挿話〜エリーの憂鬱〜
本編に直接関係ありません。
エリーちゃんの話です。
兄達と共に鍛錬を行い、
幼少の頃から私は
同じ歳の頃の子たちには負けたことなどなかった。
父は
「己の強さに奢るなかれ。
常に磨くことを忘れるな。
そして助けを求めているものの力となるように。」
と言い続けた。
私は鍛錬を欠かさなかった。
自分に流れる力、
まずはそれを感じる。
そして、その力を体に行き渡らせ、
いつも通りに
「常に磨くことを忘れるな」
と唱えると体は軽くなり、
剣は思うように振るうことができた。
そんなある日。
「お嬢様には魔法使いの素質があります。
是非魔法学校にご入学をお勧めします。」
というものがいた。
母は嫁に出しづらくなると
言って反対したようだが、私は強くなりたかった。
魔物を倒し、国を護る騎士になりたかった。
嫁の貰い手など、どうでもよかった。
私は父に
「強くなり、国を護る騎士となります。」
そう約束して親元を離れた。
入学して、しばらくして。
中庭で訓練していると、
同じ歳のくらいの男の子が話かけてきた。
「俺、強くなりたいんだ。
剣を教えて欲しい!」
急になんだと思った。
なんでも、彼の住む村の近くにも魔物は出るらしく、
村では魔物ハンターを雇っているんだとか。
その魔物ハンターに魔法使いの素質を見出され、
魔法学校に入学することになったと。
自分の村のようなところを守る魔法使いになるんだと
そのためにはただの魔法使いでは足らず、
剣を使えなければいけないと。
来たばかりで、剣術を習う当てもなく、
授業でもやるとしてもまだまだ先。
途方に暮れかけたところ、私を見かけて声をかけたというのだ。
「同じ髪の色だから同じ大陸の出身だと思って!」
私も彼も黒髪だった。
「俺、エヴァルドルフっていうんだ。
君は?」
「私はエリー。
私も修行の身だが、
剣は手ほどき程度なら教えることはできる。」
助けを求めるものには力を貸す
それが騎士だ。
それからというもの、
私はエヴァルドルフと毎日鍛錬をした。
それから5年、同じくらいだった背丈は、
気がつけば、エヴァルドルフの方が頭一つ高くなり、
がっしりとした身体になっていた。
私も背は伸びたが、筋肉は思うように付かなかった。
エヴァルドルフとの実力はいつの間にか逆転していた。
…悔しい。
強くなれない自分が情けない。
そして、変なプライドが私を素直にさせない。
エヴァルドルフは強い。
その一言がなぜか言えない。
素直に強いと認められない。
そしてどんどん離されていく
実力に焦りを感じていた。
先日のリリアのイタズラにより、
エヴァルドルフに抱きしめられた時、
あの時から、
いや、
本当はもっと前から気がついていた。
自分の気持ちに。
エヴァルドルフが好きだ。
しかし、それは叶わぬことだ。
彼には強くなって叶えるべき夢がある。
私など、弱い、ただの邪魔者にすぎない。
私にも叶えたい夢がある。
父と約束した夢。
しかし、心のどこかで、
エヴァルドルフと一緒にいたい
そう思っている自分がいる。
「私は…
夢を叶えるのだ…!」
そう呟いて私は迷いを振り払うかのように
素振りを始めた。
読んでくださってありがとうございます!