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戦禮のアンジェクルス  作者: 黒須かいと
43/83

第六章「予感」 (3)

 Ⅲ

「――次っ!」

 その日の竜也は荒れに荒れていた。柔道の試合前、ウォーミングアップで始めた組み手で、次から次へと柔道部員を投げ続けている。

「りゅ、竜也。その辺りにしておけ。本番までに体力が持たないぞ?」

 柔道の顧問教官に止められ、竜也は座った目つきで帯を整えた。

「……うっす」

 その様子を遠目で見ていた二年二人組みは示し合わせたように同時に溜息をついた。

「今日の竜也君怖いよ……」

 ぼそりと切り出したのはアスカだ。それに頷いたヨハンもげっそりとした様子である。

「午前中のサッカーの試合でも、あいつ全然パスまわさねぇで一人でゴールまで突っ走って行きやがるのな。まあ、ギリで勝ったからいいけどよ」

「ああ、剣道もやばかったらしいよ。僕と同じクラスの奴が見学していたらしんだけど、相手を竹刀で切り殺すんじゃないかって、見てて冷や冷やしたって……」

「おっかねぇなぁ……敵には回したくねぇぜ、ホント」

 そんな先輩たちのぼやきに耳を傾けながら、フィッツは次に控えている自身のフェンシングの試合と、親友が昨日から明らかに殺気立っていることへの不安がない交ぜになっていた。

 彼らが竜也の試合を見に来たのは、国立出雲士官学校の体育館である。この体育祭もそうであるが、後に控えている行事として、文化祭も空中都市である利点を生かし、三校合同の体制をとるため、一箇所に移動して行われる。つまり、三つの空中都市が一堂に会し連結した状態になっているのだ。

 太平洋上で地繋がりになった三校都市を、それぞれ移動しながら学生は試合に臨む。空中都市はユグドラシル同様、各々しっかりとした交通の便が行き届いているため、学生たちはスムーズに目的地に移動できる仕組みになっている。

 そして今日の竜也のスケジュールは、午前中はユグドラシルの校庭でサッカーの試合、昼を挟みながら出雲へと自動車で移動し、剣道、そして柔道の試合というふうな流れで来ていた。

「フィッツ、お前そろそろヴァルキリー行くだろ?」

 ヨハンの言う通り、フィッツはこのまま親友の心配をしている場合ではない。補欠選手として、ヴァルキリーの体育館まで行き、フェンシングの試合に出なくてはならないのだ。

「はい、では行ってきまあす……」

「おいおい覇気がねぇなぁ、俺がついてってやろうか?」

 ヨハンの申し出を軽く断ると、ふらふらと立ち上がり、モノレールのある駅に半球型の自動車に乗って向かう。この透明なチューブ管の中を走っているようなモノレールは、三校が連結して初めて意味を成す。

 三校が繋がると、円を描くような形でモノレールのチューブも連結するのだ。これにより、自動車に乗って運ばれるよりも、早く他校の敷地内につけるというわけである。

 フィッツは徐にモノレールの車内で、携帯端末を確認すると、セシルから連絡が入っていた。

『先にヴァルキリーに到着しています』

 メールには簡素にそう記されていた。セシルは未だに部活動に入っていないため見学めぐりに奔走しているようだ。

 フィッツが重い足取りでヴァルキリーの体育館につくと、セシルが出迎えてくれた。

「お待ちしていました。着替えはあちらのようですよ」

 そういって普段は女子更衣室しかない体育館に、特設的に作られた白いテントを指差された。

「やっぱり、怪我の子治って出ます。とか言ってないよね?」

「はい、そういった連絡はありませんね?」

「……だよねぇ~……」

 フィッツがあまりにもしょんぼりと項垂れるので、セシルはあたふたとしながら、とりあえず今日一緒に連れ歩いているリリスの肉球を頬に当ててやった。

「ふぇ?」

 意味が分からず目を点とさせると、セシルがあくまで真剣な眼差しで「こ、こうすると僕は落ち着くんです!」と言う。確かにぷにぷにとした猫の肉球は独特の癒し効果があるように思える。

