表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦禮のアンジェクルス  作者: 黒須かいと
32/83

第五章「其々の朱夏」 (2)

 Ⅱ

 聖ユグドラシル男子士官学校では、いよいよ明日からが夏休みである。授業は午前中で終わり、早々帰省する者、その準備をする者、友と挨拶を交わし、自身は寮へ残る者、様々だ。

 そんな学生たちを窓辺に見送りながら、クレールス・ユリウスは学長室で忙しなく手を動かしているアルバートに書類の束を手渡す。

 宇宙軍司令官と学長を兼任するアルバートに、夏休みなどは関係ない。各々の教官たちから提出される書類に目を通し、サインに追われ、月の監視局から届いたパンデミックの動向に目を光らせ、さらに会議にも出席せねばならない。

 通常の人間ならばもはや何から手を付けて良いのか分からないような状況を、彼はいつもの朗らかな笑顔で乗り切っている。ただ、このような仕事の仕方をしていて常々思うのは、子供たちとの過ごす時間の短さである。

 妻を亡くし、その上戦死した親友の息子まで迎え入れた身となっているものの、世間に自慢できるほどの子育てなどとんとした覚えがない。しかし、男手一人でせっせと稼ぎ、家政婦も付け、習い事も息子たちにはやらせて来た。どうにか保護者として最低限の義務は果たしているだろうと、思わずにはやっていけない。

 本当のところは普通の親子のように、長期休暇を取ってレジャーに行くなりして、何らかの交流を図りたいところなのだが、望みは極めて薄い。それを思うと、かつて龍一が子供たちに行っていた家族サービスに敬意すら覚える。

 養子に迎えた竜也に、未だに「アルバートさん」と他人行儀に呼ばれてしまうのは、そんな生活を送っているからであろう。なんとも、考えれば考えるほど哀愁の漂う溜息が洩れそうになる。

 そんなアルバートに気を利かせ、自慢の紅茶を入れてくれたユリウスに、多忙な学長は軽く礼を述べカップに口を付ける。

「お疲れ様ですね、学長。この後は会議ですか?」

「ああ、これを飲み終わったらあっちの部屋で片付けてくるよ」

 それでも疲れを見せない辺りは流石である。アルバートはふと思い立ったようにユリウスに問いかけた。

「そう言えば、君は十五年ほど前にここの代表クレールスになったそうだけど、こんな噂知っているかい?」

「さあ? 見当がつきませんが……」

 クレールスという未婚が原則の職業柄のためか、もう三十路も後半と言う歳にも関わらず、彼ははまるで清い青年の如き純真な表情で首を傾げた。それに対して、すっかり老けこんだと自負すらしているアルバートはにやにやとしながら老眼鏡を拭く。

「いやね、出るんだそうだよ? 地下の方からこう、呻くような声っていうか、響いてくる物音が……」

 まるで小学生のような噂を口にする学長に、ユリウスはくすくすと笑った。

「この学園は英雄(メシア)様がお守りになっているのです。悪霊の類ではないと思いますがね」

「それ、そこだよ」

 アルバートは得意げに眼鏡を掛け直すと、疑問符を浮かべているユリウスに答える。

「なんでもその声は、学園建設時から宿りし英雄様のお声じゃないかっていう噂なんだ。どうだい? この学園らしい噂だろ?」

 それに対して「ほう」と、ユリウスは顎を撫でた。

「御忙しいのに良くそう言った学生の噂をお聞きになられましたね?」

「私も元は此処の学生だったしね。それに、これでも一応学生たちの事を知るために、ネットとか寝る前にチェックしているんだよ」

「なるほど、観察に御熱心ですね」

「まあ、私への悪口なんかもあったりして、ちょっとへこむ時もあるけどね……」

 苦笑しながらも軽くすませる学長に、ユリウスは少し驚く。

「放っておいてよろしいのですか? うちの学生なのでしょう?」

「私が動いたら大きくしなくても良い問題を大きくしてしまうだろう?」

 ユリウスはそれもそうかと納得しながらも、寛大な人だと感心する。

 アルバートは「さてと」と書類を整えながら、紅茶のカップをユリウスに返却すると、会議用モニターのある別室へと移動した。

 何かあったら呼ぶようにとユリウスに託け、扉に内側から鍵を掛ける。

 薄暗い静寂な空間で一人きりになったアルバートは、会議前の準備を行いながら、ポケットに忍ばせておいた清涼剤を一粒ケースから取り出し口へと含む。そのミントの香りを味わいながら椅子の背もたれにぐっと背中を押しつけ伸びをすると、彼は自身のパソコンを開き、記憶端末を差し込む。

