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帝国のアリア  作者: 晃
二章 お兄ちゃんは認めない
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10



ジョイがレストランに訪れていたその時、アリアはパン屋の商品カウンターの前にいた。


「これとこれ下さい」


軽くて小さい丸パンが詰まった袋とジャムを受け取ると、先ほど別の店で購入したばかりの鞄にしまう。

鞄の中は他にも日保ちする果物や調味料、水や着替えが詰まっていて、これで満杯になってしまった。

その重さも相当なもので、アリアは鞄の紐をしっかり肩にかけ直して息を整える。


もうすぐこの街を離れてしまうので、どうせなら記念にと名産品の食料などを中心に買い物をしていったら予算ギリギリ容量ギリギリまで買い込んでしまった。

自分で働いたお金で買い物をしたことはこれが初めてで、色んな意味で楽しい。

同時に、いつもならお昼時の今はフロアを走りまわっているのにと不思議な感覚でつつまれていた。

仕事をせず好きなことをしていられた貴族の生活が終わった時からもまだひと月と経っていないのに、体はすっかり日中働くことに慣れているらしい。


(こんなに離れがたくなるなんて……)


エイディが朝から日が暮れるまで働くのは大変だとよく愚痴をこぼしていたので不安だったが、ただ養われるだけの時と比べたら自分の力で立って歩いているという実感があって本当に楽しい日々だった。


……だけど、しかたない。





街のメインストリートは市場(街の入り口近く)とガレリ商会(街の果ての湖ガレリ近く)を結んでいる。そのちょうど真ん中にあるのが役場だ。ちなみにアリアが働いていたレストランはどちらかといえばガレリ商会のそばにある。ジョイに役場で待ち合わせしようと提案したのも、レストランより役場の方が街の入り口に近くにあり、また街の中では待ち合わせ場所として有名だったからだ。


しかしアリアが役場を選んだ理由は他にもあった。

なにも言わなければ直接レストランまで迎えに来そうなところをさえぎって、レストラン以外の場所を待ち合わせに選ぶ……そんな行動をしたほうが「それっぽい」と計算したのだ。



風がアリアのうなじをサッと撫でてくすぐる。

働くため髪を高く結い上げた時、初めてこの感触を知った。


けれど今は、結い上げたからではなく、髪が短いためにこの感触がある。


アリアは今朝ジョイと会った後、買い物を手早くすませ、すぐに自室に戻り髪を切っていた。

その長さはアリアの身近な異性の誰よりも短い。

顔は変えようがないため、好き勝手できる髪の毛はまず女性ではありえない短さにしてしまったのだ。


その後は必要最低限の荷物をまとめてこっそり店を出るだけ。昨晩のうちに部屋は片付けていたので、荷物はアリアの想定より早くまとめることができた。

女性物の服や鞄などは全部そのまま部屋に置いていくことにしたので、今日部屋を見ただけではアリアが自分からいなくなったことには気が付かないだろう。





「ふぅ、買い物しすぎたかもしれません……」


持ってきた荷物は少なかったが店を出てから買った食料などがアリアの体力を消耗した。

役場を通り過ぎる頃には何度も荷物をおろして休んでいたが、顔見知りは誰もアリアに気付かない。

頭には男性用の帽子をかぶり、いつもの旅用マントの下には知り合いの少年に教えてもらった動きやすい服を、足には無骨なデザインの旅向きブーツを、きわめつけは元親が持っているような鞄と財布だ。

今のアリアはどこから見ても少年にしか見えない姿になっていた。




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