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戦禮のアンジェクルス  作者: 黒須かいと
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第九章「叛逆者」 (6)

 Ⅵ

 営倉で不貞寝を意気込んでいた竜也に、それは許されなかった。

 クロムウェル大将の号令が、けたたましく檻内に響き、いくらも睡眠時間を取らない内に起こされたのだ。

『諸君、これよりガニアン要塞を放棄し、持てる戦力をもって月へと向う! 我々に主砲を浴びせておいてすぐに立ち去ったあの艦隊が、よりにもよって地球の目の前に現れた! これは地球存亡の危機である!』

 その捲し立てる台詞に、竜也とセシルは顔を見合わせる。

「ああっ? つまり緊急事態だから怪我人は置いてけってことか?」

「それじゃ目の前の敵要塞に無償で人質を差し出すようなものです! ――まさか……ここで死ねなんて命令、下しませんよね?」

「そんな馬鹿な命令あってたまるか! くそっ! とにかく誰でもいいからまずはここから出せっ!」

 竜也たちが解放されたとしても、事態に劇的変化があるというものではないが、とにかくこんな時に閉鎖空間に閉じ込められているのだけは我慢ならなかった。

 彼は感情のままがむしゃらに鉄格子を引っ掴む。すると――

「――っ! あ、開いた……?」

 いともあっけなく解放された二人は拍子抜けした。 

 一体どういうことだと扉のナンバーキーを表から見ると、そこには小さな付箋が貼り付けてあった。


『ダミー、戦艦、時間稼ぎ、パトリ』


 それだけ走り書きしてある紙切れを握って、二人は首を捻った。

「どういう意味だこれ? なぞなぞか?」

「おそらくフィッツさんが貼り付けて行ったのでしょうけど……」

「あいつ、時間差で施錠が解けるように細工して、さらにこんな物までくっつけていったのか……」

 どこまでもこういうところは器用な奴だと、感心を通り越して呆れかえってしまう。だが、相手がこう出て来るとなると、竜也も必死に四つの単語が意味するところを当てなくてはならない。