「ありがとうセシル。とりあえずやるしかないものね、がんばるよ」

「うふふ、緊張しちゃだめよん? リラックス、リラックス!」

「うん、リリスもありがとう」

 とりあえずの勇気が湧いてきたフィッツは、昨日しっかりセシルと一緒に確認した荷物を持って、テントの中へ入っていった。

――ええと、僕の番号は……。

 事前に決められたロッカー番号を目で追いながら探していると、どんと何かに肩がぶつかった。

「わわっ! ごめんなさい!」

「いや、構わない」

 フィッツはぶつかった相手の顔を見上げて、思わずじっとそのまま眺めてしまった。

――わあっ、真っ白で綺麗な人だなぁ。あれ? でもこの人どっかで……。

 葡萄酒色の瞳とエメラルドグリーンの瞳が交差する。フィッツはお互いに見詰め合っている妙な状態になっている事に気づき、慌てて身を引いた。

「ほ、ホントすみません! なんかどっかで会ったなぁと思って、つい」

「ああ、昨日そういえば……」

 相手も心辺りがあるようだが、お互い顔は知っていても名は知らぬ状態だった。

「ええと、確か竜ちゃんのお兄さんの隣に居ましたよね。あ、竜ちゃんっていうのは、天野竜也って名前の――」

「辰巳の弟の友人なのか? 貴様とは廊下ですれ違ったな」

「あ、はい。そうなんです」

 フィッツはやっとお互いの認識が合致したところで、にっこりと人の良い笑顔を作って見せた。相手はそれに対して少しも愛想を見せることはなかったが、一応好意的ではあるようで、握手の形をとってくれた。

「僕はフィッツ・オブ・キャテリー・グローリアスっていいます。ユグドラシルの一年で、一応生徒会です」

「そうだったのか。私は出雲の生徒会長、アキラ・フォン・ベルクシュタインだ」

 お互い自己紹介をしてからはっとし、相手の父親の名前を言い当てた。

「アルバート学長の――」

「ゴットフリート元帥閣下の――」

 また二人ともお互いを見ながらしばらくの間があった。

「ぐ、偶然って怖いですね……」

 フィッツがただでさえ大きな目をぱちくりとさせながら答える。

「本当だな。だが、そうか。ここに居ると言うことは、貴様も次の試合はフェンシングか?」

「うっ……そ、そうです」

 “貴様も”と言われたことに対して、フィッツはたじろいだ。しかし不思議である。フィッツは竜也とは違い、しっかりと対戦相手の名簿を見ていたはずである。その中にベルクシュタインの姓があれば、先に気づくはずだ。ともすれば、可能性は一つである。

「補欠か。ご苦労だな」

「じゃあ、貴方も?」

「ああ、それもかなり緊急に頼まれてな」

 それでは名簿に載っていなくても仕方がない。合点のいったフィッツは苦笑しつつ、頭を掻いて見せた。

「もし対戦することになったら、どうぞお手柔らかに……」

 へらへらとするフィッツに、アキラは意地の悪い睨みを利かせた。

「補欠でも選手は選手だ。正々堂々と気を抜かずにな?」

「は、はいっ」

 その迫力に竦み上がってしまいそうになるのを何とか堪え、相手がテントの外へ出て行くのを見送った。

――ああ、どうしよう。ベルクシュタイン家も、天野家に負けず劣らずの武人の家系じゃないか。僕なんか絶対けちょんけちょんだよ……。当たりませんようにっ! 絶対に当たりませんようにっ!


 そうしてくじ引きは運命の結果を導き出した。


『男子フェンシング種目フルーレ、一回戦、出雲代表Bグループ、アキラ・フォン・ベルクシュタイン対、ユグドラシル代表Aグループ、フィッツ・オブ・キャテリー・グローリアス。前へ!』


 アナウンスの声に、思わずフィッツは白目を剥いて倒れてやろうかと思った。

――……お、終わったっ。

 あまりにも運の無さ過ぎる己に心がくじける。すっかり弱気になっているフィッツの目に、応援席からセシルがリリスと共に手を振っているのが見えた。

――そ、そうだね。諦めずに、とにかく一生懸命やればいい!

