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帝国のアリア  作者: 晃
一章 早すぎる再会
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02


人生初めての馬車の旅1日目は、それぞれの国のことを教え合いながら、元親の言葉を直していくので終わった。時々ふたりの会話に同乗中の商人たちも加わり、アリアはこの1日で新しい知識をたくさん仕入れることができた。

世間知らずの令嬢の家出1日目としてはかなり順調ではないだろうか。


初日は出発した町から3つ先の村に泊ることになった。

町から村へと人口規模はランクダウンしたので、帝都に向かっているのにさらに田舎に来たような、そんな不思議な感覚におそわれる。


「この村は山菜と染め物が魅力なんだ」


馬車を降りる時には何度も決まったルートを行き来している商人たちが、アリアと元親にガイドをしてくれるようになっていた。


「山菜……。夕食が決まりましたわね!」


正直アリアには山菜料理がまったく想像できない。

これまで食べてきた食事は全て料理長が丁寧に作り込んだ貴族向けの料理ばかりだったからだ。

けれど馬車で庶民にまみれて朝食と昼食をすませた平民アリアに怖いものはないだろう。


「山菜いただきんさい」


「……えっ、村の人が言ったかと思ったらあなたですか!Σ(゜ロ゜;)」


はしゃぐアリアの後ろでぼそりと呟いたのは元親だった。

驚くアリアを見ても無表情のままだから少しも笑えない。ひたすら怖い。


「この村、食事を食べる時、言わないとダメと教えてもらった」


「なるほど! だまされたのですね!!」


元親は表情を変えなかったが、夕食が終わり宿の話になるまで一言もしゃべらなかった。







「え、モトは野宿をするのですか!?」


商人たちに宿を教えてもらって向かおうとしたところ、元親はここで別行動をするというのでどうしてかと聞けばそういうことだった。

野宿といえば貴族令嬢には無縁のまさに未知の世界。

アリアはそんなに気軽に野宿はできるのかと、世間知らずな感想をもった。


「私もお供してよろしいでしょうか」


しかしそれはすかさずその場にいた全員に却下される。

同時に元親の野宿も村の人に止められていた。

なんでも毒を持っている虫が夜間に出てくるそうだ。


「恋人どうしなんだろ? 一緒に寝ればいいじゃないか」


一緒に旅をしている最中の商人たちは二人の様子をずっと見てきたためか、二人が恋人同士でないことはわかっているようだったが、村の人たちから見ると年頃の男女が二人きりで旅してると聞いて自然と恋人同士と誤解したらしかった。


「そうですわね。モトなら(剣士だけあって紳士的な感じがするし)一緒の部屋で大丈夫です」


元親は出会ったばかりの時のような警戒心をむき出しにしてアリアを見る。

きちんと年齢を確認したことはないが、見た目からして元親がアリアより年上なことは確かだ。アリアからすると、自分より大人であるはずの元親の方が慌てているのが面白かった。

いつもならアリアも結婚前に異性と同じ部屋で一晩過ごすなど考えられなかったが、男女関係なくたくさんの人と会話を楽しんだ後だと、意識しすぎるのも変な話だと思ったのだ。


大事なところを省いてしまったせいで、自分の発した言葉が誤解されそうな内容になっていることにアリアは気がついていなかった。戸惑い続ける元親の背中を押しながら、さっさと部屋で休もうと笑う。

この行動がまた元親を混乱させるのだが、アリアの様子が昼間とまったく変わらないことに安心したのか、部屋の位置を教えてもらうときには冷静な彼に戻っていた。



就寝前、幸いにもベッドがふたつあったことで二人はトラブルも特にむかえず、まるでずっと旅を共にしてきた仲間のような温度感でごく自然に床についた。


「ねぇ、モト。聞いてもいいかしら。あなたはなんでこの国にきたの?」


なんとなく大勢の人の前で聞くのがためらわれて、喉元まで出かかっているのにずっと聞けなかったことをアリアは思い切って尋ねてみる。

誰かとお泊りなんてもちろん初めてのことで、その興奮が、どちらかといえば消極的な彼女を大胆にさせた。


「前にいた国では何をされていたの?」


元親はまだ目をあけていて、起きてることもアリアの声が聞こえていることも確かなはずなのに、答える気がないとばかりに明かりを消す。


アリアはそこまでされて深く答えを求めるタイプではなかった。

好奇心による執拗な追求は、その答えより価値のあるものを時に壊すことがある。

アリアの兄は潔癖なところがあり、自分に関わる人間の大体を把握したがる性格だったが、彼が散々失敗する様子を間近で見ていた。


「ごめんなさい。ただの好奇心ですから、話したくないなら話さなくてけっこうよ」


アリアがふぅと息をついて天井を見上げた時、「入隊試験を受けに行く」という元親の小さな声が届く。

答えてくれたことが嬉しくて、アリアはその気持ちを抱いたまま寝るため「そうなんですの」と相づちだけうって眠りについた。




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