118.スキャンダル発覚
ゴナヤ。ラフィティ大陸最大の踊り場がある都市で、
同級生のマリオの父、マッテオ氏が領主を務めている。
「マリオの父、マッテオだ。はじめまして。
息子から噂は聞いているよ。噂に違わぬ、本当に美しい娘さんだ。」
そういうと手の甲にキスされる。
もうニールさんも慣れてきたらしく、平気そうだ。
「母のビアンカです。本当に素敵な娘さんね?
マリオがうるさく言うのも仕方ありませんね。」
なんか…ここまでくると、結婚前の挨拶みたいだよ…居づらい…。
一通りみんなが挨拶を終えると、マッテオ氏が言う。
「大切な客人達だからね。宿ではなく、我が家でもてなしたいと思っている。」
「しかし、領主様のお手を煩わす訳には…。」
イグニスさんが固辞しようとしたのだが、
「好意は受けるものだよ?」
と押し切られてしまった。
イグニスさんは
「なんだか嫌な予感がするんですよね…。」
と零していた。この時の嫌な予感が的中するなど、誰も思って居なかった。
ーーーーー
ゴナヤでの演目は大失敗だった。
まず、天候も良くなく、雨が降っていた。
大荒れなら中止にもなるが、踊り場スケジュール上延期も難しい。
強行したためだった。
さらにもう一つ。次の理由が一番だろう。
巫女の誰かがマリオの婚約者なのだと言う噂だ。
一般の人たちは巫女は恋愛禁止であると信じている。
さらに私達は領主の館に滞在した。
それによって、私達3人の誰かがマリオの恋人なのだという噂が勝手に広まってしまった。
この大陸で人気がある訳でもないのに、大きな踊り場が取れるなんて
何かが裏があるに違いないと。
…確かにそうなのだ。所謂コネを使ってねじ込んだのは事実だ。
お客さんが集まらず、凹んだ結果、演目内容も散々な内容だった。
予定の曲数も歌うのも嫌だったくらい。
いつもケロっとしてるリンも珍しく凹んでいた。
プリシラも無口で何も言わなかった。
演目後はお通夜のような雰囲気だった。
プミロア様はいつも通りに話かけてきたけど、
「みなさん頑張ってくださいましたね。次も頑張ってください。」
と私達を労った。プミロア様にしては珍しく気を使ったような感じがする…。
「私の行いのせいで申し訳ない。」
そうマッテオ氏は言う。
「いえ、マッテオ様のせいでは…。私どもの力不足です。」
イグニスさんが答えた。イグニスさんの言う通りなので、みんな黙っていた。
「私としても困ることがあるので、領主としてその噂は否定しておくことにする。
マリオには、婚約者もいるものでね。その方にも申し訳が立たない。」
「では、ご随意に…」
マッテオ氏との話はそれで終わった。
その夜、私達は宿をとって宿泊することにした。
「飲まなきゃやってられませんわ!!」
宿に向かう途中、急にプリシラが口を開いた。
「ニール!飲みに行きましょう?!」
ニールさんはちょっとだけ嫌そうな顔をしつつ、
「まぁ…気持ちはわからんでもないわ…。(ただなぁ、面倒なことになりそうやからなぁ)」
と言ったが…急にイグニスさんが、
「今日は飲みましょう!」
と宣言した。どうした!イグニスさん!?
「イグニス、話がわかりますわね!」
「あ…じゃあ今回は私もお付き合いしたいなぁ…。」
私も乗ってみた。こないだ飲んでしまったし、18歳くらいではある。
嫌なことは飲んで忘れるってやってみたかったし、
お酒が入ればもしかしたらまたリリアが出てくるかもしれない。
そんな考えもあった。
「リリア、大丈夫か…?心配やから俺も行く。」
「飲めない私達だけ仲間ハズレー?」
「じゃあ、食事も出来るところに行って飲みましょう?」
プリシラが提案した。なんだかんだ言って、リンとプリシラ、仲良くなったなぁ。
最初はどうなることかと思ったけどさ。
庶民的な食堂で食事をすることになった。
リンレンはお酒は飲まないが、食べるので今日はみんなで割り勘ということになった。
イグニスさんの杯が進む。だんだん怪しい気配がしだしたと思ったら、
「嫌な予感がしたんです…最初から。私、言いましたよね?」
イグニスさんが泣いている。
まさか泣き上戸だったとは。普段は腹黒エスパーメガネなのに…。
イグニスさんがツブレてしまったので、
プリシラもニールさんにさほど絡むことはなかった。
食事を終えての帰り道。
ニールさんの背中にはイグニスさんが背負われていた。あれだけ飲めば無理もない。
プリシラはふらーふらーとした足取りでリンレンに手を引かれていた。
年長者2人がこんな感じだったので、私は適量しか飲めず、
ほんのり顔が赤くなる程度でやめてしまった。
結局リリアは出てこないが、多少酔っている感じがする。
「イグニスさんいーなー、ニールさんのおんぶ。」
「なー、リリアそんなおんぶされたいんか?」
ニールさんが笑う。
「なんかさー、おんぶって甘えてるって感じしない?」
「せえへん!」
そう言いながらニールさんはまた笑った。
「ところでなんでプリシラは良くて私はだめなの?」
「まだ聞くかー?それ。」
「聞くよー?お兄ちゃん私が嫌いなのー?」
「そのセリフは反則やろ?」
「だって答えないから!」
私はわざとふくれっ面をする。困った顔をしてニールさんは答えた。
「……おぶさるとその…背中に色々当たるやろ…?」
そう言ってニールさんは私の胸元をチラ見した。
「うわー最低…。」
そう言ってジト目で見ると、
「だから言いたなかったんや…しゃあないやん、俺かて男やし…」
そう小声で言いながら凹んでいた。
読んでくださってありがとうございます!
リリアは着痩せするタイプ。胸平と言われても全くないわけではないんです。
ほんとにないのはプリシラ。理由は簡単。エルフだから。