第四章「聖ヴァルキリー女子士官学校」(6)
Ⅵ
ヴァルキリー戦をいよいよ明日に控え、昨日まではしゃいでいた雰囲気は一掃し、竜也たちは誓鈴たちも同伴させ、宿舎と同じ建物内にある会議室に集まっていた。
竜也、ヨハン、アスカはきりりと顔を引き締め作戦図案の3Dホログラフィーを見つめた。が、実際のところは昨日の熱中症の後遺症として、煩わしい頭痛を抱えていた。
自分は冷静なつもりだったが、よくよく考えてみるとおかしなテンションだったかもしれないと、自身を律しきれなかったことに竜也は反省した。いや、寧ろあまりの暑さに頭が少々やられていたのかもしれない。しかし、その怪我の功名か、いつの間にか天野の家や、兄に対しての苛立ちが、もうどうでもいいことだと、ある種の諦めにも似た感情と馬鹿ばかしさに気づき、非常に軽減されていた。
ときどきぴりりと痛むこめかみに顔を顰めながらも、昨日よりもいっそ晴れ晴れとした空気を纏った竜也に、フィッツは多少安堵していた。
ダナンが一同の顔を見渡しながら、対戦地を発表する。
「対戦場所が今朝発表された。場所はグリーンランド地方東部のこの島だ」
今から二〇〇〇年前、英雄が降臨するまでは、この地球は大地震や津波、あらゆる天変地異が起こっていたとされている。そのせいで、いくつかの大陸は割れ、離れ、新たに盛り上がった地形となり出来上がった島もある。まったくもとの形がわからないほど変形したわけではないが、このグリーンランド東部は、そんな天変地異の元、軍事練習場にはもってこいの離れ小島となっていた。
小島と言っても実際は大きなもので、湖のようなものもあり、立派な山を挟んだ地形は荒々しく切り立ち、その自然の猛々しさを誇張していた。竜也たちの目の前には、そんな島を縮尺した立体映像が映し出されているのだ。
「うえ、熱気攻めの後は凍結攻めか。あの姉ちゃんたち俺らのこと、完全に殺しにかかってるな」
「鉄でもないのに熱疲労起こして割れそうだよ……」
ぼやくヨハンとアスカを貴翔は睨みつけたが、正直、こんな過酷な地形を選んで来るとは思わなかった。以前はもう少し平坦で、気候も厳しくない土地であったのだ。
――あちらも実戦に不慣れな一年がいるはずなのですが、大丈夫なのでしょうか……。
貴翔すら思わず相手側の方が全員女子なだけに気をつかってしまう。当然、戦場においてそのような気遣いは不要なのだが……。
「周りは極寒の海、さらには戦闘行為による振動で雪崩の危険性もある。そのため命の保証はない。が、本物の戦時状況ではない。仲間が一人でも行方不明になった場合はすぐに試合を中止し、審査を勤める教官たちと捜索に当たる。常に仲間の状況は確認しながら挑むように」
皆ダナンの注意に頷くと、次に敵のユニットが赤く映像に七機分が並ぶ。それに対するように、青いユニットで自分たちのアンジェクルスが表示された。
「相手は島の南側。俺たちは北側からスタートだ。まず俺が先制してアクティブ、パッシブ両方のデコイを展開する。これで誘導ミサイルとレーダーの脅威からは一時的に晒されずに済むだろう」
そこで、と貴翔が話を引き継ぐ。
「勝負は展開を終えてしまう前に、こちら側が如何に相手の位置を把握しながら移動できるかです。展開を終えてからは当然こちらも索敵には肉眼で確認しないといけませんから、大体の位置を正確に捉え、どのようにこちらに向かってくるかの予想立てが重要です。そこでまず、索敵を得意とするアスカ。貴方は敵の位置を確認したら、デコイを散布し終わる前に私に報告してください。私がダナンの上空で確認した情報と照らし合わせて相手の移動位置を予測します」
「了解」
そこまで聞いて、竜也とヨハンが少し身を乗り出して自分の名前が作戦上で呼ばれるのはいつかと身構える。しかし、次に名を呼ばれたのはフィッツだった。
「フィッツ、お前の機体は唯一水陸両用機だ。寒冷地でも問題のない仕様のため、少し孤立するが、この場所にいてくれないか?」
ダナンが指差したのは、山の中腹から割って流れ出したような川から連なる小さな湖であった。
