話題の不遇職
短い…かな?
「ねーえカンナちゃん。私が言いたい事わかるかな?」
「は、はい…。」
ここはオスロンにあるギルドが経営してる宿の一室である。つまるところ私達の泊まっている宿だね。
そこで私は兎を膝に乗せた状態で正座している感じだ。なんでかって?何かそんな気配がしたからである。
おふざけは置いといて、本当は私が割りと遅くまで帰って来なかったのを心配していたのと、帰ってきた私が兎を抱きかかえて来たのに加え、更に明らかに優秀なスキルを入手してきたりと色々あったからである。まあ当然の反応であった。ウィルチェさんもポカーンとしてから何やってんのー!って取り乱していたよ。
それから私が説明という名の言い訳を済ませた後、今に至るという訳だ。ざっくりとだけどこんな感じである。
「いやね、別に悪い事してる訳じゃないし、むしろ誰も持っていないようなものを手に入れたってのは誇らしい事だと思うよ。」
「そ、そうです…よね?」
おやおや?これはもしやこのままなんかいい感じに終わるのでは。うむきっとそうだ。
「でもね…早すぎるんだよ!まだ2日目だよ!フィールドに行くの2回目でしょ!?」
「あー…それは…その…。」
「しかも帰りに何も考えないで使ってきたんでしょ?」
「楽しかったです。」
「楽しかったですじゃないよ!いや楽しいのはよかったけどさ…。」
まあ顔色や雰囲気からしてウィルチェさんも怒っている訳じゃ無さそうなんだよね。呆れと困惑と嬉しさが混じっているようななんというか。
「はぁ…それで、今何が起こっているかは予想出来る?」
ういっす。当然っす。流石の私でもある程度の予想は着くよ。
「その反応ならわかってると思うけど、今プレイヤーはカンナちゃんの使っていた魔力推進とその兎の話題で持ちきりになってるの。掲示板開いたら一面その話題しかないくらいにはね。」
「えぇ…話題にはなると思ってましたけどそんなに…?」
夜だったし魔力推進は街に入る前にはやめたからそんなに見られていないとは思っていたんだけどなぁ。いやはや情報が広まるのは早いねー。
「幸い暗いのと通り過ぎるまでが短かったみたいだから個人までは特定されていないみたいだけどね。」
そういってウィルチェさんは私に掲示板にあがっていたのであろう画像を見せてくれる。
そこには明らかにヒーラー初期装備の私が魔力推進でひゃっほうしてる時の様子が映っていた。だけど確かに装備と金髪なのはわかるが、顔は映っていないので私だとはわからなそうだ。
「あとは一つだけ動画で残っちゃってるのもあるんだけど…近くで狩りの様子を撮影してたやつに偶然入った感じだから、ちっちゃい上に数秒でこれも個人がわかるものではないかな。」
その動画も見せて貰ったが、ウィルチェさんの言う通りさっきの画像よりも私は小さくてすぐ通り過ぎていた。まあ速度がばっちりわかる動画ではある。
「他にも目撃者が割りと多数だったから、これは何のスキルだとかで考察されてるって訳。」
「はーほんとみんな頑張りますよね。それにしてもそこまで話題となるとやっぱりこのスキルぶっ壊れてますかね?」
壊れてるのは強いという意味の方である。バランス崩壊待ったなしのあれだ。
一応私としても魔力推進は結構な性能を持っていると感じてはいる。MPの続く限り走るよりも数倍速く移動できるのはやはり大きい。
機動性は移動が割りとリアル的に長いこのゲームでは重要なのだ。特に攻略には書いてなかったけど、2日目にして私は実感していた。このゲームは広いと。
移動手段もウェイポイントが用意されてるとはいえ、それらは街にしか無い。もしかしたら別の場所にもあるのかも知れないけどね。テスト版では見つかってはいないみたい。
あとはNPCから騎乗用の馬や魔物を借りたり買ったりがあるらしいけど、私はあまり興味が無くて調べていない。どうせ序盤じゃ手が届かない程度には高いのだろうと思ったからだ。
おっと少し逸れたね。ウィルチェさんは少しうーんと考えてから、そうねと肯定した。
「確かに魔力推進は見せて貰った限りかなり壊れ性能をしてると思う。」
うん、やっぱそう思われちゃうか。まあ自重するつもりも無いんだけどさ。
「だけど、もしカンナちゃんがヒーラーじゃ無ければここまで話題にはならなかったとも思うよ。」
「それはあれですか。本来遅いはずのヒーラーがこんな速度で移動していたからですよね?」
私が確認すると、ウィルチェさんはそうそうと頷く。
「もしカンナちゃんが元々SPDが高いシーフか狩人だったなら、SPD極振りかそんなスキルもあるよなくらいでちょっと話題になるくらいだったはずよ。」
えふこねでは最速がシーフで次点が狩人となっている。そしてヒーラーは生産職を除くと魔法使いとの最下位争いになるくらい遅いのだ。
