125.出会った頃のように
目がさめると、宿のベッドだった。
あぁ、きっとあの後、リリアがここまで来てくれたんだ。
でも、いつもは3人で一部屋なのになんで1人で寝てるんだろう?
ふと、あたりを見ると、
ベッドの横の椅子にニールさんが座って、うつらうつらしている。
なんで部屋にいるの?身体を起こし、呼びかけてみる。
「ニールさん?」
そう声をかけると、ニールさんはハッとして、
私の手を握りながら言う。
「リリア!!良かった!あ…でも…」
「何?でもって?」
「あぁ…ホンマにリリアや。良かった…。」
そう言ってニールさんはベッドの縁に腰掛け、私を抱きしめて続ける。
「もう俺の側を離れんといて。リリアの帰る場所はここや。もうどこにもいかんといて。」
どうやらニールさんは私が向こうに帰ろうとしたことを知っているみたい。
でもどうして?リリアかな。
「ニールさんは話したの?その…リリアと。」
「ん?あ、あぁ。細かいことはようわからんけど…あの子が戻してくれたんやろ?」
「うん…。他の人は知ってる?」
「いや。あの子のことを知っとるんは俺だけ。あの子、魔法使たら眠ってしもたから。」
「部屋まで運んでくれてありがとう。最初もこんなことあったね。」
「せやな…。でも、心配したんやで。もう…5日くらい眠りっぱなしやったから。」
そんな時間経ってたの?向こうではものの数分だったのに。
部屋にいたのは心配でついててくれたのかな。
ところで…
「いつまでこうしてるの?」
ニールさんは私を抱きしめたままだ。
「嫌か?」
「嫌じゃないけど、耳元で喋られるとくすぐったい…。」
「そうか?」
「ニールさんだって、こうされるとくすぐったくない?」
そう言って私も耳元で囁く。
「せやな。」
短く返事をし、抱きしめていた手をほどき、その手で私の頬のあたりを撫でて見つめる。
ゆっくりと顔が近づいて来てそのままキス…………の前に、
勢いよく部屋の扉があいた。
「やっぱり!声が聞こえたから!リリアが起きた!!良かったー!」
リンが走り寄って来て、私の背中に抱きついた。
「アレ?ニールさん。何してるの?」
扉が開いたので、変に身をよじり、ベッドの縁から落ちたニールさんが床に転がっていた。
「なんでもあらへん…。(またこのパターン…。)」
「リリア…さん!このまま目が覚めなかったらどうしよかと思ったんだよ?」
リンが涙目で言う。
「もうリリアでいいよ…。心配かけてごめんね?」
「謝らないでいいよ。ちゃんと起きたから。みんな呼んでくる!」
そう言うと勢いよく部屋から出て行った。
「ノックぐらいせぇっちゅーねん。」
ため息を吐きながらニールさんはベッドの縁にどかっと座るとまたキスをしようとしたが、
今度は私がニールさんの口を手で塞いで阻んだ。キョトンとした顔をするニールさん。
「まだ私、巫女辞めてないからね?お兄ちゃん?」
そう言ってから、手で口を塞いだままキスをした。
「なっ!(またおあずけ?!)」
ノックの音。
「入って大丈夫ですか?」
イグニスさんだった。
「大丈夫ですよ。」
そう言ってみんなを部屋に招き入れた。
「心配したんですのよ?」
「私もさすがに焦りました。何かあったらお母様に合わす顔がありません。」
「でも目が覚めて本当良かった!」
リンが言うとレンも涙目で頷いていた。
「心配かけてすいません。多分…魔力が乱れたみたいで、そのせいかも。
私にもよくわからないんですけど。」
適当なことを言っておく。アイリさんも押し通せって言ってたしね。
プリシラだけがなんとなく納得いってなさそうだけど、みんなはなんとなく頷いていた。
「リリアさんには演目内容の決定や衣装の決定など、ほとんどリリアさんがやってましたし、
だいぶ無理をかけてしまっていたようですね…」
イグニスさんがすごく申し訳なさそうな顔をしている。イグニスさんのせいじゃないのになぁ。
「もう辞めたいと言われても…しょうがないと思っています。」
「いやだけど、リリアに負担がかかってたのは本当だし。本当は1人でも活動できるのに
私達のこともやってくれてたし…。」
「えぇ…私がついていけるようにフリを変えたりもしてくれましたしね。
魔法の効果的な使い方も…。」
なんか、倒れたことで辞める方向になってる?でも、多分もう倒れることはないのよ?
それに…
「あの…私、まだ巫女続けたいんですけど…迷惑…?」
「「「「「え?!」」」」」
「今辞めたら中途半端な気がして。ちゃんと終わらせて…
キーヨートの踊り場で演目しおわるまでは。それまではやりたいなって。」
みんなの様子をチラチラ見ながらいう。
リンとプリシラは嬉しそうな顔、レンとイグニスさんは意外そうな顔、
ニールさんはちょっと困った顔をしていた。
「だって折角みんなでここまで頑張ったんだもん。
それに演目、待ってくれてる人もきっといるから。」
応援してくれてる人がいる。それに、さっきのリンの様子を見てたら、
もう少しみんなと一緒に巫女をやっていたい。もう時間がないとか言わなくていいんだから。
「だから、みんなこれからも宜しくね?」
「うん!」
「もちろんですわ!」
リンとプリシラは返事をした。
「…リリアさんが良ければ、私は何も。」
「無理はしないでくださいね?」
イグニスさんとレンは言う。
「………。」
ニールさんが黙ってる。ダメなのかな。
「ニールさん、ダメ?」
「リリアがやりたいことならしゃーない…でも、もう隠しごとはなしやで?
何かあったら無理にでも連れて帰る。ええな?」
「わかった。お兄ちゃん。」
「分かればええ。」
出会った時みたいにニールさんは私の頭を撫でた。
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