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戦禮のアンジェクルス  作者: 黒須かいと
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第十章「伝説のその先へ」 (5)

 Ⅴ

「まずいよヨハン! 充填がそろそろ完了する、止められないよ! 一回ここから離脱しよう!」

 アスカたちは一旦アンジェクルスを降り、アポカリプスの砲台内部への進入へ成功していた。

 しかし、さすがに新兵器は甘くない。

 重要機材のプロテクタ―を剥ぎ取るのに、予想外に時間が掛かっていたのだ。

 ようやく機材本体を肉眼で確認した時には、すでに二発目発射まで五分を切っていた。

 それに、見たところこの本体自体も相当頑丈そうな作りであり、おそらく今見ているところが破壊されても、別の部分が仕事を引き継ぐような処理が施されている。

 そのため、ヨハンは次にその処理を破綻させる操作を行わなくてはならず、あちこちコードなどを引っぱり出している内に、制限時間が差し迫ってきてしまったのだ。

「もうちょっとだ! 諦めたら止めの三発目まで許しちまうぞ! この発射には間に合わねぇが、一番熱がこもる頃合いの発射直後にゃ間に合う! つまり、これ以上ないほどの花火が見られるって寸法だ!」

「その前に逃げ遅れたら僕たちが蒸発しちゃうでしょっ!」

「だったら無駄口叩いてねぇで、とっとと手を動かしやがれ!」

「やってるよっ!」

 ヨハンに予め手渡されていた爆弾を指定の位置にセッティングしながら、アスカは刻々と迫る時間に汗が止まらない。それはもちろん、ヨハンとて同じことだった。

「ヨハン、この一撃はどうしても地球に落ちちゃうわけだけど、耐えて……くれるかな?」

「一回当たれば地球の半分、二回当たれば地球の全部が焼け野原。って、単純に考えれば分かりやすいだろ」

 そしてきっと伝承にあるように死の雨が降る様な事になるだろう。二人は自分の想像にぞわりと身震いしそうになりながら、どうにか爆弾の設置を終える。

「よっしゃ! ずらかるぞ!」

「Yes! それじゃ僕につかまって!」

「ああっ? なんでだよ気色わりぃ!」

「言ってる場合じゃないでしょ? 君骨折してんだから走れないの! understand?」

 アスカはそう捲し立てると、背の低いヨハンを軽々と担ぎあげ、放り投げるようにアポロの待つコックピットへと着席させる。

「痛ってて……、たくっ! 気ぃ使うなら最後までしろってんだまったく……っ」

「ヨハン、あと一分しかないよ!」

 アポロが急かす中、ヨハンはすぐさま操縦桿を握り、出口を目指す。

「アスカ! 出来るだけ遠くへ離れるぞ! でなきゃ、光で目がやられちまう!」

『了解だよ!』

 モニターのアスカがそう答えた直後、アポカリプスの砲身が徐々に光だし、ハイパーレールガン特有の二本の柱が激しく電流を発し始めていた。



「……っ」

 倒れていたフィッツが目を開けると、そこは一面真っ白で何もない空間が、どこまでも広がっているようであった。

「こ、ここは?」

 座ったまま呆然とするフィッツに、後ろから声がかかる。

「神様の腹の中ってのは、随分とだだっ広いんだな……」

 竜也は少し眉をひそめながら、むくりと上体を起こし額を押さえる。

 彼を見て状況を理解したフィッツは、こみ上がる感情をぶつけてしまう。

「なんで……っ、なんで一緒に来ちゃうんだよ! 竜ちゃんの馬鹿っ!」

「うっ……、ちょっと黙っててくれ。頭に響く……」

 尚も頭を押さえ下を向く竜也に、今度は「え? だ、大丈夫?」と、おろおろし始めるフィッツ。そんな彼に、竜也はふっと笑みを溢した。

「心配するな。このでかいのに一方的に色々言われて、ちょっと脳みそ刺激されたっていうか……」

「え! 竜ちゃんもメシアの言葉が分かるの?」

「分かる……っていうのか、そう思ったって言うか……。とにかくなんだか妙な感じだ」

 あくまで言語としての理解ではなく、感覚器官での理解とでもいうのだろうか。野生の感とするには少々無理があるので、いずれにしろメシアが竜也に対し深く関わりかけたのは確かだろう。