 軍へ入隊した当時から身につけている古い腕時計で時間を確認すると、まだ会議の予定時刻には三〇分ほどある。すると、彼は普段服の中に仕舞い込んでいるロザリオのチェーンを手繰って胸元から引き出す。

 その十字の先端は蓋になっており、それを取ると記憶媒体の差し込み口となっていた。パソコンに挿入し、とあるフォルダをクリックする。

 開かれたデータには、音声と、静止画を表す画像が入っていた。会議室は防音であるが、念のためイヤホンを装着し、その音声データを開いた。

 聞こえてきた音声は、いきなりの酷い雑音と、飛び交う人々の悲鳴などが混ざったものであった。その中で微かに、良く聞き知った声が響く。

『ま……さか……、そうか、そう……い……こと――』

 その音声に耳を澄ませるアルバートの表情には、いつもの穏和さはなく、とても険しい色が映る。ノイズはその声と共に、何発もの銃声と、何かが刺さるようなグロテスクな音を拾っていた。

『――わる、かった……おま……えには、何の……罪も……。――か、ん……を、進め……被害を……最小、に』

 そこで再生は終了した。

 アルバートは、次に静止画のデータをクリックする。そこには、筆まめな人であった龍一の、達筆な筆文字が縦書きに記されていた。

 現在の公用語はアースライン言語で統一されているのだが、その文面は、旧日本語でわざわざ書かれている。以下はその内容であった。



 我が親愛なる友、アルバートへ


 前略、というより、これをお前がいつ読むかなんて皆目見当もつかないから、季語なんて使えないし、第一遺書の書き出しなんてどうすればいいのか良く分からんのが正直なところだ。願わくば、こんな中途半端な文面をお前が読むことのないように祈りたいが、職業上も、俺のこれまで歩んだ人生上も、お前より長生きする保証はどこにもないので、とりあえず、今のところ思いつく事を箇条書きにしておこうと思う。

 その壱

 まずは二児の父親としてあいつらの行く末を案じてやらねばなるまい。そこで、大変身勝手だとは思うのだが、今に始まった事ではないので、どうか聞き入れてほしい。

 俺はどうにも昔から兄貴、ようは辰巳と竜也にとっては伯父さんになるわけだが、あいつが未だに苦手だ。それは竜也も同じらしく、兄貴にはどうも懐かない。辰巳はわりと平気そうなのだが、どうにも無理をしているように見えなくもない。とにかく、兄弟離れ離れというのも味気ないし、何よりも本人たちが気の毒だと思う。だから、お前に二人を預けたい。正式に養子に迎えてやってくれ。お前にも歳が同じ息子が一人いるから、同年代同士仲良く出来ると思う。

 それと、二人には其々習い事をさせてやってくれ。辰巳には三味線とか、日本舞踊とか、とにかくそういう文化芸能的なものを。竜也には剣道や空手などの武道を頼む。いずれも本人たちが嫌がるようなら無理強いはしなくて良い。

 その弐

 さてと、困った。箇条書きにしたのに、殆ど俺が死んだらして欲しい事を書ききってしまった。嗚呼、遺産相続という問題もあったな。其の辺りは保険会社なり弁護士なり挟んで、お前の方でうまくやってくれ。俺はそういうのに詳しくないからな。

 その参

 そうだ、いきなりこんな事をお願いするのだから、それなりにこれを書いた理由をお前に伝えておこう。まずは俺の兄貴、天野隆徳【たかのり】についてだ。実のところ、俺と隆徳の母親は違う。いわゆる異母兄弟というやつだ。どうやら俺は後妻の子らしい。

