絡まれる不遇職
街中ぐうたら
はい皆様、どうも私だカンナさんです。早速でございますが、只今私はオスロンのとある路地裏におります。
どうしてだって?そりゃあもう面倒な事になっているからですよ。
ちらりと私が路地裏から顔を覗かせればそこには沢山の人が見える。その中でもプレイヤーと思わしき人達は何かを探しているかのように顔を忙しなく動かしており、しばらくすると別の場所へと移動していった。
「あぁ〜…どうしたものかな…。」
こんな感じで人気の無い路地裏に入ってやり過ごすのを、朝ウィルチェさんと別れてから何回もやっているのだ。そりゃ精神的に疲れるよ。
まあ、どうしたもこうしたも時間が解決してくれるのを願うしかないのであるが、この状況は中々に応えるものがあるのもまた事実。
私なりに対策をしなくてはいかんねこりゃ。
そんな気持ちを抱きつつ、私はまた移動を再開するのであった。
…そもそもこんな事になっているのには勿論理由がある。まあ大体わかるとは思うんだけど私の魔力推進が原因だ。
ウィルチェさんから話しは聞いていたが、実際外に出てみたら現実はもっと凄かった。少し歩いただけで知らないプレイヤーから声を掛けられるし、周りを見ても金髪かヒーラーだったら次から次へと声が掛けられるって感じだった。
正直まともにプレイ…というか生活が出来ないレベルに酷い状況であった。しかもそれはまだウィルチェさんといた時の話しである。適当にあしらったり追い払ったりしてくれていてそんな具合だったのだ。
ウィルチェさんとはギルドの貸し工房で別れた。私の装備を作るためだね。いい案が浮かんだから楽しみにしてて、と笑顔で言われちゃ引き止めるのも悪いなーって思っちゃったんだよ。
今思い返すとこれが最大のミスだった訳だ。工房での様子を見たいとかなんとか理由をつけて付いていくべきだったんだよ。
過ぎた事は仕方なく、今日も一人となった私は兎狩りの報告をしようとギルドへと向かったのだ。新しくクエストを受けるかは考えていなかったので、今回は報告と余った素材を買い取って貰おうとね。
結果としては手続き自体はスムーズに進んだ。クエスト報酬と買い取りでデスペナで消えた分とアイテム購入費を回収出来たのでほくほくであった。
…が、ギルドへ行くまでに声掛け案件が確か17回。ギルドに入ってからクエスト報告までに5回、素材の買い取りまでに8回くらいはあった。何なのだこの回数は、うんざりするというレベルを遥かに超えているわ。
まあ男だけじゃなくて女性からも声掛けられるし、強引に聞き出そうって人に会わなかったのは幸いと言えるのかな。
それで街中だと絡まれるし面倒臭いなと思って、フィールドで目的も無しに狩りでもしてようかとも思ったんだよ。だけど東門広場に移動した私は早々にその考えを捨てた。
東門広場には張り詰めた空気が漂っていた。門を潜る人を凝視していたり、それに付いていったり…勿論ウェイポイント周辺も例外ではなく、私が到着した瞬間に何人もの人達が私に向かって近寄ってきた。いやぁ中々に恐怖したよ。もはや通報出来ないかなと思えるくらいには怖い顔しておられたよ。
それにビビって思わず行ったことも無い南門広場に飛んだ私は、そこでも同じ様な光景に遭遇し、ダッシュで逃げたのであった。近くの細い路地にね。
プレイヤーは基本的に大通りや広場を中心に活動するだろうと思ってね。通りを外れてNPCの住民に紛れれば誤魔化せると考えた訳ですよ。
そしてその思惑は的中してくれたみたいで、絡まれる回数はかなり減った。減っただけでまだいるんだけどさ。
そんなプレイヤー達を避けながら何か無いかと街をふらついて今に至る感じである。ほんと勘弁して欲しい。
「もう走って戻ろうかな…ゆっくり歩いているから声掛けられるのかもしれないし…。」
明らかに急いでいる感じの人を邪魔しちゃ悪いよね的なジャパニーズ精神を私は信じたい。そんなものあるのかと言われれば知らないけど私は信じる。