「それで、なんて言われたの?」

「なぜかは知らないが“久しぶり”的なことなんだと思う」

 フィッツはその意外な報告に驚愕する。

「え? 君もメシアと関わりが以前あったってこと?」

「いや、俺自身じゃなく、俺の血に語りかけてるような……。とにかく、こいつの久しぶりは十年やそこらじゃない。きっと、随分と昔で、俺も正直よく意味が分かってないんだ」

 すると、今度は二人に向かってあの声が降って来る。


『一柱ハ種ノ支配ヲ、二柱ハ共存ヲ。人ノ子ヨ、汝ハ我ガ同胞ノ遺シタ、人ト我ラノ可能性ノ一部』


 脳へ直接痺れるように木霊する声に、竜也がそれを掻き払うようにがなる。

「あんたは一人じゃなく、二体いたってことなのか? もう一体はどうしたんだ!」


『我々ハ旅ヲシテ、コノ星ヘト辿リ着イタ。二柱ハ既ニ実態ヲ維持出来テハ居ナカッタ。二柱ハ人ノ子ヲ依代トシタ』


 フィッツはそこでふと、自らが文化祭で演じた演目を思い出す。

「政暦伝書第五節“英雄の身使い”――そうか、あれはアンジェクルスと絡めた後付の話だとばかり思っていたけれど、本来の出来事が言い伝えの中で多少変換されたものだったんだ……」

 それが本当ならば、竜也はあの身使いの少女の遠い末裔ということなのだろうか。

 確かに、それならば“久しぶり”と言われたという竜也の言葉の意味が分かる。

「なるほど、俺にも分かった。つまり、ここへ入れたのは俺があんたの仲間の血を引いてたからってことか?」

 メシアは無言であったが、それが回答であった。

 現物を見なければただの与太話と突っ撥ねもしたであろうが、実際に今自分たちはその物の体内へと納まっている。もはやすべてが事実なのだと受け止めざるを得ない。

 なによりも、そんな話しに拘っている間は、もはや竜也たちにはありはしない。

「なあ、頼む。今この地球は宇宙開拓同盟の連中に壊されかけている。あいつらの新兵器なんて落ちた日には、またあんたらが救う前の地獄絵図に逆戻りだ! だから、せめて奴らの攻撃を止めてくれ! 都合のいいこと言ってるのは、百も承知だ……けど、もう俺たちにはあんたに頼むくらいしか手が残されていない。――あんただって、この星の何かが気に入ったから修復して支配だなんてことわざわざしたんだろう?」