 母は俺を産んだ後すぐに亡くなり、出ていった前妻が兄貴の事が心配で、思い直して出戻って来たらしい。

そのせいなのか、俺は幼い時からあの天野の屋敷にはどうも居心地の悪さを感じていた。だから家出もしてやったのだが、子供が出来て、お前に相談したら戻った方が良いと言われたので、しぶしぶ戻る事にした。やはり、居心地は良くはない。出て行った邪魔くさい弟が、二人も子連れで戻って来たのだ。兄貴の不機嫌は無理もない。

 兄、隆徳(たかのり)はさらに、どうにも思想が偏った男だ。自己中心的というか、とにかく、あまり良い人柄とは言えないだろう。俺が死んだ後、正直あいつがどういう教育を子供たちに施すのか、不安しかない。非常に曖昧で漠然としているのだが、何となく嫌な予感がするのだ。こんな環境に辰巳と竜也を置いたままにしておくのはどうも気が進まない。わかってくれ。

 次に、俺はお前を面倒くさい事にすでに十分巻き込んでいると思う。あいつらの母親のことについてだ。こればかりは俺の犯した最大の罪だと重々承知している。だが、後悔はしていない。察しの良いお前なら、俺がどうしてここまでこの事に関して茶を濁すか、きっと薄々気づいていると思う。だから、そのままどうか気づかないふりをしていてくれ。息子たちにまで、面倒くさい思いをさせたくはないのだ。口の堅いお前だからこそ頼める。

 以上のことから、俺が死んだあと任せられそうなやつがアルバート、どうもお前しか見当たらないのだ。本当に世話になってばかりで「最後まで」と呆れられると思うが、恥を上乗せしてでもどうかお願いしたい。

 しかし、ただ押しつけるというのも忍びないので、俺なりにお前の役に立ちそうな情報を提供させてもらう。

 実は奥方が研究されていた事柄について、少し分かった事がある。恐らく、このヒントさえあれば、お前の頭脳をもってして、事件の真相が明らかになるだろう。

 俺たちが学生時代に良く噂していた「地下に眠りし英雄様」というやつだ。覚えているか? ずっと学生の間で語られているそれこそ伝説だが、どうやらあながちただのデマではないらしい。

 もう一つの伝説、アンジェクルスの級式には、実は最上段階があり、それは軍きっての極秘事項だという。いわゆるメシア級が存在しているというやつだ。それはかつてこの世界を救った英雄様の乗り物、またはその鎧として語られている。実存したら確かに偉い騒ぎだよな。

 さて、此処で少し話を現実的なところに戻そう。そもそも奥方はSW社の研究員だ。NSW社に引き抜きされそうになったところを、本人が断固拒否したという。ここまではあっているな?

 拒否の理由は人権を無視した危険なナノマシン人体投与実験……。なあアルバート。このナノマシン。結局正体とはなんだろうかと考えた事はないか?

 人知を超えた能力を持たせ、もっともアンジェクルスの戦禮者(せんれいしゃ)として相応しい人材を作り上げるらしいが、そもそもおかしくないか?

 人知を超えるナノマシンを、人間はどこで手に入れたのだ? 材料は? 作り方は?

 SW社がアンジェクルスの製造を始めたのは、人類が分裂戦争を起こした五〇〇年前。宇宙開拓同盟に対抗すべく、英雄様の依り代として地球共同連邦の技術者が総力を上げて作ったという話だ。

 だがな、アルバート。人間誰しも何もないところから物は生み出せない。何かそれのモデルが必ずあったはずだ。最初に製造されたのはよりによって戦艦タイプではなく、人型タイプらしい。

 そこでお前には辛くとも思い出してほしい。奥方はなぜ亡くなったのか。研究中の事故という話ではなかったか? しかも俺達将官クラスにも教えられない極秘研究だったと言うではないか。

 そして俺が何よりも引っ掛かっているのが、死因の説明だ。研究中の何らかの爆発により、建物の何がしかの部品が胸に刺さった。という説明を、お前も聞いたかと思う。けれどどうだ? 俺たちが棺で見た彼女の傷跡は、軍人の俺たちには誤魔化しようもない。間違えなくあれは銃痕だ。

 SW社は俺たちに、いや、全世界に何かを隠したがっている。奥方はその犠牲となった。そう考えるのが、一番筋の通っている話しではないだろうか?

