挿話〜ニールの願い〜
124のニール視点です。読まなくても本編には支障ないとは思います。
その日はギザンに行くため、早く起きて馬車の整備をしておこうと思い、外に出た。
外は雨だ。
「あいにくの天気やなぁ。」
そう呟いて作業をしていると、リリアが出て来た。
「どした?リリア。濡れるで?」
そう言って近寄ると、リリアの柔らかな感触が。
そしてこう呟いた。
「ごめんね、ニールさん。大好きだよ。私の…王子様…。」
「なっ」
なにを言ってるんや。そう言って抱きしめ返すつもりだった。
でも、この王子様という単語、どこかで聞いた気がする…
そんな考えが過ぎるよりも早く、リリアは駆け出した。
俺はすぐさまリリアを追った。
「プミロア様、私帰ります!今すぐ!」
リリアはそう叫んでいた。
そうだ、思い出した。チーアの街のお祭りの時、酔っ払ったリリアが言ったセリフ。
探していたのは元の場所へ帰る方法で、俺の知ってるリリアは消えてしまうと。
あの時のリリアは言った。酔っ払いの言うことだしと思っていた。
一応、あのあと問い詰めたが、リリアは答えてくれなくて。
でも、あの時のやりとりで気持ちは伝わったと…俺は思っていた。
「リリア!帰るって…行くな!リリア…
一緒に帰るんやろ?どこにも行かんって言うたやん…。」
そう言って俺は光に包まれるリリアを抱きしめた。
雨は強くなっていく。光に包まれるリリアを抱きしめて俺は立ち尽くした。
頬を伝うのが雨なのか、涙なのか、もう分からなかった。
しばらくするとリリアの周りの光は消え、リリアは目を覚ました。
「リリア!よかった…。」
「お兄さん…、ごめんなさい…。」
「リリア?」
「あの子を止めることができませんでした。」
「え…?」
訳が分からなかった。目の前で喋っているのは…誰なんだ。
リリアに違いないのに、リリアなのに、何かが違う。
「おまえは誰だって顔ですね。そうですよね。
私もリリアですが…お兄さんの知ってるリリアではないです。
お兄さんなら、話していてわかるでしょう。
チーアで酔っ払ってお話をしたことがあるといえばわかりやすいでしょうか。」
確かにあの時のリリアは別人だと自分でも言っていた…本当に別人だったなんて。
悪い冗談と思いたいが、さっきのリリアの発言や、
今の状況から考えても、冗談ではなさそうだ。
ということは…さっき過ぎった俺の考え。
「あん時、俺の知ってるリリアは消えるって…」
「そうです。このままでは本当にあの子は向こうの世界…。
元の場所へ帰ってしまいます。」
「そんな!巫女を辞める時がきたら、
一緒にクラーミストに帰るって約束したんや!」
思わず怒鳴ってしまった。
「あの子もそうしたかったし、それを望んでました。
私が変な言い方をしたせいでこじれてしまって…。今なら間に合います。
私が必ず連れ戻して来ます!お兄さんは待っててください。」
「でも連れ戻すったって…プミロア様に頼んでたんやで?」
さっきリリアはプミロア様と言っていたし、巫女の仕事を終えた時のように光に包まれていた。
女神様の力なのは間違いないだろう。
「私にしかできない魔法です。向こうの時間とこっちの時間は違うので、
説明してる時間がありません。
万が一魔物が湧くようなことがあったらお願いしますね?
頼りにしてますよ?」
リリアの姿をした娘はそういうと、歌を歌い始めた。
「リリアの歌や…」
リリアがこの歌っているのは聞いたことはない。
でも、この歌の感じはリリアの歌に違いなかった。
歌は力強く、大地に響いた。
ものすごい魔力量だった。俺には到底マネができないほどの。
歌い終わると、その場に倒れ込んだ。
「大丈夫か!!」
「ニールさん、ありがとうございます。私もあなたには感謝してるんです。
あなたがいなかったら私達はここまで来られなかった。
私はあなたを兄として敬愛してます。」
そういうと、すぅっと目を閉じてしまった。
「おい!しっかり!」
息はある…。とにかく、さっきこの子は必ず連れ戻すから待っててと言っていた。
俺は…もう待つことしかできないようだ。
「待ってるからな、リリア…。そしたら今度はちゃんと言うから。」
そう呟いて、俺はリリアを抱いて戻って行こうとしたが、妙な気配を感じる。
「さっきあの子も言うてたな。魔物が湧いてしまったら頼むって。
リリアを危ない目に合わす訳にもいかんからな、一撃で倒したるわ!」
リリアを安全な場所に寝かせ、自身に気合いを入れ直してから
「よっしゃ、いくで!!」
俺は魔物を倒しに向かったのだった。
ーーーー
それからリリアは眠り続けた。
イグニスも最初は疲れかなにかかと思っていたようだが、2日が過ぎる頃には狼狽え始めた。
「私には…祈る事しかできないです。」
と言って祈っていた。プミロア様に話が聞ければ何かわかるかもしれない。
でも、イグニスに言っても、俺の話が信じてもらえるだろうか。
そう思うと何も言えなかった。
リンも最初は
「どうしよう!」
と騒いでいたが、騒いでもどうにもならないと今は何も言わない。
レンはそんなリンに寄り添い心配そうな顔をしている。
プリシラは治癒魔法や眠りを解く魔法などを試したようだった。
しかし、どれも効かなかった。
俺はリリアの側で待った。
さすがのことなので、俺が側につきっきりでもイグニスも何も言わなかった。
食事も睡眠も元々あまり必要ではない。
それよりも側で待っていたかったから。
だから、ひたすらリリアの目が覚めるまで俺は待っていた。
何日目の朝だろうか…。リリアは目を覚ました。
読んでくださってありがとうございます!