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帝国のアリア  作者: 晃
三章 ヒヤヒヤの初デート
33/47

07



かびの匂いがアリアの鼻先をくすぐった。


「……っ」


目が覚め、アリアはなぜ縄で縛られているのか理解できず恐怖する。

思わず声をあげたが猿ぐつわが邪魔をして、荒い鼻息しか出せなかった。

猿ぐつわに唾液がにじみ、周囲の埃の臭いと最悪なハーモニーを醸し出した頃、アリアは意識を失う前のことを思い出し、ようやく現状を把握する。


(どこか人の出入りがないところに閉じ込められているようですね……)


まだ瞼を落としているのではと錯覚してしまうほど、目の前は闇が広がり、アリアが縛られているこの場所が狭いのか広いのかもわからなかった。

謎の男たちに連れ去られる直前まで一緒にいたはずのベティを探してみるが、自分の手足も見えないほどの暗闇だ。人影を見つけるのさえ困難だった。


「ンーーー…、ンーーーーーッ!!」


アリアは精一杯鼻を鳴らして自分の存在を教えたが、いつまでたっても返事はない。

まだ気を失っているのか、それとも別々のところに閉じ込められたのか……。



しばらくして複数の足音が階段を降りてくるような音がアリアの耳に届いた。



「!!」


いきなり眼前が照らされ、アリアの視界は白色に塗りつぶされる。

どうやら明かりを突きつけられたらしかった。


「起きてるようだな」


低いかすれ声と、カチャカチャという金属音がすぐ近くでして、アリアは自分たちを連れ去った男たちに囲まれていることを知る。

顔を明かりからそらして数秒待つと、やっと目が機能し始めた。

驚いたことに男たちは身なりも年齢も全く違う、接点がよくわからない集団だった。

アリアに声をかけたのは貧しそうな身なりをした初老の男性で、かけた前歯がよりいっそうみすぼらしい。そのすぐ隣には、鍛冶屋でよく見かけるような作業服を着た若い男、数歩後ろに下がったところには、高級そうな服を着た貴族風の中年男性が立っていた。


(い、いったいなんなんですの)


ただならぬ雰囲気にアリアは逃げ出したい気持ちでいっぱいだったが、両手首と両足首それぞれは太い縄で何重にも巻かれており少しも動かせない。


「名乗れ」


猿ぐつわを外され、アリアは震えでうまく回らない舌を一生懸命動かし小さく「アル」と答えた。

すかさずガンッと大きな音を立てて、初老の男が「もっとちゃんと名乗れ」と声をあらげる。


「ひっ……」


初老の男が持っているのは金属の棒で、それを振り回すことで音を立てたのだ。響いた音からもわかるように、なかなか力を込めて振り回しており、もしその勢いのまま頭を殴られでもしたら死んでしまうかもしれなかった。

初めて死を肌に感じて、アリアは恐怖で完全に動けなくなる。


「おい」


初老の男が苛ついているのが声からもわかったが、すでにアリアの涙腺は崩壊し、どうしても嗚咽が抑えられなかった。

奥では貴族風の男が腕を組み舌打ちしている。彼だけは仮面をしており顔がわからなかった。何か言いたそうにしているが、声を出すつもりがないらしい。


「俺たちが知りたいのはお前の家だ。貴族なんだろ? どこの家なんだ?」


作業服を着た若い男が、初老の男が振り回す棒を押しとめて、ゆっくりアリアに尋ねた。

どうやら彼がこの3人の中では一番会話ができそうだ。





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