80.モラトリアム
初演目以降、
毎週キアバに行って歌うようにした。
ジョナサンさんには
プミロア様の関係者からオファーが来たら
教えて欲しいと伝えておいた。
「他のとこじゃダメなのかい?」
と言っていたけど、
今、用事があるのはプミロア様だ。
早く巫女になりたいけど、
私が巫女になりたいのは
元の世界に戻る為なんだから。
最近忘れてたけど。
本当、最近、歌うこととか、
人が喜んでくれるのが嬉しくて、
ちょっと当初の目的を忘れ気味だった。
あの手紙やリリアのことがなかったら、
普通にアイドルやって満足するとこだった。
最近本当に帰りたいのか
わからなくなって来てたのだ。
こちらの世界で出来た、
家族みたいな人たちと友人。
私がこちらに来た時、
実感した、向こうの世界でのあたりまえの幸せ。
こちらの世界でも感じてしまっていた。
黒幕には早く戻せと凄んだ手紙を書いたけど、
それはリリアの夢を見た勢いだった。
リリアがこっちにいるのなら、
私はこちらにいるのは正直邪魔だろう。
ここは彼女の居場所だ。
私では、ない。
身体は借り物なのだから。
「どした?熱でもあるんか?」
ニールさんがおでこに
手を当てて心配している。
どうやら考え込んでいた顔が
具合が悪いと勘違いしたらしい。
向こうに帰れば、この人とも
お別れである。
きっと2度と会うことはない。
「具合なんか悪くないよ。
探してるものが見つかりそうなんだ。」
「でも、その割には嬉しくなさそうやな。」
「見つかったら、
もうみんなには会えないのかなって。」
うっかり言ってしまった。
ニールさんの顔が真顔になった。
「探しものが見つかったら、
リリアとはお別れなんか…?」
「あ、大丈夫、大丈夫!
私はいなくなったりしないから!」
慌てて笑顔を作って言う。
リリアはこの世界には残る。
お別れするのはあくまで私だけ。
ニールさんの大好きな妹は残る。
きっと少し性格は変わってしまうけど。
「そんな気がしただけ!」
「せやな、そないなことはないよな!
(それはたまらんし、
そないなことはさせへんし。)」
いつものイケメンスマイルで言う。
それと、心の声、漏れてますよ。
させないって言われても、どうするんだろ。
仕事もあるだろうし。
まぁ、すぐにはプミロア様の巫女にはなれないだろうし。
学校を卒業して、
ちゃんとシリルさんから私の石を受け取るまでは
この世界に居たいし。
だから。
もう少しくらい、いいよね。
プミロア様に会えれば、
きっと帰れるのだし。
そう思っていた数週間後、
プミロア様のとこからのオファーが来ていた。
早っ!!
お話を聞いたら、やはり世界各地を
回ることになるそうなのだ。
巫女になるとしたら、
学校を辞めねばならない。
あと2ヶ月半ほどで卒業なのに。
まぁ、入学したのも数ヶ月前だけどさ。
保護者代わりにニールさんも一緒に話を聞いている。
紹介してくれたジョナサンさんもだ。
「…世界を回るのは
学校を卒業してからでもいいですか…?」
「そうなると正式な巫女となるのは、
卒業後となりますが?」
プミロア様巫女のスカウトさん、
イグニスさんが言う。
真面目そうなメガネさんだ。
「早くなりたいにはなりたいんですけど、
特例扱いしていただいているので…
卒業はしたいんです。」
ニールさんがほっとした表情をしていた。
ジョナサンさんは残念なような
ほっとしたような微妙な表情だった。
「あの…プミロア様の巫女見習いとして、
キアバの踊り場で演目をすることは
…ダメですか?」
「それは構いませんよ。
見習いとして立っていただけるなら、
こちらこそお願いします。
歌も特に規定ありませんので。」
話した結果、
卒業後にシリルさんに挨拶後
プミロア様の総本山へ挨拶に行くことになった。
総本山はブレイ大陸にあるらしいので、
ちょうどよかった。
イグニスさんは
時折演目を見に来る
と言って帰っていった。
「あの…すいません。
折角紹介して頂いたのに。」
私はジョナサンさんに謝った。
「いや、いいんだ。
早く有名になってくれるのは僕も嬉しいけど、
間近で演目が見れなくなるのは
実は寂しかったんだ。
卒業するまでは一番いいところで
観させてもらうことにするよ。」
そうジョナサンさんは笑っていった。
本当、ありがとうございます。
卒業までのキアバでの演目を
益々頑張ろうと心に決めた。
読んでくださってありがとうございます!