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帝国のアリア  作者: 晃
二章 お兄ちゃんは認めない
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11



アリアが街の入り口に着いたときにはお昼すぎになっていた。

荷物が重かったとはいえ、本当ならとっくに街を出ていたかった時間帯だ。

のんきに買い物してたのも原因のひとつと思われるが、食糧は大切だし、せっかくだから記念にあれもこれもとなってしまうのも仕方ないことだとアリアは割りきった。


ジョイがいつ気付いて追ってくるかはわからない。

けれど、アリアは見つからない自信があった。


うつむくと、女性特有の突起はなくそのまま足が見える、悲しい光景。この体型でこの髪の短さであれば、そもそも女だと絶対にばれない。



「アリア、出発するなら、一言くらい言ってくれ」



「え……」



顔どころか、後ろ姿しか見えていないはずの角度から、元親がまっすぐアリアの元に駆けてきた。

あまりにも驚きすぎてとぼけることすらできない。

元親はこの街に着くまでの道中と同じ旅衣装に着替えていた。どうみてもアリアとまた旅をする気だ。


「どうして街を出ていくとわかりましたの?」


「財布鞄」


財布鞄はお気に入りだったので最後まで置いていこうかどうしようか悩んだが、財布鞄が見当たらないとジョイに勘づかれるかもしれないし女性向けのデザインなので諦めた。


「買い物に行くときいたのに、財布鞄があるのは変。中を見たらお金が全部ないから」


それで部屋をあさったら他にもないものがあり、旅支度をして去ったのだという結論に至ったという。

納得したアリアはうなずき、ポツポツとわけを話した。


「貴族は財布鞄がなくても買い物ができますので、特別な理由がないかぎり財布鞄を持ち歩いたりしないのです。むしろお金だけ持って逃げてるとジョイ兄様に疑われる可能性の方が高いと考えましたの」


元親はアリアが急いで街を出ようとしていたことを尊重し、歩きながら話そうと促す。

アリアはすぎてゆく街の風景に目を潤ませながら、元親に礼を言って歩みを再開して話し続けた。


「実はジョイ兄様に家に戻らなければ周りに何か起こるかもしれないと脅されました」


だからその格好をして店を出たのか、とようやく元親はアリアの男装にふれる。

元親が迷わずアリアに駆け寄ってきたので自信がなくなったが、尋ねれば見た目はすごく変わってると彼は答えてくれた。


「ただ逃げ出しただけでは数日で見つかってしまいますから、こうやって別人になりすますことができればと思いまして。…………でも、私に付いてきて大丈夫ですか。ここで別れた方が面倒がなくて楽かもしれないですよ」


「いい」


元親は単語ひとつを呟き返して、アリアの荷物を肩代わりする。

その行為にアリアはドキドキしながら、元親を睨み付けた。


(『いい』って、なにが『いい』んですの?)


相変わらず平然とした表情で歩き続ける彼の数歩後ろで、アリアはしばらく悶々とする。





翌日、いつまで経っても待ち合わせ場所に来ないアリアにしびれをきらし、ジョイは店まで迎えにきた。


しかし彼を待っていたのはメッセージカード付きの1輪の花だけだった。


『お元気で』


差出人は書いていなかったが、丁寧で可愛らしい字を見て、すぐにアリアの仕業だと気付く。



「昨日の夕方に花屋からお手紙付きの花束がうちの店にも送られてきたの。突然やめてごめんなさいって。こっちは花束でそっちが花1輪だけってところが愛の差をうまく演出してて憎いわねー」


ジョイがメッセージカードを握りつぶすのを、キャサリンはふふふと笑いながら眺めた。


ちなみにジョイには一言で、自分たちには長々と感情がこもったお手紙だ。ところどころ涙のシミまであったので、無断で消えた二人のことについて従業員の誰からも文句は出なかった。

それに、ほとぼりがさめたらまた店にも顔を出すとも手紙に綴られていたので、もしなにか言ってやるならその時にしようとキャサリンは考えている。


「あなたももっと真っ正面から兄として接しないと、また逃げられるわよ」


ジョイはそんなキャサリンの忠告に顔を歪めて、饒舌な彼に似つかわしくないお辞儀だけの挨拶でその場をあとにした。


(貴族相手に偉そうなことを言ってしまったな)


少し経って、キャサリンはひとり苦笑いした。




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