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戦禮のアンジェクルス  作者: 黒須かいと
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第八章「錯綜」 (7)

 Ⅶ

 時間は少し遡る。

 竜也は敵艦内からフィッツを救出しミカエルに乗り込むと、すぐさま要塞パトリと連絡を取った。

「敵艦発見、制圧完了。捕虜を脱出ポッドに詰めておきますから、誰か拾いに来てください。以上!」

 困惑気味の相手の反応は気にせず、竜也はセシルと共に艦橋に向けてアンジェクルスの武器を突き付けた。

「お前ら今すぐ武器を捨てて脱出ポッドへ乗り込め! さもないと船ごと宇宙の藻屑にしてやるっ!」

 接触回線で通話する竜也の怒号は、さしずめ宇宙海賊である。

 その迫力に、彼はヒーローよりもアウトロー向きの人物なのかもしれないと、フィッツは隣で縮こまりながら密かに思った。

 竜也の脅迫から数秒の間を置いて、敵からの返信が届く。それは全面的に降伏し、言われた通り行動するとの旨であった。

 さすがに彼らも竜也の大立ち回りを見せられたのでは、気持ちが怯んだようである。なにしろ、艦内には死屍累々と、竜也の切り捨てた戦闘員たちが転がっているのだ。戦意を喪失するのも無理はない。

 十分ほどしてパトリ側の迎えの船も到着し、竜也たちは捕虜を引き渡すと、すぐに敵の船へとアンジェクルスを格納した。

「おい、鹵獲した船をどうするつもりだ?」

「決まってるだろ。こいつでガニアンに直行だ!」

 あまりにも勝手過ぎる特進少尉たちに、パトリから来た将校がまだ何やら反論を叫んでいたが、竜也たちは完全に無視して艦橋へと上がった。

「セシル、操作は分かるか?」

「任せてください」

 こうして竜也たちはガニアンへ敵の船を使ってワープを試みたのだ。彼らのその試みは無事成功を収めたが、目の前に広がる光景は信じがたいものであった。

「なんだよ……これ」

 眼前の残骸の凄まじさに、竜也は驚きを隠せない。セシルもまた持ち前の能力により、様子だけで全てを悟ってしまい、頭を抱え狼狽する。

「酷い……めちゃめちゃだ。皆は無事なの?」

 フィッツの疑問に二人も同調する。

「恐らく会戦の結果がこれだろ。だとしたらあいつらも参戦してたはずだ」

「ま、まずはガニアンに連絡を……」

 セシルは慌てて地球共同連邦の通信コードを開くため、操作パネルに触れようとした。が、聞き覚えのある声が、外部からスピーカーにうっすらと流れ込んでくる。

『み、なさん……無事……で、すの……。誰か……答え、て……』

 ノイズで途切れ途切れだが、その弱々しい声音は、間違いなくサンドラのものであった。

「おい、これってまさか公開音声じゃ……」

「はい、この船で拾えたんです。間違いありません」

「――あの馬鹿っ!」

 竜也は血相を変えて艦橋から飛び出て行った。少し遅れてセシルもその後を追いつつ、フィッツに言付ける。

「味方への通信コードは打っておきました。すぐに反応があると思いますので、相手の指示に従ってください」

「う、うん分かった。気をつけてね」

 フィッツは二人を見送ると溜息をついた。まさか自分が攫われている間に、こんな騒動になっているとは思いもよらなかったのだ。

――お父さんはどうして皆を参戦させるような会戦を許可したんだろう……。そこまで地球共同連邦は追い詰められていたの? 確かに、島に現れた敵の多さを思えば、何かしら軍部が撃って出る戦略を講じたのかも知れないけども、それにしたってこれじゃあまりにも……。