 せめて見てくれている友のために全力を尽くそう。そう心に誓ったフィッツは、両頬を叩いて気合を注入した。

 ピストの上に立ち、先ほどの迫力とは桁違いの視線を目の前に感じながら、深呼吸をしてマスクを被る。

 アンガルドの姿勢をとった瞬間、緊張感が一気に高まった。そして気持ちを普段あまり見せない闘争心へとシフトする。

 

 審判が「アレ」と、試合開始の合図を送った。



 竜也は柔道の試合を連続して一本で勝ち抜き、あっという間に自身の出番を終わらせていた。すっかりささくれている竜也は、部員たちの残りの試合も見学せずにさっさと着替えて体育館を抜け出して来てしまう。

――フィッツはまだ試合途中だろうな。さて、俺の次の試合は……。

 端末の予定表を開くと、三十分後に同じく出雲で空手道の試合があった。さて、それまで何をしていようかと、うろついていると、どすんと重く何かを突き通すような音が耳に入る。

 音のした方に歩いて行くと、そこには屋外の弓道場があった。なんとなしに競技者たちの顔を確認した竜也は、はっとしてフェンスの物陰に隠れる。

 そこには、研ぎ澄まされた横顔で弓を射る兄、辰巳が立っていたのだ。

――なんでよりによって……。

 今一番腹立たしくなる人物を、偶然にも発見してしまったことに舌打ちする。

「竜也ちゃん? あ、やっぱり竜也ちゃんだ!」

 背後から小さな足音が寄って来た。亜麻色の髪を頬で揺らし、にっこりと微笑んだ彼女は、彼ら双子の幼馴染、アリスであった。

 思わぬ登場人物に、竜也は人差し指を立てて声を出さないように注意した。昨日の今日で、辰巳に気づかれるのはなんとなく避けたい。しかし、その反応にアリスは尚も笑う。

「大丈夫。すごく集中してるもの、辰巳ちゃん気づかないよ」

「そ、そうか?」

 これが手本だと言わんばかりの美麗な姿勢で、きりきりと引き締めた弦を放つ。重い音で的の中心を見事射抜いた辰巳に、見学に来ていた女子たちだけならず、男子までもが感嘆のあまり息を飲む。

「ね?」

 アリスは可愛らしく首を傾げてみせた。竜也はなんだか気恥ずかしくなり「そうか」とその場を離れようとした。

「あ、待って。今時間あるかな?」

 ちょんと袖をつかまれ、呼び止められる。

「辰巳の見学はいいのか?」

「ううん、だからここでちょっとだけ。だめかな?」

 そう上目遣いに女子にお願いされては、嫌だと突っぱねるわけにもいかず、渋々小声で了承した。

「……この間はごめんね」

 アリスはフェンスに手を掛け、辰巳を見ながらぽつりと告げた。

「辰巳ちゃんも悪気があったわけじゃないの。ただ、どうしたら良いか分からないだけだと思う」

 竜也も彼女に習い、競技を見ながら話を聞くことにした。

「龍一おじ様が居たときは、隆徳おじ様も気難しい人だけど、そこまで厳しくなかったでしょう?」

 竜也は隆徳の名に、本能的な嫌悪感を覚える。アリスの言葉に、厳しい厳しくない以前に、どうにも理不尽さがあったと思わないかと、逆に問いたかった。

 龍一が家に居るとき、伯父は父に小言ばかり言っていた。竜也が廊下で遊んでいると、やれうるさいだの、お前の教育が悪いだの、そんなことばかり言っていた印象だ。

 父が家を留守にしている時、伯父は自分たちに徹底的に日本式のマナーを叩き込もうとした。竜也はそれを逃げ回っていたが、辰巳は素直で優しい性格が災いしてか、ほとんど伯父の言い成りであった。

