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駄弁る不遇職

ぺちゃくちゃ

 あの後宿から出た私とウィルチェさんは適当に近くの店で朝食を買い、ぶらぶら歩きつつそれを食べていた。お行儀が悪いとか言わないの。


 「別に最初くらい宿の食事でもよかったかもしれないねぇ。」

 「でも他のプレイヤーで一杯でしたし…あそこに泊まっていればいつでも食べれるからいいんじゃないですかね。」

 「それもそうかね。あ、カンナちゃんこのパンおいしいよ。」

 そう言いながらウィルチェさんは私に千切ったパンを差し出してきた。私はそれを素直に受け取ると口に放り込む。もぐもぐ。

 「お、ほんとですね。これは中々…」

 「…にしてもカンナちゃん朝からお肉とは。こっちじゃなかったら大変だよ。」

 ここはゲームだからいいのです。どんなに食べまくろうが太る事は無いのだ。最高。

 「いいんですよ。こんな事できるのもこっちだけですし。ウィルチェさんも美味しい物食べまくりましょ。はいお肉どうぞ。」

 私はウィルチェさんの持っているパンにお肉を乗せる。ふっふっふ、余所見して隙を見せたのが悪いのです。

 「うぇーちょっと多くない!?」


 とか何とか騒ぎつつ、私達の朝散歩は続いた

のだった。




 食べ歩きの朝食を終えた私達は、一旦ぶらぶら歩き回るのを中断して冒険者ギルドへと向かっていた。なんでかって昨日私が報告する予定だったクエストを報告するためである。

 「わざわざ付いてきてもらっちゃってすいません。」

 「んー?私も何か生産職向けのクエストないか気になるし、いいんだよ。」

 生産職向けのクエストってなんだろ。何かを作って納品とかかな。でもそれならギルドじゃなくてそれぞれの職業別の施設で受注とかになりそうだし…うーん?


 「確かにそう思うのも不思議じゃないよねー。えとね、施設で受注できるのは職人としての売り物や評価のための所謂腕試し的なやつなの。んでギルドのはそういうのじゃなくて、ただ指定個数を納品するだけだから初心者向けって訳。」

 つまるところ施設は経験値、ギルドはお金って事らしい。他の職業でも似たようなものらしいよ。

 私にもあるって事はあの聖堂内にクエスト受注できそうな場所があるんだろうか。今度探してみようかな。


 「というかウィルチェさん色々知ってますけど、やっぱりそういうのってNPCが教えてくれるんです?」

 如何せんまだゲーム内で2日目だ。それなのに明らかにウィルチェさんの知識は私よりも多いのは気になるところ。

 「そうだね。クエストの事は最初に会った施設のNPCと話してたら教えてくれたし、生産職のシステム的なのは最初のクエストで教えてもらったよ。」

 それにあれとこれと、と他にも出てきた。はぁー、やっぱり話しはきちんとしておくべきだったんだね。昨日の私の無鉄砲ぶりに呆れますよ。やれやれ。


 「てかさカンナちゃん。その様子だともしやゲーム内では何も調べずにフィールドに出たの?」

 「うぐぅ…そうですよ。もうNPCと会話なんて殆どせずにフィールドに行きましたよ…。」

 私が素直に答えると、ウィルチェさんは呆れたような顔で私を撫で始めた。うごごご頭が揺れるぅぅぅ。これはもう撫でるレベルじゃないよ。

 「ほんと、それは死に戻りも納得よ。ちゃんと情報は集めて準備してから行く。オンラインゲームの基本でしょ。」

 「ご、ごもっともです、はい。」

 何も言い返せませぬ。まだソロだったからよかったものの、もし複数人でやってたら戦犯ものである。


 複数人で思い出した。昨日からというか始まる前からだけど、どうしてこうもパーティ募集が多いのだろうか。今もギルドが近いからか結構な数の募集が見えるのだ。ついでだから聞いとこ。

 「カンナちゃん、このゲームって結構致命的な欠点があるのはわかってる?始まる前から言われてたけどさ。」

 「欠点…ですか?えーっと…んー?あぁすいません…始まる前は他の人と話す事なんてなかったものでして…。」

 にしても欠点か。えふこねが他のゲームと違うのはログアウト不可な所だ。他のシステムでも違う面はあるけど、一番違うのはこれだろう。

 でもそれは致命的な欠点では無い気がするんだよね。確かに自宅だったら致命的だけど、しっかり管理されているのならそうではないだろう。

 はて、何があったかな。


 私がうんうんとわからずに悩んでいるとウィルチェさんは答えを教えてくれた。

 「それはね、新規ユーザーが入ってこないってことよ。つまり、時間が経つにつれ序盤のフィールドからは殆ど人が居なくなるし、固定面子で活動する人が増えてパーティが組みにくくなるってこと。」