 目の前の惨状をどう理解していいのか、フィッツはしばらく苦悶の表情を浮かべるのだった。



 竜也たちとフィッツが緊急医療室前で合流したのは、サンドラを救出し、一先ずガニアンに戻ってからであった。

 竜也は軽傷だと腕の傷を言い張ったが、流血を目にしたサンドラが無理やり医療班の元に連れて行ったのだ。

 そこには既に、重傷者などが何人も運び込まれ、さながらもう一つの戦場と化していた。

 腕のもげた者、頭から血を流しぐったりとした者、半身が火傷に覆われた者。どれも目を覆いたくなるような状態だった。

 医療班は忙しなく動き回り、二本足で歩ける者には順番待ちを指示していた。

 確かにこの様子では、竜也の傷は軽傷なのかもしれない。サンドラが唖然と光景を眺めてしまっていると、後ろからふいに声が掛かる。

「よぉ、お前ら生きてたか」

 へにゃっと竜也たちに笑ってみせるその顔は、間違えなくヨハンであった。

「あんたも無事だったみたいだな」

「ああ、間一髪だけどな」

 見ると頭には痛々しい包帯に、右足にはギブスがはめられ、松葉杖をついていた。どうもここに運ばれて来た記憶が無く、気づくと担架の上で治療されていたという。幸い気を失いアンジェクルスで宇宙を漂っているところを、誰かに機体ごと回収してもらったのだろう。

 竜也の隣にいた雷神が、心配そうに当たりを嗅ぐので、ヨハンは「安心しな、アポロの奴も無事だぜ」と答えてやった。

「他の皆さんは……?」

 セシルが不安げに尋ねると、ヨハンは困ったように首を捻る。

「さっきアスカとキリル隊長は見かけたな。二人とも軽傷だったのか医療班の手伝いしてたけど、女子はまだ見かけてねぇな」

 話を聞いたサンドラはすっかり消沈した様子であった。それを見かねた竜也は、彼女の手を引く。

「ここで突っ立っててもしょうがない、探しに行くぞ。フィッツ、セシル、お前たちはどうする?」

 フィッツとて一緒に仲間を探したい気持ちでいっぱいであったが、敵にしばらく拘束されていた経緯のある彼にはここから動けない理由があった。

「僕は身体検査するからここで待っているように言われちゃったんだ」

「それならば僕もここにいます。負傷者の手当てにも参加しなくては」

 二人の言葉に頷くと、竜也はサンドラを連れて廊下までずらりと続いた負傷者の中から、ヴァルキリーのメンバーがいないか順々に確認していく。

 改めてこの会戦が酷い結果だったのだと、自ら確認していくような作業に、竜也は悔しげに奥歯を噛み締めた。

「……来るのが遅れて悪かった」

 まるで独り言のようにぼそりとそう言われたサンドラは、頭を振って答える。

「いいえ、貴方方はフィッツ様を本当に無事に連れて帰って来たのですもの。それに、あの時助けに来てくれていなければ、私は今頃……」

 彼女はぐっと拳を胸の前で作り俯く。

 その場の状況に混乱するあまり、自分で敵を誘き寄せるような行動をとってしまったことにもそうだが、何よりも竜也に比べて、自分は大事な仲間を一人も守れていない事実に、後悔と悲しみの渦が彼女の心中に沸き起こっているのだ。

「貴方に助けてもらうのは二度目ですわね。本当に、情けない限りですわ……」

 完全に自身の非力さに落ち込んでいる彼女に、竜也は掛ける言葉を探しあぐねていた。

 二人とも無言になったまま廊下を進んで行くと、やっとベンチに腰掛ける見知った顔を発見する。その人物は肩から毛布を被り、微かに震えている様子だった。

「ロニンさんっ!」

 ヴァルキリー一人目の生存者を確認して、サンドラは飛ぶように彼女の元へ駆け寄った。

「ロニンさん、私が分かって?」

「あ……」

 彼女はサンドラが両肩に手を添え軽く揺さぶると、初めて目の前に人がいることに気づいたように口を開いた。その目は死んだ魚のように曇り、うわ言の様に「先輩が……先輩が」と、繰り返す。

