3.目標できたよ。
ちょっと広めのスペースに移動して、海底で人魚座りして考える。
私の置かれた状況を。
まず、ここは私のいた世界じゃないはず。
で、私はリリアさんっていう人魚の身体を「借りている」。
リリアさんは人魚だからという理由でお家を追い出されている。
んー。ゲームとかならチュートリアルとか、あらすじとかあって、
どうしたら元の世界に戻れるとか、
教えてくれる「なにか」がいたりするんだけど。
おっちゃんなんも教えてくれなかったし…。
あ、もらった石がなんか教えてくれるとか?
「これからどうすればいい?教えて!お願い!」
……
「なんか呪文があるとか?えーと、我に道を示せ!」
……
「じゃあ、これは?アリアロス、バイ、ウル…」
…なんか視線感じる?向こうから。
あ、亀だ。亀が見てる。
そういえば、さっきの魚たちの視線といい、この世界の海の生き物言葉がわかるっぽい?
「あの!すみません!ちょっと伺いたいことがあるんですけど…」
「…なんだい?」
あ、すっごい不審そう。
そらそうだよね、石に話しかける時点でアレな子だもんね。
「近くに人魚が住んでるところってありますか?」
「やっぱりお前さん人魚なんだね。初めて見たよ。」
「初めて?ってことは…住んでるところわからないですよね。
あー、ありがとうございました…。」
「あー待て、待て。確か人間の伝承では遠く、東の果てにそんな場所があると聞いた。
私らが泳いで行ける場所ではないらしいがね。」
「そうなんですか…。」
この亀さん、村人①な感じ?チュートリアルではなかったか。
「ありがとうございます。では…」
「聞くだけ聞いて、はいさようならじゃ、淋しいじゃないかい。
こっちの質問にも答えちゃくれないかい。
なんで人魚がこんなところ泳いでるんだい?」
「えーと…。」
なんかこの亀さん、べらんめぇ口調だなぁ。
海の生き物は癖のあるしゃべりなんだろうかと思いながら、
私は私ではなく、「リリアさん」の置かれている状況を話した。
この世界がわからない理由を差別により引きこもっていたため、
世間知らずなのだと言い訳もつけつつ、だ。
「そうなのかい。そりゃぁ、難儀だったなぁ。
あいつらマーマンは気位が半端なく高いから、しょうがねぇ。
その気位をへし折るくらいの功績持って帰って認めさせりゃいいんじゃないかい?」
「そっか、そうだね、亀さん。なんか目標できたよ!」
あ、やっぱりママはマーマンなんだ…。
それよりも、私が元の世界に帰れる方法もわからないし、
リリアさんのためにもお母さんと仲直りしたい。
「元気も出て来たところで、歌うか!?」
なぜ!なんかミュージカル?
こういうおっちゃんに理由は求めちゃいけない。
とりあえず、乗っておくのが一番だ。
なんだかよくわからない明るい曲を一緒に歌う。
気持ちがスカッとする。元気が出て来た気がする。
「お前さん歌上手いなー。歌で故郷に錦飾るのも悪くないんじゃないかい。
なんか私も身体動かしたくてウズウズしてきちまった。
ちっと遠出してくるかねぇ。お前さんも元気でな!
私の名前はフラッシュってんだよ。
生きてりゃまた会うこともあるだろうよ。
またな!」
ニ◯の亀さんと一文字違いの亀は行ってしまった。
歌が上手かー。お世辞でも嬉しかったな。
でも、人魚だから本当に歌が上手いのかも。
フラッシュさんが言ってたように歌手になって有名になれば、
お母さんも認めてくれる…かも?
有名になればリリアさんのこといじめてたひとたちのことも見返せる…?
有名になれば帰れる方法も見つかるかも!
「よーし、がんばろ!」
私は拳を突き上げ、気合をいれる。
拳の中にはさっきの石。
「あ、これなんなのか聞くの忘れてた!
フラッシュさーん、戻って来てー!」
私の叫びが海にこだまするだけだった…。
やっと目標をみつけました。
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