「タイミングはデコイを散布し終えてすぐにだ。なるべく迅速に水中に隠れてくれ」
「解りました」
フィッツは目算で、ラビットモードを発動すれば、五歩程度で着水出来ると踏んだ。
「そしてセシルは、基本、俺と行動を共にしてくれ。相手の機体性能が前回と大幅に違わなければ、飛行機能が優れている物は恐らく二機以上だ。俺一人だと少し荷が重いのでな」
「はい」
貴翔はそこに重要事項として付け加えた。それはセシルの機体、ルシフェルの特殊能力、金星の鎖についてである。
「彼の機体は通常熾天使級が対象として作られています。地球内で人型アンジェクルスにフル出力では危険すぎですので“実戦に則して”と言っても、彼の出力は弱めてあります。そのあたりは皆さん、ご理解ください」
確かにニュースで見たような超巨大出力で攻撃されたのではひとたまりもない。下手をすると、この地形が根底から変わりかねないのだ。それは当然の処置であった。
「そりゃ分ったけど、竜也と俺の力天使隊の出番は?」
ヨハンがとうとう痺れを切らして先走る。
「お前たちは重要な主力部隊だ。特に竜也のシミュレーション戦績を見せてもらったが、CPU相手では七機程度どうということはなかったな。なので、お前には特攻隊長として敵を撹乱して欲しい。ヨハンはそれに同行し、遠距離から竜也を狙う敵をやれ」
「おおう? 随分大胆な作戦だな? かなり竜也頼みじゃね?」
ダナンの意外な作戦案に少し狼狽えるヨハンに、貴翔は微笑しながら答える。
「何もそのまま一掃しろとは言っていませんよ。ようはヒット・アンド・アウェイです。それには私が工作用爆弾で雪崩を起こし、塹壕を作っておきますから、安心して戻って来てください」
叩いては戻る。この至って単純な作戦は、竜也には分かりやすく、そしてもっとも彼の得意とする戦法であろう。だが、シミュレーターで行った地形はほぼ平野であった。今回の足場は悪く、おまけに酷寒の水辺、そして山。未体験なだけに、竜也はわくわくとしたが、同時に侮ってはならぬと気を引き締めた。
「さて、此処まで話したわけだが、誓鈴諸君は特に質問や意見はないか?」
ダナンが誓鈴たちに向かって問うが、皆一様に問題なしという見解らしい。
「では各自機体の最終メンテナンスに励め」
解散と言う前に、ダナンはふと手を止めた。
「ああ、そうだった。一年に言い忘れていたな」
竜也たちがきょとんとしていると、ダナンがいたずらっぽい笑顔で伝える。
「今日からすでに試合は始まっている。諜報員に気をつけろ」
その言葉にフィッツとセシルは特に疑問に思うこともなく「はい」と答えたが、竜也だけは何のことだと疑問符を浮かべていた。会議室から出ると、早速フィッツに叱咤される。
「もう、竜ちゃんったら、ちゃんとルール読んだの?」
「読んだと、思う……」
親友にむすりとされ、自信なさげに答える竜也に、セシルが親切に教えてくれる。
「えっとですね。要するに相手の機体を見に行ったり、会議を盗聴したり、とにかく探りを入れていいってことです。もちろんそれをされると不利ですから、こちらも打って出るか、諜報活動を妨害する必要があるってことです」
なんとそんな情報の攻防戦が、もうこの時、この瞬間から始まっているのかと、竜也はぎくりとしたが、さて、だからといってどうしたらいいのか、竜也には見当がつかなかった。
「ちなみに、会議室の盗聴器は、朝会長たちが外してたよ」
「げっ、そうだったのか?」
「そ、だからこっちも目には目を、歯には歯を、ってね」
フィッツのその言葉に竜也が顔を顰めていると、ルナとリリスが足もとにひょっこりと現れた。そう言えばこの二匹は会議に参加していなかったと、竜也はいまさらながら気づいた。
「御苦労さま二人とも」
「うふん、お安いご用よ」
フィッツの労いの言葉に、リリスはウインクしてみせる。
「リリスには相手のアンジェクルスを、ルナには会議を盗聴して来てもらったんだ」
「いつの間に……」