 まったく会話にならない相手に困っていると、横の休憩室から出てきた人物が声を掛ける。

「今はそっとしてあげてください。サンドラ先輩」

 両手にホットココアの缶を持って現れたのはココットであった。片方をそっとロニンに握らせてやる彼女は、ほとんど負傷した様子が見当たらなかった。

「ああ、ココットさん。貴女も無事で良かった。他の皆様はどうなさっているんですの?」

 サンドラのその質問に、急にロニンがもらった缶を振り落とし、顔を覆って大声で取り乱し始める。

「ごめんなさいっ! ごめんなさいっ!」

「ロニン! 落ち着け!」

 一体何が起こったか分からず、サンドラと竜也は、ただココットが力強くロニンを抱きしめる姿を見守ることしかできない。

 だがその様子から、彼女に只ならぬことが起きた事は感知出来た。

「……ココットさん、お話、してくださいますわね?」

 ロニンがぐすぐすと泣きじゃくり、へたりとまたベンチに大人しく座り直したのを見計らって、再びサンドラはココットに話しかけた。

 彼女は頷くと、二人を休憩室へと招き入れる。そこには比較的軽傷で済んだ者たちが、各々に力なく椅子や床に腰掛けていた。

 ココットは入ってすぐに設置してある自販機で飲み物を購入すると、二人に手渡し壁際に立つ。そして一呼吸置くと、彼女は低い声で語り始めた。

「まず現状から話と、あたしもロニンも見た通り無事で、誓鈴も生存しています。ただ、あの通り彼女はPTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状が酷くて、まともに今は口が聞けません」

「ええ……この状況下ですものね」

 サンドラとて、廊下に並ぶ痛ましい姿の軍人たちを見て、何度も叫び出したいような気持ちにさせられたのだ。ロニンの症状には同情せざるを得ない。

「はい。それで、次に負傷者ですが、ロニンの側に居たシャイアンは、今緊急治療室にいます」

 ココットは努めて事務的に伝えようと心がけているようだ。それが何故か分からぬほど、サンドラとて愚かではない。驚いて声を上げたい気持ちを押し殺して、続きを引き出す。

「具体的にどのような様態ですの?」

「全身に酷い怪我を負っていましたが、中でも頭を強く打った様で、脳に重大な損傷がありました。はっきり言って、命が助かったとしても元の通り動けるようになるかどうかは……。誓鈴は衝撃で外に弾き出されたのか、見つからなかったとのことです」

 絶望的な内容に、サンドラは軽く眩暈を覚えた。それでもなんとか足を踏ん張り、もう一人、残った仲間の安否を確認する。

「そう……。では、キュリアさんも重傷で?」

 その質問に、ココットはあからさまに言い辛そうに瞳を泳がせた。今までの話の流れで、その行動はもっとも望まぬ答えを形容していた。

 しばらく待ってもなかなか口を開かなくなってしまったココットに、サンドラは自然と理解したように俯いた。

「……お亡くなりになったのね」

 ぽつりと呟いたかと思うと、彼女はすっと竜也の脇を通って外に出て行ってしまう。

「おい、待てっ」

 まだそうと決まったわけではない。そう続けようと思ったが、ココットに制止され、竜也はその場に留まる。

「だめだねあたし、ロニンの代わりにちゃんと伝えるって決めてたのに……。いざ目の前にすると、どうにも言葉が出て来ないよ」

 キュリアとサンドラの仲の良さは、誰もが周知している事実である。その片方の訃報を届けねばならぬ後輩の気持ちを思えば、彼女がはっきりと口に出来なかったことは、決して責められることではない。

「分かった、俺が伝える。だから詳しく話してくれないか?」

「悪いね。正直、あたしもかなり頭がくたくたなんだ……」

 溜息混じりに話すココットの言葉をしっかりと受け取り、竜也は改めてサンドラの後を追った。彼女はそう探し回らずとも、近くの円形に設けられたホールから、ぼんやりと外の宇宙を窓辺に眺めていた。

 外は非常に静かな物である。どうやら、双方とも交戦は一時休止の運びとなったようであった。

「サンドラ……」

 呼びかけに反応して彼女は振り向いた。無理やり作った笑顔が心に刺さる。

「あら、竜也様。良いのですよ、お気になさらないで。ここでちょっと深呼吸したら、ちゃんと皆さんのお手伝いをして……そうそう、貴方の怪我、このままじゃ見てもらえそうもないですし、私がちゃんと手当てしてさし上げますわね」

