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帝国のアリア  作者: 晃
二章 お兄ちゃんは認めない
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04


アリアが嘘の名前を名乗っていたと知ったら元親はどう感じるだろう。

二人はそもそも出会って数日の浅い関係でしかない。しかも友人関係ではなく、少し前まではただの雇用関係だ。

もし逆の立場なら、アリアはまず気持ちいい感情は抱かない。


「あまりにもひどいで……」


兄を罵りたくてたまらないアリアだったが、次の元親の言葉を聞いて思考が止まった。


「別にいい。俺も本名、違う」




((((えぇえええぇ……Σ(゜Д゜)))))


ここの従業員たちはヴェーチェから元親の名前の正しい発音を教わってマスターしたのに、まさかの無駄骨で驚く。


アリアも「元親と距離が縮まった気がする」だとか考えていただけに、精神的ダメージが大きかった。


「…………」


「うわ~、なにそれ~!! 本名教えてもらってなかったの。さっみし~」


黙りこんでしまったアリアの傷口をジョイはえぐりにえぐる。

元親はそんなジョイに呆れたといった感じでため息をついた。


「アンタだけ帰れ」


話すのも面倒くさい。そんな雰囲気だ。

ジョイは自分の言葉がまったく元親に響いていないことに気が付くと、彼もこんなやり取りは時間の無駄とばかりに黙り、アリアを店から連れ出そうとする。

すると元親はダンッという派手な音を立てて、たった一歩で数メートル離れていた二人のそばへ寄った。


「えっ……」


音に驚いてアリアのものかジョイのものかわからない小さな声がしたと同時に、アリアは耳元で元親の息遣いを、ジョイは体中に激しい痛みを感じていた。


(な、なにが起こっていますの!?)


いつのまにかアリアの足元にはジョイが転がっている。

ジョイ自身もなぜこうなったのかわからないみたいで、口をパクパクさせるだけで言葉が出てこず混乱しているようだった。


「手加減している。………でも、何度もできる」


どうやら元親がなにかしたらしいが、やられた本人ですらその詳細はわからない。

誰がどう贔屓目に見ても、この場で一番強いのは元親だった。

もはや元親がゆらりと体を動かすだけで全員が警戒してしまう。


「元親、兄様に怪我させたらあとが怖いんですの」


アリアは元親が心配で、どうフォローを入れたら彼をかばえるのだろうかと頭がいっぱいになった。

しかしそんなアリアの心配をよそに、元親は平然とした表情を続けている。


「大丈夫。怪我していない」


床に転がされたジョイはこの発言が聞き逃せず「はぁ!?」と反論をしようとしたが、起き上がってみて彼はまた驚かさせられた。


「………怪我、してない。嘘だろ。うわっ、気持ちわる。なんなのコイツ」


あれほど体中が痛かったのに、今はきれいに痛みが引いて、体のどこにも怪我は見当たらない。

これにはアリアも絶句してしまった。

元親は相変わらず気だるそうに、早く帰ってくれという表情を遠慮なくジョイにそそいでいる。全員に注目されていてもなんのそのだ。


「またやる?」


元親に尋ねられ、ジョイは「遠慮します」と即答した。

少し乱れてしまった髪をちょいちょいと手で直しながら、ジョイは苦笑いする。


「もういいよ~。ここまでされちゃ僕でもどうしようもないからね。今日のところは引き上げる( ´△`)」


力で押し負けたような感じなので、どうしても格好がつかないが、明るい笑顔と軽い口ぶりのおかげでジョイに悲壮感はなかった。


「また来るよ」


「もう来なくてけっこうですの!」


やっと我にかえったアリアがジョイに向けてシッシッと手をふる。


「ダメだよ。また来る。お父様の絶対命令だから、ね」


「絶対……?」


嫌な響きだとアリアは思った。

ここまで旅を続けられたのは偶然じゃない。父が本気でアリアを連れ戻す気がなかったからだ。


「できればちゃんと現実をみて、自分から家に帰ると言ってほしいんだけど。……まあそれは僕には及ばない範囲の話だから」


アリアは一人で店を出ていくジョイになにも話しかけることができなかった。






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