竜也が感心しながらも、いったいどうやってという顔をしていたので、ルナがため息交じりに答える。
「あんたホントに戦闘能力以外は唐変木なんだから。いい? 私の特技は何もジャンプだけじゃないでしょ?」
竜也は顎に手を添えながら考え、ルナの頭に注目する。
「ああ、聴力か」
「はい、よくできました。その通りよ」
つまり、ルナの長い耳を駆使すれば、扉一枚向こう側の会話も筒抜けというわけだ。まったく、良くもばれずにこなしたものだと竜也は半ば呆れながらも称賛する。すると、リリスが自分も褒めてくれと言わんばかりに、艶っぽい甘えた声で、竜也の足にすり寄る。
「私もばっちりアンジェクルスの情報録画して来たのよ?」
「録画?」
首をひねっていると、セシルが徐にリリスを抱き上げ、目に入っていたコンタクトを取り出し「これです」と、竜也の目の前に提示する。まさか猫にコンタクト型のカメラを入れておくとは恐れ入る。
先輩たちの指示なのか、それともフィッツ達自身で相談して行動したのか定かではないが、後者だとしたら、この二人の抜け目なさに多少失敬だとは思いつつ、薄ら寒い思いすらする。
「ということで、改めて作戦会議するから、一五○○時に宿舎に再集合だよ」
フィッツの指示に頷き、時間を確認する。今から昼を挟んで丁度五時間後だ。最終メンテナンスと言っても、あまり複雑な装備を持たない竜也の機体では、特に異常個所がないかを確認するのみなので、そうそう時間はかからないだろう。そこで、それまでどこで時間をつぶそうかと、彼の内ではそちらに重きを置いた。
案の定、竜也がメンテナンスを終えた時、フィッツ達はまだ装備をあれこれ確認を取っていたので、彼だけ暇になってしまった。
しばらくドッグ内で仲間の機体を確認してはみたが、司令塔でない彼が見たところでどうこうすることもない。仕方なく、少し早めの昼食をすませようと、食堂に向かってみた。この時間帯ならば、まだ女学生たちが集まっていないだろうと踏んだのだ。
雷神と共に食堂の入口まで来ると、竜也は思わず相棒の首根っこを引っ掴んで、食堂からは見えない柱の陰にさっと隠れた。なぜならば、自動ドアの磨りガラス越しに、なんとヴァルキリーの生徒会全員が顔を揃えているのだ。ぼやけた視界ながら、彼の持ち前の直感と、特にサンドラのレモン色の髪が目立っていたので、どうにか自動ドアが開く前に気づけたのだ。
――気づかれてない……よな?
雷神とアイコンタクトを取ると、そろりと確認する。中には生徒会以外おらず、彼女らもこちらには気づいていない様子で、なにやら徒党を組んで話し合っているようであった。
竜也は俄かに躊躇したが、フィッツ達の働きを見習わなくてはと、雷神の賛同も受け、意を決して食堂の窓際へと移動した。そして宛ら忍者のごとく壁に張り付くと、窓のすぐ隣にある通気口に耳を寄せた。ごうごうという排気音に混ざって、女子たちの話し声が聞こえる。
「盗聴器は失敗したけど、撹乱はこれで成功だね」
キュリアのはしゃいだ声だ。
「名演技でしたよね!」
たぶんこれは一年のロニンだ。そこだけ聞いただけでも、なにやら重要そうな情報に、竜也はひょっとして、これは聞き耳を立てて正解だったのではないかと、自身の勇気を密かに讃えた。
「会議室前に念のため監視カメラをセットしておいて正解でしたわ。まさか誓鈴をお使いになるなんて……。でも、これで相手には偽の情報を掴ませましたもの、私たちはこのまま作戦を変えずに行きますわよ」
竜也は思わず小さく舌打ちした。この話の内容だと、どうやらルナはでたらめの情報を仕入れてきたらしい。しかし、このままでは、本当の作戦内容を聞けない。竜也が悔しげな顔をしていると、雷神が提案する。
「自分に考えがあるのだが、任せてはくれないだろうか?」
「何をする気だ?」
竜也が首を傾げると、雷神は「とにかくそのままでいてくれ」と言うので、竜也は通気口に聞き耳を立てたまま待機する。すると、あろうことか、雷神は堂々と食堂の中へ単身入って行ってしまった。
――おい、何考えてるんだ!