「サンドラ、聞いてくれ」

「あ、でも道具はどこでお借りしたらいいのでしょう。各自配られている緊急医療キットでどうにかなればいいのですけども」

「サンドラっ!」

 急に大きな声で名前を呼ばれ、サンドラはびくりとして固まる。

「……頼む、ちゃんと聞いてくれ」

 竜也の真剣な眼差しを、彼女は受け止め切れないようにそっぽを向いてしまう。

「聞きたくありません」

 自我を保つための防衛本能なのだろう。親友の死を感じていながらも、認めたくないという矛盾が、彼女の中に生まれていた。

「そうやって、死んだ奴の事は忘れ去るのか?」

 遠慮のない竜也の言葉に、思わずかっとなったサンドラは、向き直り彼を睨みつける。

「どういう意味ですの?」

「そのままだ。現実を直視しないで逃げて、それで今までの記憶ごと無かったことにするのかって聞いてるんだ」

「――っ!」

 鋭く繰り出された彼女の張り手は、何の障害も無く竜也の頬を直撃した。しかし、彼は冷静に続ける。

「……それで満足か?」

 怪我人に手を上げてしまった己の腕を悔いながらも、サンドラの感情は決壊したように本音を吐き出した。

「竜也様に私の気持ちなんか分かりませんわ! 誰も、貴方の様に強くなんてなれませんものっ! ――私は……貴方の様になんて出来ない……出来なかった……」

 激情はみるみるうちに花がしおれるが如く、力をなくして行った。

「どうして私は彼女を見失ってしまったの……。あんなに側に居たのに……」

 ついには自分を責め始めた彼女を、竜也は黙って傷を負っていない腕で胸へと引き寄せる。それまでの強い口調とは裏腹の抱擁に、サンドラは少し驚いた。

「悪かった、俺も少し強引だった。落ち着くまでこうしているから、それ以上自分を追い込むな。あんたは悪くない」

 彼女はぐっと何かを堪えるように、額を素直に寄せる。

「本当に……生意気なんですから」



「よお、アスカ。お前が助けてくれたんだってな?」

 ひょこひょこと松葉杖をつきながら、ヨハンは他人の手当てを行うアスカに声をかけた。

「……なんのこと?」

「とぼけんな」

 アスカは溜息混じりに治療を終えた手を止めると、いかにも困った顔で振り向く。

「とにかく逃げなきゃって必死になって、バトルファンで君のこと突き飛ばしたんだ。その後続いた敵の攻撃を直に受けなかったのは、純粋に君の悪運が強かっただけだよ」

 そう答える顔が、普段の彼らしくない影を落としている。へらりと笑ってはみるものの、疲労感が滲み出ていた。

「大丈夫……じゃ、なさそうだな。ひっでぇ顔しやがって。ちょっと休めねぇのか?」

 珍しいヨハンの気遣いに、隣で同じく負傷者の手当てをしていたキリル少佐の方を向くと、もうお前はあっちへ行っていろと言わんばかりに顎で指示された。素っ気無い態度に二人で苦笑する。