 このタイミングでこんなメモ書きを残していくことも考慮しつつ、何度か単語を入れ替えてみたりして、二人でぶつぶつと呟く。傍から見たらなんとも滑稽な姿であっただろう。

「なあ、これ、ひょっとして何とか負傷者を避難させる手立てなんじゃないか?」

「ええ、僕もそう思います。たぶん、戦艦のダミーを用意して時間稼ぎをしている間に、一先ずパトリまで負傷者を運ぶ……ということではないかと」

「でも、こんな時にそんなこと手伝ってくれる奴いるか? もう皆動ける奴は大慌てで月に向う準備してるぞ?」

「このメモは僕たちに宛てられた物です。ならば僕たちが先導することが大前提かと……」

 ここガニアンは戦闘の要所。戦艦のダミーくらいはいくらでもあるはずだ。しかし負傷者を運ぶ手立てとなると――そこで竜也ははたと閃く。

「俺たちが鹵獲した戦艦!」

「確かに、あれなら負傷者を運べます!」

 そうと分かれば善は急げとばかりに、二人は営倉部屋を飛び出した。

 目の前に広がる廊下では、人々が右往左往しながら、大移動の準備を整えている最中である。

 二人はその波を掻き分けるように、負傷者が集められているエリアへと向かう。

 曲がり角に差し掛かった時「きゃっ!」という短い悲鳴がぶつかった。

「お前……っ、ロニン?」

「ひゃっ……ご、ごめんなさい!」

 竜也の顔を見るなり怯えて固まる彼女に違和感を覚える。

「一人で行動して大丈夫なのか? ココットは? サンドラはどうした?」

 ロニンは質問には答えず、ただ瞳だけを忙しなく右往左往させている。

 すると、セシルは何か悟ったように、彼女の手を握った。

「まさか、ここから逃げようとしていましたか?」

 その途端、彼女は手を振り払うと、壁際にへたれこんで人目も憚らず大声で泣きだしてしまう。

「だって……っ! 私には何にもできないもんっ! 皆死んじゃうの、もう見たくないんだもんっ!」

「何言ってるんだ! これから死なないためにも皆でがんばってるんだろうっ!」

 竜也の喝にびくりと彼女は肩を震わせて、泣き声は幾分小さくなる。

「ロニンさん……例え今の戦乱から逃げ出したとしても、帰るべき場所がなくなってしまっては意味がないんですよ?」

 セシルが優しく諭すように語りかけると、すすり泣きながら言葉を絞り出す。

「私、私どうしたらいいの? 怖いの……ここにいたくないし、もう戦いたくない……」

「出来ないって言ってるやつに無理やり戦場に立てなんて言わない」

 竜也の口調はセシルより明らかに強くきつくもあったが、低く落ち着いたものでもあった。

「ただ、お前が仲間を見捨てて一人で逃げるようなやつだって知ったら、キュリア先輩はなんて言うだろうな」

「――っ! 酷いよっ! そうやって私を責めるの?」

「違う、自分で考えろってことだ。お前が何を目標として軍人になろうと思ったのか、俺は知らない。だから、地球が危ないって時に、仲間を見捨ててでもどっかに隠れていたいっていうなら好きにすればいい。けどな、少なくともキュリア先輩だったらそんなことは言わない。そんなことをいう人間だったら、お前たちの事も助けようなんてしなかったはずだ」

 一呼吸置くと、竜也は片膝をついて耳を塞ごうとするロニンの小さな両肩を掴んだ。

「お前がどんな形でも生き抜いてくれるなら、それはそれでキュリア先輩は喜んでくれるかもしれない。だが、ここから逃げるって一体どこへだ? どこに生き残れる保証がある? 地球自体に帰れなくなれば、お前はただただ宇宙に漂ってるつもりか? それが生きてるってことになるのか? 俺は……少なくともそんなのは嫌だ。自分の生きる道は自分で切り開くしかない。こればっかりはもう誰も助けてはくれないんだ」

 さっと立ち上がると、竜也は「俺が言いたい事はそれだけだ。後はお前が答えを出せ」と付け足し、その場を後にした。

 ロニンはしばらく全身の震えを両手で抱き締めていたが、膝に埋めていた顔を上げると、辺りの行きかう人の波を見つめる。

「キュリア先輩……私、死ぬのはやっぱり怖いよ……。先輩みたいに出来るかって言ったら、きっと無理。だけど、これ以上皆が傷ついて、地球にまで帰れなくなるなんて……そんなのもっと嫌だよ。だって地球には、私の大好きなお兄ちゃんもお母さんとお父さんも……それこそ、キュリア先輩の家族だって、みんな、みんな居るんだもん……」

 ぐすぐすと涙を拭いながら立ち上がると、隣にはいつの間に居たのか、ココットが立っていた。

「先輩……」

「大丈夫だよ。あんたの事は何があってもあたしが……」

「やめてくださいっ! それ以上言わないで!」

「……ロニン?」

 驚くココットに首を二、三回振った彼女は、何かを決意したように、無理に笑顔を作って見せた。

「ダメだよ、先輩まで……。先輩までそんなことしたら、私ちっとも嬉しくない」

「けど……」

「竜也くんに言われた通り、自分の道は自分で切り開きます。誰かが誰かのために犠牲になるなんてもうたくさん! だから……皆で一緒に地球に帰れるように、がんばりましょう? きっと、キュリア先輩もそれを望んでます」

 ココットは後輩の言葉に静かに頷いた。


「……またやったかな、俺」

 ぼそりと独り語ちる竜也は、少し自己嫌悪感を覚えていた。

 サンドラに言われた『誰も貴方の様に強くなんてなれない』という台詞が、少なからず胸に刺さり思い起こされるのだ。

 セシルはそれに対して苦笑しつつも彼をフォローする。

「大丈夫ですよ。彼女たちは元から自分で望んで軍人になる道を進んだんです。今がだめでも、いずれ立ち直ることだって出来ます。それに、貴方の言葉はいつだって誤魔化さず真っ直ぐで、僕は好きですよ」

