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戦禮のアンジェクルス  作者: 黒須かいと
64/83

第八章「錯綜」 (5)

 Ⅴ

 広大な宇宙の只中、たった一つの光星を目指すかのように、二機のアンジェクルスは闇を駆けた。

 デブリ群を隠れ蓑に竜也たちは徐々にフィッツが捕縛されているであろう軍艦へと近寄る。竜也はモニターでその船を睨みつけながら、特殊加工が施された戦闘用ヘルメットの後ろを撫でた。

「さて、どう近づくか……」

「少々乱暴ですが、一気に押さえ込むしかないでしょう。幸い目立つことを恐れたのか、たった一隻です。僕が正面で足止めしますので、竜也さんは後ろから穴を開けて進入してください」

 敵の軍艦は地球共同連邦で言うところの智天使(ケルビム)級、つまり巡航艦型サイズである。お互い強力な出力を誇る竜也たちの機体は、破壊することだけが目的ならば難なく成功するはずだ。しかし、今回の目的はあくまでフィッツ救出にある。諸共爆破させてしまっては意味がない。

 そこで、セシルが相手の砲台を破壊、同時に竜也は船体の後ろ側にある倉庫を攻撃し、進入経路を確保することが一番のセオリーであると考えられた。

 敵の砲台の目前に姿を晒さねばならぬセシルの事が気がかりではあったが、彼ならば上手くやってくれるだろうとの信頼で、竜也はモニターの彼に向かって頷いた。

 覚悟を決め、早速作戦開始しようかと船に向き直った竜也に、セシルはぼそりと続けた。

「それと、近づいて感じたのですが……」

 なんとも不安げな相手の表情に、竜也は眉根を寄せる。

「どうにもフィッツさんの感覚が変です。彼であって、彼でないような、いえ、間違いなくこれはフィッツさんなのですが……」

 ナノマシン保有者である彼だけが感じるのであろう違和感に、そもそもこの船にフィッツがいるかどうかも相手任せの竜也にとって、同意することも否定することも出来ない。ただ、此処まで着たからには、やることは一つである。

「良く分からないが、お前が迷うくらいだ、行って確かめた方が手っ取り早い」

「そうかもしれませんが……」

 それでもなお下を向く戦友に、竜也は命ずる。

「セシル、お前ならその感覚とやらで分かるはずだ。俺が駄目だった場合はパトリに戻れ、いいな?」

「いいえ、それは約束できません」

 セシルは顔を上げた。不安を払拭するように、彼の目は研ぎ澄まされていた。

「戻る時は三人一緒です。そうでなければ戻る意味がありません」

 竜也はその言葉に賛同し、お互いに誓いを込めた眼差しで合図を送りあうと、一気に船へと近づく。不意をつかれた敵はまともに応戦することなく、ルシフェルの放った無数の攻撃に、砲台が次々と駆逐される。同時にミカエルの切っ先は倉庫のハッチに一文字の大きな傷を刻んだ。

「雷神、ここは任せた!」

 ミカエルの体で傷口に覆いかぶさると、竜也はそういい残し、コックピットを後にする。開けた穴から進入した竜也を待ち構えていたのは、けたたましいサイレンの音と、異変を察知し、駆けつけた兵隊たちであった。

 無重力状態の艦内を生かし、竜也は彼らに発見される前に思い切り天井を蹴った。強化スーツの背中に常備されている空圧のジェットも加速を補助し、その勢いのまま相手の頭上目掛けて軍刀を振り下ろす。

 瞬間、相手の首は弾けるように浮遊し、噴出した血液は玉となって飛び交う。その光景に兵士は戸惑ったが、振り落ちてきた少年を目で捉えた時には、己の首も宙をまっていた。

 初めて人間を殺した手の感触に、竜也は怯えることなく船内の奥を目指す。

 迷ってなどいられないのだ。今彼の背負っているものは親友の命であり未来である。助けると決めた時から、いや、軍人になると決めた時から、自分が何かを救うたびに人を殺すのだということは常に意識していたはずだ。今は綺麗事など言ってはいられない。己の手がいくら汚れようとも、助けたいものが目の前にある。だから、迷いなどあるはずもない。

