31.拝啓
翌朝、私は朝食を食べていた。
昨日の件はみんな口にしなかった。
本当は私が一言言い出せば良いのだろうけど、
色々考えてしまってそんな気が起きない。
朝食のスープをのそのそと食べていると、
窓から何かが入ってきた。
「…?蝶々…?」
「あ、オカンー、にーちゃんから手紙ー!」
手紙?
蝶々はテーブルに留まると、
光に包まれ紙になった。
「へぇ、手紙ってこんな風に来るんだ…。」
「うちんとこはな。通常は船便や陸便やで。
時間かかるんで、どーしても急ぎのときと、
消息不明のときは魔法使いに頼む。
えらい高いけどな。」
「消息不明…?」
「死んでたらこの手紙は飛びもしないん。
普通の人はお金払ってでも安否確認したい時に使うんよ。」
シリルさんがお茶を運びながら付け足す。
「届かんでも金かかるし、
よっぽどなことがない限り、頼まへん。
うちはタダやけどな!」
さっきまで暗い雰囲気だったので、
ニールさんが明るくしようと軽口を叩く。
「シリルさん、紙とペン貸してもらえますか…?」
「ええけど?手紙書くん?」
「はい。」
「ニールは仕事!
ちょっと待ってて。
これ、あげる。」
シリルさんは紙束とペンを私に手渡しながら言った。
「え、でも…。」
「ええの。」
「…本当に色々ありがとうございます…。」
シリルさんは優しく笑った。
魔法の練習と武道の訓練を最低限だけこなし、
私は手紙を書いた。
失敗しても消しゴムなんてないので、
慎重に。
色々考えたけど、結局とてもシンプルな手紙となった。
考えてすぎて夕方になってしまったけれど。
家を出て砂浜へ出る。
シリルさんは夕食の支度中。
ニールさんはちょっと離れたところで居残り練のようだ。
まずは一通。
この手紙を書いている時に
思い浮かんだ曲があったので、
それを歌う。
大手アイドルグループの紙飛行機の歌だ。
本当は手紙の歌じゃないけど、
私のイメージなのでなんとかなるだろう。
手紙は紙飛行機の形に変わり、ニールさんの元へ。
ニールさんはこちらを見て優しく笑う。
【心配かけてごめんね。 リリアより】
手紙を読んでデレフェイスになる。
…アレがなきゃ、本人の希望通り、
素直にお兄ちゃんって呼べる気がするんだけどな…
と私は苦笑する。
もう一通。
同じ歌を歌うと家のキッチンに向けて紙飛行機が飛んでいく。
シリルさん宛だ。
【お母さんへ いつもありがとう。リリア】
お世話になってもう随分経つ。
1ヶ月以上…2カ月は多分経ってない。
本当の娘のように可愛がってもらっている。
でも、お母さんっていうのはやりすぎかなと思いつつ、
直接でない手紙でいうことにした。
紙の無駄だと思われるかもだけど。
最後に一通。
同じ歌を歌ってみるが、私の上をグルグルと回って飛び立たない。
歌を変える。
今度はどストレートに手紙の歌。
黒髪眼鏡の女性シンガーが歌う、手紙の歌だ。
迷惑にならない程度の最大限の魔力を込めて。
グルグルと回っていた紙飛行機が羽に変わり、
どこかへ飛んでいく。
きっとこの身体の中身はどこかで生きている。
とりあえず、私はやれることをやるしかない。
【リリアは帰りたい?】
その一言を書いた手紙が届くことを信じて。
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