狩ろうかな。止まってるとどんどん後から他のプレイヤーが出てきてるし、この調子だとすぐに近場の草原地帯は埋まってしまうだろう。狩場競合程面倒くさくて気不味いのはない。
こういう時はあの森方面に行くのもいいんだろうけど、私の戦闘能力だと太刀打ちできるか不明だ。
「ま、悩んでるのが一番無駄か…。どうせまだデスペナが怖いレベルじゃないし気楽に行こうか。」
ついでにえふこねのデスペナルティは
・所持金を一定割合その場に落とす
・確率でアイテムも落とす
・経験値を割合で没収
・派生職以上だとゲーム内時間で20分間体調が悪くなる(気怠さとか喪失感というか動く気力がなくなるらしい)
となっている。ご覧の通り低レベル帯だと大した金額やアイテムもないので落とす事に関しては問題ない。経験値も同様。
問題の最後のやつも派生職じゃない今は関係ないため気軽に突っ込んで死に戻れる優しい仕様ってわけだ。
なので私も突っ込もう。善は急げ、時は金なり、いざ森へ向けて出撃だよ。うん、適当に言った。
さて私が森へ進み始めて少し経った時である。丁度目の前の岩陰から何かが出て来るのが見えた。
「お、遂に初めての魔物かな?さてさて、私の糧となるのは誰だい。」
そんな小物感溢れる発言をしてる私の前に現れたのは、1体の薄い緑色をした丸っこいやつであった。
つまりあれだ。スライムだ。名前は【グリーンスライム】。見た目のまんまだね。ぽよんぽよんしてるよ。
てか一面緑の草原に緑色のスライムとはやらしくないですか運営よ。運営に文句言ってる場合じゃないか。
グリーンスライムは最序盤マップ特有のノンアクティブらしく、向こうからは来ないみたいだから先制攻撃でがんがん削ってしまおう。
「よし、やろうか。『マジックショット』!」
私の短い詠唱の後、魔法の弾がグリーンスライムに向けて飛んでいき…直撃した。流石に外しはしないよ。
「さて一発でどれくらい削れたかな…むむむ、1/3くらいしか削れてない…。」
恐らく最弱に近いであろうグリーンスライムに対してこの火力とは先が思いやられるけど、そんな悠長に考えてる場合ではない。
攻撃を受けたグリーンスライムはそのぷるぷるしてる体でこちらに向かって跳ねてきている。しかも割りと早い。
「だけどその速度ならこっちのが早い!もう一回食らっときな。『マジックショット』!」
さっきと違って激しく跳ねてるから当たるか不安だったけど、システム的な補正が掛かるのかちゃんと当たってくれた。これは安心だ。
さてグリーンスライムの残りHPはあと僅か、あと一発『マジックショット』を当てれば勝てるけど、流石にもう近すぎる。
ここは体当たりっぽい攻撃だろうしそれを避けてから詠唱しようか。
私がそう考えていると、案の定グリーンスライムは踏み込みのように体を地面に押し付けると、こちらに体当たりしてきた。めちゃくちゃな速度で。
「がはっ!?」
どうせ最初のスライムだし余裕で避けられると高を括っていた私は、その予想以上に速かった体当たりをモロに食らってしまった。
そのまま漫画みたいに吹っ飛んで地面に叩きつけられた私であったが、このまま悶ていてはまずいので何とか立ち上がって前を向く。
グリーンスライムはまたこちらに近づいてきているが、この距離なら詠唱は出来るだろう。怪我の功名ってやつだ。
「これで終わり…『マジックショット』」
私が発動した3発目の魔法の弾はしっかりとグリーンスライムに当たり、そのHPを削り切ってくれた。HPが無くなったグリーンスライムはその場で力なくべしょっと崩れていき、最後は光となって消えていった。
「はぁ…痛かったぁ…。まさかスライムの攻撃があんなに速くて痛いなんて…。そうだHP見てなかった。」
完全に自分のHP残量を忘れていたので確認すると、[180/300]となっていた。まじか…スライムの一撃でこんなに持ってかれたのか。油断して直撃したのが原因なのかな。わからんね。
とりあえず私は『クイックヒール』で回復すると、グリーンスライムが出てきた岩に腰掛けた。
「ほんと…先が思いやられるなぁ…。」
一気森に行く気満々だった私は、早くも諦めて休憩する事にした。スライム1体しか倒してないけどとか言わないの。凹むから。
痛覚の設定は個人設定です。主人公が忘れてるだけです。
ブクマと評価まで頂けてありがとうございます。
これからもこんな調子ですが何卒よろしくお願いします。