せかいに降り立つ不遇職
5話目にして本編スタートです。
説明が多くなってしまうのは私のくせみたいなものです。
『私達の力で、未来に繋げましょう。ようこそ【FConnect Online】へ。』
浮遊感を感じながら、私はその文字を見ていた。あぁ、本当に始まったんだと。
ぼんやりとそう考えていたら、いつの間にか浮遊感が消えていた。しかも足が地面に着いている感覚。
私は視線を上げて前を見ると、私の目の前には一つの白い扉があった。そして扉には看板ある。それにはシンプルに[Welcome]とだけ書いてあった。
なる程、この扉を開けたらもうゲームが開始されてるという訳か。いや…もう始まってはいるのかな。
私が動かないでいると、いきなりあのガイドボードが表示された。全くもう、びっくりしたわ。
「えーっとなになに…。体の操作に問題が無ければ扉を開けてください、か。」
うーんと、とりあえず言われた通りに体を適当に動かしてみるけど、大丈夫そうだね。
「もし異常があった場合は扉を開けずに5分程お待ち下さい、なるほど。なら素直に扉を開けちゃった方がいいかな。もう待ちきれないしね。」
よーしそれじゃあ行きますかと私はドアノブに手を掛け、扉を開けた。
「いらっしゃいませ。ようこそお越しくださいました冒険者様。」
扉を開けたらてっきり広場みたいな所に出ると思ってた私は思わぬ不意打ちを食らってしまった。
そこは聖堂らしき場所だった。壁、柱、床全てが白く、天井には派手ながら不思議と主張していないシャンデリア。奥には何かの女神と思われる像に、これまた何らかの神話的の一部分をモデルにしたと思われるステンドグラス。
正にこれぞ神聖な聖堂と言わんばかりである。
そしてそれに驚いていた私は素で返事が遅れた。
「あ、あぁはい!こんにちは!」
私に話し掛けていたのは白い修道服を着た壮年と思われる女性であった。…ニコニコ顔でこちらを見ているので私の反応は恐らく予想通りなのだろう。ぐぬぬ。
「すいません…聖堂に出たのが予想外でして、驚いちゃいました。」
私が素直にそう口にすると、女性はあらあらと微笑んでくれた。してやったりという風に見えるのは気のせいだろう。
「殆どの人がそういう反応をしてくださるのですよ。ふふ、いいところでしょう?」
「…そうですね。何となく…落ち着くというか。」
「そうでしょう。ここは女神であるナイア様が見守ってくれていますから。あらすいません、申し遅れました。わたしはシーナと申します。こちらで冒険者様を導く役目を戴いております。」
「カンナっていいます。えっと、よろしくお願いします。」
うーんと、冒険者っていうのは私達プレイヤーの事だろうし、ここで街についての説明とかをされるのかな。所謂ガイドNPCというやつだね。
にしても流石というか動きや言葉にも全く違和感がないね。NPCというシステムには見えないよ。完全人だよこれはもう。
こればっかしは事前に知っていても驚いた。リアルで自然な…正にもう一つの現実なんだと改めて認識させられるよ。
さてさて、感激するのもいいけど今はシーナさんに質問といこう。
「あの、ここはどこなんでしょうか?てっきり私は広場とかに飛ばされるのだとばかり思ってまして…。」
「あらあら、そうだったの。じゃあ一から教えちゃうわね。」
シーナさんは微笑みながらそう言うと、私に説明を始めた。
まず、この街の名前は【城壁都市オスロン】。空から見ると大きな円形になっており、それを街の名の通り立派な城壁が囲っている。広さ的には端っこから端っこまで歩いて一時間以上はかかりそうなくらい広いとか。なお肝心のお城自体はかなり昔に無くなってしまったそうだ。
街には中央と東西南北それぞれに広場があり、各広場を繋ぐように大通りが存在している。さっき言ったお城があった場所が中央広場周辺らしいよ。
そして私が今いるこのナイア様を崇めてる聖堂だけど、位置的には例の中央の広場にあるらしい。
街についてはじっくり周ってみてねとニコニコ顔のシーナさんに勧められてしまった。……大通りくらいは見ておこうかな。多分細かくは見れないと思うんだ。
さて気になる事はまだある。
「あの、冒険者が今沢山来てると思うんですけど…その…静かですよね…ここ…。」
そう、静かすぎるのだ。プレイヤーは同時にログインしたはずなのでもっと周りに沢山居てもおかしくはないはずなんだ。一応周りを見てみるとそれっぽい人達はいるんだけど、静かだ…。
「そうですよね…。そうなんですよ…確かに沢山の冒険者様が先程この世界にご到着されました。」
どことなく悲しそうにシーナさんは話す。
「冒険者様はそれぞれがお選びになられた道によってご到着される場所が違うみたいなのです。それで…ここにはあまり来られないようです…。」
あーなるほどそういう事か。選んだ道っていうのは初期職業で、それぞれに対応した施設がスタート地点となる訳だ。つまりこの聖堂はヒーラーを選択した人のスタート地点ということ。
いや、わかってはいたさ。だけどいざ目の当たりにするとこの人口の少なさは驚きだよ。
10万人のプレイヤーの内どれくらいがヒーラーを選択したのか気になるね。というか多分だけどその数少ないヒーラーも殆どが格闘家を目指してるだけだと思うから、純粋なヒーラーはもっと少ないだろう。
ヒーラーは希少種…絶滅危惧種かな?