 最後にもう一つヒントだ。この学園都市の創立は、アンジェクルスの開発年月日とほぼ両立している。

 やれやれ、此処まで書くのに随分と骨が折れた。しかし、こうまとめて見ると、俺は誰に殺されても文句は言えない人間だろう。

 アルバート、これをお前が読んでいるという事は、すでに俺はこの世の人間ではなくなっているということだ。きっと、何がしかのヘマをしたのだろう。馬鹿な奴だと笑ってやってくれ。

 お前は俺より世渡りが上手だ。どうか、上手くやってくれる事を願っている。何よりも、この世界を託す子供たちのためだ。裏が隠された夢をやるより、粗削りだが真実の見えた将来を残してやりたい。

 長々とまとまらない文を読んでくれて感謝する。後輩の癖に、生意気にも先に逝くことを、どうか許して欲しい。

 人生無二の友、頼もしき戦友よ。必ず君に幸と栄光あらんことを、心から願っている。

 草々

  六月十七日

  天野 龍一

  アルバート・オブ・キャテリー・グローリアス様



 この遺書は龍一との最後の遠征となったあの戦前、出撃時に秘密裏に手渡された。元は用紙を三つ折りにして封筒に閉じた物であったが、アルバートはそれを今は記録媒体にスキャンして、こうして肌身離さず持ち歩いている。肝心の原本はというと、アルバート本人にしか分からない場所に隠していた。

 そもそも、軍人が戦地に赴く前に、友人や家族に遺書を託す事は珍しくない。だが、あの時の龍一は今にして思えば、いつもの笑顔の下に、何か隠しているような、そわそわとした気配を背負っていた。

「何だ龍一、こんな物を私に渡して。珍しく今回の戦は自信がないのかい?」

 冗談めかしてそう言った当時のアルバートに、龍一はいつもの笑顔でこう返した。

「俺は常勝提督、電光石火の神風だそうだからな。英雄様とやらの名に恥じないような働きはするさ。それもこれも、鉄壁を誇るアルバート提督のおかげだ。その支援があってこそ、俺はいつだって背中を気にせず前だけ見て戦える。だから今回も、俺の背中はお前に任せる。頼むぞ、親友!」

 そう言って快活に笑い声を洩らした龍一の顔を見たのが、あれで最後になってしまうとは誰が思ったであろうか。

 しかし、彼は決してアルバートほど聡くはないが、感はずば抜けて効く人物であった。恐らく、自分の死期を悟り、慌てて遠征前に文書をしたためたのだろう。

 こんなにも自分を信頼してくれた親友を、むざむざ目の前で何者かによって謀殺されたのは明らかであった。

 アルバートは、この遺書に目を通す度に、自分の不甲斐なさに打ちのめされそうになる。その上、真相を説くどころか、自分が手始めに謀殺の首謀者として査問会にかけられるとは、ある程度予測は出来たが、実際にその場に立たされた時の絶望感はこの世の煉獄を彷彿させた。

 一刻も早く、龍一の無念を晴らすべく、犯人を突き止めてやりたい。それにも拘らず、足止めをくらう立場が苦々しかった。

 その上、親友の遺書をそのまま遂行出来なかったことにも、アルバートは後悔していた。この遺書はとてもではないが公表できる代物ではない。口頭でどうにか綺麗な言葉に直し公表できたのは前文の息子たちの件についてのみで(つまり箇条書きのその弐まである)後の文言はひた隠すしかなく、結局本文がそのまま他人に見せられない遺書は、父親本人が子供たちに書いた信憑性が薄いということで、伯父の隆徳に突っ撥ねられ、辰巳の引き取りは断念せざるを得なかった。

 何にしろ、このすべての件は自分自身一個人で解決していかねばなるまいと、アルバートは強く誓っている。でなければ、最悪の場合、龍一の子供たちが、今だに見えぬ犯人の毒牙に掛る可能性があるのだ。それだけは決してあってはならない。

