5.あるよ
「ふわぁー。」
目が覚めて夢だった。
とかそういうオチも期待してたんだけどなー。
まぁ、目覚めたのが岩場な時点でそんな希望は捨ててたんだけど。
髪を手櫛で梳かして身支度。
そういえば、自分の顔、どうなってるのか知らないなと思い、
水面に顔を写してみる。
岩場に波が当たって見えない。
ですよね!
髪色は綺麗なグリーンなのはずいぶん前から気づいてはいたんだけど。
有名になるって決めたからには自分のルックスが気になる。
歌が(多分)上手いにしても、顔が可愛いか綺麗に越したことはない。
それに、一応私も女子だ。身支度するのにも鏡が欲しい。
やっぱり人に会わなければ、鏡など手に入らない気がする。
その前にお腹も減ったし、昨日の海藻取りに行こうっと。
昆布(仮)をかじりながら、今後のことを考える。
どうやって人に出会うか。
海で人に出会うとしたら船を見つけないといけないなぁ。
とりあえず、船が通りそうなところに行かなくちゃいけない。
御飯が終わったら魚たちに聞いてみよう。
今日も昆布(仮)を一枚食べきる前にお腹いっぱいになった。
次は人間のことを知ってるお魚を探すことにした。
「お魚さーん、聞きたいことがあるんですけどー」
一斉に魚がこちらをむく。ちょっと怖い。
「最近人間の船見てませんかー?」
「…あっちだよ」
なんか田◯要◯さんみたいな低い声だな。
『あるよ』って言って欲しい。
魚たちが示した方向は私がいた岩場の辺りだった。
しかし、船の影はない。
「船なんてないですよ?」
「…ないよ」
違う、そっちじゃない。欲しいのは『あるよ』だよっ。
あぁ違った。
魚たちが面倒くさそうな顔で下の方を見ている。
「え?積荷?」
よく見ると船の積荷っぽいものがいくつか落ちていた。
私が積荷に気づくと魚たちはぷいっとどこかに行ってしまった。
『あるよ』って言ってくれなかったなー。
それにしても、言われるまで全く気付かなかったわ。
積荷が落ちてるってことは商船がここを通るってことだよね。
ここにいればそのうち人間に会えるかな。
どうせすぐには会えないだろうし、積荷はどうせ朽ちていくだけだから
中身見ちゃおーっと。
「こっちは食器かー。あ、こっちは本みたい!」
試しに1冊本を開いてみた。
あ、インク滲んでる。…水の中だってこと忘れてたぁぁ。
開かなきゃ何冊か読めるのもあるかもだ。
本は何回かに分けて岩場に運んでいくことにした。
「最後の一つは…ドレッサー?あ、鏡!!」
しげしげと覗きこむ。
からの、ガッツポーズ。
そう、覗き込んだ鏡には美少女が映っていたのだから。
ブックマークしてくださった方々、ありがとうございます!
中々人間に会わせてあげられない…。