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素早い不遇職

スイーッ

 草原の中で佇む私と角が折れた兎ことロケットラビット。



 やがて兎が角に近づき、器用にその短い前足でそれを掴むと私に差し出してきた。

 「え、いいの?これあなたの大切なやつでしょ?」

 そもそも言葉が通じるのかなんてわかんないけど、兎は動く気配が無いので私はその純白の角を受け取る事にした。ありがたやー。


[『親愛の証』スキルを習得しました。自動習得のためSPの消費はありません。]


 うわびっくりした。私が角を受け取った直後にこれが表示された。えっと、スキルの習得か。

 「調教とかじゃないんだね。まあ親愛ってあるし友好的な事には変わりないのかな。」

 目の前の兎が近くでのんびりしてるのが証拠であろう。しっかしこやつは角の事は諦めて普通の兎として生きていくつもりなのだろうかね。なんだかんだメンタル強いなこの子。


 とりあえずスキル効果を確認しよう。そして帰ろう。もう暗いわけだし、夜のお外は危険が一杯だよ。実際見たことないけど。さてメニューを開いてと、スキルスキル…あった。


『親愛の証』

一部の魔物と友好的になれる。

対象によって追加スキルが習得可能になる。追加スキル習得にはSPが必要。


 「これだけ…か。追加スキルは…これかな。『魔力推進』?」

 いまいち親愛の証スキルの効果がわかんないんだけど。友好的になるのは攻撃されたりしないというのはわかる。だけどそれは私が従えているのではないのだろう。あくまでも友好的であり従っているって感じはしない。兎を触ったりHPバーを見たりしたけど命令とかそういうのが出来るウィンドウは無かった。

 うーむ、これは検証が必要ですな。どうやってと言われても困るんだけどね。その内わかるでしょ。


 それと追加スキルの魔力推進についても見てみようか。


『魔力推進』:必要SP4

MPを消費する事により移動速度を上昇させる。

移動距離と速度によってMP消費量は異なる。

思考による発動が可能。

スキルレベルが上がるとMP消費量が減少、移動速度が上昇。


 ほほぅ、移動系スキルですかい。正に速度を追い求めていたロケットラビットらしいスキルですな。具体的にどれくらい早くなるのかは書いてないけど、兎達と同じような速度で移動できるとしたら取るべきだろう。

 SPDに振る予定は無いし、レベルアップでもSPDが上がりにくいヒーラーだ。回避にも使えそうなら戦闘の安定化にも繋がると思う。

 ただ実際の効果があまり高くなかった時が怖い。なにせSPを4も使うのだ。他職のスキル程ではないがコストは中々に高い。


 「どうしようかなぁ。ねぇねぇ、これってどれくらい早くなるの?」

 駄目元で兎に話し掛ける私。悲しい人みたいとか言わないでくださいな。

 案の定兎は何のこっちゃとスルー…するのではなく少し踏ん張ってから小さく跳んだ。……これくらいだぜと言う事かな?さてはこやつ賢いのでは。いや適当に飛んだのかもしれん。

 でも何となく兎としては自信があるようにも見える。損はさせないぜというか、お前もこの世界を体験してみなとかそんな感じ。


 仕方ない、ここはいっちょ博打といきますか。残念性能だったら私は悲しむぞ。

 「スキル習得っと…えーと思考発動はどうするんだっけか。」

 さらば私のSPよ。さてさて魔力推進の効果は如何程かね。

 このスキルは思考発動が出来るようなので今回はそちらを使ってみようと思う。このゲームではスキル名を発言すると発動するスキルと、何を発動するのかというのを明確に思考する事で発動するスキルがある。

 前者は主に攻撃系のスキルが多く、他にも対象を選択する魔法系や回復支援系の大半もこれに当たる。つまり専用のモーションや詠唱が必要なものはこっちになる。

 対して後者は自分のみが対象となるスキルに多いらしい。らしいってのはまだそこまで多くのスキルが見つかっていないからだ。一応最も有名なものには『気配察知』と『鑑定』がある。利点は相手にこちらが何をしようとしてるのか悟られにくい事や、発言がないので発動までが早い。欠点は詠唱と同じで雑念だらけだと発動してくれない事だとか。乱戦になると誤爆したりもあるらしいよ。怖い怖い。


 とりあえず今はお試しで使うので、回避するみたいに短距離を素早く移動すると思いながらスキルを発動してみる。

 「むむむ………うわっ!?お、おぉ!これは…いいねぇ!」

 スキルを発動した直後に私の背後から何かが噴射されたような感覚がした。それこそ正に魔力をジェット噴射するような感じだ。

 速度としては申し分ないどころか予想以上であった。燃費もそこまで悪くなく、これなら戦闘の回避や普通の移動にも使いまくれる気がする。


 「おぉうこの兎めぇ!凄いじゃないのもう〜!」

 もう私はべた褒めである。ごろごろしてる兎を撫でまくり胴上げしたりとその手の人に怒られそうなレベルだ。だが私はそんな事は知らぬ。兎を崇めるのだ。


 「ふぅ…とてもいいものを貰えた…。満足満足…。」

 一通り兎を満喫した私はそろそろ帰ることにした。暗い中帰るのは不安だと思っていたけど、魔力推進のお陰で敵を無視してかなり早く帰れると思うの。

 唯一怖いのは正面衝突だけど、この速度で突っ走れば狙いを定められる前に抜けれると信じる。いや私は抜けるぞ。

 「よし、行こうか!」

 私は流れるように角が折れた兎を抱き抱えてから魔力推進を発動する。え、なんで兎連れてくのって?可愛いじゃん?それに友好的になってるしこいつはもう友達さ!そういう事でお願いします。へっへっへかわいこちゃんをゲットしたわ。