 竜也の血の中に眠る武人の遺伝子が体内を駆け巡った。

「退けっ!」

 片手にサブマシンガンを抱えると、倉庫の出入り口へ駆けて来た兵隊たちに銃口を向ける。抵抗むなしく次々と血を吹き倒されていく仲間に恐れ慄き、後ずさり奥へと逃走を図ろうとした一人を、竜也は見逃さなかった。

 相手の首根っこを掴みヘルメット越しではあるが頬に銃を押し付けた。短い悲鳴を発するが、それを無視するように、竜也は質問した。

「フィッツはどこだ? 答えろ」

「フィ、フィッツ?……ああ、例の実験体か。それならこの奥に……」

 そう言いかけた兵は竜也を狙ったはずの銃弾を浴び絶命した。間一髪のところで竜也はそれを避け、曲がり角へと身を隠す。

――埒が明かないな……。

 壁から応戦しつつ、竜也は奥の道を遠目ながら確認する。どこかに艦内地図でもあれば、先ほど敵が実験体といっていたことだ、なにかそういった設備のありそうな名前の部屋を目指せばいい。

 その時、竜也の足元に何かが転がって来た。直感でその黒い塊が手榴弾だと確認する。舌打ちするのと同時に、それを拾い上げ、相手へと投げ返した。

 遠くで爆破音が聞こえるが、竜也はそちらとは反対方向に走った。また曲がり角だ。しかしその右手にはどうやら簡易休憩スペースがある。壁には艦内地図のような板が掛かっているのが微かに確認できた。敵が来ていないことを目視し、竜也はその地図に走り寄った。

 手術室、CT、研究総合……。それらしい名前が五つほどあったが、どれも艦全体図から見た左側に施設が偏っている。

 フィッツを発見するのに時間がかかればかかるほど、彼に身の危険が迫ることは容易に想像できた。急がねばと焦る心を律し、竜也はとにかくここを虱潰しに探してみるしかないと結論付ける。周りに注意しながら、彼は船体左翼に向かい移動を開始した。

 丁度此処からそう遠くはない。だが、敵もただ黙っているわけもなく、竜也の目指す通路に立ちふさがった。

 出来る事ならば殺傷は必要最低限に抑えたかったが、こうも湧いて出てきたのでは蹴散らすしかない。自分に向けられ発砲される銃弾を翳めながら、敵の群れへ特攻する。

 竜也は二刀を携え咆哮と共に相手を切りつけた。無機質な金属製の壁に、敵の血飛沫が両翼を広げた猛禽のような模様を刻み付ける。

 確実に相手の急所を捉えた竜也の太刀筋に、敵は一歩後退した。血溜まりの中、たった一人で立っている少年の姿が信じられなかった。

「なんなんだ一体! 地球の連中はナノマシンといい、運ばれてきた実験体といい……皆バケモノになっちまったのかっ?」

「知るかよっ! でも、そんなことになってるって言うんなら、なおさら俺たちが地球を取り戻さなくてどうするっ?」

 その会話が耳に入った竜也は、皮肉なものだと思った。戦争などといった事柄は、結局のところお互いの正義感のぶつかり合いである。

 たしかに、相手方の立場になれば、竜也たちの国はよく分からない原材料のナノマシンという物質を人体に投与し、選りすぐった少年少女たちに大量殺戮すら可能とする兵器を持たせ訓練させている。傍目から見れば異常な事態なのかもしれないが、そもそも論になってしまえばきりがない。それに、竜也の現在の目的はただ一つ、至ってシンプルなものである。

「……フィッツを出せ。邪魔をするなら、斬る」

 薄暗いヘルメットの下から覗く鋭い少年の眼光は、燃え盛る炎のように敵を真っ直ぐに捉えるのであった。


 そう遠くない位置から、激しい銃撃戦の音と兵士たちの悲鳴と怒号が聞こえてくる。フィッツは押さえつけられる頭をどうにか体ごとよじり武装した男たちの腕から逃れ、出口へと走った。