だが走り抜けるとしても人混みがやばい広場は避けたいところである。そうするとウェイポイントも使えないが、幸い宿とウィルチェさんがいる貸し工房は広場を通らなくてもいい位置に存在しているため問題は無いだろう。
あとは迷わなければ大丈夫だ。うん、簡単簡単。
そうして私は歩みを進めようとしたが、すぐにまた立ち止まった。
「ちょっといい事思いついちゃった…。」
私は本当に誰もいない細い路地に入る。そして周りを確認、おーけー誰も付いてきてないし猫の子一匹おりませぬぞ。
「兎ができたなら…私にだってできるで…しょっ!」
そうして私はジャンプと同時に上に向かって魔力推進を発動した。すると私の体は下から押し上げられる様に宙に浮き、そのまま周りの家よりも高く飛び、屋根へと降り立った…頭からであるが…。
「ぐべっ!?ううぅ…痛い…鼻血とか出てないよねぇ…?」
現実なら間違いなく骨が折れて死んでそうな角度な気もするけれど、流石ゲーム内である。多少HPが減っていた程度で済んだ。精神的なダメージは高いけどね。まあとりあえずクイックヒールで回復っと…。
しかし何故だろうか、この世界に来てから毎日何かしら物理的に痛い目にあっているのだが。呪われているのかと思える頻度だぞ、どうなってるんですが。
あ、私が何も考えないで行動しているからですか、そですか。納得です。くそう。
とまあ私がやろうとしているのは人目につきにくく、尚且つ複雑な道を無視できると考えた屋根伝いの移動だ。
上への魔力推進は、あの岩から見た兎から思いついた。ちょっと着地には失敗したけれど、屋根に乗る事には成功したのでよしとする。
にしても本当に色々と便利だねこれ。単純な移動からこうした超ジャンプまで可能にしてくれるなんて、冷静に考えなくてもみんな欲しいわな。
教えるつもりは無いけどさ。探す楽しみと苦労を味わうのだふっはっは。
「方向確認…足元注意…MPよーし…では行くぞ、出発!」
そうして私は魔力推進での移動を開始した。
「んん〜っ!やっぱ凄いよこれ!癖になりそう!」
本来は複雑な道や人混みなどで全然進まないであろう街中も、この障害物が全くない屋根の上なら快適である。流れていく景色、みるみる近付く目標地点。
勿論MP確認も忘れずに行っている。ここで切れたら転がった挙句屋根から落下するからね。それは嫌だよ。
そんなこんなで特にトラブルもなく、しばらく走っていると目標であった宿に到着した。貸し工房の方に行ってもよかったんだけど、絡まれまくりで無駄に時間が経ってしまっていたのか、もう夕方になりかけていたのでこっちにした。
私の三日目…何も出来てない…そんな、あんまりだよ。
本当は街をぶらついて何かないかな~って探したり、レベル上げにフィールドに行こうとか考えていたのに台無しである。どうしてくれるのだ、ぷんすこぷん。
まあ悔やんでも仕方ない。そもそもの原因は私にあるのだからね。
さて、では屋根から降りて素早く部屋へと逃げ込もうではないか。と思った所で、私は一つ問題に直面した。
「これ…降りるときはどうすれば…?」
普通に飛び降りても死にはしないだろうけど…なるべく被害は無くしたいのだ。あと変に音を立てると目立つ。ここまで来て囲まれるのはやめてほしい。
「うーん、着地の手前で魔力推進を逆噴射して相殺…できるのかな。」
あれだ、こうフワーッとした感じで着地出来るのではと思ったんだ。
それともホバリングみたいに緩やかに落ちるってのもできるのかな、万能過ぎるぞ魔力推進。なんて素敵なんだ。
まあ悩んでいても仕方ない。このまま燻っていては宿周りに人が増えてくるだけである。
いざ覚悟を決めて屋根から降りようではないか。その前に下を確認して人が居ないかを見ないとね。一応裏側に降りるけど、目立つ事は避けたい。
「よしいないね。誰か来る前に降りよっと。」
という訳で私は屋根から飛び降りる。半分を過ぎたくらいで魔力推進を発動。それは私の思惑通りに体を下から押し上げ、落下の勢いを相殺してくれた。そしてそのままゆっくりと私は地面へと降り立った。