 そういうお前こそストレート過ぎるだろうと、竜也は柄にもなく照れた。


 負傷者が集められているエリアは、軽傷者はもはや地球に向け準備に取り掛かり居らず、重傷者のみが取り残されていた。

 状況から自らの運命を呻き悲しむ者もいれば、ぼんやりとただただ天井を眺めている者までいる。

 それぞれに共通しているのは、これから味方に置き去りにされ、敵の捕虜となり収容されるのかという諦めと絶望感である。

 いや、捕虜ならまだ良い方かもしれない。パンデミックは何をするのか分かったものではない。ひょっとしたら、殺処分という判断を下すかもしれない。

 重傷である身でありながら、精神的にも皆追い詰められていた。

「あ? 竜也、セシル、お前たち営倉入りしてたんじゃねぇのかよ?」

 松葉杖を付きながら、ヨハンは驚きの声を上げる。

「こんなに騒がしくされたんじゃ昼寝もしてられないっすよ」

「はは、その様子じゃ全っ然反省してねぇな」

 やれやれと壁にもたれかかると、ヨハンは松葉杖の先で向こう側を差す。

「ほら、お前らはぴんぴんしてんだ。早く月に向って出発しやがれ」

 取り乱してはいない姿が、余計諦めてしまっている体を表している。

 あの普段底なしに明るいヨハンがそれほどに参っているのだと思うと、セシルは胸が締め付けられるような思いに駆られる。

「何言ってんだあんたは」

 だが、そんなことはお構いなしとばかりに、竜也は呆れかえった表情で返す。

「足がちょっと折れてるだけで重傷人扱いされると思ってるのか? 先輩にはしっかり脱出の手伝いしてもらうっすよ」

「……はぁあっ?」

 お前こそ何を言っているんだとばかりに両目を見開くヨハンに、竜也はストレッチャーやベッドに寝かされている人たちを指差して告げる。

「あれ押す事くらい出来るだろ?」

「――っ! まさかお前ら……」

 真意を察したヨハンは驚愕の色を隠せない。

「とりあえず三人で運べるだけ鹵獲した戦艦に運び入れるぞ。セシルはそのまま格納庫に残って、ダミーをありったけ飛ばしといてくれ!」

「わかりました」

 竜也は一番近くにいた怪我人のストレッチャーの柵に手をかけながら、さらに続けて大声で指示する。

「車椅子が使える奴は自力で俺たちについて来い! これからパトリに退避する!」

 その言葉に一気に場は奮い立った。

 まだ生き残れるチャンスがある。その事が、彼らの痛み軋む足を、腕を動かしたのだ。

 ヨハンは二人の発想に少し呆れてもいたが、こいつらにだったら本当に出来るかもしれないと、松葉杖をストレッチャーの脇に乗せ、威を決して片足で押し始める。

 その時であった。

「三人とも! 僕たちも手伝うよ!」

「私もお手伝いいたしますわ!」

 走り寄って来たのは他でもない、アスカにサンドラ、そして――

「わ、私も手伝うよ! シャイアンちゃんも一緒に連れてくんだから!」

「あんたらがやるっていってるのに、あたいが付き合わないわけにはいかないだろ?」

 続いてやって来たのは先ほどまで泣いていたはずのロニンと、予備の車椅子を畳んだ状態で二つ抱えてきたココットであった。

「皆……」

 もうとっくに月へ向って行ってしまったと思っていた仲間たちが全員集まった事に、誰よりも驚いたのは竜也であった。

「竜也様、いい加減単独で格好つけないでくださいまし。置いてけぼりにされると……その、さ、寂しいですわ」

 むっとしながらも顔をほんのりと染めるサンドラに、緊急時にも関わらず張りつめた気持ちが何だか解れて行く。

「今度は僕たちも一緒に命令違反させてもらうからね!」

