86.お兄ちゃん
エリーちゃん達は卒業式の日、
シャロンちゃんは昨日帰っていった。
寮母のシミさんに挨拶して寮を出た。
私は今日、キアバでイグニスさんと
待ち合わせしている。
今回、カールさんは新学期の準備があるから
帰省はしないらしいが、
キアバまでは見送りに来てくれた。
なぜかリンダ先生も。
キアバでイグニスさんに会い、
ジョナサンさんにお礼をした。
「本当に色々ありがとうございます。
おかげで巫女になることが出来ます。」
「いや、お礼はまだだよ。
巫女として成功した時、
その礼は受けるよ。
これから頑張ってね。」
「はい…頑張ります。」
「ニール、リリアちゃんのこと、
頼んだよ。」
「頼まれんでも、ちゃんと仕事するわ。」
ん?またなんか私の知らないうちに
話が進行しているような…。
イグニスさんが不思議そうな顔で、
「ニール君はリリアさんの護衛として
採用してくれって言ってて。
護衛もそんないないから
二つ返事で快諾したんですけど、
聞いてないですか?」
首がもげる勢いで縦に頭を振る。
知らない。そんなこと知らない。
キアバの仕事はいいの?!
「イグニスさんが来る前から、
もし、リリアちゃんの護衛として
正式採用して貰えるなら、
そのまま付いて行っていいかって
最初から聞いて来てたからね。
それ前提でニールの事雇ってたし。」
は?!なにそれ!!
それで雇ってたって…
ジョナサンさん、心が広すぎじゃない?
「ニールは教えればすぐ出来たし、
ニール目当てのお客さんとかもいたから、
実際いなくなるのは痛いんだけどね。」
確かにチートだったもんね…。
「付いて行くの前提で、
世界のこととか、巫女のこと、
魔物のことを先生達から聞いて勉強もしてたからな。」
カールさんも口を挟む。
そのための勉強か…。
商人連のためじゃなかったか。
「身体がなまらんようにように、
私と手合わせもしてたしな!」
リンダ先生…
あれ以来、あなたは
戦闘バカに認定されていますよ。
リンダ先生が、ガシッと肩を組んで言う。
「早く告白して、くっつけよ。」
「だーかーらー!!」
「どした?大きい声出して。」
「なんでもない!
行こ、お兄ちゃん?」
これでデレればさすが違うとわかってくれるはず!
さぁ、デレるがいい。
「おう!」
あれ、デレない…。なんでー?
調子狂うなぁ…。
逆に爽やかな笑顔で返事されちゃったよ。
リンダ先生がニヤニヤしながら手を振る。
「カールさん、お元気で!」
「あぁ、リリアちゃんも元気でね。
身体には気をつけて。
薬の事でわからない時は
手紙を書いて。」
「うん、カールお兄ちゃん♪」
最後に一回呼んでみたかったんだ。
どうなるか。
カールさんは顔を赤くしてそっぽをむいた。
おぉ、困ってる。
リンダ先生が小声で
「呼んでもらえて良かったな。」って言ってた。
え、呼んで欲しかったの…?
照れてたのかな。
いや、リンダ先生の言うことだからわからない。
3人に手を振り、船に乗り込んだ。
ふと考えるとニールさん、
私のために勉強までして付いて来てくれるんだよね…。
なんか事情はあるのかもしれないけど。
なぜか顔が赤くなる。
いやいや、違う、違う。
あの人が付いて来てくれるのは
そういう感情じゃない。
勘違いしちゃいけない。
私はあの人の妹だから、
良くしてくれるし、守ってくれるんだ。
私のこと、妹としかみてない。
好きなんかじゃ、ない。
わかっていることなのに…
みんなが変なこというから
意識してしまったに違いない。
それに、もうすぐ私は
元の世界へ帰る予定だ。
そうなると、この人には2度と会えなくなる。
わかっているはずなのに。
なんでこんなに胸が苦しいんだろう。
モヤモヤした気分のまま、
船はブレイ大陸へと向かう。
読んでくださってありがとうございます!
ニールさん、ついて来ます。
やっぱりこの人いると書きやすいんです。




