04
ベティが行きたいと言ったのはなんのことはない、ただの市場だった。
お昼前の今は観光客向けに各地の名産品がたたき売りされていて、隣にいるベティの声も聞こえなくなるほどにぎやかだ。
二人は手振り身振りでなんとか意思疎通をはかり市場を楽しむ。
やっと会話ができる落ち着いた場所に出た時には、別世界のような喧噪がおかしすぎて二人とも顔を見合わせて大笑いした。
「すごいですわ! アル、次は『食堂』に連れて行ってもらえませんか? 庶民のみなさんと同じものを一度食べてみたかったんです!」
「え、食堂ですか?」
デートなのに!?
しかし女性を喜ばせてこそデートは成功と言えるだろう。
「……わかりました。ですがそのままでは目立ちます」
「はっ、それもそうですわね」
「そこで私から提案です。ベティ様、私と一緒に庶民になってみませんか?」
変装をしようというアリアの誘いにベティは目を輝かせて大きく三度うなずいた。
様々な色合いの洋服が所狭しと並べられている『クローゼア』。8割が女性用、残りが子供用で占められている。店主はこの店を建てた先代の息子という人で御年56歳、白髪交じりのどこにでもいそうな普通のおじさんだった。
「すごい! すごいですわ!」
この店に入ってからベティはそればかり呟いている。赤い服を見ても、青い服を見ても、着たことのない服装だからだろう、興奮が冷めないようだ。
アリア自身は洋服を買う余裕もなく洋服店に詳しくないので、同僚の女の子たちが安く可愛い洋服が手に入る穴場として噂していたのを覚えていて助かった。初めての店だが雰囲気は悪くない。
客がそれほど多くないので、あきらかに貴族とわかる格好の2人を気にする目が少ないところもよかった。
しかしずっと洋服にはしゃいでいるわけにもいかないので、ベティの服をアリアがさっと選ぶ。
「どれもお似合いですがこちらにしましょう」
ちらちらとベティが何度も視線をやっていたピンク色の洋服だ。
店主にお金を軽く握らせて試着室を独占すると、ベティは買ったばかりの服に自分は普段着ている少年用の服に着替える。
貴族の男性用の服はなかなか慣れなかったので、ようやく少し息がつけた。
今回の仕事にはずっとリヒャルトとベティの護衛が数名どこかで監視していて、それとは別に一人だけサポートという立場でアリアにわかるところに常についている。その人に頼めば代金を払ってもらったり、必要な現金をその場でもらったり、先ほどのように自分の服を持ってきてもらったりすることができることになっていた。貴族は付き人をつけることが当たり前なので、ベティも気がついてはいるだろうがまったく気にならないらしい。
「違和感はないかしら?」
「とてもよくお似合いですよ。隣を歩くのが誇らしいです」
「まあ」
ベティは顔を真っ赤にさせてうつむいた。
アリアは様子がおかしくなったベティを不思議に思いながらも、彼女の腕をとって次の目的地へ誘う。
「さあ食堂へ行ってみましょうか」
「そ、そうでしたわ。食堂に早く行きましょう! 私お腹も空いてきましたのよ」
「ええ」