そんなヒーラーがこの速度…そりゃヒーラーからしてみれば復権できるかも知れないという希望にもなるし、他職からしても習得出来れば便利なのは明白だ。職業スキルならSPだけで習得出来るし、選択スキルなら習得条件を皆探すだろう。
「カンナちゃんは初期装備だったから職業を誤魔化す事もできない訳よ。だからこんな事になっちゃった感じ。別にカンナちゃんが悪い事は無いんだけどね、そこは勘違いしないでね!」
「大丈夫ですよ。そんな事思ってませんって。」
うーむ、それにしてもこうなると早めに初期装備から適当な装備に変更した方が良さそうだ。明日探しに行こうかなぁ。
私が明日の事を考えていると、ウィルチェさんはそれでねと話しを続ける。
「今問題になっているのは、掲示板の情報を頼りに片っ端からヒーラーと金髪のプレイヤーが質問攻めにされてるって事。普通に知らないって答えてるみたいだけど、一部のプレイヤーはちょっと強気な当たり方してきたりで困ってるって。」
「あー…それはちょっと申し訳ないです。」
見知らぬ多くのプレイヤーに迷惑掛けているのは申し訳無いと思う。とは言え私に出来る事は無いのもまた事実。
スキル習得条件を公開すればいいのだろうけど私にだって詳細はわからないし、こういった情報は貴重なのだ。そんなほいほい公開できる程私は無欲ではないのだ。
オンラインゲームでの情報とは場合によって下手な装備やアイテムよりも価値がある。情報が漏れたら金策なら稼げなくなるし、レベル上げなら狩場に人が溢れる。そうなってしまえば効率は悪くなるので情報の価値は無くなってしまう。
そもそも金策や狩場なんてぽんぽん見つかる訳では無いのだ。見つけるのだって苦労するのにすぐ人が溢れては意味が無い。故に隠すのだ。
まあ今回はスキルだけど、これは私のアドバンテージだ。今後どんなイベントが来るかもわからないし、可能なら秘匿して漏れるのを遅らせておきたい。
「だからね。カンナちゃんも変な奴らに絡まれる可能性が高いから気を付けてね?困ったら即ブラックリストでいいんだから。」
「勿論ですよ。そもそも私に話し掛けるような人なんて早々いませんよ。」
「あー…そう…ね。多分…そうだよね。」
何でそんな歯切れが悪いのですか。悲しくなっちゃいますよ。ぷんすこ。
「とりあえず本当に気を付けてねって事でこの話しは終わりにしましょうか。」
こうして何やら話題になってしまったらしい私の話しは終わったのであった。
「さてと、それじゃ…」
私が話しは終わったと思っていたら、ウィルチェさんは不意に立ち上がって正座したままの私のとこまで来る。
「えっえっ、何でしょうウィルチェさん?」
まだ何かあったかと脳内てんやわんやの私を見つめた後、ウィルチェさんは私を思いっ切り抱きしめてきた。
「うわ!?ど、どうしちゃったんですかぁ!?」
最早何が何やらという私である。にしてもどうしたんだろうと思っている私に向かって、ウィルチェさんは優しく話してくれた。
「んー?いやなんとなくだよ。カンナちゃん辛くなかったかなーとか寂しくしてないかなーとか…それとお疲れ様とおかえりって意味も込めてね。」
そう言うと私の頭を撫でてくれる。
……ふふ、そういう事か。そう納得すると私は落ち着いていた。
「ありがとうございます…。それと、ただいま…。」
「うん、おかえりカンナちゃん。無事でよかったよ。」
あぁ…落ち着く…。そう思っていると急に今日の疲れがどっと出てきたし眠気まで襲ってくる。仮想世界とは言っても無駄にリアルな再現をしているため、肉体的な疲れもあるし空腹眠気だってある。
でも私は眠る前にウィルチェさんにスキルとかの報告以外の事を話したかった。兎を避けたり岩を登ったり、MP切れですっ転んだりしたりを沢山…。
「あはは、それは大変だったね。」
それらを話すとウィルチェさんは微笑んでくれた。あぁ、やっぱりこの人には微笑みが似合うなぁ。慈愛と美しさがあるよ。何度でも見たいと思える…ほど…ね。
「あーあー…やっぱ疲れてたかぁ…。あまり長話しちゃったのは不味かったかな。」
私は昨日に続いて、今日もウィルチェさんの胸の中で眠りについたのだった。
「…おやすみカンナちゃん。よしっと、私はもう一仕事しときますかねぇ!」
そうしてカンナをベッドに寝かせると、ウィルチェは部屋から出て行った。
部屋の中にはすぅすぅと眠るカンナと、それに寄り添って部屋を見渡している兎が一匹いるだけとなった。
掲示板回はやろうかどうか悩みましたけどまだいいやとなりました。
先日200pt超えたばかりと思っておりましたが、もう300pt超えてまして感謝感激な作者です。
固執するのもどうかと思われますが、嬉しいものは嬉しいのです。ゆるして。
ちょっと忙しいので次回は未定です。