 …もう昨日の蟻ボーナス以上に私のテンションは舞い上がっていた。もう色々と思考が大変な事になっていた。



 「うおおおお速い!私は風になってる!」

 まるであの兎共と同じように飛んでるかの如く私は草原を疾走していた。空気を押し退けながら…切り裂きながら走るこの感じ。乗った事はないけどバイク乗りの人達が言う風になるってのはこういう事なのかと想像する。これは気持ちいいしハマる。もう誰も私を止められない。


 流れていく景色とみるみる進んでいくマップを眺めて私はご満悦であった。だけど本当にぶっ壊れなのではと思える程に速いのだ。生身の人間がここまでの速度で移動できるのはまずいのではと不安にもなる…が、今はそんな事は置き去りにして楽しもうではないか。世の中速さだよ。




 ……とまぁしばらく魔力推進に酔いしれていた私であったが、当然こんな速度で長時間発動してれば何が起きるかは明白であろう。

 「うひょおおおもうすぐ街道まで戻ってきちゃうよ!行きの何倍もはy…ってえええ!?」

 急に私は浮遊感に襲われた。そしてそのまま空中で一回転からの地面にびたーん。しかも速度を殺し切れずに跳ねる様に転がっていく私。

 「あっ…がっ…ごっ…ぐっ…ぎゃんっ!」

 どれくらい転がったかはわからないけど現実だったら間違いなく重症か死んでたレベルの速度で転がった気がするよ。


 私は漫画みたいにピクピクと体を痙攣させながら地面に倒れ伏していた。

 街道に到達する事は無かったが、今はそれが幸いであった。草原の草と土がある程度ダメージを抑えていてくれたのだろうから…街道は石畳なのだ。それこそ絶対に死んでた。


 「ぐす…う…うぅ…。なにがおきたのぉ…。」

 あまりの痛さに涙が出てきた。仕方ないよ、乙女だもの。もうやだ帰りたい。いや帰ってる途中なんだけど早く帰りたい。

 それより一体私に何が起きたっていうんだ。魔力推進は足を動かして走っている訳じゃないので石に躓いたとかでは無いはず。じゃあ敵が居たとか?何攻撃を受けてバランスを崩したとか…。


 「無いよねぇ…ここ兎しかいない筈…。」

 とりあえずダメージを確認して回復しないと…痛いのが消えないよ。そう考えて私は自分のHPを確認すると…気がついてしまった。

 そう、ただのMP切れである。8割程削れていた私のHPバーの下にあるMPバーが見事にすっからかんだった。MPを燃料にしてるんだからそりゃ当然無くなったらこうなるわ。なんてこったい、てかHPが割と危ない域なのでこれはポーションで緊急回復しておく。


 「っは!そうだ兎は生きてるかーい!?」

 私があんだけの速度で地面とこんにちはしていたのだ。それを紙耐久であるあの兎が耐えられるとは思えない。と、私はきょろきょろと兎を探す。

 「あぁ〜生きてるねぇ〜…。てか無傷だねぇ〜どうやったのかなぁ!?」

 何でこやつは無傷なんだ。いや無事なのは喜ばしい事だよ。だけどどうやって身を守ったというのかがわからないよ。そんな技術があるというのかい。


 私の言葉と視線で察したのだろうか。兎はまあ見てろと言わんばかりに前に跳ねると、後ろ向きに魔力を噴射して勢いを殺していた。

 「す、すごい…そして兎より頭が回らない私って…。」

 心なしか兎もドヤってる気がするし完全な敗北感である。くそうくそう、何も言い返せないよ。



 さてこんな失敗はしてしまったが、だいぶ休んだので進行を再開する。結果的に少し早いかなってくらいの時間になっちゃったよ。勉強料と思おう、もう転ばんさ。


 最高速で常に移動してしまったからああなったんだよ。今度はちゃんと速度を落としてMPを見ながら進んでいく事にする。そしてMP残量が少なくなったらさっき見た停止方法で止まって回復するまで徒歩で進む。うむ、完璧だ。このやり方でも普通に走るよりはずっと速く移動できるのだからこのスキル素敵。


 しっかしこうなると移動用にMPポーションも買った方がいいのかなー。高いんだよねぇMPポーション…。

 「余裕できてからでいいか…。お、もうこんなに近くまで来たんだ。」

 安全走行を心掛けてからしばらく進んでいた私はもうオスロンの近くまで来れていた。辺りには夜なのにスライム狩りに勤しむ人や、どこかに向かうのか街道を進んで行く人達がいた。ほんと皆様やる気ありますな。夜はごろごろしたくない?

 それと案の定というかすれ違う人は軒並み私を見てきた。こんなブースト移動してる人がいたらそりゃ見るわな。恥ずかしいからやめて。


 と、少々赤面しつつも私はオスロンへと戻れたのであった。今日は大収穫であった。ほくほく。




【カンナ】ヒーラーLv4

・頭、胴腰、腕、靴:初心者用ヒーラー装備

・武器:初心者用杖


・HP:450/450 ・MP:420/420

・STR:12

・VIT:17

・SPD:13

・DEX:15

・INT:24

・MND:36

※割り振り可能なステータスポイント:9


・物理攻撃力:39 ・物理防御力:58

・魔法攻撃力:77 ・魔法防御力:108

偉い人は速さこそが正義だとかなんとか。


ブクマが3桁超えててびっくらこいた作者でございます。

また感想評価も戴けてとても嬉しいです。ありがとうございます。


明日の更新は多分ないです。

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