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「待って待って。お給金が今の3倍くらいになるよ」
「なっ! 確かに今回はお金につられましたが、なんでもかんでも売ると思わないでください! そこまで卑しくはありません」
リヒャルトが一瞬顔をしかめ、しばらくしてアリアの言わんとすることを理解したのか、なんとも例えられない表情に変わった。
両手を左右に大きく振って、オーバーに誤解だというアクションをする。
「伝え方が悪かったのは認めるが、頼むから俺をそういうことをしそうな奴と思わないでくれ」
ひょうひょうとした態度の彼しか見たことがなかったアリアは、それを見てあらげた気を静めた。
「では、どういう意味かきちんと説明してください」
「あーいや、わりとそのまま…なんだが……って睨むな。…その、言い換えると『俺の下で働かないか』ってことなんだけど」
「俺の下?」
どういう意味だろうと、まだリヒャルトの真意をつかみかねるアリアが首をかしげる。
その後ろでやはり聞き耳を立てていた何名かが笑った。
「ふははっ、ダメダメ」
「やっぱりヤラシイ意味に聞こえますよー」
(ヤラシイ……)
自分がリヒャルトに組み敷かれている図がぽわわんと浮かんできて、アリアの顔はまた真っ赤になる。
湯気が出そうないきおいのアリアに、リヒャルトは違う違うと手をパタパタふった。
「特例部隊に入らないかって誘おうと思ったんだ」
リヒャルトの予定ではアリアをドキドキさせ手玉にとり、自分優位の状態で仲間に誘うつもりだったのだが、アリアがリヒャルトとは10以上も年の離れた少年にしか見えないため、周りに遊ばれ失敗してしまった。
リヒャルトとしてもこんなことはめったにないため、気恥ずかしさを感じる。
アリアも何度も勘違いしてしまったために気恥ずかしさがあり、二人して照れたように笑った。
「特例部隊って、帝国兵団のですよね」
いわばスカウトのようなものだろうか。
嫌いとまでは言わないが今の仕事に将来性を見いだせなかったアリアとしては、新しい仕事の誘いにいくらか興味はある。
しかしさすがに帝国兵団に入隊はないだろう……。
まだ女性らしい体つきではないとはいえ、何年か経てば男性に見えなくなるのはあきらかだ。
このあたりで放っておいた誤解を解かねばとアリアが口を開いたとき、リヒャルトはアリアの唇に人差し指を押し当て、そっと耳元で囁いた。
「大丈夫。アルが男の子でないことくらいちゃんと分かって誘ってるんだ」
「えっ……」
リヒャルトはいたずらが成功した子どものように笑う。
「で、どうする?」
性別の誤解がないのであれば、正直アリアに迷いはなかった。
数メートル先でアリアを心配そうに見守る元親と視線を交わした後、アリアはにっこりとリヒャルトに笑みを返す。
元親は苦々しい表情をしたが、それは一瞬のことだったのでアリアは気づくことができなかった。