「良いのかお前? こいつらみたいに後で営倉入りの罰ゲームつきかもしれないぜ?」

「むしろ望むところだよ! その前に君のギブスに恥ずかしい落書きするのが先だけどね!」

 いつものように軽口を叩くアスカとヨハン二人にも安心感を覚える。

「竜也くん、私、やれることからがんばってみるよ。だから、皆で生きて帰ろう?」

 ロニンの目元はまだ赤く腫れあがっていたが、確かな決意が力強く伝わってくる。ココットもその様子に柔らかな笑顔を作っていた。

「……竜也さん。僕、とても今、胸が熱いです」

「そうだな、俺もだ……」

 竜也はぐっと拳を握りしめると、本当はここに共に居たかったであろう親友の分も、皆に感謝した。

「よし……っ! 皆でここから脱出するぞ、急げ!」

 そこからの動きはとても素早かった。

 全員が訓練を受けた軍人であり、皮肉にも全体的に体が不自由な者が多いことが幸いして、無用な混乱が起こらなかったことも確かだが、それにしても皆一様に協力的であった。

 “天野龍一の再来”密かに老年の兵士が語った噂は、この時まだ本人の耳に入る事は無かった。

「竜也さん、いつでもダミーの陰からワープが出来ます!」

 鹵獲した戦艦の操縦席に座るセシルに頷くと、竜也はロニンに向き直り確認する。

「シャイアンも大丈夫だな?」

「うん! ちゃんと生命維持装置ごと乗せられた。いつでも出発出来るよ!」

 彼女の後ろには、アスカと共に仲間の誓鈴たちも勢揃いしている。

 それは、彼とサンドラが機転を利かし、仲間のアンジェクルスをあらかじめ移動させ、回収出来ていた事を意味していた。

 緊急命令の混乱に乗じたとはいえ、味方の艦からこっそり持ち出すのは、さぞ骨が折れた事だろう。

「ヨハンのメタトロンも“一応”乗せといたから、故障してるところは、まあ自分で何とかしてね」

「アスカっ! てめぇまだ俺の事働かせるつもりかっ?」

 痛む足を押さえながら、ヨハンはぜいぜいと肩で息をしている。

 無理もない、骨折した足で何度も往復し、ストレッチャーをひたすら運び入れていたのだから……。

「……ありがとう、皆」

 あまり大きな声ではなかったが、竜也のその言葉に、一同はなんだかむずむずとくすぐったい気持になる。

「ほら、お前があんまりいい子ちゃんなこと言ってると、宇宙とはいえ槍が降ってくるかもしれないぞ? とっとと出発しねぇかっ!」

 ヨハンの言葉に引っかからないわけではなかったが、ここは素直に頷いた。

 皆を乗せた戦艦は上手い事宇宙に浮かぶダミーの影を通り、要塞の裏側へと出る。

「目的地パトリ。ワープ、開始します」

 セシルの落ち着いた声が、艦内に知らせた。




 竜也たちが脱出を試みる頃、フィッツとキリルは一足先にパトリへとすでに到着していた。

 補給地点の要であり、ガニアン要塞を放棄する今となっては、ここが宇宙の最重要ポイントと成り得ている。

 当然パトリにも月と地球で戦闘が始まっているという連絡は届いていた。

 その地球にこれからフィッツを送らなくてはいけないキリルは、安全なルートを確保しなければならず、頭を抱えている最中である。

 月までは移動手段である小型軍用艦単機ならば、こっそりワープで近づけるとしても、地球にまで降り立つには交戦中の只中を航行することとなる。すなわち、ワープの出所によってはすぐに撃墜されてしまうことだろう。

 かといって地上の表面までのワープは許されていない。なぜならば、ワープ時の歪みに周囲の物が巻き込まれかねず、地表につかぬよう空中で寸止めなどという微妙な調節までは出来ないからだ。

