遭遇する不遇職
44箱は強敵でしたね。
少し長めです。
「ふぃ〜…これで全部かなっ!」
地面に散らばっていた大量の素材を回収する事数分、私は何事も無くその全てをインベントリへと収納した。
このまま何をどれだけ拾ったのかーとかレベルも上がったのかなーとか、色々と確認しておきたい事はあるのだけれども、それよりも私にはまずやらねばならぬ事があった。
「さてさて、私は一体どの辺りまで進んでしまったのでしょうな?」
そう、今いる場所が何処なのかがわからないのである。まあ別に帰り道が全くわからない訳では無いんだけど。降りてきた崖を魔力推進で登れば山道には戻れるので帰れはするよ。
ただ場所によっては早めに帰らないと日が暮れてしまう。最大まで飛ばせばどうにかなるかもしれないが、確実に山を下った辺りでMP切れを起こすだろう。そうなると戦闘になった際面倒だし、徒歩で街まで帰るのは非常にダルい。
割りと疑問に思ってはいるんだけど、私は移動時間が大幅短縮出来るからまだ楽ではある。だが普通の移動方法で活動しているプレイヤーの皆様はどうしているんだろうね。
何度も言っているが、このゲームは無駄に距離的な要素がリアルだ。つまり街周辺のマップと言葉では簡単に言えるが、実際は徒歩で数時間とか飛びそうな距離にある。
西の森とかうさぎ地帯の平原は近いっちゃ近かったけどね。あれも奥までの距離を考えたら相当な広さはあるはず。
んで今いる北の山はその数時間コースの場所と思われる。私はぶっ飛んできたけどね。
だけど普通に移動するとなると確実に私なら萎える、間違いない。いやだって徒歩で数時間歩いて移動なんて何の拷問ですかってレベルだよ。現実よりも肉体的な疲れは感じないとはいえ、精神的には参っちゃうよ。
「ま、馬車とか何かしらあるんだろうなぁ。ほんと運がよかったんだなー。」
折角だし一度はそういう経験もしておくべきかと悩みはするけれど、それは必要な時でいいかな…。例えばウィルチェさんとどっか行く時とか?
うーん、でも非戦闘系生産職が遠出する事はまずないか…。いやどうなんだろ、わかんないや。
「うむ、気にしても仕方ない!楽できるなら存分に楽しようじゃないの!」
気になりはするけれど、自分がそんな使わないであろう事に悩んでもどうしようもない。そういうのは暇な時にでも調べようではないか。
はてさて、話がまたしても逸れてしまったので軌道修正っと。とりあえず地図で現在地を確認するために私はメニューを開く。
「変な進み方したけどちゃんと反映されてるのかな?」
マッピングのスキルレベルが足りなくてわかりませんとかは無いよね。それは流石に困るよ。
「あ、全然大丈夫だった。」
そんな私の些細な心配も杞憂に終わり、しっかりと私の位置は表示されていた。とはいってもここまで通ってきた周辺しか描写されていないから、そんなに詳しくって訳でもないんだけどね。
「まあまだわかるからいいんだけど。ふむ、微妙な位置…。」
すぐ帰れる程って場所では無いんだけど、かといって凄く奥まで来ているとも言えない感じの位置に私はいた。
「うがーっ!こういうのが一番困るんだよ。」
帰ろうと思えばすぐ帰れる、だけどもうちょっと行けそうでもある。早く帰りすぎても勿体無い気がするし、ずるずると探索を長引かせても危険性が上がるだけかもしれない。
……うん、私はこういう『どっちでもいいよ』の選択肢が滅茶苦茶に苦手な人である。
こうして一人で悩むだけならまだいいんだけど、誰かとの会話とかで出てくるともうどうしようもない。相手の感じを見つつ、こっち…いやでも流れ的にあっちか…とか精神的にすっごい疲れてしまうんだよ。
