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帝国のアリア  作者: 晃
二章 お兄ちゃんは認めない
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08




「……繰り返すけど『絶対に連れ戻す』。それを拒むなら、お前が働いている店をはじめ、近くにいる人全員が不幸になったりするかもしれないね」




レストランに戻ってからも、開店時間になり体を動かし始めてからも、部屋で体を休めている時も、アリアの頭の中では、何度もジョイの言葉が響いていた。


(不幸……、不幸になるってどういう意味でお兄様はおっしゃったんですの……)


たぶんあれは脅しではない。

小さい頃からアリアに圧力をかける時、ジョイは実際に行動を起こして本物の恐怖を与えてきたのだ。


(なぜあんな人がモテているのでしょう)


彼女の回想ではすでにジョイは悪魔の顔になっている。

世の中の女性がなぜそんな悪魔に惹かれるのかアリアは一生理解できないと思った。

おそらく立場や目的が違えば、彼のようなタイプは犯罪者まっしぐらに違いない。


しかしあれが脅しでないとしたら、この店の人たちに何かよからぬことをすると宣言したも同じだった。

世間知らずのアリアと言葉が不自由な元親の二人を住み込みで雇ってくれた優しい人たちに、迷惑がかかるかもしれないと分かっていながらこのままでいることはもうできない。


「やはりここは、予定を切り上げてすぐにここをお暇するしかないでしょうか」


棚の奥の奥に大事にしまっていた財布鞄を取り出して中を確認してみるが、もうすぐもらえるだろう給金を足しても目標額に全然届かなかった。

これだけではこの街を出たところで、すぐ次の街で路銀が尽きてしまいジョイから逃げられないだろう。


もうどうしたらいいのか分からなくなって、アリアの目はしだいに涙で潤んできた。

フッと元親の顔がアリアの脳裏をよぎるが、彼を頼ってしまっていいものかためらう。

流れで元親とは行動を共にしてはいるものの、もはや目的地が同じというそれだけのつながりしかなく、彼の言葉の問題はそれほど重大ではなかった。都合が変わったならば、実はいつ別行動になってもかまわない、そういう関係なのだった。

つまり彼の立場になって考えると、アリアが迷惑をかけそうであるならさっさと消えてもらって、自分のペースで好きにフェメルを目指す方が遥かにいい。


(ダメですわ。私一人で解決しなくては……)







「アーリアちゃーん、ヴェーチェがデザートの試食に今から付き合って欲しいって言ってて──…あれ? なんか今日は部屋がきれいだね」


キャサリンがノックもせずに突然部屋に入って来た。同性のためか、彼女はこういうところにいつも遠慮がない。


「なっ、失礼極まりないですの! 私が汚い部屋でいつもすごしているような言いようはやめてください」


部屋の掃除は侍女がやってくれていたので、アリアは掃除をこれまでしたことがなかった。

とりあえず散らかしたものを収納スペースに入れてみるのだが、すぐに使うものを奥にしまったりして片付けたそばからまた散らかってしまう。

それにここ数日は兄の登場があったせいで、部屋で体を休めるころには疲れ果てていて、部屋を片付ける余力などとてもわいてこなかった。


「汚れているとまでは言わないけど、きれいじゃなかったのは確かでしょー。なにかあったの?」


キャサリンはそんなアリアの部屋によく突入していたため、今日は彼女の部屋が片付けられているのを不思議に感じたらしい。


「少しお片付けをしただけです。それよりヴェーチェさんを待たせているのでしょう。さっさと行きましょう」


「えー」とキャサリンは不満そうにうめいたが、ヴェーチェだけでなくデザートも待たせているのだとアリアが言いかえると、すぐに意識はそちらに向かった。





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