 だから皆躍起になって最初にバランスのいいメンバーを募集してるのと最後に補足もしてくれた。

 「あぁなるほど。それは確かにそうですね。遅れるとソロでやるしか無くなって辛くなるって事ですか。」

 「そう、そこら辺運営としてはどうなんだろうって思うけどね。」

 ふむふむ、そりゃみんな焦るよね。戦闘職ならレベル上げの遅れは周りについて行けなくのを意味するし、生産職だと顧客の獲得や素材の確保がしにくくなる。

 初期にパーティを組んでおけば、最低でもそのパーティで活動するから遅れる心配もなく、生産職もパーティに貢献できる。


 だから転職関連も低レベルの内にやっておけって仕様なのか。後々にやると転職後はパーティと同じ狩場に行くのが困難になるし序盤フィールドでソロになる。

 本当に数ヶ月後にはオスロン周辺にプレイヤーが殆どいないとかになってしまうのではないだろうか。この世界的にどうなのそれって。確か湧いた魔物は倒されない限り減らないんだよね。NPCの負担がやばそう。


 

 「ウィルチェさんもパーティに誘われたりはしなかったんですか?」

 私はふと気になったので聞いてみた。私はともかくウィルチェさんは綺麗だしこんなに優しいのだから引く手数多だったに違いない。

 「誘われたよ。それはもううんざりするほどね…。昨日はそのせいで碌に活動できなかったくらいだよ。」

 やっぱり多かったらしい。そりゃそうだよね、私が募集してたら間違いなく声掛けたくなる人だもの。

 「それじゃあ気になるパーティは無かったんです?それだけ誘われたのならどこかしらあったんじゃ…。」

 「なーにカンナちゃん。私に別のパーティの誘いを受けて欲しかったの?それだと私達は会えなかったと思うけど。」

 「いやいやそんな事じゃないです!むしろ私としてはこうして会えたので凄い嬉しいですけど!えと、あの…」

 「はいはいごめんね、ちょっとからかっただけだから。誘いを断ったのは全部男だけのパーティだったから。見ず知らずの男しかいないパーティに入る気は流石に起きなくてね。」

 ほんと参っちゃった、とウィルチェさんは苦笑いした。

 うん、それは確かに私でも断るね。見ず知らずならまだ可能性はあったかもだけど、男性のみの所なんて怖くて入れないよ。


 「ま、私としたはこのままパーティは組まないでのんびりと鍛冶職人生活できればいいなって思ってるの。ひっそりと知る人ぞ知る感じのね。」

 冒険するのもいいけれど、この世界の住人として過ごすっていうのも確かにいいよね。

 「なら私はそれを助けられるように頑張りますね。沢山素材集めて来ますよ!」

 「お、期待しちゃうよ?とはいってもカンナちゃんの装備は鍛冶職人で作れるかわかんないんだけどね…。そこは精進するわ。」

 うーん、ヒーラーの装備で鍛冶職人が作れる物か…防具はSTR的な意味で辛そうだけど、武器とか装飾品は鍛冶職人の分野だと思うんだよね。

 私としてはあれこれ無理強いするつもりも無いからウィルチェさんにお任せしちゃお。丸投げとも言う。



 さてさて、あれこれ喋りながらゆっくり歩いていたが、なんだかんだで冒険者ギルドに私達は到着した。

 「これってこのまま入ったら別のギルド空間に入りそうですよね。」

 「そうだね。パーティは組んでないから間違いなく別の空間になると思うよ。どうする?パーティ組む?」

 一人の時はへーとしか思わない仕様でも、いざ複数で来ると面倒くさい仕様に早変わりとなる。ここはウィルチェさんの提案通りパーティを組んでから入るべきかなぁ…。


 …でもだよ、ここで一回ギルド内で移動するのも体験しておきたい気持ちが私にはあるのだ。基本的にソロの私にはあまり使わない機能だとしても経験しておくに越したことはないのです。ただの好奇心ですね。はい。


 私がそれを話すと、ウィルチェさんは二つ返事で承諾してくれた。なんてありがたいのだろう。

 「んじゃ私は案内板の前で待ってるからね。…置いてきぼりにされたら怒っちゃうよ。」

 「そんな事しませんよ!ではすぐに行きますので。」

 そう言って私達は冒険者ギルドに入る。



 冒険者ギルドに入ると、隣にいた筈のウィルチェさんの姿はなくなっており私だけが入り口に立っていた。

 「へぇー本当に別々になるんだ。しっかしいきなり隣にいた人が居なくなるのも不思議なものだね。っと待たせちゃまずい。」

 こういうのに驚くのもこの世界の楽しみかもしれないけど、今は人を待たせているのだ。さてと案内板はっと。


 次々と出入りする人達を避けつつ、私はそそくと案内板へと向かった。出入り口やカウンター前に比べ、案内板の周りは流石に初日ではないからか人がそこまで多くは無かった。ありがたや。