ついでにこれと同じで『なんでもいいよ』も苦手だったりする。もうお相手様が決めて下さいついてくんでって方が気が楽なくらいコミュニケーション苦手な私です。
ってまた話しが逸れてるじゃないか、いけないいけない。こうやって悩んでる分だけ私が行動出来る時間は減ってしまうのだ。判断は素早く、きっぱりと…出来たら苦労しないんだけどねぇ。
何をやるにしても優柔不断、それが私というものだ。しかも悩んだ末選んだ事が大抵上手くいってくれない。やんなっちゃうよ。
…なんやかんや結局数分悩んだ結果、私は素直に帰る事にした。え、帰っちゃうんすかとか言わないの。
私は学んだのです。欲張って深追いするよりも堅実で安全に行動した方がいいんだとね。別に急いで攻略しなくてという使命感がある最前線プレイヤーでも無いんだし、後日時間を掛けてのんびり探索しに来ればいいよ。
「さーてと、帰ったら色々と確認だー。うん?……魔力推進中に確認できるのか?試してみようかな…。」
しかし脇見運転、ながら運転は事故を起こすのでやめましょうとはよく言われる今日この頃、あの速度で何かにぶつかったら痛いじゃ済まないだろうというのは流石の私でもわかる。
うああんでも気になっちゃった事は頭から中々離れないものなのです。
「だけどやっちゃ駄目な事はやらない方がいいのだよ。欲に負けるな私。」
欲に負けて痛い目を見るのは己である。気になりはするけれど、ここはぐっと気持ちを抑えていこうじゃないか。堅実に行くって決めたしね。
仮想だけど現実と同じ、危険な行為は破滅を招く。自分なら大丈夫っていう油断が一番危険って事だ。
はいはい、それじゃいい加減動くとしますかね。何かを考えると全然行動が出来ないのは私の悪いとこだよ。これならステータスやらそこらは確認出来たんじゃないかな全くもう。
「ま、悔やんでも仕方ない事だし、ちゃっちゃと帰りましょーね。」
と、私が言い終わっていざ足を動かさそうとした時の事である。
「ん…?」
不意に私の視界が影で覆われた様に暗くなったではないか。具体的には私の背後にそれ程大きな影を作れる何かがいる…といった所か。
「…………っは?」
余りにも突然の出来事に思わず私は固まる。だって待ってほしい。ついさっきまでは何も無かったのだ。まだ姿は視認していないが、恐らくは巨体であろう何かなんて影も形も存在していなかった。
もしかしたら太陽を雲が隠していただけでしたあっはっは…みたいなオチが天文学的な可能性であるのかもしれないが、この背後に感じる威圧感といったものは勘違いでは無い筈なので、残念ながらその可能性は潰えてしまう。
ならば何時、どうやって背後の何かは私に接近してきたのだろうか。歩行ができるものであれば足音や振動があるだろうし、空を飛んできたのであれど何も音がしないのはおかしいだろう。転移系の魔法でも存在していて音もなく姿を現す事が出来るとか…それは酷くないか。
……だめだ考えてもさっぱりわからない。なにはともあれ相手が何者かを把握しなければ話にならないのだ。だから私は動かないといけない。
なのに私の体はさっぱりと動こうとしない。何故なのかと視線を下にすると、私の体は恐怖しているのかガタガタと震えていた。
…なるほど、通りで動かない訳だ。自分の体なのにさっぱり気が付かなかった。頭だけが妙に働いていたからかな。
しかし理由がわかったとしても動かなければいけない。幸いにも背後の何かは私の事を値踏みでもしているのか手を出してきていない。
私がする事はただ足を動かしてその後振り返るだけ、とても簡単。幼子でも出来る事だ。さあ動け私よ。
「…ははっ動けよ私。頼むよ。」