 体内に取り込まれる前のフィッツの言葉に乗せるように、竜也は必死に訴えかける。


『人ノ子ヨ、我々ハ汝ト同ジ気持チダ。コノ星ハ実ニ美シイ。生キトシ生ケルモノ、全テガ我々ニハ物珍シク、再生スルニ値スルト判断シタ。シカシ……』


 瞬間、二人の脳内には同じビジョンが浮かび上がる。

 倒れる人々、流血の広がる大地、大量殺戮兵器により生き物は死に絶え木々は枯れる。

 それは人間の争いの歴史……全てが破壊され、星が荒れていく様子であった。

「メシア……貴方は……」

 怒りとも、嘆きとも捉えられる映像に、フィッツは胸が締め付けられる。


『人ノ子ハ記憶ヲ風化サセ繰リ返ス。アト何度救エバ良イ? 我々ガ支配スル事デモママナラヌノナラ、アトハ何ガ出来ル? ワカラナイ……ワカラナイ……』


 神は人に無償の愛を与えてくれるという。しかし、それに等しいのやも知れぬ存在は、酷く苦悩していた。

 今回自身が支配したことで、この争いが起きたという考え方もできる。ならば、ここはもはや人という種と関わらないという選択もあるのだ……と。

 二人はこのどこからやってきたのかも分からぬ旅人に同情すら覚える。

――そうか、メシアは結局この星だけでなく、人も好きなんだ。だから、全て救いたいのに、それが適わないから、こんなにももどかしいんだ。

 相手の感情が流れ込んでくると同時にフィッツはしゃがみこむ。

 しかし、竜也は一歩前に出ると、真っ白な景色の中に、すっと手を伸ばし、まるで宣言するように言い放った。

「分かった。だから、この一回でいい。一回だけチャンスをくれないか? それからなら、あんたがどうしようかなんて自由だ。人間なんて見放して、またどこかに旅立っていったっていい。本来、あんたみたいなのがいなくたって、俺たちは一人一人、自分たちの考えで生きていかなきゃいけないんだ。だからもう、この先は、あんたを頼ったりなんてしない」

「りゅ、竜ちゃん……」

 フィッツは不安そうな顔で竜也を見上げる。

 そんなことを約束してしまって、自分はどうなろうとも構わないが、竜也まで久遠の旅路へと誘われてしまったら……それはフィッツ自身が一番望まない結末であろう。

 だが、そんな心配を知ってか知らずか、竜也は得意気にフィッツに笑ってみせる。

「よしっ、周りの様子が確認できる。これってメシアが許可してくれたってことだよな?」

 竜也の眼前には周りの海や陸が広がっているのだろう。フィッツにも同じく、まるでメシアを操縦しているような光景が見て取れた。

「竜ちゃん、あれ!」

 さらにフィッツには地球の外の様子まで映る。

 そこには今にも地上を味方艦隊ごと穿とうと、不気味な火花を散らせる砲身、アポカリプスがあった。

「くそっ! 何か防ぐような……じゃなければ、相殺出来る様なものでもいい! 何かないのかっ?」

 すると、竜也の気持ちを汲み取ったかのように、二つの光が飛んで来る。

 その発光体は、実はそれぞれ出雲士官学校と、ヴァルキリー女子士官学校の地下にメシア同様密かに格納されていたものであった。

 主の呼び声に答えるように復活したそれらは、メシアの背中に翼のように勢いよく刺さるように組み込まれる。

「――っ!」

「竜ちゃんっ?」

 呼応するように、竜也の背中には激痛が走った。だが、狼狽するフィッツは他所に、竜也は再びにやりとした笑みを浮かべる。

「よし、いいぞ。俺を使う気にいよいよなってくれたみたいだな」

「まって……っ! まさかそれって……」

 その痛みは本来、フィッツ自身が背負うものであったのではないのか。“人ならざるものとの融合、結合する痛み”直感的にそう理解したフィッツは青ざめる。

 これではナノマシンを生身の人間に植え付けるのと変わりがない。それが意味するものは、即ち“死”である。

「ダメだよ! 君の血の中にあるものは思念であって、物理的に彼らを受け止めきれるものじゃない! お願いだから、僕に全部任せてよ!」

「――嫌だね」

「……竜ちゃんっ!」

 フィッツにしては珍しく声を荒げた。それは苛立ちというよりも焦りであったに違いない。

 そんな親友を嗜めるように、相手はいたって冷静に口を開く。

「言ったろ? アンジェクルスは誓鈴がいないと意味がない。――フィッツ、俺はお前のなんだ? 親友で、家族で、相棒で……とにかく、背負うものは全部半分ずつじゃないと気がすまないんだよ」

