122.正解ってなんだろ?
あっと言う間に月日は過ぎていった。もうすぐ短期集中講座(仮)も終了だ。
イグニスさんは新しい巫女さんを見つけたらしく、一旦ブレイに巫女さんを送りに行っている。
3ヶ月すぎてもすぐミナへ出発とはいかないっぽい。
成果は、リンの歌は上達し、上手くはないけど、下手でもないレベルに達した。
まだ1人で歌うのは本人に不安があるらしいが、口パクを推奨しなくてもよくなったのは
かなりの進歩だった。
プリシラはただルーロウ先生にいいように使われただけなように見えたが、
本人曰く、
「前より気持ち動ける気がします。あのジジイ、只者じゃありませんわ。」
と言っていたから成果は出たのだろう。
私も剣舞の方はだいぶ成果が出たと思う。
リンの動きにようやくついていけるようになってきていた。
でも…リリアと話すことは叶っていない。
進展はしなかったけど、思い出したことがあった。
思い出したというより、夢を見たのだ。
私達がまだひとつだったころ。村でも家でも居場所がなく、1人ぼっち。
優しかったのはあのマーマンのおっちゃんだけ。
私の友達は歌だけだった。家にある本で歌は覚えた。
なんでそんな本があったのかは謎だけど、多分アイリさんの仕業だろう。
15歳になったある日、私は突然村を追いだされた。
それはもう絶望だった…。
私達が2人に分かれてしまった原因だった。
でも、もう1人ぼっちなんかじゃない。みんながいる。
学校の友達、巫女の仲間。お母さんやお兄ちゃん達、
そして…ニールさん。
だから迷ってしまう。
それに、リリアのことを1人にしていいんだろうか?
思い出したことで、不安になる。私がいなくて大丈夫なのだろうか。
最初に私達が話をした時もリリアは泣いていた。
残った方が私達2人は幸せになれるのではないか…
リリアさえ良ければ、私はこちらに残りたい。それが私の決断だった。
私だって消えたくはないし、リリアだってそうだとは思う。
それでもこちらに残りたいというのは完全に私のワガママだ。
だから、リリアとちゃんと話合っておきたい。
ダメならダメと言って欲しいのだ。気持ちに折り合いをつける為にも。
なのに…出てきてくれない。
そんなことを考えていたら、手紙が届いた。
誰かと思えば、エリーちゃんからだった。内容は結婚式の招待状だった。
学校の友人や先生も招待したいからと言って集まりやすいホーリーテイルで行うと。
執り行うのは7の月、今からふた月後の休み中だ。
イグニスさんが戻るのを待ってからミナに出発すると
すぐに戻ることになってしまうから相談しなくては…と思ったら、
ニールさんや他の面子も呼びたいので、イグニスさんにも同じ手紙を送っていると
手紙の後半に書いてあった。本当に仕事として呼んだらしい。
さすがエリーちゃん。抜かりない。
仕事となると、ミナに行ってトンボ帰りするよりは、
キアバ以外の街で活動して、知名度を上げたり、演目慣れしておく方がいいかも。
リンの歌も上達したからパートも増やしたいし、プリシラの踊りも変更するかもだし。
さっきまではリリアのことを考えていたのだけど…
エリーちゃんからの手紙で考えが巫女の仕事のことになった。
でも、私の決断は決まっているのだから。あとはリリア次第だ。
だからもう巫女の仕事のことに集中しよう。そう思った。
プリシラはまだ宿舎住まいなので今はいないが、
他のみんなにもエリーちゃんの結婚式のことは伝えておかないと。
「エリー姉、結婚かー。羨ましいなー。私もいつか…」
うっとりした顔でリンが言う。リンの思考は結構乙女チックなんだよね。
そういうとこは可愛いんだけどなぁ。
「姉ちゃん、まず相手探さないとだよ?」
「そうね、強くてお金持ちの人と結婚しないと!」
理想の相手はそこなんだ…。確かに経済力も大切だけどね。
そういえば…レンって姉命なのでは?
「レンはリンが他の男の人と一緒になっても平気なの?」
「ちょっと前は嫌でしたけど、姉ちゃんを幸せにしてくれる男性なら
許せる気がしてきました。もちろん、いやらしい目で見るヤツや
幸せに出来なさそうなヤツには容赦しませんよ。」
レンの目が怪しく光る。怖!!そういえば、いやらしい目といえば…
「いやらしい目で見る人は容赦しないだってさ、ニールさん?」
「そんな目で見てるんですか?」
「リンはそういう対象ちゃうわ!そないな目でみてへん!それに俺は誰でもええ訳やな…」
「誰でもってなにがー?」
「…なんでもあらへん…。」
「私ってばそんな魅力的〜?」
リンが胸を強調しながら言う。調子のるからスルーで!!
男性2人も私の様子を察したのか、きっちりスルーした。
「…そういえば、ニールさんも結構いい年だよねー?結婚しないの?」
ニールさんにリンが聞く。やっぱりそういう話題になるよね。
「ええ年て!おっさんってことか?!まだまだ若いわ!」
「違うよ!同じくらいの人は結婚してる人多いでしょ?」
「確かになぁ。でも、兄ちゃんもまだしてへんし…。まぁ、そのうちな。」
「ってことは相手いるんだ!ねー、誰!誰!私知ってる人?」
「僕も気になります。」
「時期がきたら紹介したるわ。」
ちらっとだけこちらを見てニールさんは言う。
「リリアさんは?好きな人とかいないの?」
うわ!こっちに振らないで!
「今は…巫女の仕事が忙しいし…。」
そう言うのが精一杯だったけど、ニールさんが凹んでる。
えー?なんて言うのが正解だったのよ…?
読んでくださってありがとうございます!
リリアも人のことは言えないっていう。