挿話〜ある下っ端海賊の体験記
最初の夜の話です。
本編には直接は関係ないので飛ばしても大丈夫な奴です。
最近貴族の間で『喋る魚』っていうのが流行ってるらしい。
迷ったものを保護するくらいしか、手に入れる方法がなく、
公には販売されていない。
希少性があり、ステータスとなるので、
飼っているという事実を欲しがる貴族も多いようだ。
男から見るとただの魚なのだが、若いお嬢さん方に言わせると、
『カワイイ』ということで、気になる女性のプレゼントに
大金を積む貴族もいるとのこと。
そんな話を一仕事終えて帰る途中の港で拾ったお頭が、
「よし、こそこそ盗みしてるより、喋る魚とやらで一発当ててやろう!」
と言い出した。
クラーミストには物騒な噂しかないので、本当は行きたくない。
だが、お頭の決定には逆らえない。
「はぁ…月が綺麗だな…。海は荒れそうにないけど。
何もないといいな〜。」
「全くだ。最近のクラーミストに入って行ったやつは、
金髪の奴を見るだけで逃げて行くって噂らしいぜ。」
「実際に捕まえたりするのは俺たちだもんなー。
お頭は部屋で酒のんでるし。」
愚痴を零しながら投網の準備をする。
もうクラーミストには入っている。
あとは喋る魚たちがいそうな場所に網を投げて逃げるのだ。
さっさと仕事をしよう。そう思って投網を投げようとした。
すると、うっすらと不気味な歌が聞こえてきて、急に月灯りがなくなった。
さっきまで雲すらなかったのに、だ。
荒れるのかもしれない。急いで投網を投げようとしたところ、
「マックラ、クライ…」
得体のしれない黒い物体が海から出てきた。
「ひぃぃぃー!!!お頭、バケモンが!!」
「何だとっ!おまえらずらかるぞ!」
「お頭、速度が出ません!」
「価値のなさそうな本とか、目方のありそうなもんは海に捨ててけ!
とにかく急げ!!」
「「「アイアイサー!!!」」」
こうして俺たちは命からがらクラーミストから逃げ帰った。