だが、どんなに私が望んでも、まるで私の体じゃ無いみたいに足は動かない。
ならば仕方なし、このまま頭だけ振り向いて姿を拝むとするかと私が考えた瞬間。急に怖気立ち、そのまま私は地面を砕く音と共に数メートル前へと吹き飛んだ。
「がはっ…! はぁ…はぁ…何だ…動けるじゃん、私…。」
確かに私はさっきまで立っていた場所から吹き飛んだ。しかし、私の体にダメージは無かった。そもそも、地面を砕く程の攻撃を食らったのならば私は絶対に生きてはいない。確実にあのコンテニュー部屋へと送還されているはずだ。
「流石…咄嗟でも、案外発動してくれるもんだね。」
体が震えて動かなかった私でも、こうやって頭で思考が出来ていた事が幸いした。
そう、私の唯一の移動スキルであり、私が最も頼っているであろう魔力推進を思考発動していた。とはいっても発動してくれるかなんてわからなかったし、あまりに咄嗟だった為に着地の事など考えもせず最高速度で吹き飛んでしまった。
お陰でごろごろと何回か転がるという無様な着地になってしまったが、私は元いた位置を見て、すぐさまこうしてよかったと心の底から安堵した。
ほんの10秒ちょっと前まで私が立っていた場所は、もしそこに私がいたらどうなっていたか想像したくない程に大きく抉られていた。
そして安堵すると同時に、それを容易く行った者の姿を私は漸く視認する事が出来た。
端的に言おう。そこに佇んでいたのは巨大な鳥であった。何に近いと言われても私は詳しくないので合っているのかは定かでは無いが、鷲などの猛禽類が近いのだろうか。
体はぱっと見でもそこらの家よりも大きく、全身は白銀の羽毛で覆われていた。
そして攻撃を外したにも関わらず、微塵の悔しさや疑問なども持っていないと言わんばかりに私を凝視している。私もそれに対して視線を逸らすことはなく…いや、視線を逸らしてはいけない気がした。正にこれこそが狩猟者の目なのだろうと、私はこれから狩られる獲物の様に怯えていた。
だからこそ視線を逸らすことなくお互い凝視していた。
こんな感覚はゲームを始めてから…いや生まれて初めてだろう。もしかしたら勝てるかもしれないという考えさえも浮かんでこない程に神々しく、そして恐ろしい存在であった。
最早初撃を躱すまでの思考の余裕など消し飛んだ。残ったのはただ臆病な私だけ、恐ろしい物から泣きながら逃げようとする私だけ。
静かに、お互いピクリとも動かない。どれだけそんな状態が続いただろうか。ふと気がついたら辺りは既に暗くなり始めていた。
おかしい、そんな何時間もこいつと睨み合っていたはずはない。こいつと出会う前はまだお昼ちょっと過ぎたくらいの太陽の位置だったはず。
訳がわからない。何が起きてるのだと言うのか。こいつは一体何なんだ。疑問だけがどんどん増えていく。
そうやって私がそちらに意識を回したからであろうか。巨鳥は急に一切の音も無く飛び上がると、その巨体からは想像も出来ない程素早く私の元へと突っ込んできた。
「あばばばばば。『魔力推進』!『魔力推進』!」
再び後先考えずに魔力推進で強引に吹き飛ぶ事により、私は何とか突撃を回避した。
巨鳥の突撃により、また私のいた地点は見るも無惨に砕け抉れている。そして巨鳥はじっと、先程と変わらず私を凝視していた。
何故続け様に襲って来ないのか、殺そうと思えば私如き一瞬だろうと震えながらに考えるが、もしかしたら…もしかしたらそういう行動パターンなのかもしれないという希望が私の中で芽生えた。
強敵だが行動に何らかの特徴があるというのはよくある話である。本当に、もしかしたらそういったタイプなのではないだろうか。
