05
アリアが選んだのは家族連れも多い食堂だった。
何度か来たことがあるところだったので、店主はアリアが女の子を連れているのを見て「今日は可愛いお連れさんがいるね」とからかう。
こんな声かけをされたことのないベティはすっかり照れてしまったようだ。言葉がうまく出てこないようでもごもごと口の中で何かを言っている。
「ここの日替わり定食は、早朝市場で仕入れたばかりの新鮮な食材を使うのでとても美味しいんですよ。あそこの2名席に座りましょう。『食堂』では従業員は配膳だけで席までの案内をしないことが多いんです」
「そうなのですか!」
ベティは驚きで照れが吹き飛んだようだった。デートを開始した時の明るい彼女に戻っている。
アリアも食堂に初めて入った時にはこの仕組みを知らず、従業員に指摘されるまで入口で棒立ちしてしまった。案内すらしないとはサービス側はそれでいいのかと訝しんだこともある。しかし、飲み物も料理も自分でカウンターまで取りに行く店も経験した今のアリアは、貴族が出入りする店が目指すところを、こういった店に求めるのはズレている、とはっきり実感していた。
アリアはベティにそれらを話して聞かせ、料理が届くまでの数分の待ち時間も彼女が退屈しないようにする。
ベティは全てのことに興味津々で、料理もそこで交わされる会話も楽しんでいたが、食堂を出た後にアリアはふと疑問に思った。
なぜベティは女の子が興味惹かれるようなお店に行きたがらないのかと。
「アル、今度は病院に行ってみたいの」
ベティは地図とにらめっこしながら、大勢の女の子たちが出入りしているアクセサリー店や化粧品店、お茶屋さんを通り過ぎていく。
街の様子は見たいようでちゃんと店自体は視界に入れるのだが、どの店も景色のひとつといった感じで眺めるだけで終わった。
「病院、ですか?」
なぜ病院……。
こうなると本当にわからない。
アリアは疑問を抱いたままベティが行きたいと指差す場所に向かうしかなかった。
けれど病院は特に用があるわけでもないので、ひょこひょこと受付や待合室を見て回り、中庭で患者らしい人と会話を楽しむにとどまる。
病院の次は学校が指定された。なぜデートにそんな場所をとはもう思わない。
ベティが楽しんでいることは表情からも十分に伝わってくるので、アリアは世間話をしながら学校へ向かった。
自分たちより少し年下と思われる子供たちがたくさんあつまるそこは平民の学校で、貴族の通うそれとはだいぶ異なる。
読み書きと簡単な計算を習える場所と言い換える方が想像しやすいのかもしれなかった。
二人は校舎の中には入らずにぐるりと建物の外を一周する。
「ベティ様、帰り時間を考えるとおそらく次が最後になります」
日がだいぶ傾いているのを確認して、その日初めてベティは顔を曇らせた。