30.迷い
マーマンがこっちに近づいてくる。
蔑むような目をこちらに向ける。
何も言いはしないが不快になるような視線だけ。
なぜか動けない。
息が苦しくなる。
呼吸が荒くなり、肩で息をしても足らない。
なんで…?
前にマーマンのおっちゃんと母を見た時は
なんとも思わなかったのに。
苦しい、苦しい、苦しい、苦しい、苦しい、
つらい、つらい、つらい、つらい、つらい。
…かなしい。
…死んでしまいたい。
「リリアちゃん、リリアちゃん!
大丈夫よ、あの目はリリアちゃんにじゃ………
大丈夫、大丈……」
「あの目は私らを………
リリアちゃんは大丈…」
シリルさんが背中をさすりながら声をかけてくれているが、
私の耳には半分以上聞こえていない。
私はシリルさんに手を引かれてその場から離れた。
泳いでいる間のことはよく覚えていない。
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家に着いた。
シリルさんに連れて帰ってきてもらったようなものだった。
日はすっかり暮れていた。
シリルさんは私を抱きかかえ、運ぶ。
ニールさんは
「どうした!!」
と青い顔をして駆け寄ってきたが、
シリルさんは
「後で!」
とだけ言って私に乾燥魔法をかけてベッドに寝かす。
そして戻って行った。
ダイニングではニールさんが何か喚いてる。
シリルさんの
「やかましい!」
の一言で静かになった。
何やら話していたようだが、
よくは聞こえなかった。
しかし、さっきのはなんだったんだろう。
私の身体の記憶だろうか…?
しばらくして、誰かが部屋に近づいてくる気配がする。
ニールさんが顔をのぞかせる。
「お茶、飲むか?」
「…うん、入って大丈夫だよ。」
ニールさんが部屋に入ってきて
お茶を渡してくれる。
心配して様子を見に来たんだろうな。
「大丈夫か…?」
「…うん。ありがとう。」
お茶を受け取り、飲む。
落ち着く…。
「マーマンって、みんな、あぁなのかな…?」
なぜか自然と口にしてしまった。
そうじゃない人だって
いるとわかっているのに。
「みんなってわけ、ないと…」
ニールさんが口篭りながら答える。
私に遠慮をしているのかもしれない。
一応マーマンの身内ということになっているのだから。
「そう…だよね…。」
「無理すんな…おやすみ。」
「うん…おやすみ。」
ニールさんが部屋から出て行く。
私が元の世界へ戻れたら、
私が母のところへ戻れるように
と思っていたが、そんな簡単なことではないようだ。
巫女になったところであの人たちは
認めてくれるのだろうか…?
あんなにつらい思いをしていたんだったら、
戻りたいなんて思うだろうか…?
「ねぇ、リリアはどうしたい?」
私は届くはずもない独り言を呟いていた。
ブックマークしてくださった方々、ありがとうございます!
当初は30話位で学校に入る予定だったのに。
あれ、おかしいな…?