 しかし、当然のことながら、男たちの銃口は一斉にフィッツに向けられる。

「抵抗すると言うなら、コアとやらだけを残してハチの巣にしてやるからな小僧っ!」

 これだけ近距離ならば、脅す男の言葉は実現可能だろう。出口まで今一歩というところで、フィッツは静かに後ろを振り返るしかなかった。

 研究員たちはその様子を見かね、とうとう決断したかのように手を挙げ指示を下す。

「コアを抜き取っても生命活動が維持出来るものか見てみたかったが、致し方あるまい」

 やれという非道な言葉と共に、手が振り下げられる刹那、フィッツの背後の扉が開く。

「がっ!」

 肉を貫いた音は血飛沫と混じりあい、その場の一同が凍りつく。凝視した扉の向こうには、強化スーツで黒ずくめの人影が、戦闘員の首へと刺さった刀を乱暴に引き抜く姿が映った。

「フィッツ、来いっ!」

 真っ赤に染まったヘルメットの下は確認しづらかったものの、間違いようもない。自身を呼ぶのはかの親友であった。

「竜ちゃんっ!」

 無我夢中に相手の差し出された手を取るが、同時に一斉射撃が二人を襲う。

「逃がすな!」

 集中して浴びせられる銃弾から、竜也は何とかフィッツを腕でかばい、その場から走り去る。追っ手はしつこく彼らを追跡するが、半ば相手を抱えるようにして機敏に移動する竜也について行くのは至難の業であった。

 途中、作業員用ロッカーを発見した竜也たちは、すかさずその部屋に入り、鍵を閉め、ベンチなどありとあらゆるものをドアの前に積み上げバリケードを作り上げた。

「急げフィッツ、ここになら宇宙服があるはずだ!」

 そう叫んだ直後、竜也は下唇を噛んで膝をついた。まさかと思い、フィッツは慌てて竜也に駆け寄ろうとするが「早くしろ!」と怒鳴られる。見れば彼の腕からは、先ほど己をかばった時に出来た傷であろう、止めどなく血が滴り落ちていた。

「ダメだよ、すぐに止血しなきゃ!」

「そうやってもたついてる間に敵が来るっ!」

 言うやいなや、バリケードの外が騒がしくなる。そして、ついにはドアの向こうからこちらへと銃撃が始まった。こうなるとここに進入されるのも時間の問題である。

 フィッツは戸惑ったが、竜也の指示に従いロッカーから宇宙服を引きずり出し、手早く装着していく。

「……やっぱり、これを使わなきゃダメそうだな」

 そう一人ごちた竜也は、キリルに渡されたアンプルを徐に取り出した。もはや迷っている暇はない。素早く注射器にセットすると、竜也は傷で開いたスーツの隙間から、薬を自ら投与した。

 既に傷を負っていたため感覚が麻痺していたのか、ほとんど針の傷みはなかった。それどころか、薬は彼の体に素早く廻り、痛覚を極端に鈍らせていく。

――よし、これならまだいける!

 竜也は非常用のテープで傷口を適当に塞ぎ、両手に軍刀を握り構える。

「フィッツ、敵が雪崩れ込んできたら一気に切り抜ける。絶対に俺から離れるな、いいな?」

「う、うん」

 銃弾はとうとう扉を蜂の巣にし、敵はバリケードごとそこを蹴破る。

「行くぞっ!」

 とてもダメージを受けているとは思えぬ力強さで、竜也は床を蹴り上げ敵に突進する。その獣のような咆哮は、その場に紅蓮の大輪を咲かせた。

 竜也に向けられ放たれた銃弾は、持ち手を失いすべて標的に当たる前に虚空を切る。

 およそ人間業ではない剣技に、フィッツは目を見開き絶句した。親友の戦闘能力の優秀さは彼だけではなく誰もが認めるところであったが、まさかここまでとは思わなかったのだ。

 その姿は、まさしく鬼神であった。

「急ぐぞ。セシルが外で待ってる」

 敵を切り刻んだ軍刀から血を払い捨て、竜也はフィッツの先を行く。だが、そんな親友にフィッツは複雑な表情で立ち止まった。

「おい、何やってるんだ!」

 激昂する相手に、申し訳無さそうに、それでいて切実なまでの表情で訴える。

「ごめん竜ちゃん、でも僕……、あの人たちの調べていた情報が欲しい」

「はあっ? まさか、お前の居た部屋まで戻れっていうんじゃないだろうな?」

 短い沈黙が二人の間に流れる。それに対し、フィッツは首を振った。

「この船ごと……奪うことは可能じゃないかな?」

 竜也はそこではたと気づいた。フィッツのいう情報とやらもこの船にあるのだろうが、それよりもこれは地球から火星まで航行可能な艦のはずである。ともすれば、個体のワープ装置が備えられているかもしれない。

