91.食う寝るところに住むところ
着替えて建物内を案内してもらう。
いくつか小部屋と先ほどの白い部屋、教会長の部屋、応接間
それだけだった。こじんまりとしている。
「あの、見習いの人は今、いるんですか…?」
ジャンさん、イグニスさんどちらに向かってというわけでなく、質問をする。
「います。ちょうどそろそろ見習い期間が終わる頃ですね。」
イグニスさんが答える。
「その方々ってどこに住んでるんですか?」
「ここから少しいったところに家が2軒あります。
巫女などの女性用に一軒、護衛の男性用に1軒です。
各地を回っているので見習い期間やここに戻った時の仮住まいなので
決して広くはありませんが。
余裕がある方はここでも宿に泊まったり、自分で家をもっていますね。
どうします?ひと月ですけど。」
「ひと月か…どないしようかな…」
シェアハウスみたいのをもってるのか。
ニールさんは迷ってるみたいだけど、ひと月なら。もう足の心配もないし。
「ひと月ですし、そこにお世話になります。
そんなお金の余裕もないですし…。」
ぶっちゃけリーブラとガーターベルトのお金が少しづつではあるが、収入としてある。
でも、贅沢するほどではない。節約できるとこは節約しなければ。
「俺が家借りて、一緒に住むんでも、ええんやけど?」
思わず、ぶっ!と吹いてしまった。
ちょっとしたプロポーズみたいなセリフ吐いて来たぞ。
「学校入る前は一緒に住んでたやん…。そない、いやか?」
なんだかニールさんが寂しそうにいう。そんな捨てられた仔犬みたいな目しないで!
「いや、前はシリルさんもいたし!それにそんなの余裕あるの?」
嫌ってわけじゃないけど、2人となると…あ、でも…世界を巡る時は2人なのか…。
いや、宿の部屋は別でとるから!でも、それは部屋別なら同じ家に住むのも一緒?
えーどうしよう…。そんな感じで考えていると、
「ひと月ですし、寮に住めばいいんじゃないですか? 借りてもすぐ出発ですよ?」
イグニスさんが言う。はぁ。助かった。せやなーとニールさんも納得したようだ。
「じゃあ、私はこれで。リリアさん、プミロア様から何か連絡があったら知らせてください。
イグニス、頼んだぞ。」
「はい。」
ジャンさんは行ってしまった。社長みたいなもんだもんね。そんな暇じゃないだろう。
「では、参りましょう。」
歩いて10分程度のところに女性用、男性用は少し先にあるらしい。
ノックすると女の子が出て来た。私と同じくらいかちょっと下。獣人の女の子だ。
白い毛の癖毛が可愛らしく、犬耳がついてる。
「リン、女性用の寮の案内を頼むよ。こちらはリリアさん。
今日から巫女としてこちらに来ています。
こちらにはリン。護衛です。この子からここのことは聞いてください。
今日はもうここで休んでください。ニール君はこちらへ。」
女の子がこくんと頷く。イグニスさんは女性用の寮には入らず、
リンという子に私の案内をまかせてニールさんの案内しに行ってしまった。
「リリアです。よろしくお願いしますね。」
幼いけど、年もわからないのでちょっと遠慮がちに挨拶する。
「リン。まぁ、合格。」
…合格って何?!気になるけど…なんか聞けない…。この子、怖いんだもん。
「今は私ともう1人しかここにいないから。部屋はこっち。
言っとくけど、個室はないからね。あんたたちの部屋はこっちね。」
広い部屋にベッドが6つ。
「これと同じ部屋がこっちにあるけど、そっちは私の部屋だから。
で、こっちにキッチンとか水回りね。
あ、ちょうどいた。あれはダメ巫女のプリシラ。」
「だ…誰がダメ巫女よ!プリシラです。新しい巫女さん?」
「えぇ。リリアです。よろしくお願いします。」
プリシラさんは私より少し年上のように見える。黒に近い緑の髪で目は碧眼だ。
とても美人。
「もうすぐ出発になるから私たちももうすぐいなくなるけど。
練習頑張ってくださいね。」
「あ、私もひと月くらいしかここにはいませんので。」
「え…半年は練習するのでは…?」
「キアバで所属せずに演目してるのをイグニスさんが声をかけてくださって。
そのあとも学校に通いながら見習いとしてキアバで演目をしていたので、
半年じゃなく、ひと月でいいそうです。」
プリシラさんがガックリしてる。どうした?
「踊りが出来なくて、歌もそこそこのダメ巫女とは大違いだねー?」
リンが言う。ダメ巫女って…そういうことなのか…。
「うるさいっ!歌がからきしダメで
巫女じゃなくて護衛になったあんたに言われたくない!」
あー喧嘩がはじまっちゃった。
「ま、まぁ、まぁ…。」
「「あんたは黙ってて!!」」
どうしよう…。
「だいたいなんであんな簡単な踊りできないの?」
「あんたみたいな脳筋と一緒にしないでくれる?私は繊細なの!」
「何が繊細だ!モヤシエルフ!」
「なんですって?!魔法も使えない駄犬のくせに!」
なんかちょいちょい言ったらダメだと思われる単語が…。
とりあえず…なんか黙らせられるやつ。
…強制的に笑ってもらうか。
5人組アイドルの落語モチーフの曲を歌う。
とりま、笑ってもらおう。
「ひゃはははは、なんだ?ひゃはっ」
「うふふふふ!止まら、うふっふ!」
…これはこれでうるさくて面倒だったわ。
読んでくださってありがとうございます!