「でも、龍一おじ様が亡くなって、貴方が月に行って、それから隆徳おじ様は辰巳ちゃんにとても厳しくなさっていたみたいなの。第一、龍一おじ様がいたときは、私も天野のお家に遊びに出入り出来ていたでしょう? でも、いなくなってからは一切玄関先に入れてもらえなくなっちゃって……。いつの間にか辰巳ちゃんの表情も沈んでいって……」

 語るアリスの顔も、自然と暗く影を落とす。彼女も辰巳の側に居ながら、彼の悩みを打ち明けてもらえない歯痒さがあるのだろう。現状、竜也と被る想いが伝わってくる。

「小学生の時からね、辰巳ちゃんプールとか海に行かないの。修学旅行とかも欠席で、理由を聞いても教えてくれなくて……。それでね、私、偶然見ちゃったんだ」

 そこで一度区切り、彼女は言いにくそうに声を絞り出した。

「日本舞踊の舞台発表で女形やったことあるって、この間話したでしょ? 私、辰巳ちゃんに飲み物届けようと思って、楽屋にお邪魔したんだけど、偶然着替えてる途中で、すぐに謝ったんだけど、辰巳ちゃんその時すごく怒って、私のことを飲み物も受け取らずに追い出したの。だからね、聞くことも出来なかったんだけど――」

 その後のアリスの告白に、竜也は辰巳の態度に合点がいくと同時に、衝撃を受けた。

「そうか、そういうことか……」

 事実を噛み締めながら、己の手を強く握る。それは爪の跡をくっきりと手の平に残すほどであった。

「竜也ちゃん、お願い。私じゃ駄目なの。だからどうか……」

 アリスの瞳は、幼馴染に対する悲哀で潤んでいた。竜也は静かに頷く。

「わかった。俺も丁度どうにかしないとと思ってたところだ。話してくれて、ありがとうな」

 竜也はアリスに手を差し出した。彼女も頷きながら、両手で彼の手を握った。それはまるで、祈りを捧げるような仕草であった。



 夜、校門はしっかりと閉ざされ、宿舎の明かりもまばらとなってきた時間帯。竜也たちもまだ明日もある体育祭に備えて床に就く。

「今日のフィッツさんすごかったんですよ」

 セシルは珍しく興奮冷めやらぬ様子で、布団にもぐった竜也に話しかけた。

「ああ、そういえばお前、フェンシングの試合どうだったんだ?」

 竜也は今の今まで、アリスから聞いた事柄がぐるぐると頭の中を何度も巡り、夕食時もぼうっとしていたのだ。すっかり、フィッツの試合の結果を聞くことを忘れていた。

「いやあ、それがね? いきなり一回戦、出雲の生徒会長さんに当たっちゃってさあ……」

 竜也は昨日ダナンとミーティングルームで話していた白い青年を思い浮かべた。確か辰巳がアキラ先輩と呼んでいた。その人の事かとフィッツに問うと、相手は頭を縦に振る。

「そうそう、よく分かったね。フルネームはアキラ・フォン・ベルクシュタイン。地球軍総司令官の息子さん」

「ああ、あのゴットフリート元帥の。通りで偉そうにしてると思った」

「う~ん、偉そうっていうんじゃなくって、覇気が滲み出ちゃってるって感じだよね」

 セシルはフィッツの言葉に思い当たる節があるらしく、話に参加する。

「それなんですが、僕、彼にあったことがあるんです。その、NSW社で」

「なんだって?」

 竜也とフィッツは目を見開いて驚いた。布団に入ることで少し近づいてきた眠気も、その瞬間に覚める。

「それは確かなのか?」

 体を少し起こしながら、こちらをのぞくように二段ベッドの淵にもたれているセシルを見つめる。

「はい、彼も被検体の一人でした。研究室で何度かすれ違っただけなので、僕は今まで彼の素性まで知りませんでしたけど。ただ、彼も僕とは方法が違いますが、間違えなくナノマシンの保有者です」

 フィッツはそのような人物を一回戦で相手にしたのかという驚きと同時に、なぜ元帥の息子ともあろう人物が、危険と言われるナノマシンの実験などに参加していたのだろうかと、そちらの事実の方がフィッツをより驚愕させた。