「こいつで皆に追いつくことも可能か……」

「え?」

「詳しいことは後だ。お前の言うとおり、ここからは船の奪取に作戦を切り替える」

 にやりと不敵に笑ってみせる頼もしい親友に、フィッツも自然と頬を緩めた。

「……うんっ! ありがとう、竜ちゃん」

 二人は互いの再会を確かめるように、しっかりと手を繋ぎ交わすのだった。




 最前線基地ガニアン。人工で作られた球体天体型の宇宙要塞は、表面にある六角形の反射板を光らせながら、重力発生装置の元、ゆっくりと黒いその巨体を回し続けていた。

 サンドラを始めとする以下特進少尉たちで構成された部隊は、隊長キリルを先頭に、ガニアンの全責任を請け負う要塞司令官の下へ召集された。

 皆は綺麗に整列すると、一斉に敬礼し、キリルの号令で名前と出身校を告げる。

「以上、隊長一名、特進少尉七名です」

 キリルが言い終えると、椅子から立ち上がった司令官は眉を顰める。

「たしか報告だと九人だったはずだが?」

「はっ……それに関しましては、少々不測の事態が起こりまして」

 いかにもばつの悪そうな若い将校に苦笑いしつつ、老練の司令官は顎を撫でる。

「君がすべて把握してはいるのかね?」

「はい、残りの二名、天野竜也、セシル・リヴォーヴィチ・イオノフの欠席は、私が全責任を負う所存です」

「ふむ、まあ、それに関しては後で君から詳しく聞くとしよう。とりあえずは“ようこそ我らの要塞、ガニアンへ”とでも言っておこうか」

 笑顔の司令官は今年で定年を迎えるバイロン・クロムウェル大将である。彼はこの前線基地が建てられる前、つまり、天野龍一提督が活躍した大戦の経験者であった。

 柔和な表情の下には、どこか哀愁も漂う司令官は、まだ二十歳にも満たない青年たち一人一人の顔を見渡し頷いた。

「ここは知っての通り、天野龍一提督の功績で建てることの出来た要塞だ。君たちにはその重要性を理解した上で、彼らがなしえなかった火星奪還の任に、我々と共に当たってもらうこととなる」

 クロムウェル大将が机の前に歩み出ると、室内の中心に周辺の宇宙地図が球体の映像として投影される。

 表面にはガニアン要塞が小さな赤い点で示され、少し離れたところにパトリ要塞が明るい緑で点滅している。その左隣には、青と黄色の点が存在する。地球と月だ。

 ガニアンから地球までの距離感と同じくらいの幅を取った右隣には、白いバツ印が浮かんでいる。これが最終攻略目標となる火星であった。

 その周りにはいくつか小さい拠点が白い点で示されており、いずれも小惑星に要塞施設を建築したものや、人工居住区域であるコロニー群だという。

 その中でも一番発展しているのが、火星の衛星でもあるフォボスとダイモスである。

 従来、まだ統一されていた人類は、火星自体の発展と共に、この両衛星の開拓にも着手していた。月の運動とはまた違う軌道を描く天体は、表面に施設各種を取り付けるよりも、中に空洞を作り、そこに人間に住みよい環境を作り出す工事を執り行っていたそうだ。

「パンデミックがその後どのような改造を行っているかは、正直なところまだ不透明だ。ただ、宇宙開拓同盟と我々は一括りに思いがちだが、奴らの信念は旧国家、つまり英雄(メシア)降臨以前の文化設立にある。次々と火星の外に居住区を作り上げているところをみると、年々徐々にだが、国家数が増えて行っている事が予想できる」

 その証拠とばかりに、火星の奥、地球共同連邦がまだ未開の地である宇宙空間をクロムウェル大将は指差した。そこには、薄い光源で予測できる範囲の人工物の印が存在した。

 あまりの数に一同は驚きに言葉を失う。淡い光の点の下には、確認できた年数と月日が示されているが、それが伝える物は、互いの境界線を争ったあの戦の後、驚くべきスピードで宇宙に人口が拡散しているという事実である。

