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帝国のアリア  作者: 晃
三章 ヒヤヒヤの初デート
36/47

10


アリアの嘘は女と気付かれた時点でばれてしまう。

もはやアリアの頭の中には脱出を図る余裕などなく、嘘がばれてしまったらどうなるんだろうという恐怖に固まってしまっていた。

無理もない。

今は少年のような格好をしてはいるが、アリアはこれまで女性として子どもとして貴族として優しく扱われてきたのだ。

エイディに冷たい言葉を浴びせられたり、親からの理不尽な叱咤を受けることはあっても、今日のように命を脅かされたことはない。


アリアにとって初老の男が振り回す金属は、とても恐ろしい武器だった。

体を傷つけられてはいないものの、鋭い金属音と空を切る風を受けるだけで涙が出てしまう。


「なに泣いてンだ。嘘じゃないなら殺しはしないさぁ」


そう言って笑い声を立てながらも、目はじっとアリアを睨みつけており、おまけとばかりにまた金属の棒を振り回す。


「……っ」



アリアの恐怖がピークに達した時、ドンッと骨にも響くほどの大きな音と衝撃が訪れた。


(な、なに!?)


あまりにも大きな音だったし、目の前にいた男たちも驚いていたので、最初は予期せぬ災害でも起こったのかと勘違いした。

しかし光に埃が照らされキラキラと輝くその中に、よく知る少女の姿を捉えてホッとする。


今のは扉が破られた音だったのだ。



けれどその後には違和感がやってくる。

現れたのは彼女一人きりで、他に助けに来ただろう人は見当たらなかった。

ならば今の音は彼女が? どんな手法を使えばあんなことができるのかとアリアは混乱した。



「アル様に怪我ひとつでもさせようものなら、この私が許しません!」


直前まで聞いていた男の脅しとまさに相対する声。

ピンっとシワひとつなく伸ばされた絹ような、美しく清らかで上品な雰囲気を持つ怒声だった。

そして言葉が終わると同時に壁を叩いてドンっと部屋が震えるような大きな音をたてる。

少女にしては力強い迫力のある演出だった。


しかし彼女はわずか10歳の少女である。


一瞬誰もが息を止めて彼女の存在に驚いていたが、彼女は一人で現れたと気が付いた男たちが表情を歪めるのは早かった。


「あ゛あ゛ぁ!? 子どもがいきがるんじゃねえよ!」


初老の男は相当切れやすいようだ。

他の男たちが彼を制する言葉をかけているが、2歩3歩と距離を詰めながら金属の棒をまた振り回す。


「ダメです、逃げて下さいっ!」


ベティが危ないとアリアはとっさに身をよじったが、拘束されていて体は動かず、叫ぶのが精いっぱいだった。

ところがアリアの必死の声を聞いて、ベティはパッと花のような可憐な笑顔をみせる。

二人の間には物騒な男がわめていているというのに、それは大したことではないと本気で思っているようだ。


「アル様、お怪我はありませんか?」


「私のことはいいですから、早くっ……」


「無視するんじゃねえっ!!」


男がアリアとベティのちょうど間にやってきて二人の視線の交差がなくなると、ベティはようやく男に目を向ける。けれどその顔に怯えなど微塵もなかった。


「うるさいです」


勝負が決したのは一瞬。

ベティが近くにあった樽をひょいっと男の顔面にぶつけて気絶させた。

驚いたことに、男を下敷きにした樽からはドクドクと酒のようなものが漏れ始める。空だったとしても少女が持ち上げるのは大変なはずだが、なんと中身が詰まっていたのだ。


「アル様、さっさとここから出ましょう」


ベティは樽を投げる直前の可愛らしい笑顔で、またニコリと笑う。




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