「あのぅ、たぶんなんですが、きっとまだ軌道エレベーターは使えると思うんです」

 休憩用ベンチに腰掛け、端末でルートを探っていたキリルに、ひょっこりとフィッツが顔をのぞかせる。

「根拠は?」

「ええと、僕なら出来るだけ月の人たちを地球に避難させようとするはずです。敵も目的が月の制圧からの地球攻略なら、わざわざ攻撃もしてこない民間用の軌道エレベーターを破壊することを先にするとは思えないんですよね」

 通常軍は宇宙戦艦を使い月まで航行する。軌道エレベーターはあくまで一般市民の移動手段なのだ。それに、敵はいくら大艦隊を率いていようと、月の防衛艦隊と地球の援軍、二方向から攻撃を受けている。その状態で、軌道エレベーターのことなど気にする余裕があるとも思えない。

「大型トラックくらいのサイズまでなら運ぶ事が出来るので、キリルさんのアンジェクルスも何とか運べるはずです」

「しかし、民間用途のものを軍関係者が使うのは些か言い訳に困るな。緊急避難命令が出されていたとするなら尚更……」

 軌道エレベーターを牛耳っているのはあくまで民間企業だ。軍人が我が物顔でそこ除けとは、さすがにいい難い。

 しかし、フィッツは顔に疑問符を浮かべたように顎に人差し指を置き、さも当たり前のように言ってのける。

「僕、大型トラックって言いましたよ?」

「ん? いや、今はアンジェクルスの運搬方法を……」

 言いかけてキリルははたと止まる。

「……なるほど、相変わらず悪知恵の働くやつだ」

 含み笑むと、キリルは「それで行こう」と立ち上がった。

 

 月の住民たちは大慌てで各家庭、運べるだけの家財道具を抱え、皆軌道エレベーターの搭乗口へと殺到していた。

 民間企業も警備会社に大量発注をかけたが、それでも場は大混乱の様相を呈していた。

 そこに、キャスケット帽を目部下に被り、ボランティア団体のマークを付けたトラックの操縦席から、搬入許可書を手渡す男の姿があった。

 紙を受け取った受付の警備員は「ふむ」と男の顔をちらりと確認した。

 助手席には男の子供だろうか。可愛らしい金髪の髪を下ろした娘が座っていた。

「民間用の支援物資か」

 事務的な口調で許可書に目を通す警備員に、キャスケット帽の男は苦笑いする。

「はい、これだけ避難するとなると、何かと必要なものも多いんですよ」

「ご苦労な事だな。よし、良いだろう。乗せなさい」

「……どうも」

 搭乗手続きを済ませ乗り込むと、もう良いだろうとばかりにキリルは帽子を脱ぐ。

「ここまで偽装する必要があったか?」

 フィッツは髪を束ね直すとにっこりと受け答える。

「こういう時軍の人間っていうのは民間人の目の敵にされるんですよ。いくら彼らの支援物資だと言っても、それにかこつけて地球に逃げ帰るんじゃないかなんて思われたら面倒くさいじゃないですか」

 なんとも疑り深いことだと、キリルは少年に溜息を洩らす。

「どうにもこういうのは性に合わん」

「真面目そうですもんね」

「大人をからかうな」

 キリルに注意されくすくすと笑うフィッツに、言い知れぬ違和感を覚える。

 それは今感じたものではなく、竜也たちに救出されてから初めて話した時からひしひしと感じているものだった。

 その正体がなんなのかははっきりとしないが、自分の感に触れる物があるのは確かだ。

 キリルが無意識にフィッツをじっと見つめ観察していると、やんわりとした笑顔が返って来る。

「僕の顔に何かついてますか?」

「……いや」

「大丈夫ですよ。僕は僕です」

 エメラルドグリーンの瞳が、まるでキリルの心を見透かすように見つめ返される。

「僕も変な感じはしてるんです。何かに引き寄せられているような、ざわつく感じ……」

 フィッツは胸の前で手を握りこむ。

 彼の感覚が果たしてキリルが受け取っているものと同じなのか定かではないが、どちらにしろ、これから地球に降り立つことに、得体の知れない不安感が募るのは確かだった。

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