「方法が違うって、つまり旧式の実験方法でナノマシンを投与したってこと?」

「そうだと思います。副作用が大きく、危険な方法です。そのため、それを抑える薬を彼はNSW社に取りに来ているようでしたが、どういう副作用なのか僕にもわかりません」

 竜也は眉間に皺を寄せて首を捻った。

「なあセシル、そこまでしてナノマシンを利用することに、いったい何の意味があるのか、いまいち俺には理解出来ないんだが? それに、結局ナノマシンの原材料ってなんなんだ? まったく得体が知れないから、どんなものだか想像がつかない」

「原材料は流石に機密事項で、生まれた時から体に保有している僕にすら教えてもらえません。利用する意義についてですが、簡単にいうなら人体改造です。人間が普段大凡出せはしない能力、身体や精神両方に作用して、強化する物質と考えてくださればいいかと」

「ふうん、つまりは一回入れるとずっと効いてるドーピング剤ってところか?」

「そうですね。あながち間違えではないです」

 フィッツがいつの間にか、じとりと竜也を睨んでいた。さすがに本人相手に色々と突っ込みすぎた質問をしている竜也に、デリカシーがないと感じたのだろう。

「あ、悪い。あんまり聞いちゃ駄目だよな?」

「いえ、僕は今や貴方方に少なからず信頼を置いています。この際、分かることとお教えしても問題ないことは、いくらでもお話いたしますよ」

 柔らかい表情になるセシルに、二人は安堵する。ここ最近色々とあったが、彼との絆が確実に深まって来ている事は確かなようである。

「そうか、それにしてもそんな奴相手にお前よく無事だったな?」

 竜也はセシルと手合わせした時の緊張感を思い出し、親友に視線を送った。何しろ、今日の試合にも一敗すらしなかった竜也が、まともに勝つか負けるか分からない対戦を経験したのは、いまだナノマシンを保有したセシルだけだったのだ。ナノマシンがドーピング剤に例えられるなら、アキラと言う人物もまた、その能力を有しているに違いないと思ったのだ。

「ひっどいなあ。いくらなんでも刺し殺されたりしないってば」

 それにとフィッツは付け足した。

「彼の強さは何もナノマシンだけじゃないよ。実力が全然違うって言うか。そう、丁度竜ちゃんみたいなものだったよ」

「は? 俺?」

「そうだよ。野性的っていうか、それこそ本物の狼と戦ってるようなイメージだよ」

 フィッツの例えように、竜也は思わずゲージの中の雷神と目を合わせる。

「確かに、彼の場合はナノマシンの力を発動していませんでした。それを自我でコントロール出来ることもさることながら、本当に隙の無い攻撃ばかりで……。あ、でも、その中で一セット取れたフィッツさんには僕びっくりしましたよ」

 竜也は「本当かっ?」と信じられないものを見る目を向ける。

「ま、まぐれだよ。一点差でどうにかって感じだったし。その前のセットと最後のセットはボロボロだったもん」

 フィッツは気恥ずかしそうに頬を指先で軽く掻く。しかし、セシルはその後違うグループと行った試合で、彼は勝ったと話した。

「何だお前、やれば出来るじゃないか」

「竜ちゃんのお陰様で。でも、試合終わってから膝がっくがくだったんだよね」

 おそらく一回戦目に強者アキラに当たったことにより、その他の選手の動きについていけたのではないだろうか。最後こそ格好がつかなかった物の、竜也はそう分析した。

 とにもかくにも、フィッツの思わぬ活躍もあり、ユグドラシルのフェンシング部のAグループは、二位優勝という好成績を収めたのだ。

「私も応援行ってればよかったかしら?」

 ルナが少し拗ねるので、リリスがセシルの隣から顔を出し「明日の水泳の試合は見に行ったら?」などという。ルナは苦々しく顔を顰めた。

「水場はごめんよっ!」

 その言葉に、一同は夜中にも拘らず明るく笑いあった。

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