「あの隊長さん、優しんだか冷たいんだか……」

「優しいよ、それに強い。戦意喪失してた僕らを回収してくれたの、ほとんどあの人だからね」

 二人で空いていた床へ腰を下ろすと、天井へと視線を投げる。お互いの疲れ切った顔も、周りの負傷者の顔も、今ばかりは見ていたくはなかった。

「なあ……」

「うん?」

 一息ついたところで話しかけるヨハンに、アスカは気の抜けた返事をする。

「あの人、死んだって本当か?」

 内容のわりにさらりと投げかけられた質問に、アスカは頭を掻きながら、今度は広げた足の間に視線を落とした。

「どこで聞いたの?」

「まあ、風の噂ってやつ?」

 ヨハンは所在無さげに、竜也たちとは別に生存者の確認をしていたのだという。そんな中、負傷兵でも軽度の者たちが会話していることが、嫌でも耳に入ったらしかった。

「ヴァルキリーのナンバーツーが消し飛んだってさ。キュリア先輩のことだろ、それ?」

「……うん」

 アスカは堪らず前髪をくしゃりと掴んで大きな体を縮めた。

「後輩のね、ロニンちゃん、いるでしょ? あの子のこと助けてくれたんだって。そしたら、すぐ後から大きな砲撃にあって……それで……」

 やりきれない思いに塞き止められ、アスカの言葉は続かなかった。ヨハンはどこか遠くでそれを聞き受け、尚もぼうっと天井を見上げながら呟いた。

「そっか……なんか、あの人らしいな」

 彼の頭の中では、皆と過ごした夏休みの記憶が蘇る。この惨状を、あのプールではしゃいでいた時に、一体誰が想像出来ただろうか。

 ただただ今となっては、キュリアの無邪気な笑顔が浮かんでは消えていった。

「……先輩、俺に本気だったと思うか?」

 その言葉に、アスカは少しだけ頭を上げた。

「さあね。けど、気がなかったらあんなに君の事ばっかり構わないでしょ?」

 ヨハンは顔を片手で覆いながら、長く息を吐く。

「ああ、なんだかな。俺、めちゃくちゃ格好わりぃ……」

「平気、結構前から知ってる」

「――っんだと?」

 今まで互いに話していたにも関わらず視線を合わせなかった二人が、ようやく顔を見合わせた。

「でも、生きててくれてありがとう」

 ふいのアスカの感謝に、ヨハンはどんな顔をしたら良いの分からず、再びそっぽを向いてしまう。

「よせやい、気色わりぃ……っ」

 吐き捨てた台詞は、微かに震えがかっていた。



 それぞれが力不足故の悲しみと無念を己が胸で痛感していた。ほんの瞬間、あの十字砲火でいくつもの命が犠牲となったのだ。

 キュリア・ロバーツ・ヘッセン。彼女の死もまた、その内のたった一行の殉職報告となって、本国へ届くのである。この事実は戦場に突如駆り出された少年少女たちにとって、次は自分かもしれないという恐怖心よりも、なぜか簡素な虚しさだけを感じさせていた。

 ガニアン内部は妙な静けさに包まれている。皆次の行動がまったく見出せていなかったのだ。

「どうでしたか?」

 身体検査を終え、医務室から出てきたフィッツに声をかけたのはセシルであった。

「お陰さまで特に異常はなかったよ」

 その報告はあくまで放射線汚染や、感染病保有に関する陽性反応がないと言う内容である。

「そう、ですか」

 ほっとしつつも、何か腑に落ちない様子のセシルに、フィッツは敵艦の中で知り得た自身の体について話すべきか迷った。どのみち、この友人には真実を隠し通しは出来ないだろうという、確信めいたものもある。

 意を決してフィッツが一言目を発しようとしたその時であった。


『――臨時ニュースです。こちらはドイツ地区の……』


 ノイズ交じりの女性アナウンサーの声が、今まで沈黙していた基地内のあらゆるモニターを通じて鳴り響いた。

 臨時と聞いて面食らった人々は、一斉に各々側に設置されていたモニターに注目する。

 竜也もまた、自分たちのいるホール中央頭上部にある四面モニターを見上げた。

「今、ドイツ地区といいまして……?」

 嫌な予感を抱いたサンドラも、視線はモニターに集中しつつ、無意識に竜也にしがみつく。地上で現状以外他に臨時に伝えねばならぬ出来事など、有って良いはずがない。

 モニターは荒れに荒れた画像を映し出していた。そのような画面の向こう側は、どうやら煙や火の手が上がっている建物の様子を中継しているらしい。

 一気にざわついた周囲をよそに、画像は急に場面を切り替え、厳かさすら感じる舞台と演説台を映し出した。先ほどまでとは打って変わって鮮明な映像に、注目度はより一層高まる。

 そして、その中に登場した人物に、辺りの空気が瞬く間に凍りついた。


『地球共同連邦諸君、まずは突然の非礼を詫びよう。そして、どうか聞いて欲しい。この行為はひとえに憂国故旧体制を退ける覚悟の一端である。我々組織は青年同志たちで築き上げた革命軍であり、その代表として、私、アキラ・フォン・ベルクシュタインがここに宣言する――』


 演説台の向こうで熱弁をふるうその若者の妖しいまでに鋭い眼光は、彼固有の葡萄酒色を、より濃厚に湛えていた。

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