116.祭りは平常心を失いやすい
チーアの祭りが始まった。
祭りが始まるまではちゃんと演目の練習をしていたのだが、
祭り期間中は練習出来るところもないので、私達はお休みになった。
チーアの踊り場も許可を取りに行ったらしいのだが、
もういっぱいで出演はできないようだ。
チーアの祭りは街中の人々が仮面をつけて、貴賎関係なく楽しめるお祭りらしい。
仮面をつけていて誰だかわからないので、無礼講。といった名目だ。
ぶっちゃけ仮面つけててもなんとなく知り合いならわかるだろって思うけど、
貴賎関係なく楽しむ工夫なんだろう。
女の子達は貴族や領主の子に見初められることを夢見てこのお祭りに参加するらしい。
所謂シンデレラってやつだ。
そんなおとぎ話…と一笑に付すような話だけど、私自身がおとぎ話の存在だしね。
人魚だし。
おとぎ話か…
時間に限りがあるって意味ではシンデレラだけど、どっちかっていうと人魚姫か。
シンデレラは王子様が迎えにきてハッピーエンド。
人魚姫は王子に愛されずに泡になってしまう…。
だいぶ違って、王子?はクラーケンだし、妹として愛されているんだろうけど、
私に待っているエンドは王子と幸せに暮らしましたとさ。ではないだろう。
帰るか、その幸せな暮らしは期限付きだ。…その2択なんだから。
そんなことを思ってため息をついていたら、
部屋のドアをノックする音が。
「リリア、まだかー?みんな待ってるでー?」
「あ、ごめん!ボーっとしちゃって!」
祭りはみんなで回ろうと約束していたのだ。
イグニスさんは部屋にいるそうだが、代わりにマリオが一緒だ。
領主のおぼっちゃまがいいの?と思ったのだが、
そういう祭りだし、腕が立つ人達が一緒だからと言っていた。
まぁ、確かにうちの護衛2人とリンは常人に負けるわけないんですよね…。
「ごめん、お待たせ!」
「おーそーいー!いくよ!」
「おっと、待ってくれ。淑女のみなさんにご挨拶を。
祭りが始まったら知らないもの同士ということになっているしね。」
そういうとマリオは私達の手の甲にキスをしていく。
パッと見ても貴族感が漂っている。オーラというものだろうか?
シンデレラに憧れる子達に囲まれてしまうのではないだろうか…ちょっと心配だ。
他の男性陣にも挨拶するように促す。早速、練習が役立ったねー。
レンはここ最近背がまた伸びた。リンと並ぶとお似合いのカップルのようだ。
今日はマスクもつけているので余計にそのように見える。
レンはぎこちなく3人の手にキスをした。
ニールさんも促されてキスをする。マスクをしていても整った顔立ちが想像出来き、
どこかの王子だと言ったら信じてしまうだろう。
私の手にキスをする時、先ほど考えていた、
おとぎ話の件を思い出して少しドキドキしていた。
しかし、ドキドキしていたのは私だけではなかったようだ。
もちろん、プリシラである。
ニールさんのエ…癖は軽減はしたものの完全には治らなかったから
ドキドキするのもしょうがないんだけど。
「リリア?私、祭りのどこかでニールと2人きりになりたいのですけど…
協力してくれません?」
こう言われてしまったが…今更やっぱり好きだからダメとは言えないし…
曖昧に頷く事しかできなかった。本当は嫌だけど…。
街中は屋台が出ていたり、踊りが行われたり、演目が行われていたり。
大賑わいだった。最初はみんなでワイワイ回っていたのだが、
あまりの人の多さで私はぐれてしまった。
きっと戻る先はみんな宿だろうから少ししたら戻ればいいかと思い直し、
色んなお店を見て回ることにした。
無礼講のお祭りとだけあって、道行く人が食べ物や飲み物を奢ってくれる。
何杯目かの飲み物でクラクラし始めた。あれ?おかしいなぁ?
もしかして、お酒だった?
ちょっとフラフラしながら歩いていると、私が喋っている。
あれ?私喋ってないのに。この喋り方…。リリア?
あ、普段リリアからはこんな風に見えてるんだ。へぇ…。
リリアも酔っ払ってるっぽい…。
向こうからニールさんだと思える人が近寄ってきた。
「リリア!探したで?」
「えーと、ニールさん。お兄さんだ!」
「リリア?あ、酒飲んだんか?!もぉー、帰るで!」
「帰る?帰るって言ってるのはあっちのリリアちゃんです。」
「だいぶ酔っ払ってんなぁ。いつもとちゃうし。」
「いえ、違うのは私が別人だからですけどね!酔っ払ってなんかいませーん。」
「はいはい。酔っ払いやね。帰るで?」
「じゃあ、質問!お兄さんはリリアちゃんの探し物の正体、知ってます?」
「………見つかったってことだけは聞いたで?」
ニールさんに声色が変わる。それ以上は…言わないでほしい…
「正解は元の場所に帰る方法でーす!
もう見つかったので、あっちのリリアちゃんが決めたら
お兄さんの知ってるリリアちゃんは消えちゃいまーす!」
「どういう意味?」
「そのままです!残るのは私ですが…私にとってはお兄さんはお兄さんです…。
あの子にとっては王子様なのにです!」
そこから私の記憶は無い。気がつくと宿のベッドだった。横にはプリシラが。
「あぁ、ようやく目が覚めましたね?」
「プリシラ、なん…ぎも゛ち゛わ…」
「二日酔いですわね。今楽にして差し上げますわ。」
プリシラが背中を撫でる。途端に楽になった。
「ありがとう…。」
「以前頂いたお薬を応用したものですわ。お役に立てたようね。」
「すごいね…。」
「それほどでも…ありますわよ?」
プリシラはふふふと笑った。
「でもなんでプリシラがいるの?」
「…ニールが付いててやってほしいって。
心配だけど、自分が付いてるわけにいかないからって言ってましたわよ?
惚れた弱みってヤツですわね?」
「そういえば、ニールさんと2人きりには…?」
「なれましたわよ。寝てるリリアが一緒でしたけどね。
ついでに告白しましたけど、断られましたわ。」
「寝てる私の横で?」
思わず苦笑いだ。
「ええ。ニールには大切な人がいるとか。その方の夢が叶ったら迎えに行くつもりだったけど、
事態が変わったからとかなんとか言ってましたわ。どんな方なんでしょうね?」
「私も知らない…。」
ニールさんの大切な人が誰か、それは…ニールさんしか知らない。
「でも、私は諦めませんわ!ニールがその方にフラれる可能性もありますし!」
「後半の方、あんまり大きい声で宣言する事じゃ無いと思うよ?」
思わずツッコミを入れてしまった。
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