 さて、件の案内板によるギルド内移動なのだが…どうすればいいんだこれ?そもそもウィルチェさんはどの空間にいるんだろうか。どっかに書いてあるのかな。

 案内板の前でどこだどこだと探し回る私。完全に初心者感丸出しである。周りからの視線が辛い。しかし恥ずかしくても見つけなくてはならないのだ。うおおお。


 「あ、あった…。もう少し見やすくならないかなこの案内板…。」

 あんな不審者みたいな行動をしていた私が、やっとこさ見つけた移動の方法は

・案内板の近くでメニューを開き移動先を選択

・フレンド一覧から対象を選択

・ユニオンメンバー一覧から対象を選択

の3つだった。

 な、なんだ…メニューを開けばよかったのか。くそう、もっと早く思いついていればこんな不審者みたいな動きしなくて済んだのにぃ…。


 とはいえ過ぎた事を気にしても仕方ない。私は早速メニューを開いてフレンド一覧を選択。そこには登録して間もないウィルチェさんの名前があるのでこれを選択。するとメッセージを送るとかの項目の下に、このフレンドの場所に移動するとあった。

 既にギルドに入ってから数分は待たせてしまっているので、フレンドの場所に移動するをタッチ。確認が出たので[はい]をポチッと。


 しばらくお待ちくださいの文字が表示された後、周囲の景色が真っ白になっていく。それも数秒で終わると、私はまた案内板の前に立っていた。これでいいのかな?


 「あ、やっときた。どうだった?変な気分とかにはならない?」

 私が突っ立っていると横からウィルチェさんの声がした。どうやらちゃんと移動できたみたいだ。

 「なんだか不思議な感じでしたけど、酔いとかはないんじゃないかと。それよりも待たせてしまってすいません。」

 私の言葉にいいのよ〜、とウィルチェさんは軽く返事をしてくれた。

 「んじゃクエスト受けにいこうか。まぁお互い違うクエストなんだけどね…。」

 「そうですねー。でもプレイスタイル的に仕方ないですし、もしかしたら一緒にできるのもあるかもしれませんし!」

 「そうだね、お互い頑張ろうね。」

 勿論ですと返事しつつ、私達はギルドの掲示板へと向かった。




 「私はこれが簡単な割に美味しそうだからこれにするけど、カンナちゃんはどんなの受けるの?」

 私達が掲示板を眺めてすぐにウィルチェさんはクエストを選んでしまった。流石に早すぎると思うのです。

 「私は…昨日西側で狩りをしたので、今回は西以外の場所に行ってみようかなと。」

 クエストには[依頼主][対象][主な出現地域][報酬][クリアまでの期限]が設定されているのでそれを目安に探しているのだけど、正直私にはどれが適正なのかがよくわからない。いやまあ表示されてるのは基本的に適正レベルのものが多いからどれを選んでもいいのかもしれないけどさ。相性があるじゃん。魔法耐性があるとか集団でいるとかだと私には厳しい。


 「あ、これとかどうカンナちゃん?東の草原地帯が対象なんだけど。」

 「ん、どれです?えーっと…【ロケットラビット】15体の討伐…?なんですかこの変な名前の兎は。」

 序盤のフィールド、草原、兎系は確かによく見かける。だがしかしなんだこの変な名前のやつは、なんだロケットって。普通は角兎とかキラーラビットとかでしょ。

 「それも踏まえて面白そうじゃない?兎だしそんな強くはないと思うんだけど。」

 「うーん、確かにそうですね…。強いかどうかはさて置いて凄くどんなのかが気になりますね。」

 「こういうのはノリと勢いだよカンナちゃん。」

 そう言うウィルチェさんは親指をグッとしてウィンクまで決めてくれた。わあお似合ってるう。

 ま、それはさて置きこのまま悩んでいても仕方ないもんね。ここはノリと勢いでこれにしてしまおう。待ってろ謎のロケット兎め。



 そうして掲示板からクエストが書いてある紙をアイテム化して、私達は受注カウンターへと並んだのであった。


 …今回は受付の人に少しくらい対象の情報を聞いとくよ。

昨日あげようと思ってたら寝ちゃってました。

次は久しぶりの戦闘…になるはず。

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