「うん、上手くいってよかった。私の事だし失敗するんじゃないかと思ったよ。」
ま、成功したのだから全てよし。ここで立ち止まっていても、また絡まれる事間違いなしなので素早く宿の入り口へと向かおう。そしてお部屋に退散だ。
宿の入り口まで来た私は、受付から鍵を受け取ってそのまま部屋へと向かうつもりであった。
めちゃくちゃ見られていた気がするが、今は逃げるが勝ちである。さらばだ皆のもの。
とまぁ、そんなスムーズには行かせて貰えないのも事実なのですがな。
私的には最速で鍵を受け取ったつもりだったが、私の前には一つのパーティと思われし人達が立ち塞がっていた。なんてこった。ここまできてこれは面倒臭いぞ。
「すいません足止めしてしまって、少しお伺いしたい事がございまして。」
あーはいはいその台詞は本日何回目だろうね。もう聞き飽きたよ。知らぬ存ぜぬでさっさと切り抜けましょうそうしましょう。
私がそう思っていると、話し掛けてきたパーティリーダーっぽい男は続ける。
「先程あなたが屋根から降りてくる所を見かけたのですけれど、あれをどうやったのか教えてもらえないでしょうか?」
なん…だと…。見られていた?あの光景を?おおーこれはまずいぞ。どうやったのかって聞いてるしダメージを負ってないのもバレている訳だ。何もしてないは通用しないだろう。
「知らない人に教える義理は無いと思うのですが。失礼しても?」
とりあえず適当に切り抜けようとするが、まあ無理であった。
「これは失礼を。自分はサッズと申します。こちらは同じパーティの者です。それと情報に対しては報酬も支払います。」
そう言い男…サッズはお辞儀する。名乗ってくれるのも対価を支払うというのも当然ではあろうけど、正直あまり興味も無いので速やかに部屋に戻らせて欲しいのが本音でございます。
「どうも。それで報酬というと?」
とりあえず聞くだけ聞いといてあげよう。何も聞かないで立ち去るのもいいけど、報酬に対して興味無いからさようならの方が相手も引き下がってくれる…かもしれない。
「それはお金でもアイテムでも。スキル習得できるクエスト情報もあります。こう見えて我々前線にも出ておりますので、掲示板などに載っていないものもありますよ。」
なるほど。つまるところ俺達が攻略してやるぜー的なやる気ある勢の方ですか。私には縁遠いことですな。
「確かに魅力的なんでしょうけど、生憎私は興
味無いですね。他をあたってください。」
ま、そんな事も今は関係ないのです。お金やアイテムって言ってもこんな序盤である。あとで幾らでも賄える金額や物でしかない。
スキル情報は幾ばくかマシだろうけど、私が出すのだって攻略情報に載っていないスキルな訳だ。どんなスキルなのかわからずに私が話すのは勿体無い。聞けば答えてくれるだろうけど、そこまで聞いたらほぼ話すだろうと思われる気がする。
と、言う訳で…私は最初から変わらず逃げる事にする。
他をあたってくれと言って、少し強引に相手方の隙間を潜り抜ける。こういう時だけはあまり大きくない私の体型に感謝である。普段は嬉しくもない。
あっ!という声が後ろから聞こえたが、宿の廊下以降はプライベートゾーンとなっているため、招待されない限りその階層に泊まっていない者は入る事ができないのだ。不埒な輩から守る為の機能らしいよ。なんてありがたいのでしょう。
何かまた伺いますとか聞こえた気がするけど多分気のせいだろう。そうだと言ってくれ。もう面倒なのはごめんだよ私は。
こうして、結局何も出来ずに私の三日目は終わってしまった…。泣きたい。
躍起になり過ぎではと思うかもしれませんが、我先にと急ぐ人達からすれば機動性は大事なのです。
しばらくカンナさんはゴロゴロ引きこもりになるので、次回は少し時間が経ちます。
じっくり書く時間が欲しいです。やってるゲームのイベントが重なってえらいことになってます。