竜也は慌てた。当然のように食堂内には女子生徒会の短い悲鳴が響いた。
「ちょっ、ちょっと、貴方何しに来ましたの?」
サンドラが金切り声で喚く。しかし紳士的な応対で、雷神は淡々と彼女らに問う。
「突然すまない。主を探しているのだが、こちらには来なかっただろうか? 何せつい物珍しかったもので、あたりを見渡していたその間に、どうもはぐれてしまったようなのだ」
如何にも申し訳なさそうなその態度に、女子たちはざわつきながらも応対した。
「ごめんなさいね、見ていないのよ。男子宿舎の前で待ってみてはどう?」
レニーが優しくそう答える。
「うむ、それもそうだな。いや、忝い。言われた通りそうしてみることにしよう」
雷神はそそくさとその場を後にすると、竜也の方は振り向かずに、宿舎へと向かう曲がり角を通過した。すると、女子たちは彼が去ったのを確認し、溜息をついて再度話し合いを始めた。
「マジあり得ないんですけど……。うちらの話聞かれたっぽくない?」
独特の口調の一年、シャイアンが、あまりのタイミングに狼狽える。一同も同じく頭を悩ませたようで、しばらくの間が開く。
「……仕方ありませんわ、私自ら前に出ます。こうなっては嘘の情報を一部本当にするしか有りませんもの」
サンドラが作戦の一部修正を図る。
「危険じゃないのかい? 会長」
ココットが心配そうに進言するが、サンドラは寧ろ望ましいとばかりに受け答える。
「私が先に動けば、あちらが掴んだ情報が本当か嘘かで混乱するでしょう。むしろそこにチャンスがありますわ」
皆はその言葉に納得したようだった。ぞろぞろと食堂を退出する動きがあったので、竜也は咄嗟に匍匐姿勢を取る。丁度壁と生い茂る草花で、彼女たちからは死角であった。
――つまり、サンドラの機体が始めに動くっていうのは、恐らくルナが掴んだ情報と一緒だ。けど、それ以外が全く違う動きをする可能性があるってことか……。
竜也は自分なりに分かりやすく解釈しながら、もう少し情報が欲しかったと歯噛みしたが、雷神の働きには感謝した。これで少なくとも、大幅な混乱は避けられるだろう。女子たちがすっかり視界から消えてから、竜也はそっと立ち上がった。
とりあえず、まずは功績者である雷神と合流しなくてはなるまい。竜也は男子宿舎へ向かった。そして、しっかりドアの前で“待て”をしていた相棒の頭を撫でてやった。
「良くやった雷神。少し驚いたけどな」
「すまない。ああする他、何かヒントになりそうな文言を引き出せないと思ったのだ」
「十分だ。先輩やフィッツたちに報告しに行こう」
一人と一匹はドッグに戻ると、まずは親友を発見する。丁度相手もこちらに気づき、機体の足回りの点検を終えて寄って来た。
「どこか行ってたの?」
「ああ、ちょっと飯を食いに……っ」
食堂と言いかけた竜也ははっとしてあたりを見渡す。こちらが誓鈴を使って情報収集をしていたのは相手にばれているのだ。相手も同じ方法をとっていてもおかしくはない。幸い動物の気配はなかったが、念のためフィッツに耳を貸せと指示する。
「偶然食堂であっちの生徒会の話を聞けたんだ」
「えっ?」
フィッツは意外な竜也の報告に、目を丸くする。
「どうもルナの持ってきた情報は当てにならない。あっちは盗聴されていることに気づいて、演技していたらしい」
フィッツが詳しく聞かせてほしいと願うので、竜也は雷神と聞いたことをそのまま話した。さらに、雷神の作戦で知りえた情報も提供する。