我ながら馬鹿らしいとは思うが、縋れる物があるのなら試してみる価値はある。
震える体に鞭をうち、私は何とか杖を構える。やれる攻撃は唯一つ、そこそこ感覚も覚えた初歩の魔法。
「お願い…入って…『マジックショット』!」
スキルを発動し、短い詠唱の後に一発の魔法が放たれる。
巨鳥はそれに対して脅威でもないからか、私の行動には微動だにせずそれを眺めていた。
そしてそんな巨鳥の体に私の魔法が届く直前に、唯一の希望であるマジックショットは何の音も立てずに掻き消えた。
「……えっ?そんな、嘘でしょ…?」
どうして。もう何度目になるかわからない疑問が頭に浮かび上がる。魔法が当たる直前に消えた、使い方を間違えた?いやそんな筈はない。
スキル発動がしっかりと行われたからこそ魔法が放たれたのだ。放たれた後に発動失敗なんてある筈ない。
ならば、やはり巨鳥が何かをしたのだろう。周囲に遠距離攻撃に対するバリアなどが張られていたとか、そんな所だろうか。
「は…ははは…。ば、馬鹿言わないでよ?こ、こんなの勝てる訳ないじゃん!」
元々勝てそうには無かったけれど、今ので完全に希望が絶たれた。あまりにも理不尽な強さだ。どうしようもないじゃないか。
打つ手無しと呆然と立つ私。そして私の攻撃に反応してか、巨鳥はその翼を一度大きく開く。するとその巨体の前に、私と同じくらいの大きさの魔法陣が現れた。どうやら巨鳥は魔法攻撃も出来るらしい。
…諦観している場合じゃない。例え勝てなくても、逃げる事なら出来るかもしれない。
別にやられた所で死に戻るだけかもしれないが、何もせずにそうなるのは嫌だ。無様だろうがなんだろうが、足掻くに足掻いて、それでも駄目だったら。死に戻るのはそれからだ。私は生きて帰るぞ。
そんな私の考えが纏まるのと同時に、やつの音も無い魔法の詠唱が終わったらしい。陣からは巨鳥と同じ白銀の光弾が幾つも現れ、その全てが私に向けられた。
私の体は未だ震えてまともに動かないままだが、魔力推進の発動は出来るはず。
さあ足掻こう。敵に背中を向けて無様に逃げ出そう。馬鹿にされようが何だっていい。
そして遂に光弾が私に向けて放たれる。ぎりぎり視認する事が出来る速度であるそれに対して、私は魔力推進で後方に吹き飛ぶ。今度は着地はしない、このままこの巨鳥との戦闘から逃走する。
巨鳥の様子は気になるが、振り向いたままだと進行方向の確認が出来ないので私は体の向きを変え、通った事もない場所を突き進んでいく。
幸いなのか、それとも不幸にか、この北の山脈地帯は木が少ない。それ故に慎重に進む必要は無いが、逆に身を隠して振り切る事も難しい。
後ろからは絶えず光弾が飛んできている。私に当たらなかったものは地面や岩、少ない木などに当たりその全てを文字通り粉々に粉砕していく。
本当に馬鹿げたやつだ、と顔を青くしながら私は悪態をつく。
もしあれが直撃したらどうなるか、私の体も木っ端微塵に砕け散るのだろうか。
「それだけは…嫌だな…。」
当たりたくはない。だけど振り向いて頑張って避けるなんて事は出来ないのだ。
私に出来る事は、ただひたすらに前へと進むしかない。光弾が当たらない事を願うしかない。
どこまで逃げればいいのだろうか、逃げ切れるだろうか。そんな不安を抱きつつ、私は日が暮れかけた道無き道を進んで行った。
某狩猟ゲーム大盛況の中、作者はのんびりポチポチ作業。
懐かしき学生時代は私も毎日プレイしていたものですが、最近は何も考えないでやれるソシャゲ系や一戦が短時間のオンラインFPSじゃないと気持ち的に疲れてしまうようになってしまいました。
年なのかただの仕事疲れなのか、怖いものです。