「っんだよこれ……。下手すると、地球共同連邦(アースライン)より遙かに人口数が多いんじゃねぇか?」

 ヨハンが思わず零した言葉にサンドラも不安げに形の良い眉を寄せる。

 普段の授業内容は完璧に暗記しているような彼女でも、このような事態になっているとは、到底聞き及んでいなかったのだ。

――こんなことになっているなんて……。

 実際に肉眼で確認した情報でない限り、こういったことは一般には規制されていたのだろう。このような膨大な数を相手取らなくてはならないという真実に、思わず目を覆いたくなる。

「驚いただろうが、我々がこの数に怯むことは許されない。しかし、何の策も講じず、ただ闇雲に本丸を叩くことも不可能だ。そこで、目先の攻略先としてここをまず叩く」

 次に指の先に示された場所には、対抗基地群一帯と書かれていた。丁度このガニアン要塞を睨んで配置されているような、ライン状の防衛施設であるようだ。

「この隙間をアンジェクルスの機動力で食い破り、その後ろに控えているパトリと同型の要塞を奪い取る」

 画像表面に浮かび上がったのは、凸型の自軍陣形であった。防御力のある部隊を先頭に据え、両者交戦中に、機動力のある部隊がその隙を狙って後方へと攻め込む作戦である。

「君たちはラインを抜けた向こう側、要塞の防御陣を蹴散らしてもらうのに尽力してもらおう。同時に、要塞攻略のための白兵戦へ持ち込むためのパイプ防衛も担ってもらう」

 こうして、まだ実戦経験の浅い彼らは、早々に戦闘配備に就く事となった。


「地球軍なんかより、前線の宇宙軍が良いって言ってたのはどこの誰だっけ?」

 アスカはウリエルの最終点検を行いながら、悪友に向かって嫌味を垂れる。

「ああ、言ったよ。言ったさ! けどな、こんなことになってるってお前は知ってたのかよ?」

 今にも点検用のタブレットを投げつけん勢いで、ヨハンはがなった。

「参ったよね……。倒しても倒しても、まだ奥に敵が控えてるっていうんだからさ……」

 溜息をつく二人に、後方から凛とした声が背中を叩く。

「無駄なおしゃべりをしている暇があるなら、素早く点検を終えてくださいな! 敵に動きを気取られる前に、宇宙での初動テストが出来るチャンスは今しかなくってよ!」

 広々としたドッグを、純白の機体が悠々と浮遊していく。サンドラの扱うサンダルフォンの動きは良好であるようだ。

「さすが副隊長、動じねぇのな……」

「こう言う時、案外女子の方が度胸あったりするのかもね。ほら」

 アスカの指差す方向を見ると、ココットがマスティマの照準テストをてきぱきと行っているところであった。

「あれは女子ってカウントでいいのか?」

「相変わらず君は失礼だなあ。まあ、それだけ軽口が叩けるなら君も大したもんだよ。さ、言われた通りとっとと終らせよう」

 言いながら足をコックピットに滑り込ませた刹那、辺りの警報装置が激しく鳴り響く。何か嫌な物を感じ取ったのか、誓鈴たちの体毛も逆毛立った。

 

『要塞Dエリア外殻に被弾っ! 損傷軽微! 敵の長距離ハイパーレールガンでの威嚇と判断! 繰り返す。Dエリア外殻に……――』


 音量は大きくけたたましいが、特進少尉以外の配備されたパイロットたちの顔は、酷く落ち着いていた。むしろ、またかという、少し辟易した様子も窺える。

「いやらしい攻撃ったらありゃしねぇぜ、毎度毎度……」

「よお、お前ら今日が初陣なんだってな! お互い生きてたらまた会おうぜ!」

「エリート候補生様なんだろ? 期待してるぜ!」

 ベテランの戦闘員たちは、ヨハンの頭を軽くはたいた後に素早くそれぞれの戦闘配置についた。

 むすっとしていたヨハンだったが、頭をさすりながら改めて自分たちの立たされた場所がどこなのか思い知らされた。

――生きてたら……か……。

 シートに身を沈め、メタトロンの起動スイッチをオンにする。

「なんとしてでも生き残ってやろうぜアスカ。世の中あれこれ秘密だらけで、俺らの知らねぇことがあまりにも多すぎる!」

「そうだね。それって、なんか悔しいよね」

 モニター越しに頷きあった二人は、機動力の高い母艦に機体を移動させるのだった。

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