 そのため、アルバートはどうにか龍一の熾天使(セラフィム)級から回収したブラックボックスを死守する必要があった。これが自分以外の者の耳に入れば、犯人に抹消されてしまう可能性があるからだ。彼はどうにか査問会の詰問を上手くかわし、ブラックボックスの音声をこの小さなロザリオに託し、本体自体は龍一の遺書同様、彼にしか分からない隠し場所に置いてある。

 とても生きた心地のある年月ではなかった。しかし、これも子供たちのためにと思えばこそ、何よりも、親友との約束、そして妻の無念を晴らす切っ掛けになればと、ただその一心だけで動いて来た。

 苦心の末、なんとかこの学園の学長という席を手に入れ、いよいよ本格的に事件究明へと活動出来る拠点を得た。

 目的は言わずもがな、地下室の有無、その中身の解明である。

――チャンスは学生たちの少ないこの時期だろう。さて、鬼が出るか、蛇がでるか。いずれにしろ、私も下手を打ったら、龍一とイザヤのもとに逝く事になってしまうな……。

 そして、何よりも龍一を謀殺した犯人の正体も同時進行で探らなくてはならない。

――龍一の最後の声を聞く限り、何かを悟ったようだった。艦の爆発の様子は自爆のようだったが、そうせざる負えない状況だったのか、はたまた自殺覚悟の裏切り者がいたか。いやそれよりも「悪かった」とは? 「お前には何の罪もない」というのはどういうことだ? 誰に話しかけている。銃声は? あの刺さるような音はなんだ?

 龍一が“殺されても仕方のないと思える相手”またはそれでも“許せる相手”とは何かと、アルバートは考える。

「まさか……」

 アルバートはそこではっとする。今まで考えたくないという、見えない壁のせいで滞っていた思考が、とうとう一枚その壁に割れ目を入れる音がした。しかしその導き出された一つの可能性は、やはりどう考えても無理がある。だが、そうと考えなければ、裏切った者にあのような言葉かけは行わないはずだ。

――ああ、だとするならばなんということだ。けれど、どうしてそんな事が? しかし、そんな事がやってのけられる者は……。

 アルバートは熟考した末、二ヶ所に連絡を取ることにした。一つはとある検査機関、もう一つは――

「すまない、どうにか彼に接触を図って欲しい。なるべく彼の周りに気取られないように……。ああ、よろしく頼む」

 アルバートは一人の写真付きプロフィールを部下に送信すると通信を切った。

――これでもし私が動いたと相手に感づかれれば、逆に相手も動き、証拠を掴みやすいかもしれない。だが、それにはあまりにあの子たちにかかる危険のリスクが高すぎる。どうにか穏便に事を運んでくれればいいが……。

 結局のところ、細かい段取りは信頼できる部下であっても他人に頼らざる負えない。其の辺りが、慎重なアルバートにとって負担に思うところであった。

 アルバートはロザリオをパソコンから引き抜くと、会議用のモニターを映し出す。そこには次々と、国の重鎮たちが顔を揃えた。

 本会議の代表者であり、地球共同連邦のトップ、国家総参謀議会会議長のブランドン・バシェット、その隣には副会議長代理の国家総参謀議会第一書記、司馬養が宛ら彼の側近のように並ぶ。さらに、国防委員長のホープマン・バーンズ、地球軍総司令官のゴットフリート・フォン・ベルクシュタイン、連邦国立出雲士官学校のマキ・テイラー・イリノ学長、聖ヴァルキリー女子士官学校のレイチェル・ホプキンス副学長が顔を揃えた。

 ヴァルキリーはユグドラシルの姉妹校なので、学長はアルバートであるが、あくまで代表は副学長のレイチェルである。

 それぞれの顔が仕切られ、アルバートの目の前に映画館のような大きなモニターを介して現れた。

 代表のブランドンが自慢の白い顎髭を撫でながら咳払いする。

「それでは、会議を始める。まずは初年度の学園都市型要塞の報告から入ろう」

 その言葉に、アルバートはいつもの人の良い表情で返事をし、報告書を手に取った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