ついでに各施設はどれも中央広場にあって、対象の施設に行けば転職もできるらしい。代償は本人の知識以外の全てをリセットする事だとか。やり直すなら早めにねってことだね。私はそのつもりないけど。
「ですが、それでも冒険者様がいらしてくださいましたので、わたし達もできる事でしたらお助け致します。何かお困りな事ができましたら、お気軽にお越しくださいました。」
そうシーナさんは締めくくった。多分これで自由に活動してもいいという事なのだろう。
なので私もありがとうございますとシーナさんにお礼をして、外に出る事にした。
聖堂の出口に向かっていると、私と同じ初期装備の人達が増えてきた。みんな説明を受けていざ外へという事なのだろう。誰もが顔に期待が満ちているのがわかった。勿論私もその一人である。
でもこうして集まっていると中々に多く見えるのは気のせいだろうか。そもそも人気職だと数万人が同じとこに出るのかなぁ。もう寿司詰め状態で動けなくない?なんか対策はしてると思うんだけど気になるね。
まま、そんな事より立ち止まってると邪魔だしね。早く外に出ようということで、私は静かな聖堂の出口を抜けた。
「うっわ…凄いなぁ…。これみんなプレイヤーなのかな…。」
外に出ると、シーナさんが教えてくれた通りに広場に出た。そしてもう辺り一面人、人、人である。広場がかなり広いのも合わさってなんかのイベント会場かと思える熱気だ。
周りの人は同じ格好が多く、そういうのはきっとプレイヤーなのだろう。あらゆる職の人が混ざってカラフル模様を描いている。そんなの見たくなかった。
後ろを振り返ると出てきた聖堂がちゃんとある。中に一歩入ったら静かだったから重要施設とかはそういう仕組みになっているのかもしれない。そりゃスタートが喧しい人混みの中とか困惑するよ。
「さてと、何からやればいいのやら…。一応まずは冒険者ギルドに行くのがいいらしいんだけど…この人混みの中移動するのはなぁ…。」
思わず溜息。ちなみに冒険者ギルドの存在はシーナさんが教えてくれた。各種クエストの受注や素材買い取り、鑑定、アイテム販売といった必須要素が盛り沢山な施設らしい。
場所はこの中央広場にあるらしく、とても大きな茶色い建物とのこと。
って訳でそれらしきものをきょろきょろ…あったあったあれだね。確かに私が出てきた聖堂よりも大きな茶色い建物があった。しかも割りと近い。ありがたや。
だがしかしだ。当然の事ながらプレイヤーの殆どが冒険者ギルドを目指しているため、幾ら近いといっても油断はできない。これだけの人数の中で転んでしまえば踏んだり蹴ったりで最悪HPが無くなり、死に戻りしてしまうかもしれない。
嫌だ…記念すべき?最初の死に戻りが人混みで転んだからなんてのは嫌だ。
「はぁ…見た感じ、しばらくはこのままだろうし、諦めて行くしかないか。」
別に楽しみなのは確かだし、この熱気もイベントでよくある不思議とわくわくする感じの熱気だ。嫌いじゃないよ。
人混みに入るのは多少抵抗はあるけど、ハラスメント対策はシステムでばっちりされているので問題はないと信じる。
「よーし、行くぞー!」
そう気合いを入れ直すと、私は冒険者ギルドに向けて歩き始めた。
うわちょっと待って周りの皆さん身長高いですね全然前が見えませんよあわわわわこれほんとに方向あってるの大丈夫なのこれあああ呑まれるううう
新しくネトゲを始めるとどこに何があるのかや周りのプレイヤー見て凄いなとか色々な感情が沸き起こるんですよ。
その時が本当に楽しいです。
主人公が見たテスト版の攻略情報は職業やスキルに関してが殆どです。ゲームの世界観や出現する敵は調べていません。