 それにと、竜也は続けた。

「今俺たちが捨て身でやらないで、誰があんなもの止めるんだ? 一発だってここに落としちゃいけない。あんなものは……絶対にっ!」

 先ほどメシアに見せ付けられたビジョンがフラッシュバックする。

――そうだ……一発だって、その時に失われたものは、本来なら二度と戻っては来ないんだ。

 メシアのいない未来。それを考慮すれば、答えはたった一つだ。

 フィッツは苦しげな表情を振り払うように、竜也の手を握り締めた。

「行くよ、竜ちゃんっ!」

「――ああっ!」


 二対の翼は肩口へと競り上がると、がくんと前に倒れ、それらは捻られていくように前へと螺旋状に伸びていく。

 そして最終的に形どられたものは、まるで巨大な剣が二本重なり、十字を描いていているような物体であった。

 宙に浮かぶそれの中心点は、真っ直ぐに今まさに凶悪な火力を解き放ったアポカリプスを捉える。そして――


『いっけぇえええええええええええええええええ――っ!』


 二人の咆哮はアポカリプスの攻撃にぶつけるように響いた。

 彼らの願いは、古代最強を誇ったメシアの武器を発動させたのだ。

 回転する十字から発射された巨大な光は、同じく巨大な敵の砲弾と激しくぶつかり合い、両者とも負けず劣らず、接点の押し引きを繰り返す。

 その光景を表す事柄があるとするならば……いや、それは人の言語や見地では計り知れないものであろう。


「――ぐっ!」

 現場の目の前にいたセシルは、十分な距離を取り、防御壁も展開していたはずであったが、そのあまりの威力に機体が吹き飛ばされそうになる。

 目などは当然開けていられず、とにかく夢中で操縦桿を握るのがやっとであった。

 

 一瞬であるはずなのに、永遠であるかのような悪夢の時間が過ぎる。

 そしてとうとう、吐き出し続けていたアポカリプスの攻撃がうっすらと和らいでくると、同時に砲台の内部から次々に火の手が上がり始めた。

 地球共同連邦を恐怖の坩堝に落とし込んだ最新兵器は、今や自身の孕んだ熱を相乗効果に崩壊の音を立て崩れていく。

 その様子を薄っすらと目を開け、やっとのこと確認した少年たちは、固唾を呑んでからお互いの顔を見合い、歓喜の声を上げた。

「よっしゃあああああっ! 見たかこんちくしょうっ! ざまぁ見ろ! お前らご自慢の無駄にでけぇ竿、この俺らがへし折ってやったぜ!」

「やった、の……? 本当に僕たちが……?」

 ヨハンの下品な雄叫びはもはやアスカの耳には届かぬほどに、この状況に信じ難いまでの衝撃を覚える。それと同時に、アスカの心には、対象物を破壊しても解決しない靄が掛かっていた。

「ほら、お前も喜べよ! 俺たちは地球を守った英雄だぜ?」

 今にも小躍りしそうな勢いで話しかけてくるモニターのヨハンに、アスカは消沈した声音で問う。

「で、でも、地球はどうなったの? 一発目、落ちちゃったんだよ……ね?」

 その科白に、ヨハンの高揚した気持ちは一気に落ち着いてしまった。

「……わかんねぇよ。くそっ、どうにも後味がわりぃぜ……」

 二人は虚しげに、ぼんやりと地球を眺める。それを守ろうと散っていった艦隊の姿は、ほとんど残っていない。

 残っていたのは、ガニアンから駆けつけた味方艦隊と、敵艦隊のみである。

 宇宙開拓同盟に撤退する気配はない。あちらも最後の一機となるまでこの戦いをやめないつもりであろうか。

「不毛過ぎるぜ……。もういい加減にしやがれ! ――どっちでも……なんでもいいから、やめようぜ……こんなん……」

 戦意の欠片ほども残っていないヨハンたちの目の前で、再び艦隊戦が始まろうとしていた、その時である。

「ヨハン、あれはなんだと思う?」

「……は?」

 アスカの指さす方向を見て、ヨハンはいよいよもう何も見たくなくなった。いっそ、先ほどの光で目を焼かれていた方がましであったかもしれないとすら思う。そこには巨大な、なにやら戦艦とも新兵器ともつかない、複雑に楕円型を積み上げたような人工物があり、ヨハンにそう思わせるには十分な出で立ちであったのだ。



「竜也さん! フィッツさん!」

 セシルはアンジェクルスから降り、自らの足で海岸線をくまなく捜索していた。

 彼が目を開けられるようになってから辺りを見渡すと、そこにはすでにメシアの姿はなく、二人の気配もすっかり見失ってしまっていたのだ。

 セシルはまるで自身が迷子のように、あたり構わず、リリスが制止するのも聞かずに走り回る。

 しかし、やがて力尽きたように、砂浜に両手を付いて蹲ってしまう。

「どうして……どうして皆僕を置いていってしまうんですか? お二人は僕に出来た、初めての親友と呼べる人たちなんです……。それなのに、どうして僕だけ除け者にするんですか……」