「そっか、ありがとう竜ちゃん、雷ちゃん。危うく騙されちゃうところだったよ。でもそうか……どの道あっちはリーダーが先に仕掛けてくるんだね」
「そうみたいだが、何か不都合があるのか?」
フィッツは点検でチェックを入力するためのタブレットペンを下唇に押しあてながら、何やら考えを巡らせている様子だった。
「ダナン先輩の先制デコイが失敗するかもしれない……」
そうつぶやいたフィッツに、竜也はぎょっとした。
「そこがダメだと全体的に今回の作戦は総崩れだろ?」
「うん、困る」
「困るったって、お前……」
竜也はなぜ失敗する可能性があるのかと、問いただした。あのしっかり者の先輩にかぎって、失敗とは無縁の事のような気がしたのだ。すると、フィッツは自身の機体、ガブリエルのコックピットへと竜也を手招き寄せた。中にはルナが待機しており、竜也が入って来たことに怪訝な顔つきをする。
「ちょっとぉ、何しに来たのよ」
「いいから文句言わずに大人しくしてろ」
竜也に席をとられ、無理矢理膝に乗せられたルナは毛を逆立てる。しかしそんなことには構わず、内壁を閉じると、フィッツはキーボードを引き出し、リリスが採集した録画データをコックピット内に映しだす。
そこには純白で美しい、すらりとした女性にも似た姿をした機体が投影された。
「……綺麗だな」
戦争のための兵器ということを忘れてしまいそうなほど、その機体は竜也の瞳を奪った。
「これがサンドラさんのアンジェクルス、サンダルフォンだよ」
言いながらフィッツは、キーボードを操作し、想定されるスペックを表示する。
「サンダルフォンはヨハン先輩のメタトロンの先駆機なんだと思う」
「なんだって?」
竜也はサンダルフォンの装備を見て驚愕する。その美しい見た目からは想像出来ぬ程の砲身が、細い機体の中に隠れているというのだろうか。
「見た通り軽量型の機体だから、メタトロンよりは実弾兵器は少ないと思う。それでも十分、攻撃先行型の厄介な機体だよ」
「それで、この機体だとダナン先輩の方が不利なのか?」
話の結論を急く竜也に、フィッツは悩みながら答える。
「ダナン先輩のアズライールは接近戦闘が得意だからね。遠巻きにガンガン撃たれると、デコイ散布どころじゃなくなっちゃうかもしれないんだ」
「でも、ダナン先輩はセシルを援護につけとくんだろ?」
竜也のその言葉に、フィッツは首を振る。確かに、単純に二対一になれば、問題のないことなのだが、当然そこに二機の機体があると相手に分かれば、それに応じて応援を要請するだろう。そしてその応援とやらが一筋縄ではいかないのだ。
「相手には、どうもS級ロングレンジライフルを装備した機体があるみたいなんだ」
言いながらフィッツは、次の画像を見せる。そこには、ブルーシートから少しはみ出した砲身が映っており、それは強力なスナイパーのいる証拠であった。
「セシルにはこの相手を早く空中から見つけて撃ちとってもらわないと」
竜也は溜息をつきながら頭を抱えてしまった。
「ミカエルも空が飛べたら良かったんだが……」
「今からそういう仕様に変えるのはさすがに無理だよ。だから、デコイをあてにしない作戦を考え直さないとね」
作戦を練るという行為は竜也にとってもっとも苦手な課題である。当然そんなものは見当もつかないわけだが、親友はそんな彼の横で何か思いついたようだ。
「ダナン先輩が了承してくれるなら、或いは……」