 砂を抱きしめるように握りこみながら「ずるいですよ……」と恨み言を零す。

 この世界にたった一人残されてしまったような寒々しさが、どうしようもなく少年の胸を突いた。

 絶望的な様子に、彼の誓鈴が声を上げる。

「セシル! ちょっとあれを見て!」

 リリスの呼びかけにはっとして顔を上げると、海面に一つ、ぼんやりとした光の玉が舞い降りる。

 その玉の中には、一瞬天使のように翼を生やした人物がいたように思えた。

「フィッツ……さん?」

 確信はないが、自然とその名が口からこぼれる。

 セシルは気づくとその光が落ちた辺りへ行こうと、夢中で海水を掻き分け進んでいた。

「竜也さんっ! フィッツさんっ!」

 諦めずにまた叫び続けると――

「……ぷはっ!」

「フィ、フィッツさんっ!」

 セシルの声は思わず裏返る。いきなり目の前から求めていた人物が頭を出したのだ。

 普段の豪奢なまでの金髪は、なぜか途中からばっさりと抜け落ちたようになくなっていたが、明らかにそのエメラルドグリーンの瞳を持った顔は、彼そのものである。

「セシルっ、お願い! 竜ちゃんを運ぶのを手伝って! 竜ちゃんが……竜ちゃんが息をしていないんだっ!」

「――えっ?」


 浜に上がると、セシルはすぐに竜也の口元に手を当ててみる。

 まったく空気を取り入れている様子はなく、とにかく気道を確保せねばと、仰向けに寝かせ、顎を指で上げ、胸の上下を確認する。

「だめです……反応がありません」

 セシルはそういうが諦めはしなかった。すぐに心臓マッサージに移行すると、呆然としてしまっているフィッツを呼び覚ますように指示する。

「フィッツさんは人工呼吸を!」

 はっと我に返ったフィッツは、慌てて返事をすると、セシルの合図に合わせて出来るだけたくさん息を吸い込んだ。その時――


「……げっほ! げほげほっ!」


 二人は突然水を吐きながら咳き込む竜也に驚きぱっと緊急処置の手を止める。

「りゅ……竜ちゃん?」

 心配で彼の顔を覗き込んだフィッツに、竜也は急に上体を起したため、勢いよく二人の額は衝突する。

「――いったぁああいっ!」

「つっ……おま、なんで……顔近すぎだろ、バカ……っ!」

「だってぇええ!」

 今にも子供のように泣き出しそうになるフィッツを、意味が分からないながらも、竜也は「とりあえず落ち着け」と頭に手を置いてやる。

 その様子を見守っていたセシルも、自然と表情が綻ぶ。

「……良かった、本当に。お二人とも……よく、ご無事で……」

 こちらもまたぐすりと鼻を啜るので、竜也はどうしていいものかと途方にくれる。

 すると、彼らの目の前の空が、なにやらモザイクをかけたように、突如揺れ動く。

「あれは一体……?」

 フィッツは思わずあんぐりと口を開ける。

 そこにはヨハンたちも宇宙で見たものと同様の、楕円型の人工物が、まるで霧が発生するようにして現れたのだ。

 段々とその姿形がはっきりとしてくると、それは宇宙航行するためのモジュールが寄り集まっている集合体だということが分かる。

 そして、人工物からは大音量で、次のようなことが告げられた。


『皆さん、武器を捨て、停戦してください。我々はこの戦を望んでいません。私どもは、貴方がたとは中立の立場であり、この戦を収める条約を用意してまいりました。我々に、戦う意思はありません。我々が望むのは平和的対談です。――繰り返します』


 凛とした女性の声は、何度も訴えかけるように、朗々とした口調でそう伝え続ける。

 事実上、この時をもって、地球共同連邦と宇宙開拓同盟の長きに渡る争いは、終結を迎えることとなるのであった。

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